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異世界は小悪魔と共に  作者: 特攻君
第十二章 剣聖
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ブロキュスの迷宮1

 フォルトは本題を伝えるために、ドワーフ王のガルドと向かい合った。

 隣にはカーミラが座り、マリアンデールとルリシオンは左右に立っている。リリエラは今回の件に関係が無いので、後ろに控えさせた。


「お主らは、ブロキュスの迷宮に向かうのか」


 ブロキュスの迷宮。

 場所としては、今いるドワーフ族の集落から二日ほど進むと到着する。地下十階層で構成されており、魔物の巣窟になっている人工迷宮だ。


「そうよお。何か問題があるかしらあ?」

「問題と言うか、今は魔物の間引きをやっておる」

「あら。それはちょうどいいわね」

「間引き?」


 ガルド王の話によれば、ブロキュスの迷宮では魔物討伐の最中だった。

 基本的に魔物や魔獣は繁殖が早く、その数を増やしているのだ。何もせずに放置すると、迷宮や洞窟からあふれ出てしまう。

 間引きとは魔物の数を減らして、スタンピードを未然に防ぐ作業である。

 これを怠るとスタンピードが発生して、種族存亡の危機となってしまう。広範囲に拡大すると更に増えていき、手の施しようが無いのだ。


「ふーん」

「フェリアス全域から戦士を集めてやっておる」

「なら、間引きとやらが終わってから向かえばいいのか?」

「マリとルリがいるなら、間引きに参加してもらいたい」

「参加か。報酬はあるのか?」

「無いこともないが、スタンピードが発生すれば報酬どころではあるまい?」

「なるほどな」


 ある意味では、一種のボランティア活動である。

 スタンピードについてフォルトは、日本の漫画やアニメ・小説などの創作物で理解はしている。魔物の氾濫など、確かに対処は面倒臭い。

 ガルド王の言葉は一理あるが、それでも間引きへの参加は迷う。


「間引きは誰かの指示を受けたりするのか?」

「司令官はおる。お主らの目的は、ミノタウロスの討伐だったな?」

「うむ」

「今は地下三層との報告を受けているな。遭遇したという話は聞いていない」

「他の魔物には用が無いのだ。勝手に進んでもいいか?」

「うーむ。勝手に動かれると、間引きの効率が悪くなるな」

「そもそも俺たちは、数に入っていないだろ?」

「マリとルリなら相当な戦力になるのだ」


 ガルド王が期待するのは、マリアンデールとルリシオンの力である。

 魔物や魔獣の討伐は、無傷でやれないのだ。当然のように、死人も出ていた。姉妹が間引きに参加することで、討伐隊の被害が抑えられる。

 参加する者たちは、貴重な人材なのだ。無駄に殺しては、討伐隊に参加する人数が減っていくだけである。

 せっかく戦力になる姉妹が訪れたので、使わない手は無いのだろう。


「主旨は分かるが……」

「安心せい! マリとルリの性格は理解しておる」

「まぁ愛称で呼べているぐらいだしな」

「では、なるべく多くの魔物を討伐してもらえるか?」

「魔物の分布は分からないぞ?」

「現地の司令官に聞けば良い」


 フォルトは考える。

 マリアンデールとルリシオンは、我儘わがままなうえに独善的だ。

 現地司令官の命令を聞くつもりはない。もちろん、討伐隊と歩調を合わせるつもりもない。にもかかわらず、邪魔はしてほしくない。

 そしてガルド王からの依頼は、進行方向に現れた敵の殲滅せんめつだった。

 これを落としどころにしているのは明白か。


「確かにマリとルリを理解しているな」

「ただし、討伐隊を殺すなよ?」

「それぐらいの分別はあるわ」

「ガルドは、私たちを何だと思っているのかしらあ?」

「ガハハハッ! 自分たちの胸に聞いてみろ!」

「ふふっ! 善処するわ」

「あはっ! フェリアスの住人は隣人だからねえ」


 姉妹はニヤけた笑みを浮かべているが、無差別に殺害はしないだろう。

 間引きに参加している討伐隊の者は、亜人の国フェリアスの住人である。魔族との確執は薄いらしいので、わざわざ敵対するつもりはないようだ。

 それにしても、人間相手の対応とはえらい違いだ。


「で、その司令官は?」

「今回はエルフ族の番だから……。森司祭のセレスだな」

「森司祭? ドルイドか」

「うむ。弓の腕も天下一品だぞ?」

「へぇ。司祭で弓使いか」

「セレスには手紙を書いてやろう。後は勝手に相談せい!」


(ドルイドのスナイパーかあ。しかもエルフ! 名前からすると女かな? いいじゃないかいいじゃないか。会ってみないと分からないが欲しいなあ)


 エルフ族の女性は、三国会議で出会ったクローディアが記憶に新しい。

 他のエルフ族も物色したいからと、フォルトは保留していた。新たなエルフ族と出会えるなら、これに勝る喜びは無い。

 自身にとって、エルフは正義なのだ。


「嬢ちゃんは連れていかんのだろ?」

「クエス……。んんっ! お使いの途中だ」

「そうか。服飾師を紹介してくれと言われておってな」

「できれば頼まれて欲しいが?」

「紹介する約束だからな。お主たちが戻るまでワシが預かるか」

「ほう。なぜ、そこまでしてくれる?」


 ガルドは変わっているが、ドワーフ族の王様だ。

 リリエラと約束をしたらしいが、面識ができて間もない。身内以外を信用しないフォルトとしては、そこまでする理由が分からない。

 ドワーフだからでは、片付けられないだろう。

 人間であれば、絶対に裏がある。


「ドワーフ族は約束を守る種族だからな」

「それだけか?」

「ガハハハッ! というのは冗談だ。守らないときもある」

「………………」

「嬢ちゃんのおかげで完売したのだ。その礼だな」

「なるほど」

「しかも、お主らが迷宮で頑張ってくれるだろう?」

「頑張りはしないがな」

「ミノタウロスを倒すのだろ? 放っておいても頑張るわい。ガハハハッ!」


 約束を守る種族だけなら、フォルトは信用しなかった。しかしながら、取引として考えれば理解できる。

 それに、マリアンデールとルリシオンの知人だ。ニャンシーもリリエラの影にもぐっているので、今は信用しても良いかもしれない。


「なら、よろしく頼む」

「うむ。今日はワシの屋敷に泊まっていけ」

「宿をとってあるが……」

「ガハハハッ! 女将に使いを飛ばしといてやるわい!」

「それなら泊まらせてもらう」


 まだ数人のドワーフ族を観察しただけだが、何となく分かってきた。

 この種族は、陽気で明るい。同時に、頑固で律義である。フォルトとしては、とても好感が持てる種族だった。

 話がひと段落付いたので、後ろを向いてリリエラに視線を向ける。


「リリエラ」

「はいっす!」

「クエストの続きをやっておけ」

「了解っす! でも……」

「どうした?」

「視線がイヤらしいっす!」

「気にするな」


 リリエラは顔を赤らめて、素足をモジモジと動かしていた。

 ともあれ話は聞いたとおりなので、彼女はガルド王に預ける。


「俺たちが戻るまでは、ガルド王の世話になっておけ」

「いいんすか?」

「そう言ってくれたからな。もし気が引けるなら、適当に働けばいい」

「分かったっす!」


 リリエラの性格ならば、一生懸命に働きそうだ。

 クエストも服飾師の紹介まで進めるので、今回は大成功だろう。今後は彼女を使って、エロかわな服の生産に乗り出せるか。

 ガルド王と親しくなっていたことも大きい。


「話はまとまったか? 別室を用意するから、夕食まで待っておけ」

「そうさせてもらうわ」

「悪いわねえガルド」

「せっかくワシに会いに来たのだ。もてなしてやるわい! ガハハハッ!」


 以降は別に用意された部屋で寛いでから、ガルド王と夕食を共にする。

 さすがに火酒は遠慮したが、多くの酒を飲まされた。たるごと運び込まれたので、本当にドワーフ族は豪快だと改めて感じている。

 そして日付も変わり、フォルトたちはブロキュスの迷宮に向かうのだった。



◇◇◇◇◇



 フォルトたちはお約束のスケルトン神輿みこしに乗って、原生林の中を進む。

 現在は、集落を出てから一日が経過している。もう少し進めば、ブロキュスの迷宮に到着するだろう。


「こっちで合っているのか?」

「えへへ。大丈夫ですよぉ。さっき空から確認しましたぁ!」

「だったな」


 スケルトンの指揮権をカーミラに渡しているので、方角は間違っていない。

 そして、魔物も近寄ってこない。

 なぜかというと、大罪の悪魔ルシファーがいるからだ。

 傲慢を冠に持つこの悪魔は、左右の色が違うオッドアイの美女。また漆黒と鮮血を表す黒と赤の天使の翼を六枚持つ。

 髪は黒と白のメッシュが入ったロングヘアーで、服装はボンテージである。

 女王様と呼ぶ男性が多いかもしれない。

 もちろん、最初に創造したときの姿を思い出すことはない。


「ルシファー」

「何だね?」

「お前とサタンだと、どっちが強い?」

「決まっているだろう? 分かりきったことを聞くな!」

「サ……」

「ふんっ!」


 冗談を言おうとしたが、目の前にやりを突き付けられた。

 それで終わりと思いきやルシファーは、スケルトン神輿より高く浮き上がる。次に上から目線で、フォルトを見下してきた。

 口角は上がっており、不敵な笑みを浮かべている。


「直接戦えば、私が負ける」

「ほう。傲慢なのに謙虚だな」

「私は集団戦に特化した悪魔。だから負けるのだよ」

「へぇ。サタンは個人戦向きか」

「その空っぽの頭でも理解したか?」

「………………」


 とても主人に向ける言葉ではないが、不快に感じない。

 それは、自身の傲慢が顕現した悪魔だからだ。フォルトからすると、鏡と話しているような錯覚を覚える。


(何だかなあ。しかし、常にマウントを取ろうとしている姿が可愛いかもしれん。欲情はしないが……)


「そんな強力な悪魔をポンポンと出さないでもらえるかしら?」

「どうしたマリ?」

「貴方が魔人なのは隠すのでしょ?」

「うむ。知られると面倒だからな」

「ルシファーを使役している所を見られると……。バレるわよ?」

「そ、そうだな!」


 フォルトが魔人という件は、意識して隠していた。しかしながら、最近は調子に乗り過ぎたようだ。

 これというのもローゼンクロイツ家を名乗ったことと、大罪の悪魔を使役し始めたのが原因である。

 ルシファーではないが、七つの大罪の傲慢が顔を出していた。


「ちなみに俺が魔人だとバレると、どうなると思う?」

「あのね。魔王スカーレットは魔人なのよ?」

「魔人の怖さを理解している人は少ないだろうけどねえ」

「魔王の怖さは知られているわ」


 マリアンデールとルリシオンの伝えたいことが、何となく理解できた。

 フォルトが魔人だと知られると、魔王に認定されてしまうのだろう。いくら違うと言い張っても、周囲がそう見てくれない。


「確か憤怒の魔人グリードって奴がいたよな?」

「一夜のうちに、魔導国家ゼノリスを滅ぼした魔人ねえ」

「一夜だったのか」

「あれからうわさすら聞かないけどね。現場を見た人は死んでいるわ」

「グリードを魔王と呼んだ人もいたわよお」

「な、なるほど」


 やはり、フォルトが魔人だと知られるわけにはいかない。

 ただでさえ、魔族の貴族ローゼンクロイツ家を名乗っているのだ。魔王に格上げされてしまうと、目も当てられない。


「よし! ルシファーは消えろ!」

「心にも無いことを言うな。目的地の近くまでは居てやるぞ?」

「今の話を聞いていたか?」

「弱者の戯言など聞こえんな。まぁ私に任せておけ」

「弱者……」

「それとも消えて、魔物を呼び寄せるか?」

「そうだった。と、とにかくバレるな!」

「はははははっ! 誰にモノを言っている? 私はルシファーだぞ!」

「………………」


 根拠の無い傲慢だが、ルシファーを消すと面倒かもしれない。

 近辺に出現する魔物が雑魚でも、相手にするのは面倒なのだ。もちろん討伐するのは三人の身内だが、順調な移動が阻害されてしまう。

 ともあれブロキュスの迷宮に近づいたところで、傲慢の悪魔を消す。考え直せと主張していたが、魔王にされたくないのだ。

 それでも居座ろうとしたので、彼女の同意を取らずに消したのだった。

Copyright©2021-特攻君

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