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異世界は小悪魔と共に  作者: 特攻君
第十二章 剣聖

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それぞれの戦い2

 ヒスミールと対峙たいじするルーチェは、死霊を浮かべて戦闘態勢をとる。

 ドライアドに頼まれて迎撃に来たが、確かに強そうだった。


(やれやれですね。せっかく魔道具が完成しそうだったのに……。それにしても、あの角は魔族ですか? 魔族の場合の対処は聞いていませんでした)


 フォルトからの命令は、双竜山の森に侵入する人間を追い返すこと。だが、目の前の女性らしき男性は魔族である。

 殺害しても怒られないだろうが、脳裏に魔族の姉妹が浮かぶ。


「お名前をお聞きしても?」

「私はヒスミールよーん! でも覚えたところで意味は無いわよん?」

「なぜですか?」

「うふふ。貴女はここで死ぬからよん」

「戯言を……」


 戯言である。

 吸血鬼の真祖バグバットと同様に、ルーチェもアンデッドなのだ。すでに死んでいるので、「消滅させる」が正解だった。


(この魔族の名前は聞きましたが、今は主様に伝えられませんね。追い返した後に報告をするとして……。まずは……)



【サモン・アンデッドウォリアー/召喚・屍骨しこつ戦士】



 ヒスミールとの距離があるので、最初の行動としては召喚魔法が最適だ。

 ルーチェはデモンズリッチなので、魔法戦闘がメインとなる。壁になる魔物がいなければ、戦いを有利に進められない。

 そして屍骨戦士とは、スケルトンの上位種である。

 中位アンデッドに属し、推奨討伐レベルは三十と高い。姿は骸骨だが骨太で、鉄製の剣や盾、よろいを装備して出現する。

 召喚した数は五体だ。


「あらん? アンデッドなんて召喚しちゃって可愛いわん」

「そうですか。では、死んでください」

「五体もいるのねん。厄介だわーん!」


 ヒスミールはそれだけ言うと、屍骨戦士に向かって走り出した。

 それならばとルーチェは、屍骨戦士に視線を向ける。剣と盾を構えさせて、さながら屈強な戦士のようだ。

 まずは、侵入者を包囲するように命令を下す。


「囲みなさい!」

「どらあ!」


 ヒスミールは雄たけびをあげながら、剣をむちのように伸ばした。

 それから分裂した鋭い刃をビュンビュンと振り回して、二体の屍骨戦士を巻き込むように攻撃してくる。

 ルーチェは「欲張り過ぎ」と、彼に対し苦笑いを浮かべた。

 屍骨戦士は盾を前に出して、その攻撃を勢いよく弾き返す。



【マス・シールドウォール/集団・盾壁】



 ヒスミールが屍骨戦士を突破できないのを悟ったルーチェは、防御系魔法を展開して、五体の屍骨戦士の物理防御力をあげた。

 これにより、さらに強固となった屍骨戦士を群がらせた。


「やっぱり無謀だったかしらねん?」


 屍骨戦士が包囲を縮めようとすると、ヒスミールは後方に下がる。と同時に一体の屍骨戦士に向かって、再び蛇腹剣を振るう。

 それが功を奏したようで、盾ごと巻きついた。


「どらあぁぁぁあああっ!」

「ちっ」


 屍骨戦士の一体が上空に飛ばされたので、ルーチェは舌打ちした。

 以降は頭から落下させられると、頭蓋が砕かれて動かなくなる。


「どらどらどらどらどらっ!」


 ヒスミールは蛇腹剣から屍骨戦士を外さずに、そのまま回転し始めた。遠心力を使って、他の屍骨戦士をぶつけるつもりだろう。

 まるで、ジャイアントスイングのようだ。


「甘いわね」



【ボーン・スパイク/骨突起】



 今度はルーチェが、死霊系魔法で攻撃した。

 ヒスミールを中心に、地面から鋭い骨が三十本ほど突き出る。続けて一斉に、彼に向かって発射された。


「あららん? ふんっ!」


 ヒスミールは骨突起を避けるために、蛇腹剣もろとも屍骨戦士を投げ飛ばす。

 その攻撃は他の屍骨戦士に当たり、一体が戦闘不能にされた。次に後方宙返りをして、骨突起を避けられてしまう。

 一連の行動を観察していたルーチェは、三体の屍骨戦士を戻した。


「やるわねん」

「当然です」


 ルーチェは澄ました顔で答える。

 二体の屍骨戦士を倒されたとはいえ、まだ三体も残っている。有利なことには変わりがない。しかもヒスミールは、武器を手放していた。


「もう一度だけ聞きましょう。森から退去しなさい」

「私はここからが強いのよん?」

「ですが、彼我の戦力差は理解していると思いますが?」

「確かにそうねん」


 会話をしながらも、ヒスミールはジリジリと寄ってくる。

 戦闘意欲は削がれていないようだ。ならばとルーチェは命令を下し、前方に屍骨戦士を並べた。強固な陣形で屍骨戦士を犠牲にすることで、カウンターの近距離攻撃魔法を撃ち込める。

 召喚したアンデッドの使い道など、そんなものだ。


「参ったわねん。貴女までは遠そうだわん」

「降参しますか? ならば見逃してあげます」

「お言葉に甘えようかしらねん。その前に一つだけいいかしらん?」

「何ですか?」

「森の主は……。フォルト・ローゼンクロイツかしらん?」


 一瞬だけ体の動きを止めたルーチェは、ポーカーフェイスを浮かべる。

 そしてヒスミールに悟られないように、思考を巡らせた。


(主様を知っている? これを肯定して良いものか迷いますね)


「うふふ。マリちゃんとルリちゃんは元気かしらん?」

「っ!」

「私はホルノス家の嫡男。姉妹と同じ魔族の名家よーん!」

「お二人とはどのような関係でしょうか?」

「あらん? 答えを言っているのと同じだわん」


 誘導尋問に乗せられてしまい、ルーチェは苦い顔をする。

 普通に考えれば同じ魔族なので、姉妹を知っているのは当然だ。しかしながら、二人を愛称で呼ぶことができるかは疑問だった。

 まるで知らない者に言われたら、姉妹は激怒するだろう。

 ともあれ、主人と姉妹の名前を出したのだ。双竜山の森と関連付けている以上、ヒスミールは姉妹の知人と考えても良いか。

 どうせエウィ王国では、周知の事実なのだ。知人だった場合のほうが困るので、今は対応を変えるべきだった。


「残念ながら不在ですので、森にはいらっしゃいません」

「それは残念だわん。久しぶりに組手がしたかったのよん」

「ヒスミール様がいらっしゃったことは伝えておきます」

「分かったわん。なら退くとするわねん」

「お待ちを……」


 ヒスミールが背を向けた瞬間に、ルーチェは声をかける。

 これを聞いておかないと職務怠慢になってしまう。


「何かしらん?」

「組手だけが用件ではないと思いますが?」

「うふふ。森の主の正体を探りにきただけよん」

「何のために?」

「調査を依頼されたのねん。もちろん依頼人については言えないわん」

「………………」


 魔族と人間の関係性から、依頼人は魔族かもしれない。と思ったが、その真偽を判断するのは主人のフォルトである。

 眷属けんぞくのルーチェは、その判断材料を収集するだけで良いだろう。


「それにしても、マリちゃんとルリちゃんが生きていたとはねん」

「そ、そうですか」

「家名を聞いたときから期待はしてたわん」


 ローゼンクロイツ家の存在は、まだ周知されていないはずだ。であれば、依頼人の素性を絞れる情報になるか。

 それとも、誤情報を伝えているのか。

 先ほどの戦いと併せて、ヒスミールは中々のくせ者だ。


「最後に。ヒスミール様は敵ですか? 味方ですか?」

「今はどちらでもないわねん。今は、ね」

「………………」

「うふふ。私にもやることがあるのねん。でも二人にはよろしくねん」

「分かりました。伝えます」


 これを最後にヒスミールは、きびすを返して双竜山に向かった。

 彼が戻ってこないことを確認したルーチェは、主人のフォルトに伸びた魔力の糸に魔力を流す。

 これは信号となるので、以降は呼び出されるのを待つだけだ。


「さてドライアド。後は任せますね」

「はい。あの者の誘導はお任せを……」


 ドライアドは樹木のネットワークを使って、一部始終を監視していた。誘導と言っているので、もしかしたら嫌がらせで迷わせるかもしれない。

 そんなことを思ったルーチェは、任務を達成した高揚感に包まれるのだった。



◇◇◇◇◇



 屋敷のテラスで打ち合わせをしているフォルトは、ルーチェを呼びだした。

 彼女まで伸びた魔力の糸に反応があったからだ。緊急の場合以外は使わないはずだったが、まずは双竜山の森での出来事を報告された。

 それを聞いたマリアンデールは、ばつが悪そうな表情を浮かべている。


「あいつが来たんだ?」

「前にマリが言っていた奴か?」

「そうよ。オカマ」


(オカマが攻めてきた! 出会いたくないし、やっぱり森を出て正解だな。でも怖いもの見たさに、遠くから眺めてみたいとも思う)


 ヒスミールの風貌を聞いて、フォルトは少しだけ興味が湧いた。

 世紀末雑魚のいで立ちである。一度ぐらいは拝んでおきたい。魔法の透明化で近寄れば、それもかなうだろう。

 もちろん、わざわざ探すつもりは無い。


「それでルーチェ。ヒスミールとやらはどこから森に入った?」

「双竜山からです」

「うーむ。ならソル帝国かな」


 グリム領ではフォルトとの約束どおり、双竜山の入山を厳しく規制されている。しかも、ヒスミールは魔族である。

 ソル帝国が魔族を囲っているという話は、グリムから聞いていた。


「森の主を調査することが目的のようです」

「まぁ俺の名前は皇帝が知っているしな」


 帝国の目的は不明だが、ある程度の見当はつく。

 エウィ王国の隣国なので、国境になる双竜山と森は偵察したいだろう。建物があれば調査したいはずだ。

 ともあれ、森の主を知ったことで退いている。

 今後の出方は気になるが、現状だと放置しても構わないか。


「オカマは強かった?」

「はい。中々の強者です。力も隠しているでしょう」

「マリやルリと比べると?」

「聞き捨てならないわね。ヒスミール如きに負けないわよ!」

「そ、そうか。済まなかった」

「ふんっ! 分かればいいのよ!」

「お姉ちゃんの姉弟子じゃないかしらあ?」

「兄弟子よ、兄弟子! 姉じゃないわ!」

「そんな関係が……」


 マリアンデールとヒスミールは、同じ師を持つ兄妹弟子だった。

 それは何十年も前のことで、彼女がそれほど強くなかった頃だ。彼女が百歳だと考えると、フォルトは時代を感じてしまう。


「マリは無手だったな」

「そうよ。使うほどの相手がいなかったけどね」

「〈狂乱の女王〉、か」

「女王とかいい響きよね。そう思わないかしら?」

「ははっ。どちらも格好いいよな」


 マリアンデールの〈狂乱の女王〉。ルリシオンの〈爆炎の薔薇ばら姫〉。

 どちらも厨二病ちゅうにびょうをくすぐりまくるので、フォルトとしては実に羨ましい。


「俺に二つ名は付くかね?」

「さぁ。魔人なのだし、怠惰の魔人かしら?」

「そういうのではなくて……」

「二つ名が欲しいのお?」

「いや。やはり要らない」


 言葉では要らないと言ったが、内心は欲しかった。しかしながら、どのような二つ名が付けられるか不明だ。

 恥ずかしく、また格好悪いのは御免である。


「この時期に来た理由はあるのかな?」

「もしかしたら、帝国軍が攻めてくるのかしらねえ」

「面倒だから勘弁してほしい。石化三兄弟が頑張ってくれればなあ」

「フォルトの出る幕はないわあ。お姉ちゃんと遊んでくるわよお」

「そうよ! 私たちの獲物を取らないでよね!」

「ははっ。ソル帝国の相手は二人に任せる」


 フォルトはすべて他人任せだが、高みの見物ぐらいはしたいと思う。

 こちらの世界には、エンターテインメントがほとんど無いのだ。マリアンデールとルリシオンの戦いを眺めるのは、映画を観るようで楽しいだろう。

 実際、レイバン男爵のときは面白かった。


「よしよし。なら続きを詰めるとしようか」


 そしてフォルトたちは、限界突破作業の話に戻る。

 ミノタウロスは良いとして、もう一種類を討伐しなければならない。面倒臭い話だが、姉妹が受けた神託ではそうなっている。

 もう一種類とは、あちらの世界でも有名なマンティコアと呼ばれる魔物だ。同時に討伐する必要は無いらしいが、ミノタウロスの討伐後もお出かけだ。

 にも角にも、姉妹の限界突破が最優先である。

 そう考えたフォルトは、ヒスミールの件を頭の中から放り出すのだった。

Copyright©2021-特攻君

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