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異世界は小悪魔と共に  作者: 特攻君
第十一章 それぞれの拠点
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(幕間)おっさん親衛隊結成

 亜人の国フェリアス。

 三国会議で結んだ条約によって、エウィ王国との人的交流が始まろうとしている矢先。フォルトたちは、リザードマンと呼ばれる蜥蜴とかげ人族の集落に訪れていた。

 自由都市アルバハードとの国境は、領主であり吸血鬼の真祖バグバットのおかげで素通りである。滞在場所も国境から近く、特に迷うことはなかった。


「本当に二足歩行の蜥蜴だな」

「そうですねぇ。もしかして食べたいですかぁ?」

「いや。さすがに……」


 おっさんの姿に戻っているフォルトは草むらに隠れてながら、蜥蜴人族の集落の観察をしている。隣には『隠蔽いんぺい』スキルで悪魔の姿を隠したカーミラがいる。

 レイナス・アーシャ・ソフィアの三人は、集落の中に入っている。拠点にする予定なので、現在は交渉の最中だった。


「うまくまとまるかな?」

「確か面識があるんですよねぇ?」

「ソフィアがな。十歳のときだから、だいぶ変わっているだろうが……」

「蜥蜴に人間の違いが分かりますかぁ?」

「さあな。騒ぎになっていないようだし平気だと思う」

「あっ! 戻ってきましたよぉ!」


 カーミラとヤキモキしていると、三人が戻ってきた。

 彼女たちは族長に話を通せたらしく、宿を貸してもらえるそうだ。と言っても原始的な造りで、木や枝・植物のつた・大きな葉っぱなどを使った建物である。

 三角形のテント型で、窓も無ければ入口は一つしかない。

 その宿に移動したフォルトは、ソフィアから詳しい話を聞く。


「この建物か。タダではないのだろ?」

「フロッグマンの討伐を手伝えば無料で良いそうです」

「俺たちの目的と合致したのか」

「今の時期は大量に発生するそうですよ?」

「へぇ。しかしなぁ」


 外観から察せられるとはいえ、フォルトは宿の中を確認する。

 き出しの地面の上に、茣蓙ござが敷かれてるだけだった。中心に伸びた一本の柱に、四方から丸木――加工していない――を立てかけて、柱と交差する部分を植物の蔦で結んでいた。後は葉っぱ・木の枝・蔦を使って、屋根や壁にしてある。

 その光景を見た瞬間に、表情を曇らせて振り向いた。


「ここに泊まるのか?」

「残念ながら、他も同じような建物です」

「無理! アーシャも無理だろ?」

「もっちろん! フォルトさんが何とかしてくれるっしょ?」


 アーシャは目をキラキラさせて、期待の眼差しを向けてくる。

 フォルトとしても、こんな場所に愛しの身内を宿泊させられない。せめて、魔の森に建てた自宅ぐらいにはしたい。

 そこでソフィアに、とある依頼をする。


「ソフィアには悪いが、宿を建て直していいか聞いてきてくれ」

「え?」

「ほら。魔の森に俺の家があっただろ? あれぐらいならすぐに建てられる」

「な、なるほど。分かりました。族長に聞いてきます」

「さすがはフォルトさんね! ちゅ」


 アーシャの口付けで、フォルトの顔がだらしなくなる。

 ともあれ暫く待っていると、ソフィアが戻ってきた。


「フォルト様、族長の許可が下りましたよ」

「そうか」


 どうやら、是非とも頼むと言われたらしい。

 予想していたことだが、蜥蜴人族に建築技術は期待できないようだ。また湿地帯で集落を営んでおり、雨などは気にしない種族だ。

 現状でも不自由が無く、他種族が訪れることも少ないとの話だった。


「では」



【サモン・ブラウニー/召喚・家の精霊】



 ここでもやはり、ブラウニーの出番だ。

 いつものように五十体ほど召喚して、建築作業を開始させる。自動狩りを行っている間に完成するだろう。


「後はブラウニーに任せて、狩場の下見に行こうか」

「「はいっ!」」


 フォルトたちは蜥蜴人族の集落を出て、フロッグマンの棲息せいそく地域まで向かう。

 移動は面倒なので、久しぶりにスケルトン神輿みこしの出番だ。しかしながら二人しか乗れないからと、まずはカーミラと体力の少ないソフィアを一緒に乗せる。

 移動中も魔物に襲われる危険性もあるので、レイナスとアーシャは徒歩だ。

 ちなみに蜥蜴人族の集落からは、一人の案内役がついてきてくれた。おそらくは男性だと思われるが、リザードマンの男女は判断が難しい。


「暫くしたら交代な」


 ずっと徒歩なのも悪いので、交代で乗せることにした。

 本来なら三人は定員オーバーだが、カーミラは腰の上に乗っている。


「モウスグ」

「あぁ……。みんなは道を覚えたか?」

「はい。問題はありませんわ」

「私も大丈夫です」

「あたしはレイナス先輩についていくわ!」

「そっ、そうか」


 下見が終わった後はフォルトとカーミラを抜いた三人で行動するので、バラバラに逃げることがなければ大丈夫だろう。

 アーシャは身軽なので、レイナスについていくことは可能だ。


「ソレヲ降リテ隠レル」


 フォルトが皆に狩り中の注意点を伝えていると、目的地に到着したようだ。

 スケルトン神輿に乗っていると、さすがに発見されてしまう。以降は案内人の蜥蜴人族が草むらに隠れたので、皆もそれに続く。

 そして草むらから顔を出すと、沼の周囲にフロッグマンの群れを視認できた。


「ほう。あれか……」


 フロッグマンとは、二足歩行をする緑色のカエルだった。

 リザードマンと違って、知能は獣並みらしい。性格も凶暴で、人語を介した交渉などは不可能。遭遇したら戦うしかなく、亜人には分類できない。

 蛙のくせに、まるでノコギリのような牙を持つ。また腕力と脚力は強く、人間の首なら簡単に引千切れる。攻撃方法はシンプルで、「牙によるみつき」・「拳による打撃」が主なところだ。

 武具などは持っておらず、弾力性の高い肉体が攻撃の威力を削ぐ。


「三人でやれそうか?」

「大丈夫ですわ。戦術は考えてありますわよ」

「ほう。まぁ危なくなったら助けるからやってみろ!」

「はいっ! ではフォルト様、狩りを始めますわ。ちゅ」

「じゃあ行ってくるねっ! ちゅ」

「フォルト様。あの……」

「どうしたソフィア?」

「ちゅ」


 ソフィアだけが恥ずかしがり、二人に遅れて口づけをされた。

 フォルトは場所柄も弁えずに、「でへでへ」とよだれを垂らしそうになる。だが今から身内の三人は、魔物との戦闘を始めるのだ。

 いつでも助けられるように、カーミラと一緒に身構えておくのだった。



◇◇◇◇◇



 そして、フロッグマンとの戦闘が始まった。

 まずはアーシャが草むらから飛び出して、音響の腕輪を使う。


「いくよっ!!」


 腕輪からは、軽快な音楽が流れ始めた。

 アーシャは華麗なステップで踊り出して、スキル『奉納の舞(ほうのうのまい)』を発動させた。自身も含めて、レイナスとソフィアの魔力を強化する。


「やあああっ!」


 次にレイナスが聖剣ロゼをさやから抜いて、草むらから飛び出す。

 同時にソフィアも、だ。沼地と言っても、地面が少し柔らかいぐらいか。足を滑らすほどではないので、彼女たちの動きは迅速だ。

 対するフロッグマンの群れは十体だった。

 フォルトとカーミラは、その戦闘を黙って見守っている。

 案内役の蜥蜴人族には、「三人に任せてほしい」と伝えていた。彼か彼女か分からないが、同様に草むらか顔を出している。


「ゲコッ!」

「ゲコ、ゲコ!」

「うるさいですが、まずは……」



【アイス・ウォール/氷の壁】



 アーシャの音楽に気付いて、フロッグマンが襲ってくる。

 当然だろう。敵に襲撃を教えるようなものだ。しかしながらフォルトとカーミラがいるので、彼女は安心して使っている。

 どのみち遮蔽物は無く距離が離れており、姿を見せれば気付かれる。

 ともあれレイナスは、群れの左右に氷壁を出現させて道を作った。魔力が強化されているので、かなりの大きさだ。


「ゲ、ゲコ!」

「ゲコ、ゲコ、ゲコー!」


 氷壁は、レイナスに向かって道が狭くなっていた。

 知能が獣並みのフロッグマンは、その道を通って群がってくる。だがそれは戦術であり、彼女の思うつぼだった。

 レベル三十の彼女でも、同時に十体の相手は辛いのだ。

 氷壁の間隔を狭めることで、複数を相手にせず戦える。



【ヘイスト/加速】



【ストレングス/筋力増加】



 まだまだフロッグマンとの距離は離れているので、レイナスは加速の魔法を使う。と同時にソフィアも、筋力増加の魔法で彼女を強化をする。

 そして、目前に迫ったフロッグマンに挑む。


「てやあああっ!」

「ゲコッ!」


 フロッグマンは迫ってきた勢いのまま、レイナスに向かって跳び上がる。脚力が強いからか、かなりの跳躍力だった。

 その一体は両手を頭上に組んで、彼女の頭部に向かって振り下ろしてきた。


「はっ!」


 フロッグマンの攻撃が当たる寸前に、レイナスが聖剣ロゼを一閃いっせんする。

 その鋭い切れ味と強化魔法のおかげで、緑色の体が真っ二つになった。


「ゲコー!」


 一体を討伐したレイナスは、次の獲物をにらむ。

 剣の間合いには少し遠いようだ。とはいえ二体目のフロッグマンは、跳び上がらずに走り込んできた。

 彼女は聖剣ロゼを横にぎ払おうと構えて、新しく覚えたスキルを使う。


「次っ! てやぁぁぁああっ! 『魔法閃まほうせん』!」


 このスキルが発動すると、聖剣ロゼが光に包まれて、魔法の刃が発射される。地面をうように放たれたそれは、フロッグマンの足を切り落とす。

 以降は倒れ込んだので、後続の足止めになった。

 レイナスは立ち止まり、聖剣ロゼを正眼に構えて態勢を整える。

 それに併せて、ソフィアから魔法が撃たれた。



【ファイアボルト/火弾】



 初級の火属性魔法だ。

 この魔法攻撃にもアーシャのスキル効果が乗って、五割増しの威力である。

 火弾はレイナスの横を通過して、最初に足止めされたフロッグマンに命中した。顔面に命中しており、両手で顔を抑えて地面に膝を付く。


「ゲコーッ!」

「やあああっ!」


 火弾を受けたフロッグマンも邪魔になって、氷壁で囲んだ道は大渋滞になる。

 もちろん、その隙を見逃すレイナスではなかった。


「『魔法剣まほうけん』!」


 次にレイナスは、聖剣ロゼに魔力を流した。

 無属性の魔力を付与することで、更に殺傷力を高める。彼女たちがやっている自動狩りは、効率とスピードが重要なのだ。

 次々に討伐する必要があった。


「ゲ、ゲコ、ゲコー!」

「ゲコゲコ!」


 走り込んだレイナスは、負傷している二体のフロッグマンを斬り伏せる。

 それを見た残りのフロッグマンは、不利を悟って逃げ出した。


「逃がさないっての!」



【ウインド・カッター/風刃】



「ゲッ!」


 アーシャは踊りながら、初級の風属性魔法を撃ち込む。

 スキルの効果が乗った風の刃は、一番奥にいるフロッグマンの背中を切り裂いた。真っ二つとまではいかないが、深く傷つけたようだ。

 これで、逃走の速度が落ちた。


「決めるわ! 『氷結樹ひょうけつじゅ』!」

「「ゲコー!」」


 レイナスが修得した中で、一番強力なスキルを使う。

 彼女から逃走を図っているフロッグマンの地面から、氷の枝が何本も突き出た。と同時に、すべてのフロッグマンが串刺しになる。

 そして魔物から流れ出る鮮血で、氷樹は真っ赤な花を咲かせた。


「終わったようだな。よくやった!」


 草むらから眺めていたフォルトは、フロッグマンの全滅を確認した。もう周辺に魔物はいないので、三人に労いの言葉をかける。

 それを聞いた彼女たちは、戦闘の緊張を解いて近づいてきた。


「フォルト様、すべてを片付けましたわ!」

「あたしの華麗な踊りに目を奪われたっしょ?」

「ふぅ。何とか勝てたようですね」


 三人はうれしそうだ。

 フォルトの指示が無くても、レイナスは初見の敵をアッサリと倒した。推奨討伐レベル二十の相手だが、十体もいるとそれなりに大変である。

 彼女たちの作戦勝ちだろう。


「これなら俺がいなくても楽勝だな」

「ロゼのおかげもありますけど……」

「ロゼ?」

「成長型知能ですわね。私はロゼとつながっていますわ」


 聖剣ロゼは、今までの戦いから最適解を導き出す。多少だがレイナスの動きを調整できるので、今回の戦いでも有効だったようだ。

 フォルト的には、かなりヤバい聖剣だと思っている。


「そうか。ロゼもよくやった」


 フォルトから声をかけられた聖剣ロゼは、カタカタと震えている。魔人には慣れておらず、まだ怖がっているのだろう。

 レイナスと会話しているようだが、何となく理解できるので放っておく。

 そしてカーミラも、三人を労った。


「三人ともいい感じでーす!」

「これは新たなチームの誕生だな!」

「そう言えば御主人様は、チームを作りたいと言っていましたねぇ」

「シュンたちに感化されてな」


 事の始まりは、大したことではない。

 シュンがチームを結成したから、フォルトも真似をしたかっただけだ。しかしながら先ほどの戦いを見て、チーム戦の面白さを思い出した。


(よく遊んでいたゲームのレイド戦を思い出すな。ゲーム内で知り合った仲間たちで戦ったものだ。お互いを補い合って討伐を頑張った)


「よし! チーム名は「おっさん親衛隊」だ!」

「フォルトさん、マジで言ってんの?」

「駄目か?」

「ダサい……」

「問題は人数だな」

「ちょっと! 聞きなさいっての!」


 アーシャの抗議の声は聞き流しておく。

 そしてフォルトは、対勇者候補チームを想定したシミュレーションをする。

 現状だとレイナスが、ギッシュに抑えられてしまう。となると残りの四人が自由に動けるので、アーシャとソフィアが攻撃を受けるだろう。

 後衛に向かってくるシュンを止める者が欲しい。

 欲を言えば、信仰系魔法が使える人材も。怪我人を治療できる者がいないと、事故が起きた場合に誰かが死亡してしまう。


「シェラを加えるか?」


 シェラは暗黒神デュールの司祭であり、信仰系魔法が使える。

 それでも魔族なので、反則になってしまうか。


(シェラ自身も戦いたくはないだろうな。そもそも非戦闘員だし、戦いには向いていない。護身術を覚えても、前線に立つのは無理か)


「御主人様、ちょっといいですかぁ?」

「どうしたカーミラ?」

「リザードマンが……」


 レイナス・アーシャ・ソフィアの戦闘がすばらしかったので、フォルトはテンションが上がっていたようだ。

 カーミラに促されて振り向くと、案内の蜥蜴人族がほうけていた。

 当然のように表情は分からないが、おそらくは当たっている。


「大丈夫か?」

「ア、アァ……。凄イナ。我ラデハ時間ガ掛カル」

「一人は限界突破をしているからな」

「ナルホド。エウィ王国ノ勇者カ?」

「違いますわね。フォルト様の勇者ですわ!」

「え?」


 レイナスが目をキラキラさせて、腕に抱きついてきた。フォルトの勇者と言われても困るが、柔らかい双丘が押し当てられているので気にしない。

 以降のフォルトたちは、蜥蜴人族の集落に帰還する。

 そしてブラウニーたちが建てた宿で、ひと時の休息をとるのだった。

Copyright©2021-特攻君

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