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異世界は小悪魔と共に  作者: 特攻君
第十二章 剣聖
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ドワーフ王ガルド3

 ドワーフ族の火酒でダウンしたフォルトは、集落にある安宿で二日間も眠り続けていた。夢など見ない深い眠りである。

 そして本日、三人の女性に起こされた。


「御主人様! 朝ですよぉ」

「うぅ」

「さっさと起きなさい!」

「うぅぅ」

「起きないならねえ。悪戯しちゃおうかしらあ」

「う? 頼む」

「起きてんじゃないのよ!」


 体に心地良い刺激があったので、フォルトはたぬき寝入りを決め込んでいた。

 ルリシオンの言葉に抗いきれず、期待と共に起きてしまったが……。


「あっはっはっ! しかし、ドワーフの火酒は凄いな!」

「小指に付けて飲みなさいと言ったわよねえ」

「さすがになあ。だが、一瞬でダウンするとは……」

「ドワーフは毎晩のように飲んでるけどねえ」

「さすがに人間や魔族には卸していないだろ?」


 ドワーフ族の火酒をグビグビと飲んだら、命の危険さえありそうだ。

 いくら酒が久しぶりのフォルトでも、一滴程度の分量で酩酊めいていするとは思っていなかった。もうこれは猛毒の類で、ドワーフ族以外だと飲めない酒だろう。


「一部に卸していたわねえ。魔族にも酒豪はいるわよお」

「あれは酒豪でも飲めない気が……」

「ふふっ。普通のお酒も売っているわよ」

「だろうな。そっちで良かったのだが……」

「貴方は見ていて飽きないからね。火酒でどうなるか楽しみだったのよ」

「そ、そうか。楽しんでもらえたなら何よりだ」


 こうやっていじられるときもあるが、それもまた楽しい。

 悪意があることはやらないので、この程度なら笑って許せてしまう。


「とりあえず、二日酔いにならなくて良かった」

「スキルを自動で切り替えたと思いまーす!」

「ふむふむ。魔人は便利だな」

「便利って貴方……。自分の体でしょ?」

「ははっ。経験をして、初めて知るわけだしな」

「他人の体みたいに言わないで。それよりも、ガルドのところに行くわよ」

「帰ってきたのか?」

「さっきだけど、門衛が教えてくれたわあ」

「ふーん」


 ガルドとは、放浪癖のあるドワーフ王だ。

 いつの間にか出かけては、フラっと戻ってくるらしい。臣下も黙って見過ごしているあたり、改めるように言っても聞かないのだろう。

 それで王様なのだから恐れ入る。


「場所は?」

「屋敷だと思うわよお。フォルトが倒れた酒造所の近くねえ」

「ふふっ。あの酒造所は、ガルドが個人で所有しているのよ」

「さすがはドワーフ王。酒が絡んでいるな」

「私たちのことは伝えたらしいから、さっさと向かうわよお」


 門衛も律義である。

 正式に謁見を申し込んだわけではなく、こちらへの伝達は門衛の仕事でもない。まるで冗談のような口約束だったが、わざわざ王の帰還を知らせてくれた。

 ともあれフォルトたちは宿屋を出て、ガルドの屋敷に向かう。酒造所の前を通るので、酒の匂いが漂いだした。

 今後は何があっても、火酒を飲むことはないだろう。


「ところで、俺はどうやって帰ったのだ?」

「カーミラが背負ったわ」

「あ……。悪いなカーミラ」

「大丈夫ですよお。気持ち良かったでーす!」


 酔いつぶれていても、フォルトの悪い手は動いていたようだ。

 これには「実にけしからん!」と思いながら、両手を握ったり開いたりする。せめて、意識があるときだけ動いてほしい。


「フォルトぉ。着いたわよお」

「あ、あぁ……」


 屋敷というように、人間の王族が住まうような王宮ではない。

 それでも、デルヴィ侯爵の屋敷よりは大きいかもしれない。外観に派手さはなく、芸術的で落ち着いた雰囲気をかもしだしていた。

 ドワーフ族の建築技術の粋を集めたと思えるほどだ。


「いい屋敷だな」

「そうねえ。ジグロードでも中々お目にかかれない屋敷ね」

「へぇ。マリやルリの屋敷はどうだった?」

「あはっ! 私たちの屋敷も、ドワーフ族が建てたわあ」

「今は破壊されているはずよ。適当に想像すればいいわ」

「戦争のせいか。勿体もったい無かったな」

「フォルトぉ。あそこから入れるわあ」


 ガルド王の屋敷は、高い塀で囲まれている。また個人的に用事がある場合は、門前にある警備の詰所に声をかけるそうだ。

 このあたりも、人間とは違うか。

 何と言うか、妙に気軽さがある。


「あれ? 何でここにいるっすか?」


 詰所に近寄ろうとした瞬間、フォルトは背後から声をかけられた。

 聞き覚えのある声だったので、思わず振り向く。

 そこには、自由都市アルバハードでクエスト中のリリエラが立っていた。しかも隣には、一人のドワーフを連れていた。


「リ、リリエラか? それはこっちのセリフだな。クエストはどうした?」

「クエスト中っす!」

「そうなのか?」

「お主は嬢ちゃんの知り合いなのか?」


 リリエラを問い質していると、隣のドワーフが割り込んできた。

 見たこともない人物だが、どのみち見分けがつかない。


「リリエラ。このドワーフは誰だ?」

「ガルドさんっす!」

「ガルド? ガルドと言えば……」

「私たちが来てあげたのだから、屋敷にいなさいよ」

「あはっ! ガルドは何をしているのかしらあ?」

「おや? マリとルリも一緒ではないか」


 やはり、ドワーフ王のガルドで間違いがないようだ。

 なぜゆえに、リリエラと一緒にいるかは謎だ。とはいえドワーフ族の集落に訪れたのは、彼に会うことが目的である。


「マリとルリから、ガルド王と面会したほうがいいと言われたのだ」

「お主は人間だろ? マリとルリだと?」

「まぁその話も後でしよう」

「いいだろう。屋敷の中に入れ。嬢ちゃんもな」

「マスター?」

「いいぞ。リリエラにも経緯を聞きたいしな」

「分かったっす!」


 変な組み合わせだが、リリエラが面白い展開になっている。

 さすがに、ドワーフ族の集落で会うとは想像もしていなかった。

 ともあれフォルトたちは、ガルド王に連れられて屋敷に入る。もちろん屋敷の主が帰還したので、警備の詰所は素通りである。

 何も言われなかったところを見ると、頻繁に抜け出しているのだろう。


「では、この部屋で待っとれ。旨い酒でも飲ませてやる」

「い、いや。昼間から酒は……」

「そうか? まぁさっさと入れ入れ!」


 カルドはそれだけを言うと、フォルトは客室に押し込まれた。文字通り押し込んできたので、「おっとっと」とバランスを崩す。

 実に豪快な王様だ。


「ガハハハッ! 小一時間ほど待っとれ。用事を済ませてくるわい!」

「ちょっとガルド! 早くしなさいよ!」

「分かっとる分かっとる。ガハハハッ!」

「放浪癖か。何となく分かる気がする」

「でしょう? ガルドが戻るまで寛ぐわあ」


 五人になったフォルトたちは、客室にあるソファーに座る。

 この部屋も派手さはなく、デルヴィ侯爵のような成金趣味とは違う。調度品は飾られているが、どれも主張を抑えた謙虚さがあった。

 ガルド王は小一時間と言っていたので、ゆっくりと待つしかない。ならばとその間に、事の経緯をリリエラに尋ねた。


「先ほどの続きだが、なぜリリエラがドワーフの集落にいるのだ?」

「報告しちゃってもいいっすか?」

「あ……。そ、そうだったな。最後にまとめてだものな」

「はいっす!」


(でも幽鬼の森に戻る前に会っちゃったしなあ。しかも、あの袋は何だ?)


 まだクエストの途中なので、フォルトはどうしようかと迷う。

 それでも、リリエラが持っている袋に興味が湧いた。小脇に挟んでおける程度の大きさで、クエスト中に入手したものだろう。


「リリエラ。その袋の中身は何だ?」

「あ……。今は答えられないっす」

「やはり、クエストに関わるものか」

「はいっす!」

「うーん」

「聞いちゃえば?」


 フォルトが腕を組んで悩んでいると、マリアンデールが口を挟んできた。

 確かに報告を受けてしまえば手っ取り早いが、後の楽しみが失われる。


「でもなあ」

「相変わらず優柔不断ね。どうせ、ガルドが戻るまでは暇よ?」

「まぁいいか。というわけでリリエラ。報告をしろ」

「いいんすね?」

「いいっすよ」

「マネしないでほしいっす! じゃあ報告するっす」


 1.バグバットの執事から、服飾師を紹介を提案されて受ける。

 2.執事の用事を済ませるために、商人ギルドまで向かう。

 3.そこでガルドと出会って、人間に販売する服を見せてもらう。

 4.目的の服だったが、値段が高くて購入できなかった。

 5.服の販売を手伝うことで、代金とした。

 6.執事からの提案を断る。

 7.手伝いを無事に終えて、報酬の服をもらう(クエスト達成)。

 8.ガルドには、目的の服を作製した服飾師の紹介を頼む。

 9.ガルドに連れられて、ドワーフの集落に到着(現在)。


「以上っす!」


(アルバハードに置いてきたときから、そんな面白いことになっていたのだな。しかしも、王様自らが出張販売だと? どんだけ……)


 リリエラの行動よりも、ガルド王の放浪癖にインパクトを受けた。

 ドワーフ族の王様が、護衛も付けずに隣国まで行っているのだ。「よく止められなかったな」と、フォルトは感心してしまう。


「そ、そうか。だが、ドワーフ族の王様だと知っていたか?」

「知らないっす! さっき聞いたっす!」

「………………」

「ど、どうしたっすか? 何か問題があったっすか?」

「い、いや。で、その脇に抱えているのが目的の服か?」

「そうっす。一部のエルフが着るらしいっす」

「ふむ。見せてみろ」

「は、はいっす!」


 声を落としたリリエラは、顔を赤くしている。だが命令なので、彼女は袋から服を取りだした。続けて、全員が確認できるように広げている。

 その服を見たフォルトは、思わず目を見開いてしまう。


「そ、それは!」

「エロかわっすよね?」

「近いが……。エロだ」

「やっぱりっすね」


 一部のエルフ女性が着るらしいが、デザインを抜きにすれば露出過多だ。

 これは狙っていたとおりの服だったので、フォルトは心が躍ってしまう。だからこそ早速、リリエラに次の命令をした。


「着替えてみろ」

「え?」

「聞こえなかったのか? その服を着てみろ」

「ええっ! マスターはエッチっす!」

「エ、エッチ……」

「そうっす! マスターの前で着替えるなんて……」


 リリエラは、玩具であって身内ではないのだ。

 目の前で着替えさせるなど、彼女は恥ずかしいに決まっている。とはいえ、フォルトは着衣派である。

 もちろん男として裸体に興味はあるが、少しは配慮する。


「カーミラに目隠しをしてもらうから着替えろ!」

「ええええっ!」

「はあい! 目隠ししまーす!」


 ほほの筋肉を緩めたフォルトは、カーミラを足に乗せて腰に手を回す。

 その行動に喜んだ彼女は、柔らかい二つの膨らみで目を塞いだ。さすがは悪魔のリリスで、男心をつかんで離さない。

 実に、実にすばらしい目隠しだ。


「でへでへ。着替えていいぞ」

「わ、分かったっす! カーミラ様は動いちゃ駄目っすよ?」

「御主人様! むにゅむにゅ」

「うほっ!」


 そのままカーミラを堪能していると、客室の入口から声をかけられた。

 目隠しのおかげで、フォルトは確認できないが……。


「何をしておるのだ?」

「でへ。っと誰だ?」

「ワシだ。用事を済ませて戻ってきたわい」


 別れたばかりだと思ったが、ガルド王は急いでくれたようだ。

 もしかしたら、用事とやらを放り投げたかもしれない。

 後数分ほど少し堪能したかったが、極上の目隠しを諦める。カーミラを隣に座らせて、いつもどおり太ももに手を伸ばした。

 そして、リリエラに視線を向ける。


「もう着替えたのか」

「当たり前っす! マスターはいやらしいっす!」

「それにしても……。隠すな!」


 リリエラは恥ずかしがりながら、今まで着用していた服で前を隠していた。

 当然のようにフォルトは、それを許さない。

 命令を出してその服を下ろさせると、露出過多な彼女の姿が目に映る。一応は希望に沿っているが、改善の余地はありまくりだった。

 それでも、今までは見られなかった服だ。


「恥ずかしいっす!」

「うむ。その服がなあ」

「ほう。お主も服に興味があるのか?」


 遅くなったがフォルトは立ち上がり、ガルド王と向き合う。

 確かに、こういった露出過多の服には興味がある。しかしながら、その話をする前にやることがあった。


「そう言えば、自己紹介がまだだったな」

「ワシがドワーフ族の王ガルドだ」

「俺はフォルト・ローゼンクロイツだ」

「ローゼンクロイツ? クローディアの嬢ちゃんが言ってた奴だな」

「その女エルフなら、三国会議で会ったぞ」


 ガルドは正装に着替えてきたらしいが、やはり見分けが難しい。

 それでもマントや王冠を身に着けているので、一応は王様に見えるか。

 とりあえずはお互いの自己紹介も終わったので、対面形式でソファーに座る。以降はマリアンデールとルリシオンを交えて、来訪の目的を告げるのだった。

Copyright©2021-特攻君

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