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異世界は小悪魔と共に  作者: 特攻君
第十一章 それぞれの拠点
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アルバハード再び3

 自由都市アルバハード。

 エウィ王国のデルヴィ侯爵領と同じく三国と国境を接しており、様々な物資が集中する商業都市である。

 侯爵領に人間主体の商品が集中するのに対して、アルバハードには亜人主体の商品が多く販売されている。

 その理由は亜人の国フェリアスが、人間との交流を制限しているからだ。


「さてアーシャ」

「なに?」

「珍しくて便利なものだぞ?」

「分かってるって!」


 都市に出たフォルトは、アーシャを同行者に選んだ。

 それは、同じ日本人だからだ。探しているものが理解できて、異世界人としても意見が出し合える。ついでに、おっさんでは無縁のギャルとデートできる。

 本来なら、身内の全員は無縁だが……。


「でもフォルトさん」

「どうした?」

「こうして歩いてると親子みたいなんですけど!」

「ぐっ!」


(外に出るとおっさんに戻ってしまうのは条件反射だからなあ。ずっと『変化へんげ』をしていても良さそうだけど……)


 フォルトを弱者と思い込んでいるのは、きっとシュンたちだけだ。

 ローゼンクロイツ家を名乗ったおかげ――せい――で、貴族からは強者と思われいる。デルヴィ侯爵に至っては、「竜を倒せ」と言われてしまった。強さの基準を測るためかもしれないが、ビッグホーンを討伐できることは知っている。


「嫌か?」

「もう慣れたよ。お、じ、さ、ま!」

「お、おじさまって……」

「ふふん。フォルトさんの趣味に刺さるっしょ?」

「ま、まあな」


 ギャルにおじさまと言われると、何となく心に響くものがある。

 そしてフォルトは、吸血鬼の真祖バグバットを思い浮かべてしまう。やはり自分はおっさんであり、おじさまは分不相応だ。


「気が向いたらだが、この癖を治してみよう」

「どっちでもいいよ。あたしは強さで男を見ることにしたの!」

「ふーん」

「もしも魔の森に行かなかったとしても、シュンと行動してたわ」

「そうだな」

「チームで来たときに見たけどさ。大変そうなんだもん!」

「確かになぁ」

「あたしはノックスと同じ従者だったしね。今のほうが断然いいじゃん!」


 こちらの世界の女性が、なぜ強さを基準で男性を選ぶかは体験した。

 シュンと行動を共にしたままなら、必死に魔物退治を行っている最中だろう。だが現在は、魔物すら使役している魔人の身内だ。

 過酷な世界での安心感は、日本での価値観を打ち砕く。


「ところでさ」

「うん?」

「珍しいものを探してるのに、何で飯ばっか食べてるん?」

「あっはっはっ!」

「笑って誤魔化ごまかすんじゃないわよ!」

「いい匂いに誘われて……」

「さっき朝食を平らげたばかりっしょ!」


 フォルトの両手には、出店で買った串焼きがある。

 もちろん購入するための金銭は、夜中のうちにカーミラが奪っていた。情事の合間に終わらせるあたり、小腹を空かせると読んでいたか。

 それにしても、さすがは自由都市アルバハードだ。各国から食材が集まっているおかげで、どの出店の料理も旨い。

 まだ昼前だというのに、暴食がうずいて仕方がない。


「というわけで、まずはキッチン関係だ!」

「そっちかい!」

「うむ。ルリにはもっと旨い料理を作ってもらわないとな」

「そ、そうね。確かにめっちゃ美味おいしいよね!」


 ともあれ二人は、キッチンが売られている店を物色する。

 場所は分からなかったが、そこは積極性が売りのアーシャに任せた。赤の他人に話しかけるなど、フォルトにはハードルが高い。


「ほう。これは……」


(さすがに日本とは比べ物にならないが、いい感じだな。ブラウニーが作ったキッチンよりは使いやすいだろう。これなら欲しいなあ)


 訪れた店には、基本的なキッチンの見本が配置されていた。

 レンガや鉄で作られたものが、展示品として並べられている。

 要はモデルルームみたいなものだ。

 店で買うのではなく、どの職人に依頼するかを決めるらしい。予算を提示して、職人と材料を選べば良い。


「さすがにカーミラでは奪えないか」

「そりゃあねぇ」

「職人か。バグバットに相談したほうがいいな」

「吸血鬼の職人がいるかもね!」

「ははっ。そうだな」

「次はどこに行くぅ?」

「食器関係も見ておくか」

「へへっ。なんか新婚みたいじゃん!」

「ぶっ!」


 なぜかアーシャは、おっさんを喜ばせる術に長けていた。

 おそらくだが、無意識だと思われる。おっさんに好かれるタイプだからこそ、中年の教師に言い寄られて嫌いになったのだろう。

 そして二人は、次の店に訪れた。


「さすがに立派だな」

「これは鉄かな? 隣のは陶磁器かぁ」

「詳しいな」

「えー。普通じゃん!」


(食器関係は、落としたときに割れたりしない木や鉄が理想かな? 見栄えはどうでもいいしな。でも見栄えも味の一部とか、何かの料理番組で……)


 人間が受ける情報とは、八割が視覚から入ると言われていた。またそれを踏まえた実験では、コントラストが味に影響を与えていると結果が出たようだ。

 フォルトは暴食の大罪も持っているので、あまり味を気にしていない。しかしながら旨いなら、それに越したことはない。

 そこで、食器関係は奪うと決めた。


「鉄の皿は確保だな」

「そう? こっちのがいいっしょ!」

「ふーん。だがもう少し大きいほうが……」

「あたしはそんなに食べないから、小さいほうがいいよ!」


 二人は買い物を楽しむように――奪うため――食器の品定めをした。すると傍から見れば親子なので、たまに温かい視線が突き刺さってくる。

 そういった感情を向けられると恥ずかしく、アーシャを連れて店を出た。


「さ、さあて次に行くか!」

「うん! どこに行くん?」

「よし! 服飾店でも行くか!」

「えー。オシャレな服は無いと思うよ?」

「一応、な」


 そして最後とばかりに、服飾店に到着する。

 アーシャが言ったように期待はしていないが、もしかしたらという希望はある。とりあえず店内を見てみないと、何とも言えない。

 しかし……。


(まぁ期待はしていなかったよ? していなかったけど、これは酷い。ファッション音痴の俺でも分かる。まさにシンプル・イズ・ベスト!)


「ほらね」

「あ、あぁ……。そそらないな」


 店内を物色していたアーシャは、下着をピーンと引き延ばしている。

 どう見てもトランクスに近いのだが、これは男女共用のような気もする。

 いつもは身内の下着を拝んでいるので、色欲がまったく疼かない。

 ちなみに中世では、男性がブリーフを履いていた。また女性は、現代のブラジャーやショーツに近い下着を着用していたらしい。

 なんと、発掘されているのだ。昔の絵画からも分かるだろう。


「やはり駄目か」

「ふーん。どんなのを履いてほしいの?」

「言わせるな。今ので十分に満足している。だから服を探しにきたのだ」

「気にしてくれてたんだ」

「まぁ目の保養にもなるしな」

「エロオヤジ」


 アーシャの願いは、オシャレをすることだ。しかも日本のオシャレなので、こちらの世界には存在しない。

 そして、フォルトの趣味も同様だ。

 何にせよ期待外れだったので、二人は肩を落としながら店を出た。


「さてアーシャ。そろそろ戻るか」

「もう帰るん?」

「見たい所は見た。他も期待できないな」

「面白グッズとかも無さそうだしね」

「それに……。そろそろ限界……」

「きゃはっ! 頑張ったほうなんじゃない?」


(ギャルと一緒に何軒も店を巡る。うん。俺は頑張った。リハビリもできている感じがするな。まぁ幽鬼の森に引き籠るがな!)


 以降の二人は腕を組んで、バグバットの屋敷に足を向ける。

 収穫らしい収穫は、それなりにあっただろう。幽鬼の森でも快適な生活をするために、フォルトは慣れないことも頑張った。

 そもそもが活発的なアーシャは、町に出たことで喜んでいる。

 にも角にも他の身内と合流して、幽鬼の森に出発するのだった。



◇◇◇◇◇



 エウィ王国騎士訓練所。

 シュンが剣を振るっていると、騎士ザインに呼ばれた。どうやら元勇者チームのプロシネン、シルキー、ギルについて聞きたいらしい。

 ちなみにその三人は、勇者候補チームの指導を終えて旅立っている。


「奴らはどうだった?」

「格が違げぇな。見るべきものは多かったぜ」

「模擬戦もやっていたな。一勝ぐらいはできたのか?」

「無理に決まってんだろ! プロシネンは人間じゃねぇよ」

「そう腐るな」


 シュンやギッシュは、プロシネンに一矢も報えなかった。あれほど何も通用しなかったのは、魔族のルリシオン以来だ。

 どちらが強いなどは、力量不足で分からないが……。


「俺らもレベルを上げりゃ、あいつらぐらいの強さになるのか?」

「別格と言っても、まだ人間の域だな」

「へぇ。なら目標にするか」

「その意気は良いが、他にも話がある」

「何だよ?」

「あぁちょっと待て。いや。本当にいいのか? だが……」


 どうも、ザインの歯切れが悪い。

 シュンは怪訝けげんな表情を浮かべるが、話を聞かないことには始まらない。


「どうしたよ?」

「うーん。デルヴィ侯爵様が、お前たちを使いたいそうだ」

「侯爵様?」

「聖女ミリエ様の後見人が侯爵様なのは知っているな?」

「そう言ってたな」


 新たな聖女ミリエは、カルメリー王国の第二王女である。またかの国はエウィ王国の属国で、管理はデルヴィ侯爵に一任されていた。

 そして聖女に任命されると、通常はエインリッヒ九世の居城に移される。しかしながら、侯爵が後見人になった。

 これによって元聖女ソフィアのように、国内をある程度は自由に動ける。


「侯爵様の屋敷まで、聖女様を護衛してほしいそうだ」

「会ったことはないけど、指名なら受けたほうがいいのかね?」

「当然だ。受けないという選択肢は無い」

「依頼料は?」

「馬鹿もん! 侯爵様からの依頼だぞ!」


 話に上がったデルヴィ侯爵は、エウィ王国で三番目に偉い人物である。

 ザインにとっても雲の上の存在で、シュンはこっぴどくしかられた。


「でもよ。俺らも稼がねえと……」

「安心しろ。冒険者ギルドは通さないが、直接くださるそうだ」

「何だよ。驚かせないでくれ」

「シュンは貴族を分かっていない。今から教え込んでやる」

「………………」

「とにかく、失礼がないようにしろ!」

「へいへい」

「それがいかんのだ」


 格差が激しいエウィ王国において、デルヴィ侯爵は雲の上の存在だ。

 シュンなどは、吹けば消し飛ぶ塵芥ちりあくたである。

 そして貴族のことを説明された後は、仲間を集めて依頼内容を伝える。一番の懸念はギッシュで、今回は大人しくしてもらわないと拙い。


「面倒な交渉事はホストに任せるからよぉ」

「そ、そうね。シュンさんなら大丈夫よ!」

「シュン、頼んだわよ? ボクたちじゃ無理無理!」

「従者の僕が会話をすることはないね」


(まぁこうなるよな。別にいいけどよ。とりあえず、我儘わがままで偉そうな社長の対応をする感じでいいか? よくキャバスケを引き連れて遊びに来てたな)


 経営者や起業家といった人々。

 彼らの中で女性好きな者は、キャバ嬢から言われるがまま、ホストクラブに連れて来られていた。よくタッグを組んで対応したものだ。

 そしてキャバ嬢の目的は、仕事終わりにホストと遊ぶこと。だからこそそういった者たちには、良い気分にさせてから酔い潰れてもらった。


「んじゃ、侯爵領に向かう準備をするぞ」


 そしてシュンたちは、旅の準備を始める。

 馬用の飼葉や自分たちの食料や水を用意するのだ。聖女ミリエの護衛という話なので、装備のメンテナンスもしておく。

 城塞都市ミリエからデルヴィ侯爵領までは、三日から四日は必要だ。


「そうだエレーヌ。俺に話があるんだったな?」

「え、えぇ。準備が終わってからでいいかしら?」

「構わねぇぜ。なら夕方に、城門を出たところで待ち合わせようか」


 シュンはアルディスに聞かれないよう、エレーヌと城外で待ち合わせる。

 今まで色々と相談に乗っていたが、そろそろ対価をもらうつもりだった。

 そして個人での準備を終えると、彼女を都市に連れ出す。

 向かう場所は、低ランク冒険者が利用する酒場だ。城の関係者もほぼおらず、恋人に知られることはないだろう。

 こういった場所の下見は、こちらの世界に召喚されてから済ませていた。

 以降は酒場に入ると、あまり目立たない端っこの丸テーブルに座る。

 自由に動ける騎士裁量権があるとはいえ、さすがに夜中は出歩けない。城門が閉じてしまうので、今からはスピード勝負だった。

 まずは店員に、エール酒を二杯頼んでしまう。


「あ、あのシュンさん? 私は……」

「飲めるだろ? 疲れた後の一杯はうめぇぞ」

「へい、お待ち!」


 内気なエレーヌは、こういった場所に一人で訪れたことがない。

 都市自体の治安が悪く、荒くれ者が多い場所である。女性だと入りづらく、彼女は少し肩を震わせていた。

 もちろん、その程度の話は織り込み済みのシュンだ。彼女が委縮している間に乾杯をして、エールを飲み干させる。

 その間につまみが出されて、二杯三杯と勧めていく。


「相談事って、いつものか?」

「あ、え……。そ、そうです」

「まあよ。男ってやつは……」


 エレーヌの悩みは、男性が苦手なことだ。男性恐怖症まで進む前に、シュンが勇者候補チームのリーダーとして相談を受けていた。

 ともあれ元ホストであれば、女性に酒を勧めることは容易。


「ひっく! で、でもれすねぇ」

「エレーヌは酔ったのか?」

「大丈夫れすよぉ」

「飲みすぎると明日が辛くなるぜ。そろそろ出るか」

「そうれすねぇ」


(チョロい。後は宿屋に連れ込めば完了だぜ。目が虚ろだな。でも、寝ちまうほどじゃねぇ。さすがに泊まれねぇからな。さっさと済ませるぜ!)


 酒量の加減などは、シュンであればお手のものだ。エレーヌが酔い潰れる前に、酒場を出て宿屋に向かう。

 ちなみに、ラキシスを匿っていた宿屋である。


「シュンさあん。城内に到着れすかぁ?」

「ちょっと休んでから帰らねぇとな。フラフラだぜ?」

「そうれすかぁ?」

「まぁ俺が介抱してやるよ。ほら……」

「ひっく! ちょっとぉ。どこを触ってるんれすかあ?」

「はははははっ! 俺に任せとけ!」

「はーい。リーダーに任しぇまーす!」


 後は簡単である。一気に勝負を決めたシュンは、エレーヌを手に入れた。

 情事が終わったときに正気に戻ったが、内気な彼女は受け入れてしまった。ならばとチームに亀裂が入ると伝えて、この事実を誰にも話せなくさせる。

 そして、一組のカップルが出来上がるのだった。

Copyright©2021-特攻君

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