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異世界は小悪魔と共に  作者: 特攻君
第十二章 剣聖
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それぞれの戦い3

 亜人の国フェリアスの湿地帯は、非常にジメジメして蒸し暑い。

 その湿地帯を、草木をかき分けながら進む者たちがいる。

 おっさん親衛隊のレイナス・アーシャ・ソフィアだ。彼女たちはレベルを上げるために、フロッグマンの棲息せいそく地帯まで向かっていた。


「服が肌に張り付いて気持ち悪いですわね」

「仕方ないっしょ。脱ぐわけにはいかないからねぇ」

「私はそこまで酷くはありませんが……」


 ソフィアの格好は、露出が最強のビキニビスチェである。

 水着とほとんど変わらないので、一人だけ涼しそうだった。


「その服は羨ましいですわね」

「あ、あまり見られると恥ずかしいのですが……」

「フォルトさんと考えた最高傑作よ! あたしも作ってもらおうかなあ」

「アーシャさんなら似合いますよ」

「人間ノ考エルコトハ分カラナイ」


 ぐったり気味に歩く三人は、一人のリザードマンに話しかけられた。

 今回は大規模な駆除をするので、蜥蜴とかげ人族の戦士団と一緒に向かっている。

 そして彼らの防具は、鉄のハーフプレートと獣皮の腰当てだ。インナーは着用しておらず、硬いうろこの肌を露出していた。

 おそらくは女性もいるのだろうが、ソフィアのように恥ずかしがっていない。

 当然だ。人間とは見た目から文化まで違い過ぎる。


「フロッグマンとは、かなりの数がいるのですか?」

「コノ時期ハナ。何千匹ト発生スル」

「それほどですか」

「ウム。狩場ヲ荒サレ魚ガ漁レナクナル」


 魔物の増殖が与える影響について、レイナスとアーシャは興味が無さそうだ。

 その二人に対してソフィアは、少し寂しそうな顔になる。確実にフォルトの影響を受けており、身内以外に対しての無関心さがうかがえた。

 興味があるのは、これから戦うフロッグマンについてだった。


「今から行く場所には何匹ぐらいいるの?」

「二百ダ」


 リザードマンの言葉に、アーシャは肩を落とした。

 初日に戦ったフロッグマンは十匹だが、今回は二百匹である。蜥蜴人族の戦士団は二十人なので、十倍の戦力差だ。


「それって大丈夫なん?」

「二百ダト苦戦スル。ダガ今回ハオ前タチガイル」

「期待されても困りますわよ?」

「氷ノ壁。アレハ助カル」

「氷壁ですか? 指揮系統に入らなくても良いなら……」

「戦イガ始マッタラ頼ム。氷ノ壁ヲ出現サセタラ好キニ戦ッテ構ワナイ」


 おっさん親衛隊の戦闘を眺めていた案内のリザードマンから聞いたのだろう。

 確かにレイナスの氷属性魔法があれば、戦闘は有利になる。

 ともあれ彼女たちは、フォルトと別れてから連日連戦だった。また今回の自動狩りは、一週間を予定している。

 本日の狩りが終了したら、幽鬼の森に帰還するのだ。


「コノ先ニイル」

「到着したようですわ」

「うぅ。ムシムシするぅ」

「ふふっ。アーシャさん。頑張ってくださいね」

「あたしはずっと踊ってるのよ? もう大変っ!」

「そう言えば蜥蜴人族に魔法使いはいらっしゃいますか?」

「ウム」

「ならアーシャさん」

「はいはい。何人?」

「五人ダ」

「えっと……」


 アーシャのスキル『奉納の舞(ほうのうのまい)』は、彼女が認識した味方全員に効果がある。だからこそ、誰が味方かを知っておく必要があった。

 そうは言っても蜥蜴人族の顔は、どれも同じに見える。


つえを持っているリザードマンだけでいいのですよ」

「なるほどねぇ」


 おっさん親衛隊の戦い方は説明してある。

 音響の腕輪から流れる音楽が、戦闘開始の合図だった。

 もちろん音楽を流すなど、危険極まりない行為。敵に自分たちの存在を知らせることになり、他の魔物すら呼び寄せかねないからだ。

 それでもあえて音楽を流すのは、フォルトが望んだからに他ならない。とはいえその判断は、ソフィアが任されていた。

 勇者の従者だった彼女の状況判断は卓抜している。蜥蜴人族が収集していた周辺の魔物情報を踏まえて、今回は大丈夫と判断した。

 それをもう一度確認したところで、三人は草木の茂みから顔を出す。視線の先にはフロッグマンが大量にいるとはいえ、まだこちらには気がついていないようだ。

 じゃれ合っていたり、魚を食べている。


「行くよお! レッツ・スタート・ザ・ミュージック!!」


 アーシャの音響の腕輪からは、クラシカルなダンス・ミュージックが周囲に流れ始めた。と同時に彼女は、茂みから飛び出す。

 以降は注目を集めるように、大胆かつ華麗に舞い始めた。

 この音楽で踊れるとは大したものだ。


「ゲコッ?」

「ゲコッゲコッ!」


 当然のように、フロッグマンたちが一斉にアーシャを見る。

 そして獲物を発見した獣のような目になり、我先にと襲ってきた。


「行ケ! リザードマンノ勇者タチヨ!」

「「オオッ!」」


 アーシャの音楽に負けじと、リザードマンの一人から号令がかかる。

 陣形などはなく、真正面からのぶつかり合いだ。ならばとレイナスは、先ほど頼まれた氷属性魔法を使う。



【アイス・ウォール/氷壁】



 この氷壁の魔法も、アーシャのスキル効果を受けている。大きさや強度などが強化されており、フロッグマンの筋力では壊せない。

 レイナスはその氷壁を、両者がぶつかる付近に扇状で設置した。

 前回のおっさん親衛隊が使った戦術である。

 この状態であれば、蜥蜴人族の戦士団は包囲されないで済む。しかも出口付近が狭いので、フロッグマンたちが大渋滞を起こした。

 それにしても、蜥蜴人族の戦士団は統制がとれている。

 出口付近を壁役の数人が固めて、傷を負ったら交代していた。後衛は攻撃魔法ではなく移動阻害系の魔法を使って、敵の逃走を防いでいる。氷壁の側面から後ろに回り込もうとする者たちもおり、確実に全滅させるつもりだ。

 ともあれ後は好きに戦えるので、どれから攻撃しようかと品定めをする。


「では私たちも行きますわよ!」

「あっ! 待ってくださいレイナスさん」

「何でしょうか?」

「あのフロッグマンを捕獲できますか?」


 ソフィアが指さした先には、通常の個体よりも大きいフロッグマンがいた。

 普通に考えると、この群れのボスだ。


「あれをですか?」

「ほら。デルヴィ侯爵からの依頼です」

「確か闘技場で使う魔物でしたわね」

「はい。フォルト様は忘れているでしょうが……」

「そうですわね。ロゼは調整を頼みますわ」


 レイナスが聖剣ロゼを構えると、微かに震えている。

 自動狩りは、本日で終了なのだ。フォルトへの土産として、ボスらしきフロッグマンの捕獲すれば喜ぶだろう。

 そして逃がさないように、彼女は一気に間合いを詰めるのだった。



◇◇◇◇◇



 屋敷の屋根で寝転がっているフォルトは、森の風景を眺めていた。

 幽鬼の森は緑があまり見られない。ほとんどの草木は枯れた状態で、生命の息吹というものが感じられなかった。

 大量のアンデッドが徘徊はいかいしているので当然か。


「おっ! 戻ってきたな」


 森の奥からは、四人の女性が姿を現した。

 レイナス・アーシャ・ソフィアのおっさん親衛隊だ。またもう一人は、彼女たちを迎えに行ったカーミラである。


「よっと!」


 彼女たちの無事な姿が確認できたところで、フォルトは屋根から飛び下りた。続けてゆっくりと、誰もいないテラスに向かう。

 そして自分専用椅子に座り、彼女たちが近寄ってくるのを待つ。


「フォルト様! いま帰りましたわ!」

「おかえりレイナス。それに皆もな」


 笑顔で三人を迎えたフォルトだが、気になるものがあった。

 それは、レイナスが引っ張っているフロッグマンだ。ロープで縛られて、ゲコゲコと鳴き声を上げている。


「それは何だ?」

「フロッグマンですわ」

「見れば分かるが……。大きいな。もしかして食べるのか?」

「いいえ。ボスのようでしたので引き渡しますわ」

「誰に?」

「いやですわ。デルヴィ侯爵に決まっていますわよ」

「………………」


 レイナスの答えを聞いて、フォルトは考え込む。

 それからデルヴィ侯爵と何度もつぶやいて、過去の記憶を探っていく。蛇のような目は思い出したくもないが、とある件と結びついて顔を上げた。

 その変化を眺めている彼女たちは、クスクスと笑っている。


「国境を越えたときの対価か!」

「そうですわ。捕獲した魔物を闘技場で使うと仰っていましたわね」

「そうだそうだ。そうだった」

「きゃ!」


 フォルトはレイナスを手招きして、隣に座らせる。同時に自身の後ろには、カーミラが移動した。

 フロッグマンは歩くのも辛かったのか、その場で倒れ込んだ。


「虫の息だな。ボスってことは強かったのか?」

「オーガぐらいですわね」

「レベル二十五前後か」

「これであれば侯爵の意向に沿っているかと思いますわ」

「ははっ。よく覚えていてくれたな。助かる」

「ぁっ!」


 フォルトは悪い手を開放して、レイナスの体を弄る。

 ともあれデルヴィ侯爵の件は、すっかり忘れていた。どんなに嫌な相手でも約束をしたのだから、彼女たちの気遣いに感謝する。


「フロッグマンのボスって……」

「群れの中のボスですわね」

「なるほど」

「群れは点在していますので、それなりの数がいるかと思いますわ」

「まぁ一体いれば十分だろ」


 デルヴィ侯爵に送る魔物。

 フォルトはそれを、数よりも種類だと思っていた。同じ個体を対戦させても、観客に飽きられてしまうだろう。

 奴隷紋を施すと言っていたので、治療しながら使うはずだ。

 もし違っても知ったことではない。


「ソフィア。あの辺に他の魔物はいるのか?」

「アーマーゲーターにブラックヴァイパー。後はローパーが有名ですね」

「ワニ、蛇、触手か。強いのか?」

「地形次第ですよ」

「ワニと川辺で戦うとか、確かにあり得ないな」

「戦いやすい陸地におびき寄せられれば、今の私たちなら大丈夫です」

「ふむふむ。だが非効率だな。自動狩りには向かない」

「はい。ですので、狩りの最中に発見したら捕獲しておきますね」


 このあたりは、おっさん親衛隊に任せれば大丈夫だろう。

 もちろん暫くは彼女たちの成分を補充するので、自動狩りはお預けだ。


「よし! それではソフィア。後で部屋に行く」

「はいっ!」

「レイナスとアーシャ。カーミラも行くぞ!」


 気合を入れたフォルトは、椅子から立ち上がった。

 そして三人を引き連れ、屋敷に向かおうとして思い留まった。やることは一つなのだが、その前に終わらせておく雑用を思い出したのだ。


「そうそう。おりを作っておかないとな」



【サモン・ブラウニー/召喚・家の精霊】



 それは、捕獲した魔物を閉じ込めておく設備だ。

 毎回作るのも面倒なので、いつものように五十体のブラウニーを召喚する。二十個ぐらいの檻があれば良いだろう。

 大きさも大中小の三種類を作らせておく。


「よろしく!」

「「了解デス!」」


 ブラウニーたちは命令を受けて、すぐに檻を作り始める。

 幽鬼の森には枯れた木しかないが、魔法で強度を上げられるだろう。

 とりあえず、彼らの作業は見ておく必要は無い。ならばと次は食堂に向かって、マリアンデールとルリシオンに声をかけた。

 シェラも手伝いをしているが、用があるのは姉妹だ。


「マリ! ルリ!」

「あらあ。料理はまだ完成していないわよお」

「悪いけど、外で虫の息のフロッグマンを檻に入れておいてくれ」

「フロッグマン?」

「ブラウニーが檻を作っている。後はよろしく!」

「はいはい。やっておくわ」


 これで、他力本願の雑用は終わりだ。

 フォルトは今度こそ三人を連れて、寝室に引き籠る。食事までの時間を使って、彼女たちの成分を補充するのだ。

 そして満足した後は皆と食事をしながら、次の予定を伝えるのだった。

Copyright©2021-特攻君

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