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異世界は小悪魔と共に  作者: 特攻君
第十二章 剣聖
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ドワーフ王ガルド1

 亜人の国フェリアスの原生林を、ゆっくりと進む一団があった。

 彼ら以外の人が見たら、奇妙な一団だと思うだろう。先頭の者は、剣を使って草木を刈っている。またその後ろに続くのは、何かに担がれた三人の男女だ。


「ジャジャジャジャーン!」


 その一団の男性が、なぜか大声を上げた。

 何か恥ずかしそうな、それでいてテンションが高そうな声である。


「貴方。奇声を上げてどうしたのかしら?」

「あ……。いえ。何でもありません」

「フォルトぉ。歩いたほうが速いんだけどお?」


 今度は、二人の女性が声を出す。

 彼女たちはフォルトと呼んだ中年男性の隣で、何かに担がれていた。二人とも、ゴシック調の可愛い黒服を着用している。


「そう言うな。スケルトンたちが頑張っているじゃないか」

「アンデッドに頑張られてもねえ」


 この一団の男女は、幽鬼の森から出発したフォルト・マリアンデール・ルリシオンである。またその三人は、木の板に乗っていた。

 それを担いでいるのが、アンデッドのスケルトンだ。

 十体ほどが召喚され、木の板を肩に乗せて進んでいる。

 これぞ、フォルトの愛車スケルトン神輿みこしだ。進行方向には草木が生い茂っているので、剣で刈っているスケルトンもいた。

 そしてもう一人、地面を歩いている女性がいる。


「ふん! まだ着かぬのか?」

「もうすぐじゃないか?」

「ふん!」


 フォルトが創造した大罪の悪魔サタンだ。

 彼女については、ただの魔物避けである。マリアンデールとルリシオンに自動狩りは必要ないので、ワラワラと魔物に襲われても面倒だった。


「マリとルリは、ドワーフの集落に行ったことがあるのか?」

「何度かねえ。顔見知りもいるわよお」

「あれ? ドワーフとは戦争をしていたのでは?」

「ドワーフとはまともに戦っていないわよ」

「そうなのか」

「あいつらは魔族にも武具を卸しているからね」

「へぇ。そう言えば二人は、ソル帝国を担当していたな」

「担当じゃないわ。ブラブラと散歩をしただけよ」


 十年前の勇魔戦争。

 当時の亜人の国フェリアスは、魔族を森から追い返すことに専念していた。また人間と一緒に魔族の国ジグロードに向かったのは、ドワーフ族ではなく獣人族だ。とはいえその獣人族も、遠征の途中で引き返していた。

 人間が行った殲滅せんめつ戦にも参加せず、魔族からの恨みは買っていない。


「まぁいいか。サタンではないが、まだ到着しないのか?」

「ほら。鉱山が見えるでしょ? あの山の麓よ」

「さすがはドワーフ。鉱山の近くか」

「自分たちで採掘して、自分たちで加工するからねえ」

「なら小一時間ぐらいだな」

「そうねえ。道に出れば、もう少し早いわよお?」

「いや。スケルトンが見られてしまうだろ」


 フォルトたちは道が伸びているにもかかわらず、まだ手付かずの原生林の中を進んでいた。最初から道を歩けば良いのだが、そのあたりの事情はお察しだ。

 ともあれアンデッドは、命がある者すべての敵だと認識されている。手当たり次第に、生者を襲うからだ。

 スケルトン神輿に乗って道に出たら、確実に攻撃されるだろう。

 ちなみに、吸血鬼は別である。

 理由としては、大昔から生者と交流していたバグバットの成果だった。


「貴方。カーミラがいないようだけど?」

「金を調達させている。そろそろ合流するはずだ」

「何かを買うつもりなのかしら?」

「分からん。でもドワーフから奪うのはちょっと、な」

「確かにねえ。仲良くしたほうがいいわよお」

「そうなのか?」

「色々と便利な種族だしね」

「便利、か」


 確かに、姉妹が言ったとおりだ。

 便利という言葉には、いささか悪い気はする。と言っても、ドワーフ族は職人芸が光る種族だ。様々なものを作り出せるので、今後はお世話になるかもしれない。

 まずは、人間との相違を観察したいところだ。


「御主人様! 戻りましたぁ!」


 そんなことを考えていると、カーミラが空から下りてくる。続けて、フォルトの首に腕を巻きつけてきた。

 背中に押し当てられる小ぶりな膨らみで、一瞬にして撃沈してしまう。

 以降は温もりを堪能してから、スケルトン神輿に座らせた。


「ご苦労さん。いつもどおりだろ?」

「各貨幣を一枚ずつでーす!」

「うむうむ。それでいい」

「えへへ。そろそろ到着ですかぁ?」

「カーミラは『隠蔽いんぺい』を頼む」

「はあい!」


 ドワーフ族が魔族と交流していたとはいえ、さすがに悪魔とはないはずだ。スケルトン神輿も途中で降りて、大罪の悪魔サタンも送還する予定だった。

 そして鉱山も近くなり、木々の隙間から、木造の壁らしきものが見えてくる。


「よし! ここからは歩いて集落に向かう」

「ふん! また用があれば呼べ!」

「はいはい」


 サタンはふんふん言いながら、この場から消えた。

 集落と言っても、小さな町ぐらいはあるか。しかしながらフェリアスの住人であれば、人間のように町とは呼ばないらしい。

 どれほど大きくても、里や集落などと呼称しているとの話だった。


「「止まれ! 止まれ!」」


 フォルトたちが通行門らしき場所に向かうと、三人の門衛に止められた。

 ドワーフ族の集落に訪れたので当然だが、門衛はドワーフである。自由都市アルバハードでは遠くから眺めたとはいえ、これには再び感激してしまう。


「おぉ……。生ドワーフ!」

「「何じゃ何じゃお主らは!」」

「ガルドに会いにねえ。集落にいるかしらあ?」

「お前さんは魔族じゃな? ガルドと言ったらワシらの王じゃぞ?」

「そうねえ。そのガルドよお」

「我らが王に何用じゃ? 謁見の約束でもしておったのか?」

「ふふっ。ローゼンクロイツ家の姉妹が来たと言えば分かるわ」


 門衛とマリアンデールの言葉に、フォルトは首を傾げた。

 件のガルドという人物は、ドワーフの王族らしい。


「ドワーフの王様が知り合いなのか?」

「そうよ。ローゼンクロイツ家の力を理解したかしら?」

「あぁ実感した」

「よく分からんが、ちょっと待っとれ!」


 亜人の国フェリアスでも、ローゼンクロイツ家の家名がものを言っている。

 門衛の一人は聞いたことがあるらしく、近くの詰め所に戻った。残った二人のドワーフは物珍しそうに、フォルトをジロジロと見ている。

 これには戸惑ってしまう。


「俺の顔に何か付いているのか?」

「いんや。お前さんは人間じゃろ? なぜ魔族と一緒にいるのだ」

「俺のものだからな」

「ものじゃと? 人間が? 魔族を、か?」

「俺がローゼンクロイツ家の当主だしな」

「お前さんが? 確かジュノバと聞いていたのじゃが?」

「姉妹の親父さんだな。まだ会っていないが……」


 何か拙いことでも言ったのか。と思ったフォルトだが、職務質問をされている感じがして緊張してしまう。

 その態度が面白かったようで、二人のドワーフが笑い出した。


「ワハハハッ! どっちでもいいな! まぁもうちょっと待っとれ」

「え?」

「細かいことを気にすると、腹が減るからのう」

「はい?」

「いやいや。喉も乾くだろ! 早く酒を飲みたいもんじゃ」

「ワハハハッ! 仕事が終わったら一杯行くか?」

「何じゃ。一杯じゃ足りんわい!」

「そうじゃそうじゃ。ワハハハッ!」

「………………」


 門衛たちが、アフターファイブの話で盛り上がっている。

 すでにフォルトたちを見ておらず、「それでいいのか!」と心の中で叫ぶ。物凄く陽気な種族で、何となく新鮮な気分を味わった。

 すべてのドワーフ族がそうとは限らないが……。


「よし! 集落に入っていいぞ」


 陽気な門衛たちを眺めていると、詰所に行った門衛が戻ってきた。

 そして、集落に入る許可は出るが……。


「済まんがガルド王は不在じゃ」

「あら。どこに行ったのかしら?」

「我らにも分からん。放浪癖がある御方じゃからな。ワハハハハッ!」

「変わっていないわねえ」

「それでいいのか!」

「何じゃ? どうかしたのか」


 会話を聞いたフォルトは、今度こそ思ったことを口にした。

 仮にも王といえば、国のトップ。ドワーフ族なら、種族の族長なのだ。

 その最高権力者が、部下も知らないうちに消えていなくなる。しかも、放浪癖だからと笑って認めているところがおかしい。


「そうは言うてものう。いないものは不在としか答えられんのじゃ」

「そ、そうか。なら待たせてもらえばいいのか?」

「ガルド王に確認が取れんだけじゃ。今日は宿屋にでも泊まっておけ」

「宿屋か」

「うむ。ワシの知り合いの宿を紹介してやろう。飯も酒も旨いぞ!」

「よろしく頼む」

「門を越えてすぐ右にある宿じゃ。ワハハハッ!」


 これは、紹介になるのだろうか。

 そう思ったフォルトは、カーミラと顔を見合わせて苦笑いを浮かべる。


「ガルド王が戻ったら、俺たちに知らせてくれるのか?」

「いいぞ。どうせ暇じゃからな」

「暇……」

「お前たちのような旅人はあまり訪れないからのう」

「へぇ」

「ここは生産をする集落じゃ!」


 この集落は材料を鉱山で採掘して、生産を行う場所だった。

 そして生産された商品は、フェリアスの各地に輸送されて販売される。集落に訪れる者は、それに携わる者たちだけなのだ。

 ほとんどが顔見知りらしく、門衛の仕事が暇というのもうなずけた。

 そうは言っても、別に販売しないわけではない。工房に在庫が残っていれば売ってくれるので、好きに交渉してくれとの話だった。


「それでは集落に入るか」


 先に姉妹から聞いていたが、身分証となるカードの提示は必要無い。

 そもそもフェリアスの住人は、人間が崇める六大神を信仰していないのだ。神殿や教会から発行されるカードは所持しておらず、国内では使用していない。

 ともあれ集落に入った後は、門衛に紹介してもらった宿屋に向かう。どうやら酒場も兼ねているらしく、多くのドワーフたちでにぎわっていた。

 もちろんここでも、ルリシオンの出番だ。


「泊まりたいんだけどお」

「はいよ! 旅人かい? 珍しいね」


 受付のカウンターは無人だったが、奥からドワーフが顔を出した。

 声から察すると女性で、宿屋の女将だろう。ドワーフ族は女性でもひげが生えていると聞いたが、フォルトは目の当たりにした。

 萌える要素は皆無だが、遠くから眺めているぶんには面白い。


「見てのとおり一階は騒がしいよ。それでもいいかい?」

「いいわよお。どうせガルドが戻るまでだしねえ」

「何だい。またどっかにほっつき歩いてんのかい?」

「そうらしいわあ」

「部屋はどうすんだい?」

「一部屋でいいわあ」

「ふーん。ベッドも床も頑丈にできてるから安心しなよ!」

「ちょっ!」


 何を言い出すかと思えば、夜の営みのことだった。宿屋の女将はフォルトを見て、ニヤニヤと笑みをこぼしている。

 こんなやり取りをされると、さすがに恥ずかしい。


「男なら頑張りな! 宿泊料は前金だよ」

「カーミラ」

「はあい! いくらですかぁ?」

「一泊で銀貨三枚だよ。飯は一階で頼みな」

「はあい!」

「あんたらの部屋は二階の一番奥だよ」


 フォルトたち鍵を受け取って、女将に指定された部屋に向かう。室内は殺風景だったが、確かにベッドは頑丈そうだ。

 これなら、三人を相手にしても平気だろう。

 広い部屋ではないので、とりあえずはベッドに座りながら話す。

 一泊で銀貨三枚なら、この程度だろう。旅人の来訪は少ないと言っていたので、酒場がメインかもしれない。

 それでも、フォルトには十分過ぎる空間だった。


「集落から迷宮まではどれぐらいだ?」

「神輿なら二日かしらね」

「まぁ遅いしな」

「短縮するなら乗らないほうがいいわよお」

「そうだなあ。行くときに決める」


 確かにスケルトン神輿は移動が遅い。

 楽をするために乗っているが、時間を費やすなら考えたほうが良いか。


「あはっ! 私たちはどっちでもいいけどねえ」

「まったく、貴方ときたら……」

「ガルドとやらと会ってからのほうがいいか?」

「話を通しておくと便利だわあ。便宜を図ってもらえるからねえ」

「なるほどな」

「人間はいないようだし、外をブラブラするかしら?」

「そうだな。ドワーフには興味がある」

「ふふっ。なら明日にでも集落を散歩しましょうか」

「そうしよう」

「きゃ!」


 マリアンデールの顔が近かったので、無造作に抱き寄せて横になる。

 そしてフォルトは目を閉じ、彼女から手を離した。


「ぐぅぐぅ」

「あら。寝るのね」

「惰眠モードですねぇ。今のうちに魔界から補給しまーす!」

「よろしくねえ。私たちは適当に過ごしておくわあ」


 三人は個々で動きだした。

 まずカーミラは、食料の搬入を開始する。食事は一階で済ませられるが、暴食なので量が足りないだろう。

 マリアンデールとルリシオンは、宿屋を出て集落の下見に向かった。フォルトが好きそうなものを選定しておくためだ。

 そんな彼女たちの献身をよそに、自身は惰眠を貪るのだった。

Copyright©2021-特攻君

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