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異世界は小悪魔と共に  作者: 特攻君
第十一章 それぞれの拠点
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それぞれの拠点3

 勇者候補のシュンは、デルヴィ侯爵の話を聞いて考え込む。

 依頼を受けること自体は、仕事として割り切れる。依頼内容も、勇者候補チームの実力を買ってもらったと思えば納得できた。

 そして一番のメリットは、国内で有数の大貴族とパイプができることだ。

 断る理由は無いのだが、一つだけ問題があった。


「魔物の搬送、ですか?」

「うむ。捕縛する者がいるのでな。指定する場所まで運んでもらいたい」

「うーん。ですが、俺たちが強くなれないです」

「頻繁に運ぶことはないだろう。その間はレベルを上げてくれたまえ」

「なるほど」


(この依頼を受けると、俺たちの拠点をハンに変えなきゃならねぇ。城塞都市ミリエに未練はねぇが、問題はラキシスだな。戻らねぇとヤれねぇし……)


 シュン率いる勇者候補チームは自由行動中なので、拠点を変えても構わない。とはいえそうすると、理由が無いのに一人で戻る場合は困る。

 数回は平気だろうが、要らぬ誤解を生むだろう。


「俺たちは自由に動かないと駄目なのですが?」

「ワシを誰だと思っている? その程度の融通は利かせられるぞ」

「え?」

「其方たちの配属先を、ワシにしてやろうというのだ」

「でっ、できるのですか?」

「他にも勇者候補はいる。しかも其方たちは……」


 勇者候補は強くなればなるほど、王族の直轄で扱われる。

 レベル四十の英雄級以上になれば、配属の自由は認められない。だがシュンたちでは、まだその段階に至っていないのだ。

 もちろん勇者候補の数は限られるので、誰の下に付けるかも重要だ。

 その観点だとデルヴィ侯爵は資格があり、他の貴族は文句を言えない。


「ですが……」

「其方のことは調査してある。もちろん、手配も終わっておる」

「手配ですか?」

「ふん! 言って良いのか?」


 デルヴィ侯爵は蛇のような目を、アルディスとエレーヌに向ける。

 そして、ニヤリと口角を上げた。


(このじじい。俺の身辺調査をしやがったのか。なら手配とは……)


 こういったことについて、シュンの勘は鋭い。

 一連の流れを察すると、自身の女性関係について言われたのだ。となると手配というのは、ラキシスしか思い当たらない。

 同席している仲間には、何の話か分からないだろう。

 それにしても、デルヴィ侯爵の意図が読めない。

 彼女については、仲間にも秘密だったのだ。情事を重ねている事実まで調べ上げており、依頼を受けられるように整えてある。

 そこまでするほどの価値を、シュン個人に見出したのかと思うほどだった。

 で、あれば……。


「依頼を受けますが、拠点を移しても住む場所がありません」

「案ずるな。それも手配してある」

「え?」

「ワシが所有している屋敷を貸してやる。其方らの拠点にするとよい」

「なっ!」

「譲渡する予定だった男爵が失脚したのでな」


 失脚した者とはレイバン男爵だが、もちろん知る由も無い。

 ともあれシュンにとっては、願ったりかなったりの待遇だ。

 元々拠点を用意するつもりだったが、貴族が使う屋敷で暮らせる。しかもデルヴィ侯爵旗下となるので、家賃は発生しないらしい。

 ラキシスの件とよい、すでに手配してあるところが恐ろしい。


「ありがとうございます。では、色々と話を詰めたいのですが……」

「それは、バルボ子爵とやるとよい」

「子爵様ですか?」

「デルヴィ家に代々仕えておる子爵家の当主だ」

「分かりました」

「ワシは忙しいのでな。すぐに子爵を寄越すとしよう」


 これで決まりだ。

 デルヴィ侯爵が応接室を出た後、すぐにバルボと名乗る中年男性が現れた。

 そしてシュンは仲間と一緒に、拠点となる屋敷に案内される。男爵に譲渡しようとしていただけあって、平民の家とは比べ物にならない大きさだった。

 それにしても、敬語は慣れない。


「ひゃあ! 大きいねぇ」

「いいじゃねえか! 集会所にピッタリだぜ!」

「でもさ。管理が大変そうじゃない?」

「そ、掃除なんて無理よ!」

「ここで暮らすのか」


 二階建ての屋敷だが、横に長いタイプの造りだ。

 部屋数は入ってみなければ分からないが、両開きの窓数は二十枚ほどか。奥行きを考えると、五人で暮らすには大きすぎる。

 エレーヌの指摘どおり、掃除は大変だろう。

 いまさら断れないが……。


「掃除などは問題ありません」

「どういうことですか?」

「メイドなどの使用人を貸し出しますので、屋敷の管理は任せて良いです」

「なにっ!」

「無論、費用は必要ありません」

「「ええっ!」」


 バルボ子爵の言葉に、皆が驚いた。

 デルヴィ侯爵ほどの人物であれば、屋敷で働く使用人は余っている。そもそも侯爵が雇っているので、配置転換をするだけだそうだ。

 さすがに破格の待遇なので、シュンは疑問を呈した。


「い、いいのですか?」

「方々におかれましては、十分な拠点を用意せよと賜っております」

「どうしてそこまで?」

「異世界人の勇者候補は、我らが王国の切り札でございます」

「なるほど」

「十分なサポートをするのが、侯爵様の御心でございますれば……」

「な、ならお言葉に甘えようかな」

「そうなさるほうがよろしいかと存じます」


 あからさま過ぎて、どう考えても裏がある。

 それでも拠点が欲しかったので、シュンは追求することを止めた。

 本来は村落の土地を購入して、屋敷をフォルトに建てさせようと考えていたのだ。おっさんに借りを作るぐらいなら、こちらを受け入れたほうがマシだった。


「シュン様」

「うん?」

「あちらへ」


 何か内密な話があるのか、バルボ子爵がシュンを誘った。

 以降は仲間と離れたところで、声を落として会話を始める。


「神官ラキシスの件でございます」

「やっぱり手配というのは……」

「はい。シュン様がご執心と聞き及んでおります」

「み、みんなには黙っておいてもらえますか?」


 バルボ子爵も、身辺調査の結果を知っているようだ。

 弱みを握られた人数が増えたと思って、シュンは舌打ちをしたくなる。だが子爵も偉い貴族なので、そのような不敬はできない。

 貴族の相手は本当に疲れるが、子爵は察してくれたようだ。


「無理に敬語を使わなくてもよろしいですよ」

「いいのですか?」

「あまりにも乱暴なのは困りますが、私は許容します」


 バルボ子爵は仕事柄、様々な階級の人間と会うそうだ。円滑に仕事を行うため、礼儀に対しての許容範囲は広くしてあるらしい。

 その話を聞いて、シュンは肩の力を抜いた。


「助かる」

「私もシュンと呼ばせていただきます。それで、ラキシスの件ですが……」

「ハンに来るのか?」

「すでに向かわれて、ハンの聖神イシュリル神殿に入られる予定です」

「そうか! いつでも会えるのかな?」

「はい。神殿の責任者に手を回しておきまする」

「マジか!」

「使用するかはお任せますが、そういう部屋も……」

「え? まさか……」

「使うか使わないかは自由でございます」

「そっ、そうだな!」


 バルボ子爵の話は、とても魅力的だった。

 今までのシュンは苦労していたが、ラキシスと簡単に会えるらしい。しかも、ヤリ部屋の用意すらしてくれるようだ。

 拠点となる屋敷があっても、彼女を呼び寄せての情事などできない。

 そこまで配慮されるとは……。


(この好待遇は何だよ! 今までの待遇は何なんだったって感じだぜ。でも悪い気はしねぇな。要は俺ら……。いや。俺を買ってるってことだろ? なら……)


 目を細めたシュンは、「これがデルヴィ侯爵の権力か」と羨ましく思う。

 その侯爵から期待されているのだ。ならば裏があろうとなかろうが、侯爵に尻尾を振るしかないだろう。

 金・名誉・権力、すべてが欲しいのだから……。


「侯爵様には感謝を伝えておいてほしい」

「シュンは理解が早くて助かります」

「期待に沿える働きを約束するさ」

「よろしくお願いしますね」


 これで、バルボ子爵との話は終わりだ。

 仲間の下に戻ったシュンは、平然と屋敷を眺める。

 アルディスやエレーヌは、屋敷の管理をしなくても良いのがうれしいようだ。またギッシュやノックスも、この好待遇にご満悦である。

 そして子爵の案内で、屋敷の中に足を踏み入れるのだった。



◇◇◇◇◇



 放棄されていたバグバットの屋敷は、今やフォルト専用に変わっている。壁をぶち抜き寝室を広げて、食堂や風呂には直通で移動できる仕様にした。

 そして大罪の悪魔マモンと召喚したアンドロマリウスたちにより、寝具や家具が下級貴族の水準までに引き上がっている。

 ルーチェの製作した魔道具も設置して、さながら三流のホテル並みだ。


「完成か」

「完璧ですねぇ」

「まったくだ。外観は幽霊屋敷だけどな!」

「えへへ。いいじゃないですかぁ。まさに悪の味方の住処でーす!」


 カーミラから悪魔の味方と聞いて、フォルトは苦笑いを浮かべた。

 正義の味方と言いたいのだが、悪魔なので悪が上なのだ。


「よしマモン。消えていいぞ」

「そうかい? 挟まなくていいのかよ」

「まぁあれだ。また今度な!」

「そっか。んじゃまた呼べよ?」


 セクシーボディのマモンが消えた。

 これで彼女は、一週間も使えない。しかしながら欲情しないので、別に消えても構わない。どうせフォルトは動かないので、いずれ呼ぶことになるだろう。

 ともあれ一緒に屋敷を眺めていた三人――カーミラ・レイナス・アーシャ――に向かって、大々的に宣言した。


「では早速、惰眠を貪るぞ!」

「はあい! でもでも。すぐに寝るのですかぁ?」

「今は、な。とりあえず寝心地を確かめたい」

「じゃあカーミラちゃんは、隣で寝ますねぇ」

「フォルト様。私も寝ますわ!」

「あ、あぁ……」

「フォルトさん! 本気で寝るん?」

「そうだが?」

「じゃあ適当に過ごしとくねぇ」

「そうしてくれ」


 フォルトは二人の身内を連れて、寝室でぐっすりと眠った。

 本気で寝るつもりだったので情事をしていないが、今までのベッドとは比較にならない柔らかさだ。

 ブラウニーが作るものは粗悪品なので仕方無いが……。

 以降は四度寝をしたところで、薄目を開けながら起きだす。

 カーミラやレイナスと寝たはずだったが、隣にはソフィアがいた。


「あれ? カーミラとレイナスは?」

「カーミラさんは空から森の偵察。レイナスさんは庭で訓練中ですね」

「そうか。ソフィアも寝ていたのか?」

「少しだけ……」

「幽鬼の森はどうだ?」

「雰囲気は怖いですが、良い場所だと思いますよ」

「まったくだな。双竜山の森に帰るのが面倒臭くなった」

「まだ早いですよ。あちらはビッグホーンがいる領地が近いです」

「そうだった!」


 フォルトの主食は、ビッグホーンの肉だ。

 双竜山の西に棲息せいそくしているので、幽鬼の森からだとかなり遠い。


「幽鬼の森の近くにいないのかな?」

「聞いたことはありませんが、北に行けばライノスキングがいます」

「ライノスキング?」

「巨大なサイですね。ビッグホーンと同じく素材は高級品ですが……」

「肉の味は分からないか」

「はい。食べた人間も聞いたことがないですね」

「ふーん」


(あちらの世界のサイは、ワシントン条約に引っかかる動物だったな。肉を食べるなど以ての外で、捕獲は禁止されている。流通はしてないから味なんぞ知らん!)


 さすがにサイの肉を試す勇気は無いので、基本的には無視になる。となると、やはり肉の王様であるビッグホーンが近いほうが良い。

 討伐に向かうだけなら、空を飛べば短時間で向かえる。しかしながら亜人を使った解体や保存は、双竜山の森でなければ無理だった。

 もちろん保存した肉を運ぶのは、マモンや召喚した悪魔の仕事である。


「ソフィアのレベルは、あれから上がったのか?」

「一つだけですね。時間もありませんでしたよ?」

「そうか。まぁ自動狩りについていけば上がるだろう」

「はい。レイナスさんがお強いですから……」

「と言っても、レイナスは限界突破をしてから上がっていないぞ?」

「心配性ですね。相手がフロッグマンなら大丈夫ですよ」

「知っている魔物なのか?」

「はい。勇者たちと遭遇したことがあります」

「なるほど。ソフィアは従者だったな」

「そうですね。後ろに隠れていました」

「ふーん」

「あんっ!」


 ソフィアを触るフォルトの手に力が入った。

 勇者チームの話になると、どうしても嫉妬がうずいてくる。彼女と出会う前なのだから仕方無いが、面倒な男になりそうで嫌になる。

 そして手に感じた柔らかさを堪能した後は、食堂に向かった。

 当然のように、三十分の延長はあったが……。


「さあ飯だ飯!」

「できてるわよお。持ってくるわねえ」

「助かるルリ」


 フォルトの暴食タイマーに狂いはないようで、身内の全員が集まっていた。カーミラも戻っており、いつものように隣を占領する。

 食事の準備が整ってからは、マリアンデールが疑問を呈した。


「出発はいつなのかしら?」

「もう少しだけ、屋敷を堪能してからでいいか?」

「私は構いまわせんわよ」

「あたしもいいわ。好きなときに連れてってもらえればね!」

「そうですね。急いでいるわけではありませんし……」

「もぐもぐ。なら、一週間後でどうだ?」


 誰もが納得して恥ずかしいが、フォルトの怠惰は皆が知るところだ。

 ともあれ先に始める自動狩組は、亜人の国フェリアスに向かう予定だった。魔族組は留守番として、幽鬼の森に残る。

 カーミラとは一心同体なので、当然のように一緒に向かう。


「フォルトの食事は、レイナスちゃんに任せるわ」

「はい! まずは胃袋から、フォルト様を虜にしますわ!」

「アーシャ?」

「ぴゅ~ぴゅ~」

「ははっ」


 相変わらずの光景に、フォルトは思わず笑ってしまう。

 レイナスが口にした日本風の冗談は、アーシャの入れ知恵だ。幽鬼の森までの嫌なことは、こういったことで癒してもらえる。

 そんな身内たちに感謝しながら、一週間を自堕落に過ごすのだった。

Copyright©2021-特攻君

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