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異世界は小悪魔と共に  作者: 特攻君
第十一章 それぞれの拠点
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アルバハード再び2

 フォルトたちの一行は、簡単に国境を越えている。

 通行許可証にデルヴィ侯爵のサインがあるだけで、馬車の中を確認されずに素通りだった。国境警備隊があたふたしていたのはご愛敬か。

 そしていつもどおりに野営を繰り返し、自由都市アルバハードに到着した。以降は領主の館で応接室に通され、吸血鬼の真祖バグバットと面会している最中だ。

 ちなみに同行した者たちは、別室で待機している。


「フォルト殿。よくぞ参られたである」

「幽鬼の森だったか? 貸してもらえるようで悪いな」

「アンデッドについては問題無いのであるか?」

「それな。襲ってこないのだろ?」

「拠点を襲わせないようにしかできないのである」

「なるほど。襲ってきた場合の対処は?」

「倒してもらって結構である。必要になれば、また創造するである」


 バグバットが言った創造とは、ゾンビなどの不死者を作りだす魔法である。【クリエイト・アンデッド/創造・不死者】が有名なところだ。

 この魔法だと、死体は必要になるが……。


「ルリがいるから燃やしてもらうか」

「火属性魔法は危険であるな。森林火災は困るのである」

「あぁそうか。なら、森を傷つけないように対応しておく」

「ではフォルト殿の身元保証を、各国に通達するのである」

「あ……。待ってもらっていいか?」

「どうされたであるか?」


(デルヴィ侯爵の件で痛感したが、やはり対価を支払ったほうがいいか。どうでもいい奴なら適当にしてもいいけど……)


 人間とは共存を選んでいるので、大きな問題事は避けたい。

 相手が偉ければ偉いほど、対応を誤ると厄介なことになる。だからこそ最低限、何かを頼むなら対価が必要だろう。

 それは、人間に限った話ではない。

 特にバグバットには借りが多いので、先に返さないのは自分として許せない。新しい頼み事は、その借りを返してからだ。

 フォルトの脳裏には、「クレクレ君」という言葉が浮かぶ。


「まずは、バグバットに借りを返したい」

「と申されても、今すぐには思い浮かばないのである」

「そうか? なら、何か思いついたら言ってくれ」

「で、あるか。では、まだ身元の保証は必要無いであるか?」

「うむ。どうせ幽鬼の森には、誰も入れないのだろ?」

「わざわざ、であるな。立入禁止にはしていないのである」

「ふむふむ。森に立ち入った者の対処は?」

「任せるのである。吾輩わがはいの一族でなければ構わないである」


 バグバットはアルバハードという領土を守護しているだけなので、吸血鬼一族以外の者がどうなろうと知ったことではない。

 それでも強大な力を持つ真祖が守護していることから、町の中は安全だと思われている。だからこそ、人々が集まっていた。

 それらを守る義務は無い。


「フォルト殿。本日は泊まっていかれると良いである」

「お言葉に甘えよう。晩餐会ばんさんかいの飯は旨かった」

「吾輩も、ローゼンクロイツ家をもてなせてうれしいのである」

「バグバットでも家名を気にするのだな」

「ローゼンクロイツ家は名家である。前の当主は馬鹿者であるが……」

「馬鹿者?」

「腐れ縁であるな。ジュノバはどこで何をしておるのやらである」


(親友みたいなものか? 羨ましいかぎりだ。腹を割って話せる相手か。今はカーミラがそれだが、シモベだから距離感の違いを感じる)


 カーミラには何でも話せるが、最終的な決定は丸投げされる。主人の命令を遂行するのが務めと思っているので、助言をもらえるが討論にならない。

 フォルトに不満はないが、このあたりが限界だろう。と考えると、対等に話せる者が羨ましく感じる。

 相手が男性なので、嫉妬はしないが……。


「二部屋を用意しているのである」

「人数が多いから助かる」

「で、あるか」


 バグバットとの面会を終わらせた後は、執事の案内で部屋を移動した。

 モダンな造りの内装は、落ち着いて休める空間になっている。

 後で聞いた話だが、いつでも使える部屋は用意されているらしい。王侯貴族が来訪しても良いように、部屋の空間は広く余裕がある。

 ベッドも同様なので、夜の営みも捗るだろう。と考えたフォルトは、ベッドの具合を確かめるために横になる。

 そして目を閉じながら、別室に通されている身内を待つのだった。



◇◇◇◇◇



 ベッドで大の字のフォルトは、腰のあたりに圧迫感を覚える。

 それと同時に、ほほの筋肉が緩んでいった。すると胸部にも重圧を感じたので、徐々に目を開けていく。

 視界に映ったのは、自身の体に騎乗したカーミラだ。


「来たか」

「御主人様は寝るのが早いでーす!」

「ははっ。フカフカで我慢できなかった」


(やはり、しっかりと作ったベッドは違うな。ブラウニーだと雑だから、寝心地が良いとは言えない。帝国の町から奪っておくか)


 フォルトは惰眠を貪るのが大好きなので、この良さを知ってしまうと欲しくなる。屋敷はみすぼらしくても良いが、生活関係には力を入れたいところだ。

 ともあれこちら側の部屋に来たのは、カーミラと魔族組である。


「今日は泊まるのかしらあ?」

「飯も用意してくれるからな。一泊する」

「ふん! バグバットの癖に……」

「そう言えば、親父さんと仲がいいみたいだな」

「昔は二人で出かけていたわねえ」


 バグバットと姉妹の父親は旧知の仲で、勇魔戦争以前は交流があったらしい。マリアンデールの言葉からも、家族ぐるみの付き合いだったかもしれない。

 そのあたりは蕁麻疹じんましんが出そうなので尋ねないが、一つ疑問ができた。


「ふーん。母親はいないのか?」

「他界してるわよお」

「おっと。悪いことを聞いたな」

「別にいいわよ。ルリちゃんを出産してすぐ亡くなったわ」

「へぇ。二人の母親なら奇麗だったのだろうな」

「ふふっ。ご褒美が欲しいのかしら?」

「欲しいが飯が近いな。ここの料理は逃したくない」

「有名だった料理人を吸血鬼化させているからねえ」

「そ、そうか」


 バグバットは一流を好む。

 執事も一流なら、料理人も一流である。メイドもよくしつけられている。

 そしてメイドについては吸血鬼ではなく、人間や亜人を使っているようだった。アンデッドばかりではなくて、少しホッとしたものだ。


「シェラよ。リリエラは?」

「ソフィアさんと一緒に隣の部屋ですわ」

「ふむ」

「あの玩具は、レイナスちゃんたちに人気なのよねえ」

「そうなのか?」

「人気というか面倒を見ているというか、ね」


 確かにフォルトは、「世話をするな」と言っていない。

 それに彼女たちがリリエラの世話をしたければ、率先してやっても構わない。しかしながら、今後のことを考えないと駄目だろう。


「使い潰すのお?」

「リリエラ次第だったが、この流れも作ったようなものだ」

「なるほどね」


 リリエラを使ったゲームは、エンディングが決まっていない。レイナスたちから世話をされるのも、一つの通過点と考える。

 そういった流れを経て、最終的に何者になるのかを楽しむのだ。


「リリエラには、アルバハードでやってもらうクエストがある」

「へぇ」

「何をやらせるのお?」

「内緒。でへ」

「御主人様が、イヤらしい顔をしていまーす!」

「んんっ! シェラ。茶を入れてくれ」

「はい、魔人様」


 いま知られるとつまらないので、フォルトは勿体もったいぶった。

 今回のクエストは難しいかもしれないが、是非とも達成してもらいたい。過去のクエストとは違って、過程よりは結果を重視していた。

 そして茶を飲んでゆっくりしたところで、今後の動きを伝える。


「幽鬼の森へ向かう前に、アルバハードを見て回るか」

「「え?」」

「え?」


 またこのパターンかと、フォルトは苦笑いを浮かべる。

 確かに引き籠りなので、人間のいる町に出るのは珍しいだろう。とはいえ、新たな森に拠点を構えるのだ。

 双竜山の森で不便は無かったが、今のうちにやっておきたい件がある。


「何が売られているかを見ておきたいのだ」

「家具とかですかぁ?」

「他には日用雑貨とか……。とにかく色々だ」

「御主人様。何か不便でもありましたかぁ?」

「いや。不便は無いが、知らないだけだと損だろ?」

「なるほどぉ」


 ベッドが良い例で、他にもあるかもしれない。

 もちろん日本と比べれば、大したものは売られていないだろう。だがスプーン一つにしても、ブラウニーが作るものよりはマシかもしれない。

 他にも、便利グッズなどがあれば欲しい。

 とりあえず、現時点での品ぞろえはリサーチしておくべきだった。


「もう何度か町に出ているからな」

「でもでも、お金は無いですよぉ? 冒険者たちに渡しちゃいましたぁ!」

「あれから奪いに行っていないか」

「はいっ! 奪ってきますかぁ?」

「うむ。それと……」


 そろそろ、金銭や物資を調達する町を変えたほうが良いだろう。

 何回も奪っているので、さすがに警戒されそうな気がする。

 その旨をカーミラに伝えると、満面の笑みで了承した。彼女も思っていたらしく、次の町の選定を終わらせていた。


「アルバハードにいる間は変えておきますねぇ」

「そうしてくれ。だが、根こそぎ奪うことはするな」

「駄目なんですかぁ?」

「双竜山の森に帰れば、またそこを使うだろ?」


 何事に対しても、「ほどほどで満足」が一番である。

 カーミラがカモにしている貴族については知らないにしても、すべてを奪っては生殺しにならない。何度でも稼いでもらって、何度でも奪えば良い。

 そして、同じような人間を発見するのは手間になる。しかも、多額の金銭を所持している人間は少数なのだ。

 そう考えると、無駄に消費しては損だろう。


(悪魔もそうだが、魔族も似たような感性なんだよなあ。すべてを奪って「はいさよなら」状態だ。それでは勿体無いではないか)


「骨までしゃぶり尽くす」

「貴方。スケルトンがどうかしたのかしら?」

「ス、スケ……。まぁあちらの世界での俗語だ」

「へぇ」

「魔人様は博識ですわね。んっ」


 シェラの柔らかい双丘が、フォルトの後頭部を刺激する。

 毎度のことながら、彼女のそれはフィット感が良い。身内の中では大きめなので、後頭部がよく沈むのだ。


「とにかく、俺は町に出る!」

「分かったわあ。でも、私たちは部屋で休んでおくわねえ」

「なぜだ?」

「いま外の出ると、人間を襲っちゃうかもね」

「おいおい」

「あはっ! 冗談よお」


 マリアンデールとルリシオンの顔は、赤く上気してるように見える。

 おそらくは、レイバン男爵の件を思い出しているのだろう。姉妹にとってはストレス発散になったが、それだけにまた暴れたいのかもしれない。


「サディスティックだな」

「ふふっ。褒め言葉として受け取っておくわ」

「なら、シェラも居残りか」

「ですわね。人間は嫌いです」

「そうだったな。では、誰を連れていくか」


 ここまで会話したところで、部屋の扉がノックされた。

 どうやら、食事の準備が整ったようだ。バグバットの執事が迎えにきたので、フォルトたちは部屋を出る。

 以降は人間組と合流して、一緒に食堂に向かう。テーブルの上には豪勢な料理が用意されており、歓迎されているのが分かった。

 そして魔人と吸血鬼の真祖は再会を祝して、ワインを酌み交わすのだった。

Copyright©2021-特攻君

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