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異世界は小悪魔と共に  作者: 特攻君
第十二章 剣聖
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ブロキュスの迷宮3

 ブロキュスの迷宮。

 迷宮内には、薄暗い通路を進む四つの影があった。

 そのうちの一つフォルトは光の精霊ウィル・オー・ウィスプを召喚して、周囲を照らしている。隣にはカーミラが並び、二つ目の影として地図を見ていた。

 残りの影として、マリアンデールとルリシオンが続く。

 当然のように、他には誰もいない。


「カーミラ。こっちで合っているのか?」

「地図通りなら大丈夫でーす!」


 確かにブロキュスの迷宮は、人工的に造られていた。

 床や壁は、山などから切り出された石材が使われている。通路の幅も等間隔で、同じような景色が続いていた。

 自然にできた洞窟よりも、質が悪いかもしれない。


ありの死骸が無いな」

「素材として回収したはずよお。武具の材料になるからねえ」

「そうなのかルリ?」

「ドワーフが加工すれば、品質も良くなるわあ」

「なるほどな」


 迷宮内には所々に戦闘の跡があり、魔物の死骸の一部が散乱している。血だまりもあるので、激しい戦闘が行われていたのだろう。

 その死骸の一部を見ると、魔物は蟻だけではないようだ。

 何となく記憶に残る昆虫の足などが落ちている。


(虫は嫌だなあ。まさかと思うが、あの黒い悪魔はいないだろうな? デカくなってカサカサカサっと動き回られたら……)


「フォルトぉ。どうしたのお?」

「い、いや。みんなは虫に対してどうなのだ?」

「どうって……。目の前に出たら、足で踏み潰すわあ」

「ふふっ。ルリちゃんに近づく虫は握り潰すわ」

「えへへ。御主人様の前で、バーンと潰しちゃいますねぇ」

「そ、そうか。潰すのか」


 フォルトも蚊やなら、何の問題も無く潰せる。おそらくだが、はえも潰せる。だがそれ以外となると、手で潰したことがない。

 やはり、気持ち悪さが先にきてしまうのだ。


「しかし地下十階層もあるのか。穴を掘るだけでも大変だろうに……」

「ドワーフは妥協をしないからねえ」

「そういう問題か?」

「使用目的にもよるでしょ」

「まぁなあ。で、目的は?」

「造ったのは古代のドワーフ族だし、どうせ鉱石だと思うわ」

「鉱山の鉱石でなければ……。ボーキサイト、か?」


 ポーキサイトとは、アルミニウム原料である。

 あちらの世界であれば、熱帯気候下での産出が盛んだ。地表に堆積するため、地面を掘れば採れたりする。

 亜人の国フェリアスの気候であれば、それと合致しているような気がした。


「聞いたことがない鉱石けど、よく知っているわね」

「名称はあっちの世界だ。まぁ合っているかは知らん」

「適当ねえ」

「専門のドワーフではないからな」


 フォルトは疑問に思っただけで、詳しく知るつもりはない。

 それでも会話をしていないと、何となく気が滅入ってしまう。魔物の間引きが進んでいる関係で暇なのだ。

 今のところ、魔物に襲われていない。

 ともあれ……。


「この先だな」

「御主人様。何か……。あっ! そうでーす!」

「あら。魔力探知で何かを拾ったかしらあ?」

「うむ。まだまだ先だけど……」

「私たちには遠すぎて分からないわよ」


 ルリシオンが言ったように、フォルトは魔力探知を広げている。しかも魔人の力として使っているので、探知範囲が広い。

 悪魔のカーミラでも、ギリギリで届くか届かないかの距離だ。


「ははっ。先行している討伐隊の奴らだな」

「この探知場所ですとぉ。地図では広い部屋になっていますねぇ」

「急ぐのお?」

「まさか。走るのはダルい!」

「さすがは御主人様です!」


 怠惰なフォルトが走るわけない。また魔力探知を広げすぎたので、少しだけ眩暈めまいに襲われてしまった。

 要は魔力探知というレーダーに、大量の生物を捕捉して酔ったのだ。


「魔力探知って……」

「貴方のことだから遠くまで広げたでしょ? 馬鹿なの? 死ぬの?」

「ははっ。以後、気を付けるとしよう」


 フォルトは「おぉ広がる広がる」と、魔力探知の範囲を無造作に広げた。といった内心をマリアンデールに読まれて、さすがに恥ずかしくなる。

 以降は地図を頼りに、通路をゆっくりと進んでいく。

 暫くは静かだったが、ある程度の距離を歩いたところで状況が変わる。金属音や大声が聞こえてきた。

 先行している討伐隊のものだろう。


「さてと。行くとするか」

「御主人様が行きますかぁ?」

「ははっ。カーミラは冗談がうまいな」

「ですよねぇ」

「ルリ。迷宮蟻の推奨討伐レベルは?」

「レベル二十ぐらいじゃないかしらあ」

「ふむふむ。なら……」



【サモン・リビングアーマー/召喚・動くよろい



 フォルトは意気揚々に、得意の召喚魔法を発動する。

 そして目の前に形成された召喚陣から、全身鎧の戦士が現れた。しかしながら、自身が思い描いていたものと違う。


「あれ?」

「どうしましたかぁ?」

「鎧が……」

「格好いいじゃないですかぁ!」

「そ、そうか? 俺もそう思う」


 召喚されたリビングアーマーは、日本で有名な侍のような鎧武者姿だった。

 かぶとからは角飾りが伸びて、怒りの表情をした烈勢面を装備している。また赤備え風の甲冑かっちゅうに、大きな肩当が付けられていた。

 腰から下げている剣は、厨二病ちゅうにびょうがくすぐられる刀だった。


「もしかしてニャンシーと同じで、俺のイメージからか?」

「多分そうですよぉ。リビングアーマーと言っても、形は様々でーす!」

「な、なるほどな」

「詳しい仕組みは分かりませーん!」


 動く鎧。またの名をリビングアーマー。

 鎧の中には誰も入っておらず、ゴーレムの一種と勘違いする者も少なくない。しかしながら実際はアンデッドで、霊体が動かしている。

 討伐するには、魔法か魔法の武器が必要だ。


「まぁ面を付けているし、顔は分からないな」

「顔なんて無いですからねぇ」

「よし! 俺の代わりに、蟻と戦ってこい!」

「ギギギ」


 フォルトが命令を与えると、リビングアーマーは音のする方向に走り出した。ガシャガシャとうるさいが、どうせ向こうでは戦ってるので大丈夫だろう。

 それを見送った四人は、雑談をしながら追いかけるのだった。



◇◇◇◇◇



 広い部屋の中では、激戦が繰り広げられている。

 剣や盾を持った戦士たちが、その身で壁を築いていた。また彼らの後ろにいる魔法使いの面々が、敵の数を減らすために応戦している。

 その敵とは迷宮蟻である。

 大きさとしては、人間の成人男性と同じぐらいだ。

 外皮は硬く、刃を通すなら相当な筋力が必要。また強靭きょうじんな顎による攻撃は、人間の足など容易に切断してしまう。

 一般兵なら、数人がかりでも苦戦する魔物だった。

 とにかく数が多いので、戦士たちはジリジリと後ろに下がっている。


「押し返せ!」

「「おおっ!」」


 迷宮蟻の顎を盾で防ぎながら、獣人族の一人が号令する。続けて同じように防いでいた戦士たちが、迷宮蟻を押し返そうと足を踏ん張った。

 彼らの後ろからは、攻撃魔法が放たれる。

 弓矢での攻撃は効果が薄く、魔法使いの人数は少ない。広範囲に焼き払いたいところだが、迷宮だと火属性魔法は使いづらい。

 それでも他の属性魔法を使って、少しずつでも迷宮蟻の数を減らす。


「いけるか!」

「奥から来なきゃな」

「退くのも手だぜ!」

「なに言ってんだ! ここからが勝負だぜ!」


 戦士たちが攻撃するときは、迷宮蟻の足を狙って剣で斬る。

 部屋の中では、金属のぶつかる音が鳴り止まない。


「あ、危ねえっ!」

「え?」


 迷宮蟻の群れを押し返すタイミングで、戦士たちの陣形が崩れかかる。

 何人かの戦士が、迷宮蟻の体当たりを受けたのだ。後ろに飛ばされており、場所によっては大きな穴を空けてしまった。

 当然のように穴を塞ごうと、待機中の戦士が前に出る。しかしながら、そうやってできた穴にも被害の差があった。

 そして運が悪いのか、大きく崩れそうな場所に限って戦士の数が足りなかった。


「拙い! 穴を広げられるぞ! 誰か来てくれ!」

「駄目だ! 間に合わねえ!」


 壁を突破されると乱戦になり、数で負けている討伐隊の被害が甚大になる。

 まだ塞ぎきっていない隙間に向かって、迷宮蟻の一匹が突撃してきた。

 そして誰もが、「やられた!」と思った瞬間。耳をつんざくような特大の金属音が部屋に木霊する。

 赤い鎧を装備した戦士が、その迷宮蟻を真っ二つに斬り捨てたのだ。


「助かったぜ! っておい! 戻ってこい!」

「ギギギ」

「あいつは何て言った?」


 奇怪な声を発した赤鎧の戦士は、足を止めずに前に出た。

 あのように一人だけで突出すると、迷宮蟻が群がるに決まっている。無謀としか思えず、すぐにでも連れ戻さないと死んでしまう。


「助けねえと!」

「もう無理だ! いったん下がって、陣形を立て直すぞ!」

「見捨てるのか!」

「大丈夫だ! 見ろ! 赤鎧ヤローは強ぇじゃねえか!」

「え?」

「ギギギ」


 迷宮蟻が赤鎧の戦士に群がっているが、まるで意に介さず攻撃している。また剣が振られるたびに、迷宮蟻の頭部は斬られていった。

 それでも、腕や足などにみつかれている。

 切断はされていないが、それも時間の問題かもしれない。


「赤鎧の頑張りを無駄にするな! 急いで陣形を整えろ!」

「「おおっ!」」


 後退する間にも赤鎧の戦士を見るが、戦い方は変わっていない。しかも疲れを知らないのか、その動きが衰えることはなかった。

 とりあえず赤鎧の戦士のおかげで、討伐隊は危機を脱するのだった。



◇◇◇◇◇



 赤鎧の戦士のおかげで陣形が整った頃。

 フォルトは目的の部屋に到着して、部屋の中を見渡した。

 多くの獣人族がおり、部屋の中央付近では戦闘をしているようだ。怒声や金属音が飛び交って、思わず耳を塞ぎたくなる。

 ともあれ、一番近くにいる者に声をかけた。

 治療を担当している獣人族らしく、戦士の一人に信仰系魔法を使っている。


「ちょっといいか?」

「誰だ? 今は忙しい!」

「俺はフォルト・ローゼンクロイツ。セレスから頼まれてな」

「セレス様だと? まさか頼んでいた援軍か!」

「そう言っている。数は少ないけどな」

「何人でもいい! お前は魔法使いだな?」

「んー。それでいい」

「なら、戦士たちの後ろから蟻を攻撃してくれ!」

「分かった」


 話を終えたフォルトは、前方に展開する戦士たちを眺める。

 どうやら、リビングアーマーがおとりになっているようだ。簡単な命令しか与えていないので、近くにいる迷宮蟻に襲い掛かっているのだろう。


「御主人様が戦うんですかぁ?」

「駄目か?」

「えへへ。色々とバレちゃいますよぉ」

「あ……。そうだったな。力の加減がどうもなあ」


 たまにフォルトが使う攻撃魔法は、ほとんどが初級魔法だ。

 そして魔人として使うと、初級でも上級クラスの威力になる。魔力の調整をしないと強大な魔法に見られるので、探られたくない腹を探られてしまうのだ。

 その調整の加減が難しかった。


「私がやるわ」

「マリが、か?」

「すぐに済むわよ。貴方は高見の見物でもしていなさい」

「ふーん。なら任せる」


 フォルトの事情を知っているマリアンデールが前に出る。

 ルリシオンも同行するが、姉を手伝うつもりはないようだ。迷宮蟻からというよりは、周囲の討伐隊員を警戒している。


「お姉ちゃん。頑張ってねえ」

「ああん! ルリちゃんの期待に応えて、一瞬で終わらせてあげるわ!」



【グラビティ・プレス/重力圧】



 マリアンデールが得意とする重力系魔法だ。

 この魔法の利点は、わざわざ集団化しなくても良いところだろう。魔力を多く込めることで重力球の数が増やせ、同時に威力を上げることもできた。

 そのぶん魔力の消費は激しく、通常は片方に絞る。


「蟻ごときなら数だけでいいかしらね。さぁ潰れなさい!」

「「ギョッ!」」


 その重力系魔法の使い方が芸術的だ。

 普段であれば相手の頭上に出現させるが、今回は迷宮蟻を囲むような配置で、重力球を何個も浮かべた。

 まさに、重力球の輪である。

 結果として、迷宮蟻の群れは輪の中央に向かって押し合った。また硬い外皮にひびが入ると、バキンという音と共に潰れる。

 そしてリビングアーマーも、迷宮蟻ごとペシャンコになってしまう。


「終わったわ」

「やるな。省エネか?」

「省エネ? 全部に使っていたら、魔力がいくらあっても足りないわ」

「だろうな。マリの戦闘センスには畏れ入る」

「ふふっ。貴方に褒められるのは悪い気がしないわね」

「お、おい!」


 マリアンデールを労っていると、獣人族の戦士が声をかけてきた。怒っているのか戸惑っているのか、微妙な声である。

 何となく言われる内容が分かるので、彼女の前に出たフォルトが対応した。


「赤鎧の戦士も巻き込んじまったぞ!」

「あれは俺が召喚した魔物だ。だから気にするな」

「え?」

「しかも、鎧の中身はアンデッドだ!」

「アンデッドだと? まさかお前は、アルバハードの領主の手下か?」

「ル、ルリ……」

「はいはい」


 肩を落としたフォルトは溜息ためいきを吐いて、ルリシオンにバトンタッチをした。

 これ以上の会話は苦痛なので、もう彼女に任せてしまう。また何事も無かったかのようにマリアンデールを連れて、カーミラの近くまで下がる。

 獣人族の戦士はまだ何かを言いたそうだが、もう話すことはない。


「これで、セレスからの依頼は終わりだな」

「はあい!」


 討伐隊の総司令官セレスからの依頼。

 それは地下一階層で、迷宮蟻に苦戦している部隊への援軍だった。巣の近くで、間引きをしていた部隊があったのだ。

 援軍要請がきていたので、フォルトたちに白羽の矢が立った。


「地上に戻るとしようか」

「こいつらはどうしますかぁ?」

「勝手に撤収するだろ。俺たちでは治療も……。できないしな」


 魔人のフォルトは、信仰系魔法が使えない。

 呪術系魔法で傷を移すにしても、近くに呪える相手がいない。


「えへへ。さっさと戻って、御主人様とイチャイチャしまーす!」

「ルリちゃん! 帰るわよ!」

「あはっ! それじゃあ後はよろしくねえ」

「あぁ……」


 ルリシオンは説明の途中だったようだが、もう十分だろう。

 彼女は有無を言わさない威圧感を出して、獣人族の戦士を黙らせている。もしもこれ以上討伐隊と一緒にいれば、何かを手伝わされそうだ。

 にも角にも四人で仲良く、地上に向かうのだった。

Copyright©2021-特攻君

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