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異世界は小悪魔と共に  作者: 特攻君
第十二章 剣聖
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ドワーフ王ガルド2

 ドワーフ族の集落にある鍛冶かじ工房。

 そこかしこで、カンカンと鉄を打つ音が鳴り響く。工房内は熱気が物凄く、数分もいれば汗が出てきてしまう。

 そして作業中のドワーフたちは、周囲に目もくれず仕事に集中している。

 ともあれフォルトは姉妹に連れられて、カーミラと共に訪れていた。

 惰眠を貪っている間に散歩先として選定してくれたので、「やっぱり行かない」と手のひらは返せない。いくら駄目男でも、それぐらいの分別はある。


「へぇ。剣を作っているところは初めて見るな」


(工場見学をしてるようで楽しいな。確か小学生ぐらいだったか? 社会科見学と称して、どこかの工場に行ったなあ)


 昔を思い出したフォルトは、感慨深く腕を組んだ。と同時に、工房の奥から一人のドワーフが近寄ってくる。

 全員が同じ顔に見えるとはいえ、服装は他の作業員と違った。

 おそらくは親方と呼ばれる者で、他のドワーフたちは弟子か。


「何じゃ何じゃお主らは? 無断で入ると怪我をするぞ!」

「うん?」

「ここは鍛冶工房だぞ! 売るもんは無いわい!」

「あぁ買いにきたわけではないのだ」

「では何だというのだ?」

「見学だ見学。武具を作っているところに興味があってな」

「ほう。人間のくせにのう。連れは魔族か?」

「そうよお。邪魔はしないから見せてねえ」


 親方らしきドワーフは、顎鬚あごひげを触りながら首をかしげている。

 この人物もそうだが、全員が酒樽さかだるのような体型だ。しかも髭が濃すぎて、フォルトたちに対して怒っているのかすら分からない。


(まぁ人間でも人種が違うと同じに見えるしな。種族が違うのだから、もっと見分けはつかないだろう)


「作業なんぞ見て何が面白いのやら……。邪魔をしないなら別に構わん」

「悪いね」

「あまり近づくなよ? 火の粉が飛んで危ないからな」

「分かった」


 見学の許可を取ったフォルトたちは、鉄の板を打っているドワーフを眺めた。

 この板は、インゴットとうらしい。カンカンと音が鳴るたびに、その形を変えている。また水に通しては熱するなど、実に興味深い作業だ。

 親方らしきドワーフは、工房の奥に戻った。


「フォルトぉ。それが面白いのお?」

「面白いかは別にして、目が離せないな」

「ふうん。私には何が何だか分からないわあ」

「カーミラちゃんは、御主人様を見てるのが面白いでーす!」

「ふふっ。確かにそうね」

「………………」


 カーミラや姉妹から馬鹿にされている気はするが、フォルトは真剣な眼差しで、作業の光景を眺めている。

 おっさんでも、男の子だからだろうか。心躍るものがあった。


(格好良いというか何というか。俺もやってみたい衝動に駆られる。うーん。少しだけでも打たせてもらえないかな?)


「カーミラ」

「どうかしましたかぁ?」

「俺にもやらせてもらえないか聞いてくれ」

「いいですよぉ」


 笑みを浮かべたカーミラは、親方らしきドワーフを探しに向かった。

 フォルトに顔の区別はつかないが、彼女には分かるようだ。


「ドワーフのおじさん!」

「何じゃ。まさか怪我でもしたのか?」



【チャーム・魅了】



 いきなり魅了の魔法を使ったカーミラは、何食わぬ顔で問いかけていた。

 それについてフォルトは、頭を抱えてしまった。他のドワーフは作業に集中して気付いていないようだが、わざわざ魅了の魔法を使う話でもない。


「御主人様! やっても構わないらしいですよぉ」

「あ、あぁ……。そりゃそうだろうな」

「えへへ」


 頭を抱えはしたが、すでに魅了してしまったのなら有効活用だ。

 早速フォルトは、親方らしきドワーフに作業の手順を問い質した。もちろん全作業行程など無理なので、鉄を打つところだけだ。


「鉄は熱いうちに打て!」

「ふむふむ」

「後ろの炉を見ろ。インゴットを熱しておるだろ」

「ふむふむ」

「アレを打たせてやる。後はそれを持て!」


 親方らしきドワーフから、ハンマーのような道具を指した。

 それなりに重いが、フォルトは片手でヒョイッと持ち上げる。


「これは?」

「大(つい)だな。金床に乗せた鉄を打つのだ」

「ふむふむ」


 大槌の長さは、だいたい一メートルぐらい。頭の部分が約三十センチメートル。重さは六キログラム近くある。

 ちなみに五キログラムが、スイカ一個分である。


「ほう。力はあるようだな」

「まぁこれぐらいなら……」


 そして高温に熱せられた鉄のインゴットが、金床に置かれる。親方らしきドワーフは、その先に付いているテコ棒を握っていた。

 とりあえずフォルトは、的を外さないように心がける。


「軽く振り下ろしてみろ!」

「では……。よいしょ!」


 フォルトは大槌を持ち上げ、おっさんらしい掛け声と共に軽く振り下ろした。

 自身からすると、コツンと当たる程度の力加減だった。しかしながら、金床もろともインゴットを粉砕してしまう。

 周囲には「ドゴーン!」と轟音ごうおんが響いて、作業中のドワーフを驚かした。


「「な、何だ!」」

「「どうした!」」


 金床は原形を留めておらず、床を陥没させてしまった。

 軽くやったつもりだったが、魔人の力を調整できなかったようだ。


「あ……」

「馬鹿もん! 力を入れ過ぎだ!」

「す、済まん」

「アホみたいに力があるな。本当に人間か?」

「そんな感じです」

「とにかく、もっと力を加減しろ!」

「わ、分かった」


 カーミラが使った魅了魔法のおかげか、親方らしきドワーフは激怒していない。やらかした弟子をいさめている程度か。

 もしかしたら彼女は、こうなることを予見していたのかもしれない。


「お前らは、こっちを見ている暇があれば仕事をしろ!」

「「は、はいっ!」」

「これぐらいのことで動じおって、集中力が足らんわい!」

「「す、済みません!」」

「だから腕が上がらんのだ!」

「「はいっ!」」


 親方らしきドワーフは、弟子たちに説教を始めてしまった。頑固親父そのもので、実に怖い人物だ。

 これでは続けられないが、フォルトとしては割って入る勇気など無い。


(あの怒りが俺にきませんように……)


「御主人様。どうしますかぁ?」

「い、いや、放っておけ。当分の間は終わらないだろう」

「そうですかぁ?」

「うむ。遊びは終わりにするか」

「はあい!」

「貴方。もう終わり?」

「フォルトぉ。少しは加減をしなさいよねえ」

「ははっ。つい、な」


 結果はどうあれ鉄を打てたので、フォルトは満足した。

 これ以上は工房にいても、魅了が解けた親方らしきドワーフに怒られる。魅了の場合は効果時間中の記憶は残るが、あの人物ならコロッと忘れそうだ。

 もちろん、反省はしていない。


「他に面白そうな場所はあるのか?」

「そうねえ。フォルトが喜びそうな場所だと……」

「酒造所かしらね」

「酒か!」

「ドワーフの火酒は有名よねえ」

「へぇ。どんな酒?」

「ちょっと飲めば、口から火を吹いて目を回すわねえ」


 要は辛い酒である。

 日本酒だと、糖の少ない酒が辛口に分類されていた。またウイスキーだと、刺激の強い酒が辛口とも言われている。


「よし! そこに行こうか」

「いいわよお。下調べは終わっているわあ」

「さすがだなルリ」

「私も調べたわよ!」

「よくやったマリ」


 姉妹の頭をでたいが、マリアンデールだと怒る。しかも、ルリシオンだけにやると不貞腐れる。だからこそフォルトは、何もしない。

 ともあれ親方らしきドワーフを放って、四人は鍛冶工房を後にする。問題を起こしたのは自身だが、弟子たちには「ご愁傷様」としか言えない。

 それから暫く歩いていると、酒造所に到着する。

 施設に近づいたときから、酒の匂いがプンプンと匂っていた。


「久々の香り」

「フォルトは酒を飲めるのお?」

「前は飲んでいたがな。まぁ今でも飲めると思うぞ」

「でもでも。御主人様は魔人なので酔えないと思いますよぉ」

「やはりそうなのか? 俺も何となくそう思っていたが……」

「えへへ。『毒耐性どくたいせい』で奇麗さっぱりでーす!」

「なるほど」


 酩酊めいてい状態とはバッドステータスである。

 それは、『毒耐性どくたいせい』のスキルがあれば避けられる。


「あれ? スキル発動の切り替えはできるぞ」

「そうですけどぉ。御主人様は酔うつもりですかぁ?」

「酒は酔って楽しむものだぞ?」

「暴食の関係で、きっと限界以上に飲むと思いまーす!」

「だあ! そうだった! いや。酔っ払う前に切り替える!」

「できますかぁ?」

「うぐっ! も、もちろんできるとも!」

「えへへ。なら介抱はしますねぇ」


 酒造所の警備は厳しく、入口から先には向かえない。しかしながら現在は、味見と称した飲み会のようなことをやっていた。

 入口の前では、大勢のドワーフが殺到している。


「一人一杯じゃ! 後は出荷したときに買ってくれ!」

「「早く飲ませろ!」」

「分かった分かった! ワシも飲むぞ!」

「「いいから早く寄越せ!」」


 酒を配っているドワーフに向かって、催促の声が止まらない。

 後で姉妹から聞いた話だが、彼らは仕事を終えている者たちだ。また酒造所で飲めなくても、すぐに酒場に卸される。

 とりあえず全員に行きわたるので、フォルトたちは最後に酒を受け取った。


「ふーん。これが火酒?」

「私たちには分からないけど、酒造するたびに味が違うそうよお」

「酒好きのドワーフ族ならではの味覚か」


 フォルトは木製の小さなコップを持ち、注がれている酒を眺める。

 ドワーフ族は利き酒の名人だらけで、ほんの些細ささいな違いも見逃さないらしい。だからこそ、毎日のように違う火酒を楽しんでいるのだ。


「小指に付けて飲むといいわよ」

「マリ。さすがにそれは……」

「あはっ! フォルトに任せるわあ」

「御主人様! グイっといっちゃいますかぁ?」

「ははっ。じゃあ一口だけ……」


 そこまで言われれば怖いが、小指に付けた程度では酔えないだろう。と思ったフォルトは、一口だけ火酒を飲んでみた。

 一気に飲み干さず舌先でめとるように、だ。


「………………」

「御主人様?」

「………………」

「フォルトぉ。大丈夫かしらあ?」

「………………」

「駄目ね」

「うっ!」


 火酒の香りが口の中いっぱいに広がって、胃の中に落ちていく。

 そこからは大変だった。

 すぐに「カーッ!」と辛いものが、胃の中で暴れ出したのだ。しかも一瞬のうちに、フォルトは意識が飛んでしまった。


「はぁ。だから言ったのにねえ」

「まったく……。貴方は死にたいのかしら?」

「御主人様は立ったまま気絶していますねぇ」

「………………」


 『気絶耐性きぜつたいせい』というスキルもあるので、実際には気絶していない。

 これは、重度の酩酊状態である。フォルトは立った状態で、上半身をフラフラと動かしていた。倒れないように、足を小刻みに動かしてもいる。

 それを見たカーミラが、背中で抱えておんぶした。


「もう駄目でしょ。さっさと宿に帰るわよ!」

「そうねえ。暫くは酒が抜けないわあ」

「えへへ。御主人様は面白いですねぇ」

「ふふっ」

「あはっ!」


 カーミラに背負われたフォルトに、彼女たちの声は届いていない。

 時おり「うぅぅ」とうなっているが、そうしていることも自覚が無い。にもかかわらず悪い手だけは、彼女の小ぶりな双丘を楽しんでいるのだった。

Copyright©2021-特攻君

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