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異世界は小悪魔と共に  作者: 特攻君
第十一章 それぞれの拠点
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それぞれの拠点1

 昼間にもかかわらず薄暗い森。

 この幽鬼の森は死臭が漂っており、多数のアンデッドがうごめいている。死体の状態で現世によみがえったゾンビ。攻撃を受けると麻痺まひ毒に侵されてしまうグール。恐怖をき散らすレイスなどが、際限なく現れては侵入者を襲ってくる。

 気軽に訪れた人間は、それらの仲間になるだろう。

 しかし……。



【ターン・アンデッド/死者の浄化】



 今も襲ってきたスケルトンは光に包まれて、その偽りの命を終えている。

 一番前を歩く人物が、周囲から迫りくるアンデッドを浄化しているのだ。また後ろには、多くの女性と一人の男性が続いていた。

 そう。フォルトたちの一行である。


「悪いわねえシェラ。楽でいいわあ」

「いえルリ様。これも司祭の務めですわ」

「アンデッドなんて倒したところで、面白くも何ともないわよ」

「お姉ちゃんの言ったとおりねえ」


 シェラの護衛として、マリアンデールとルリシオンが両隣を固めた。

 その後ろには、フォルトと他の身内が続く。

 本来ならいつものように、スケルトン神輿みこしを用意したかった。しかしながら浄化されてしまうので、仕方なく諦めている。

 そこで、今回召喚したのがバイコーンだ。

 二角獣とも呼ばれる馬で、名のとおり額から二本の角が生えている。純潔を司る馬にユニコーンが存在しており、その対極に位置する魔獣だ。

 一行は全員が不純なので、選択としては間違っていない。


(そう言えば、クエストを始めたリリエラは……)


 フォルトと一緒に暮らす者だと、リリエラが唯一の純潔である。

 デルヴィ侯爵に処分される寸前だった彼女は、カーミラが救出? する前から純潔を散らしていた。とはいえ呪術系魔法の効果で、生娘に戻っている。

 もちろん狙ったわけではなく、体じゅうの傷を治すことが目的だった。


「フォルト様。もっと強く手を回さないと落ちますわよ?」

「そうか? では……」

「あんっ!」


 馬など乗ったことがないフォルトは、乗馬が得意なレイナスの後ろいる。彼女の腰に手を回しながらも、片手は太ももを触っていた。

 ちなみにアーシャは日本から召喚された当時に、馬術の訓練をさせられていた。今もソフィアを後ろに乗せて、器用に馬を操っている。


「えへへ。そんな御主人様にはこうでーす!」

「でへ」


 カーミラは『隠蔽いんぺい』を解いて、フワフワと空を飛んでいる。

 そしてフォルトの背後から、ムニムニと後頭部を刺激してくれた。


「ところでアーシャ」

「な、なに?」

「怖いだろ?」

「こ、こ、怖くないわ! 今のところは……」

「シェラに感謝だな。アンデッドが近づく前に浄化している」

「うぅぅ」

「大丈夫ですよアーシャさん。私がついています」

「そう?」


(ソフィアはたまに、根拠の無い大丈夫があるな。まぁそこがいいんだけど……。それにしても、幽鬼の森は雰囲気がヤバいな!)


 実のところフォルトも、学生時代はホラーが苦手だった。某ホラー・ゲームでは最初に出現するゾンビで、ゲーム機の電源を落としたほどだ。

 そして歳を重ねるにつれて、何の恐怖も感じなくなった。


「カーミラよ。拠点になる場所はまだか?」

「もうすぐですねぇ」

「そうか。どんな場所だった?」

「双竜山の森と変わりませんよぉ」

「泉があると言っていたな」

「そうでーす。ちゃんと飲めますよぉ」

「特殊な場所なのか?」

「バグバットちゃんの話では、聖なる泉だそうでーす!」


(セーフティゾーンか? ゲームなら、「なぜ、こんな場所にあるんだよ!」と突っ込みを入れたくなるな。まぁアンデッドが寄り付かないなら何でもいいが……)


 周囲を見渡すと、薄い霧が立ち込めている。草木は枯れているので、ドライアドが見たら発狂しそうだ。

 かの森の精霊は双竜山の森に残して、ルーチェと一緒に留守を任せている。


「屋敷付きなのががいいな」

「御主人様に譲渡するそうですよぉ」

「気前がいいなあ! まぁくれるならもらっておく」


 そんなことを話しながら、フォルトたちの一行は聖なる泉まで移動した。

 広さとしては、双竜山の森にある湖の半分程度だろう。水深はあるようで、魚も泳いでいる。

 そして……。


「へぇ。大きい屋敷だな」

「でもでも。放置されすぎて腐っていますよぉ」

「修繕はブラウニーでやれるだろ」

「新しく建てるよりは得意ですねぇ。すぐに終わると思いまーす!」


 バグバットから譲渡された屋敷は、ホラー映画で使われている屋敷に近い。とはいえ屋敷の周辺に、アンデッドはいないようだ。

 拠点を襲わないと聞いていたが、聖なる泉のおかげかもしれない。


「ならカーミラは、ブラウニーたちに細かい指示を頼む」

「はあい!」



【サモン・ブラウニー/召喚・家の精霊】



 得意気なフォルトは、五十体のブラウニーを召喚する。

 その指揮権をカーミラに渡して、聖なる泉のほとりで寝っ転がった。他の身内も近くに寄ってきて、一緒に休憩を始める。

 移動で一番の功労者のシェラは、隣に座って肩を寄せてきた。


「移動中は不安だったが暮らしやすいかもしれないな」

「ですわね。あら……。アレは何かしら?」

「どれだシェラ?」

「んっ。泉の底に木の根っこがありますわ」

「ほう。かなり太いな」


 泉の底にある巨大な根から、ブクブクと水泡が表れていた。普通の泉であれば地中から水が湧き出るが、聖なる泉の源泉は木の根のようだ。

 その仕組みは分からないが……。


「何だろうな?」

「ま、魔人様……。もっと……」

「あ……。はい」


 フォルトの悪い手が勝手に動いているので、シェラは気持ち良さそうだ。

 ともあれ湖の底にある木の根については、ソフィアも興味津々だった。


「もしかして、世界樹の根では?」

「世界樹?」

「亜人の国フェリアスの中央にある巨大な樹木ですね」


 あちらの世界で世界樹と言えば、ファンタジー界の定番だ。枯れると世界の終わりなど、様々な設定がされている。

 もちろん、こちらの世界の世界樹については知らない。


「こんな場所にまで伸びているのか?」

「大陸に根付いていると聞いたことがあります」

「さすがは世界樹。ちなみにだが、根を切ったらどうなる?」

「えっと……。エルフ族に嫌われます」

「なにっ! なら世界樹は大切にしよう!」

「ふふっ」


 エルフ族に嫌われては困る。

 一人ぐらいは身近に欲しいので、今後は品定めをしたいと考えていた。だからこそエルフ族に対しては、人間と違って友好的にするべきだろう。

 その思考はソフィアに読まれており、フォルトは気恥ずかしくなった。


「あれ? マリとルリはどこに行ったのだ?」

「ぁっ。屋敷の周辺を見てくるそうですよ」

「枯れた草木ばかりで殺風景だと思うがな。なぁアーシャ?」

「え? なっ、何か言った?」

「ははっ。やはり怖いのだろ?」

「こ、怖くないわ!」

「でへ」


 小刻みに震えているアーシャは、フォルトの背中に身を寄せている。小ぶりな双丘の柔らかさを堪能できて、ほほの筋肉が緩む。

 アンデッドさえ近寄ってこなければ、彼女も慣れてくるだろう。


「さて。屋敷の補修は進んでいるかな?」


 屋敷に顔を向けると、ブラウニーたちがせっせと働いている。

 その光景を見たフォルトは、ソッと視線を逸らした。「自分はぐーたらしているのに」と、精霊たちに対して申しわけなさを覚えてしまう。

 にも角にも、新たな拠点に到着したのだ。ならばとアーシャ・ソフィア・シェラの三人を連れて、散策を理由に逃げ出すのだった。



◇◇◇◇◇



 馬車に乗ったシュン率いる勇者候補チームは、城塞都市ミリエから出発した。都市と同名の聖女を護衛しながら、デルヴィ侯爵領に向かっている。

 御者はエレーヌで、シュンは隣に座っていた。


「え、えっと。シュンさん?」

「呼び捨てで構わねぇぜ。それで、どうかしたのか?」

「い、いえ」

「遊びじゃねぇぜ?」

「え?」

「恥ずかしいから、これ以上は言わせんなよ」

「っ!」


(まぁエレーヌも遊びだけどな。アルディスにバレないか冷や汗ものだが、そのスリルが堪らねぇ。こっちの世界は一夫多妻制だし、いずれ楽しみも増えるか?)


 そんな下衆なことを考えたシュンは、エレーヌの太ももを触っている。

 荷台からは死角なので、スキンシップをやり放題だった。とはいえずっと触ることはできずに、邪魔者が登場する。


「ホストよお。俺らの護衛なんて要らねぇだろ?」

「あ、あぁ俺もそう思うぜ」


 荷台から身を乗り出したギッシュが、後方に向かって顎をしゃくった。

 もちろんシュンは気配を察知したので、エレーヌから少し離れている。また荷台の後方は開いており、彼が指したものは理解できた。

 護衛対象の聖女ミリエが乗っている馬車だ。

 加えて十人の騎士が隊列を乱さずに、馬上から周囲を警戒している。


「あの騎士たちよお。俺らと同じ中級騎士だろ?」

「だな。レベルは俺たちと同じぐらいか」

「あんだけいりゃ、平野の魔物なんて余裕で倒せるぜ!」


 勇者候補チームがいなくても、野盗などは襲ってこないだろう。

 そして、街道に近い平野の魔物や魔獣は強くない。普通の人間なら脅威だが、推奨討伐レベルは八から二十ぐらいである。

 オーガを倒せる者なら、何の苦労も無く処理できるはずだ。


「言いたいことは分かるが、俺たちをご指名で報酬も出るぜ」

「楽っちゃ楽だがよ。これじゃレベルなんて上がんねぇよ!」


 強くなることに貪欲なギッシュは、魔物討伐以外は丸投げだ。

 それでも文句を言ってくるので、シュンはあきれてしまう。だが勇者候補チームの戦力に違いなく、リーダーとして適当に聞いておく。

 ともあれ、騎士たちに任せてばかりではいられないか。


「おいアルディス!」

「なに? どうかしたの?」

「周囲の警戒は怠らないようにな」

「サボってないけど何もいないよ? まだ明るいしね!」


 太陽の位置が高いからと、魔物や魔獣が襲ってこないわけではない。しかも知能が低ければ、人数差があっても襲ってくる。

 それぐらいは理解しているだろうが、シュンは全員に向かってくぎを刺す。


「そっか。でも仕事だぜ? やってる感は出しとけよ」

「分かってるって! でも疲れたから、ノックスに変わってもらうね」

「いいよ。僕に任せてよ」

「なら俺は、今のうちに寝とくぜ。何かあったら起こせや」


 毎度のことながら、ギッシュは寝てしまう。と言っても休めるときに休むのが、戦士の心得と習っていた。

 アルディスも目を閉じて、寝息を立て始めている。


「俺とエレーヌは前方を警戒だな。次の休憩のときに御者を代わるぜ」

「あ、ありがとう」

「いいってことよ! それよりもエレーヌ……」

「なに?」

「アルディスをどう思う?」

「え? 急にどうしたの?」

「いや。リーダーとして聞いておきたい」

「強くて憧れるわ。私と違って活発的だし……」

「好きってことか?」

「そ、そうね。一緒にいるのは好きよ」


 エレーヌとの性格は正反対だが、アルディスは女性である。

 そもそも男性が苦手なので、ギッシュやノックスよりは話しやすいらしい。シュンとは体を重ねた仲だからか、苦手意識は薄くなっていた。

 もう少し抱いてやれば、恋愛感情のほうが勝るようになるだろう。


「なら、ラキシスはどう思う?」

「ラキシスさんですか? 奇麗な女性ひとでしたよね」

「エレーヌも負けてねぇよ。ミスコンで優勝じゃねぇか!」

「それは……。もう!」

「ははははっ。もっと自信を持っていいぜ。俺の目に狂いはねぇ!」

「シュンがそう言うなら……」


(これなら拠点を作ったときに、また酒の力も借りればいけるか? 日本じゃバレねぇようにやってたが、こっちの世界なら……)


 何を隠そうアルディスにも、エレーヌと同様の質問をしている。

 その結果を踏まえると、「三人は仲良くできそうだ」という結論に至った。ならばシュンの口車で誘導できれば、将来的な楽しみも増えるだろう。

 フォルトに後れを取っているのは否めないが……。


(おっさんにやれて俺にやれねぇことはねえ! 今に見てろよ!)


 そんなことを考えながら旅を続けていると、やはり魔物や魔獣に襲われた。とはいえやはり弱いので、限界突破を終えたシュンが苦戦することはなかった。

 そして一行はデルヴィ侯爵領を前に、休憩ができそうな場所を発見する。


「おっ! 小川があるぜ」

「み、見えました。あそこで休憩しましょうか?」

「そうだな。ノックスは後ろに合図を送ってくれ!」

「はいよ」

「やっと馬車を降りられるの? 体をほぐしたいなあ!」

「グオー! グオー!」


 ギッシュのいびきがうるさい。

 勇者候補チームの馬車だと、左右に椅子が並ぶ造りだ。後にスペースがあるとはいえ、横になっても休めた気にならない。

 外で休憩したほうが、幾分かマシである。

 馬車を停車させたシュンは、聖女ミリエの機嫌をうかがいに向かう。最初に出会ったときは冷たくされたが、護衛をしているので報告がてら近づいた。


「あら。休憩ですの?」

「小休止に入るぜ。馬が回復したら出発する予定だ」

「そう。周囲の警戒をお願いしますね」


 相変わらず塩対応の聖女ミリエは、馬車の中に消えていった。にもかかわらずシュンは舌なめずりをしながら、仲間の近くに戻る。

 エレーヌを抱いたことで、今は攻略中の女性がいないのだ。王女だろうが聖女だろうが、自身に釣り合うならアプローチをしておくべきだろう。

 そして「どう攻略しようか」と、休憩をしながら考えるのだった。

Copyright©2021-特攻君

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