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異世界は小悪魔と共に  作者: 特攻君
第十二章 剣聖

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ブロキュスの迷宮4

 地上に戻ったフォルトは、森司祭セレスがいる天幕に向かう。

 今回もまたバトンタッチができるように、ルリシオンを同席させた。

 ちなみにカーミラは、スキル『隠蔽いんぺい』を使って人間の姿に変わっている。周囲からは従者と思われているので、マリアンデールと一緒に外で待機してもらう。


「お疲れさまでした。どうでしたか?」

「俺たちが到着してからの被害は無い」

「あはっ! お姉ちゃんが一瞬で潰しちゃったわあ」

「そ、そうですか。さすがはローゼンクロイツ家ですね」

「まぁ到着前は知らん」

「それで、討伐隊の者たちは?」

「勝手に撤収してくると思うぞ?」

「しかしそれほどの力があれば、女王(あり)も……」


 上目遣いのセレスが、フォルトの顔をチラチラとうかがってくる。

 もちろん、彼女の気持ちは分かる。しかしながら、こちらにも予定があるのだ。討伐隊の救援はやったので、依頼は終了である。

 それでも不思議に思うことがあり、一つの疑問を呈した。


「討伐隊に強者はいないのか?」

「いますよ。ですが、迷宮を先行している部隊に配属されています」

「ほう。どのような奴だ?」

「〈剣聖〉ベルナティオ様です」

「け、〈剣聖〉だってえ!」

「フォルトぉ。どうしたのお?」

「いや。何でもない」


 セレスから強者の二つ名を聞いて、フォルトの心は踊った。

 厨二病ちゅうにびょうが刺激され、思わず後ずさる。


「最近、開花されたそうです」

「開花?」

「カードの称号欄に「剣聖」と……」

「なるほど」


 心の内から沸き上がる感情が止まらない。

 そして、遠くからでも良いので眺めてみたい。フォルトの身内レイナスの称号は「氷結の魔剣士」なので、どれほどの差があるか。

 「さぞかし強いのだろう」と、意味も無くうなずく。


「どうかされましたか?」

「〈剣聖〉と聞いて興味が湧いただけだ。ところでその……。男なのか?」

「人間の女性ですよ。フェリアスには武者修行に来たと言っていました」

「武者修行か。そうかそうか」

「フォルトぉ」

「何だルリ?」


 ルリシオンがあきれ顔だ。

 女性と聞いて執着していれば、彼女に察せられて当然か。〈剣聖〉を手に入れたいということに……。

 事実そのとおりで、フォルトの眼が爛々《らんらん》と輝いていた。


「強欲ねえ」

「そ、そうだな。少し抑えるか」

「何か?」

「い、いや。では、その〈剣聖〉がいれば討伐できるのではないか?」

「まだ戻ってこないのです」

「いつ戻るのだ?」

「彼女が配属された精鋭部隊は、現在のところ地下四階層ですね」

「ふむふむ」

「迷宮の通路は狭く、大部隊では討伐できません」

「だろうな」


 魔物の間引きをするにあたり、強者は精鋭部隊として下層を担当する。

 上層の間引きは、そこまで強くない者たちが行う。また討伐で大きな被害を出しそうな魔物――女王蟻など――は放置である。

 要はスタンピードに発展しなければ、それで良いのだ。


「ブロキュスの迷宮では、地下五階層まで間引きをすれば撤収します」

「なるほど。全滅させるのは不可能だと?」

「はい。また何年か後に同じことをやりますね」

「大変だな」

「どの魔物の領域でも同じですよ」


 魔物の領域だと大軍を擁することが難しく、間引きの段階だと緊急性は低い。大掃除するにも強者は足りず、被害が甚大になるのだ。だからこそ、どの国家でも間引きだけに留めている。

 エウィ王国が悪い例だった。

 魔の森に兵士や冒険者を送り込んでいるが、掌握するには至っていない。フォルトがゴブリン・オーク・オーガを連れ出したとしても、だ。

 多少は奥地に進めて、開拓を始めているようだった。

 それでも、森の全域となると終わりが見えないだろう。少しでも魔物が残っていれば繁殖するので、人的被害は相当なものか。


(ウィズ何とか! というやつか? そう考えると、こっちの世界は大変だな。こういう場面に出くわすと、改めて差を感じてしまう)


「では、女王蟻は放置でいいな」

「倒せるなら倒してもらったほうが……」

「ですよね。だが、マリとルリの限界突破が優先だな」

「そこを何とか!」

「何ともならん。そもそも、指揮下に入らないと言っただろ?」

「………………」


 もう自分たちの用事を終わらせて、幽鬼の森に帰還したい。

 はっきり言ってフォルトは、すでにホームシックである。身内と離れることに慣れておらず、肉体的・精神的に癒されたくなっていた。

 道草を食っている場合ではないのだ。

 そうは言ってもエルフが欲しいので、一つ提案してみる。


「うーん。なら、悪魔に魂を売れるか?」

「え?」

「セレスさんさえその気になれば、女王蟻ぐらい簡単に駆除するぞ」

「フォルトぉ。ストップよお」


 今のフォルトは、〈剣聖〉の件で生じた強欲が抑えられなかった。エルフの里に訪れるまで待てず、セレスを手に入れようとしてしまった。

 確かに、彼女でも良い。まさにエルフであり、自身の好みでもある。十分に、強欲と色欲を満足させられるだろう。

 ただしそれは、エルフ族と敵対することを意味する。

 ルリシオンのおかげで冷静さを取り戻し、そのことを思い出した。


「まぁ何だ。時間は無限にあるしな」

「何か?」

「先ほどの言葉は忘れろ。女王蟻の討伐は貸しってことでどうだ?」

「貸し、ですか?」

「依頼された討伐隊の救援は、エルフの里への招待が報酬だ」

「はい。確認の手紙を出したばかりですが……」

「女王蟻の討伐は、セレスさん個人への貸しだ!」

「何で返せば良いですか?」

「決まっている。エルフの里を案内してほしい」

「え? その程度で良いのですか?」

「旅行と言っただろ。ガイドを頼む。まぁ試したいこともできた」

「何を試されるのですか?」

「内緒だ。では行ってくる」


 これで、旅行券――里からの回答待ちだが――とガイド役がそろった。

 フォルトはルリシオンの腰に手を回して、セレスの前から去っていく。先ほどの迷宮蟻から察すると、女王蟻の討伐など容易だ。

 そしてどうせ討伐するならと、一石二鳥にする。


「あはっ! 何を試すのお?」

「手加減」

「確かにフォルトは、戦闘経験が少ないわねえ」

「うむ。みんなや召喚した魔物にやらせてばかりだったからな」

「フォルトらしいと思うけどお?」

「ははっ。こういう機会は滅多にない。遊びだ遊び」

「ふーん。いいんじゃないのお」


 魔人としての自覚があるフォルトでも、その力の使い方は雑だ。

 もちろん怠惰は健在で、別に戦闘経験を増やしたいわけではない。しかしながら、加減を知らないと事故のもと。

 そんなことを考えながら、カーミラやマリアンデールと合流する。と同時に、女王蟻を討伐する旨を伝えるのだった。



◇◇◇◇◇



 フォルトたちは休憩を取った後、再びブロキュスの迷宮に潜った。

 そして、討伐隊が迷宮蟻と戦っていた部屋に戻る。一階層の地図ではその先に巣があるらしく、女王蟻もいるだろう。

 ともあれ後始末がまだのようで、獣人族の討伐隊が残っていた。


「まだやっていたのか?」

「あんたたちか」


 フォルトはルリシオンを伴って、帰還前に会話した獣人族に声を掛ける。

 周囲の者たちからは、奇異な目で見られてしまう。だがすぐに視線を逸らして、迷宮蟻の素材を確保するための作業を再開した。


「時間が掛かっているようだな」

「迷宮蟻は堅いからな。バラすのにも時間が必要だ」

「なるほどな」

「お前たちは、なぜ戻ってきた?」

「女王蟻の討伐だな」

「何だと!」

「この先にいるのだろ?」

「そうだが……。まさか四人で、か?」

「う、うむ。先ほどのアンデッドも召喚する。問題は無いはずだぞ?」


(召喚しないけどな。さすがに四人で討伐したら目立つだろう。演技が必要だな。ソフィアには下手だと言われたが、頑張ってみるとしよう)


 この獣人族の戦士は、リビングアーマーとマリアンデールの強さを見ている。自分たちよりも強いと思っているようで、強くは止めてこない。

 ただし迷宮蟻の脅威も知っており、半信半疑な表情を浮かべている。


「危険な気はするが……。援軍の礼として、何名か同行させるぞ」

「何だ。この討伐隊の指揮官だったか」

「犬人族のスタインだ。よろしくな」


 スタインの頭部を見ると、犬の耳が生えていた。

 獣人族は獣の特性を持っており、基本的に人間よりも強い。迷宮蟻で苦戦していたことを考えると、人間なら全滅していたかもしれない。

 フォルトとしては脅威に感じなかったが、女王蟻の強さを一段上げておく。


「フォルトだ。フォルト・ローゼンクロイツ」

「ローゼンクロイツ家か。なら、強さは本物だな」

「信じるのか?」

「隣の魔族は、〈爆炎の薔薇ばら姫〉ルリシオンだろ?」

「そうよお」

「後ろの嬢ちゃんが、〈狂乱の女王〉マリアンデールか」

「よく知っているわね」

「そりゃ魔族は隣人だったからな。戦争じゃ戦ったが、魔王のせいだろ?」

「そ、そうねえ。そういうことにしておくわあ」


 勇魔戦争を引き起こしたのは魔王スカーレット個人という認識だ。

 そしてマリアンデールとルリシオンは、ソル帝国軍を蹂躙じゅうりんしている。フェリアス方面ではないので、亜人に恨まれていない。

 その割り切った考え方に、フォルトは好感を持てた。


「隣人ねぇ」


 フォルトは思う。

 やはり姉妹のためにも、亜人の国フェリアスとは仲良くするべきだと。またシェラも同様で、この国の住人なら嫌な顔もしないだろう。

 自身と同様に、人間が嫌いなだけなのだから……。


「あぁよろしくな」


 フォルトの言葉に聞き耳を立てていた者たちから、ホッとした声が漏れた。

 彼らもまた、迷宮蟻を一瞬で討伐した者たちと敵対したくないのだろう。スタインと同様で、ローゼンクロイツ家を知っているようだ。

 ここでも、家名がものを言っている。


「では元気な者は……」

「そのよろしくではない。同行者は要らないぞ。俺たちだけで平気だ」

「そ、そうか? なら、剣を持っていけ。折れていないのが残っている」

もらっていいのか?」

「いいぞ。俺たちは撤収だ。支給品で悪いけどな」

「いやいや。受け取っておこう」


 スタインが補給物資の中から、一振りの剣を持ってくる。

 それを受け取ったフォルトは、さやから抜いてみた。新品だが、何の変哲もない鉄の剣だ。アーシャが使っている剣と大差は無いだろう。


「有難く使わせてもらおう」

「別に折ってもいいぞ。ドワーフ族から支給されるからな」

「そうか。まぁ適当に使う」


(獣人族ね。猫耳少女は……。暗いし汚れていて、よく分からん。地上に出たときにでも物色するか。ニャンシーがいるから要らないけど、目の保養ぐらいは……)


 フォルトにとっては珍しい種族ばかりで、強欲が収まっていない。

 一応はルリシオンに悟られないように、視線だけを向けていた。止められたばかりなので、彼女をガッカリさせたくない。

 少しずつでも、気持ちを落ち着かせていく。


「どうした?」

「い、いや。では行ってくる」

「死ぬなよ?」

「ははっ。地上でセレスさんが待っているぞ」


 スタインと別れたフォルトたちは、部屋の反対側に伸びる通路に向かう。

 通路に入ると魔力探知を広げて、女王蟻がどこにいるかを探る。

 迷宮蟻よりは魔力を持っているらしく、判別は難しくなかった。ならばと、先頭を歩くカーミラに声を掛ける。


「カーミラ。地図は?」

「御主人様が探知したのは、この先ですねぇ。十字路を左でーす!」

「ふむふむ。とりあえず、討伐隊からは離れたな?」

「ですねぇ。あいつらが蟻に襲われることはないと思いますよぉ」


 迷宮蟻の索敵範囲は広いが、先ほどの戦いで数が減っている。

 十字路の先にも分散しているとはいえ、まだ距離があるので平気だろう。とはいえ巣の近くには結構いるので、もう少し進めばフォルトたちが気付かれるか。

 そう思ったところで、姉妹が隣に並んだ。


「貴方はどう戦うつもりなのかしら?」

「この鉄の剣でバッサバッサと?」

「止めときなさあい。フォルトに前衛なんて無理よお」

「そ、そうか? でも、そうだな。手加減するとしても魔法だしな」

「そうそう。怠惰なのだから楽をしないとねえ」

「ルリの言ったとおりだな。確か迷宮だと火は……」


 フォルトは戦闘で使う魔法を考えながら、ゆっくりと通路を進む。後ろを三人の身内が、ニコニコと笑みを浮かべながら追いかけてくる。

 目的の場所に近づくと、迷宮蟻が発する音が聞こえてきた。

 魔力探知によって先に発見してるので、心の準備はできている。しかしながら実際に自らが戦うとなると、それなりの勇気がいるようだ。

 我知らず立ち止まると、三人の美少女に視線を向けるのだった。

Copyright©2021-特攻君

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