表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界は小悪魔と共に  作者: 特攻君
第十一章 それぞれの拠点
156/192

それぞれの拠点2

 幽鬼の森を拠点としたフォルトたちは、新たな生活を始めていた。屋敷の補修工事は途中だが、随分と暮らしやすくなっている。

 そしてテラスという憩いの空間は、最優先で設置した。

 今もフォルトは、専用椅子――ラブシート――に座っている。


「マモンよ。食料の搬入状況はどうだ?」

「あん? これから行ってくるぜ。いつもの奴らを頼むわ」

「分かった。しかし……」


 大罪の悪魔マモン。

 魔人フォルトが、七つの大罪の強欲を使って創造した悪魔である。姉御肌の美人さんで、褐色肌のセクシーボディが特徴だ。

 上は胸開きのトップス・下はデニムぽいホットパンツを装備している。

 腰のくびれと、形の良いお尻がヤバい。


(うーん。俺のイメージから創造しただけあって……。エロ過ぎだろ! だが残念なことに、アレでも欲情できないのが玉にきずだな)


 大罪の悪魔は、自身の一部である。

 どんなに鼻血ものの姿でも、フォルトの色欲は反応しない。とはいえ目の保養にはなるので、それだけは救いだった。

 そしてお約束のように、最初の姿は思い出さないように努める。


「なに見てんだ? もしかして……。挟んでほしいのか?」

「俺の一部じゃなければ頼みたいけどな」

「目隠しでもすりゃ平気なんじゃねえか?」

「まぁ今度な」

「それよりも、さっさと召喚してくれよ」

「はいはい」



【サモン・アンドロマリウス/召喚・手癖の悪い盗賊悪魔】



 大罪の悪魔は、最長で三日間しか活動できない。

 マモンには引っ越し作業をやらせていたが、本日を以って消えてしまう。だからこそ作業を終わらせようと、手駒となる悪魔を召喚した。

 フォルト前に召喚陣が形成されて、八本の手を持つ小柄な中級悪魔が出現した。インプとゴブリンを掛け合わせたような邪悪な顔をしている。

 数は二十体で、その手には茶色い袋を持っていた。

 これはゴムのように伸びるらしく、相当量の荷物が運べるのだ。


「指揮権はマモンだ!」

「「ギャ!」」

「助かるぜ。んじゃ行ってくるわ」

「よろしくな」


 また大罪の悪魔は、魔界での活動が可能である。にもかかわらず、物質界と魔界をつなぐ「印」と呼ばれる扉は設置できない。

 その制限を補完するように、カーミラが魔界で待機していた。

 ともあれ彼女が設置した「印」が現れると、マモンとアンドロマリウスたちは飛び込んだ。魔界を通ることで、双竜山の森までは数時間で到着する。

 後は戻るのを待てば良いので、聖なる泉から歩いてきたシェラを呼んだ。


「ちょっとこっちに来てくれ!」

「あら魔人様。何か御用ですか?」

「悪いけど、みんなをテラスに集めてくれ」

「分かりましたわ」

「よろしく!」


 拠点の整備と同時進行で、色々と決める事案があった。

 シェラを送り出して待っていると、身内が続々とテラスに集合する。フォルトの隣を占領するのはレイナスだが、今回は後頭部の刺激役はいない。

 これから真面目な話をするからだ。


「集まってもらったのは他でもない」

「どうしたのよ?」

「班を作ろうかと思ってな」

「班、ですか?」

「うむ。限界突破組、自動狩組、留守番組だ!」


 まずは限界突破組として、マリアンデールとルリシオン。加えて自動狩組のレイナス・アーシャ・ソフィア、留守番組はシェラと班分けをして目的の整理をする。

 幽鬼の森に移動してきた理由は、ただ引っ越すためではないのだ。


「マリとルリが向かうのは、何とかの迷宮だったな?」

「ブロキュスの迷宮よお。忘れっぽいわねえ」

「あっはっはっ!」

「まったく……。近くにドワーフ族の集落があるから、そこを拠点にするわ」

「なるほど。ドワーフか」


 フォルトが初めてドワーフ族を確認したのは、三国会議のときだ。

 あちらの世界で知られるドワーフと似通っているので、興味を持っていた。亜人の国フェリアスを形成する種族の一つとして、鉱山の近くで集落を営んでいるらしい。

 人間の町なら寄り付かないが、集落に訪れてみたくもあった。


「まぁ限界突破の期限はないのだろ?」

「そうねえ。でも、さっさと終わらせたいわあ」

「気持ちは分かる。経験値が勿体もったい無いからな」

「なにそれ?」


 こちらの世界の住人に、ゲーム用語を言っても分からない。マリアンデールとルリシオンは、きょとんと首を傾げている。

 フォルトは恥ずかしくなったので、経験値についての質問をスルーした。同時にレイナスの肩に手を回して、自動狩組の話に進む。


「聖剣ロゼが言っていた沼地だったな」

「はい。そちらもフェリアスになりますわ」

「ふーん。何がいるのだ?」


 レイナスの武器となった聖剣ロゼからは、魔物の情報を得ていた。フェリアスの沼地に棲息せいそくしているらしく、自由都市アルバハードからは近い。

 そして、フォルトの質問に答えるのはソフィアだった。


「フロッグマンという魔物です。バグバッド様に尋ねておきました」

「さすがはソフィア。推奨討伐レベルは?」

「二十です」

「オーガよりも低いのか」

「あくまでも一体の場合ですよ。フロッグマンは群れを形成しています」

「ふむふむ。なら数がこなせるな。自動狩りにもってこいだ!」

「はい。場所が沼地ですので、蜥蜴とかげ人族の集落を拠点に考えています」

「蜥蜴人族?」

「リザードマンとも呼ばれていますね」

「おお!」


 これも、ドワーフと同様に定番だった。

 こちらの世界のリザードマンは、直立した蜥蜴である。また言葉は通じるので、交渉などは行えるようだ。

 ちなみに進化はせず、ドラゴニュートにもならない。


「なら先に、自動狩組から始めるか」

「まさかフォルトさん。あたしたちについてくるの?」

「最初は何が起こるか分からないからな」

「やった! シェラさんと留守番かと思ってた!」

「ははっ。そうしたいがなあ!」


(アーシャは不安だったか。まぁ初めての土地と魔物だしな。とりあえず引き籠りのリハビリもやれているし……)


 身内の強化は、フォルトのためでもあるのだ。幽鬼の森に移動を決めた理由と同じで、自堕落生活を封印してでも動く。

 もちろん、短期間で済ませるつもりだった。

 自堕落生活を送りたいという気持ちは変わっていない。しかしながら一人で行動するわけではなく、現在は腰が軽かった。ならばアーシャとアルバハードを散策したように、折角の機会を楽しまなければ損だろう。

 そして定番の種族を思い浮かべながら、打ち合わせを続けるのだった。



◇◇◇◇◇◇



 商業都市ハン。

 エウィ王国では物流の中心地で、様々な物資が集まる一大商業都市だ。

 自由都市アルバハード・ソル帝国・亜人の国フェリアスと一部の小国が隣接して、大陸の重要拠点の一つに数えられる。

 もしも戦火に包まれれば、大陸中が大混乱に陥るだろう。

 そして、この都市を本拠地にしているのがデルヴィ侯爵だった。


(すげぇ……)


 シュン率いる勇者候補チームの一行は、依頼の達成を報告するために、デルヴィ侯爵の屋敷の前に到着した。

 それにしても、さすがは侯爵というべきか。

 屋敷は城と遜色が無く、敷地面積も相当広いようだ。屋敷を囲む壁も、城壁と何ら変わらない。門も城門に近く、完全に圧倒された。


「何者だ!」


 屋敷の警備は厳重で、門衛の詰所すら大きい。

 ギロリとにらんで誰何してきた門衛の他にも、武装した兵士が近づいてきた。ならばとシュンは馬車を降りて、来訪の目的を伝える。


「侯爵様からの依頼で、聖女ミリエ様をお連れしたぜ」

「何だと? 確かに向かっていると聞いていたが……。確認する!」


 後続として、聖女ミリエが乗る馬車も続いている。

 確認などはすぐに終わったようで、門衛が戻ってきた。


「よし! 通っていいぞ」

「侯爵様に取り次いでほしいんだけど?」

「お前たちが到着したら通すように言われている。屋敷まで進め!」

「分かったよ」


 勇者候補の一行は城門を通り抜けて、門衛に言われたとおりにする。

 屋敷までは距離が離れていて、途中でも検問を受けるほどの厳重さだった。「どんだけだよ」と口走ったシュンは、仲間と一緒にあきれてしまう。

 ちなみにフォルトが訪れたときは、馬車から出ずに外を見ていない。門衛などの対応はレイナスに任せて、ソフィアとイチャイチャしていた。


「また検問かよ。突破できねぇのがもどかしいぜぇ」

「おいおい。俺らは暴走族じゃねぇんだ。まぁ馬鹿馬鹿しいけどな」

「で、でも侯爵様は偉い人なんでしょ?」

「そんな人の目に留まるなんて、ボクたちって凄いんじゃない?」

「うーん。あまりいいうわさは聞かないよ?」


 エレーヌが言ったように、デルヴィ侯爵は大貴族だ。またシュンたちにとっての貴族は、あちらの世界の政治家と重なる。だからなのか、イメージは良くない。

 そして屋敷の前に到着すると、警備兵の他に執事のような人物が待機していた。


「私がご案内を致します。聖女様はどうぞこちらへ」

「俺らは?」

「お前たちはこっちだ! 武器は置いてこいよ?」

「へいへい」


 対応が真逆である。

 シュンとギッシュは中級騎士待遇とはいえ、やはり異世界人である。

 地位など無いに等しいので、当然と言えば当然か。しかも聖女ミリエについては送り届けるだけであり、今後の行動を共にするわけではない。

 勇者候補チームの一行は警備兵に連れられ、聖女とは違う場所に案内された。フォルトたちも通された応接室だが、そんなことは知る由も無い。


(これが大貴族の応接室か。下品だけど悪くねぇぜ。俺も領地をもらったら、侯爵様のような屋敷を建てられるかもしれねぇな)


 成金趣味が全開の応接室に入ったシュンは、日本のホストクラブを思い出す。もちろん全然違うのだが、豪華な造りは気に入った。

 日本にある自分の部屋とも重なって、それなりに居心地が良い。

 まずはソファーに座りながら、デルヴィ侯爵が来るのを待つ。


「何か落ち着かないね」

「そ、そうね。私もちょっと……」

「アルディスとエレーヌは、こういう部屋が苦手か?」

「シュンは平気なんだ? まぁネオン街で働いていればねぇ」

「まあな」

「でも屋敷を建てるなら、もっと質素なほうがいいわよ!」

「あぁ……。もちろんだぜ!」


 早速(くぎ)を刺されたが、このような部屋は大貴族にしか作れない。

 応接室に飾られている調度品は、どれも超高額に違いないのだ。万が一にでも壊したら、シュンたちでは弁償できないだろう。

 そこで、一番の危険人物に視線を送った。


「あ、ギッシュ」

「ああん? どうしたよ」

「壊すなよ?」

「壊さねえよ! オメエは俺を何だと思ってんだ?」

「壊し屋?」

「ま、まぁ間違っちゃいねぇ」


 勇者候補チームの面々は武器を置いてきたので、ギッシュがグレートソードを振り回すことはないか。などと考えていると、メイドがお茶を運んできた。

 さすがは侯爵家で働くだけあって、完璧な立ち居振る舞いだ。目がかすむほどの美人だが、シュンですら口説くの忘れてしまう。

 それにしても、デルヴィ侯爵は現れない。


「まだ来ねぇのかよ?」

「聖女と会ってるんだろ」

「シュンってさ。聖女様に嫌われてるのかい?」

「ノックス。それは違うぜ」

「え?」

「俺じゃなくて、エウィ王国の人間が嫌いらしいぜ」

「へぇ。属国の王女様だからかな?」

「多分な」


 聖女ミリエの塩対応は、何もシュンだけではなかった。護衛の騎士たちも同様で、旅の間はほとんど口を開いていない。

 ただしそれだけなら、彼女を諦めるには早いだろう。

 ともあれ小一時間ほど待たされると、デルヴィ侯爵が応接室に入ってきた。蛇のような目をした白髪の老人で、その身に着用している服は豪華で派手なものだ。

 まさに、成金。


其方そのほうらが、我が王国の勇者候補か?」

「はい。シュンと申します」

「ふむ。其方がリーダーだな?」

「はい。未熟ながらリーダーを務めています」


 立ち上がったシュンは、デルヴィ侯爵を前にして緊張してしまった。

 怖気・寒気など、奇怪な気配を肌で感じたのだ。「このじじいは何なんだ」と、思わず悪態を吐きたくなるほどだった。

 物理的な力など何も無いのに、「蛇に睨まれたかえる」の状態になってしまう。


「座って良いぞ」

「ありがとうございます!」

「よくぞ聖女様の護衛を務めてくれた。礼を言うぞ」

「いえ。依頼でしたので……」


 他の面々は、シュンにすべてを任せている。

 それでも自身と同様に、デルヴィ侯爵に対しては緊張しているようだ。しかしながらギッシュだけは「められてたまるか!」と思っているのか、腕を組んでドッシリと構えていた。

 余計な口を挟まないだけでも恩の字か。


「受け取れ。其方らの報酬だ」

「え?」


 懐に手を入れたデルヴィ侯爵が、袋に詰まった金貨をテーブルに置いた。

 金貨と分かったのは、袋を開けた状態だからだ。何とも細かい演出をするが、それを見たシュンたちは笑顔に包まれた。

 ほとんど働いていない依頼で、金貨五十枚は多すぎる。


「お、多くないですか?」

「黙って受け取れば良いのだ。先行投資の意味も兼ねておる」

「先行投資?」

「うむ。其方らには、他にもやってもらいたい案件があるのだ」


 最後の言葉と共に、デルヴィ侯爵は身に乗り出した。加えて、勇者候補チームを舐め回すように観察を始める。

 特にシュンに対しては、互いの鼻が触れる寸前だ。

 これには嫌悪感を覚えて、顔を引きつりそうになった。だが人脈は宝だということを知っているので、何とかホストスマイルで耐える。

 そして続く侯爵の話に、耳を傾けるのだった。

Copyright©2021-特攻君

感想・評価・ブックマークを付けてくださっている読者様、本当にありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ