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異世界は小悪魔と共に  作者: 特攻君
第十一章 それぞれの拠点

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寄り道3

 町から町に向かう街道を、普通の人間が外れることはない。

 なぜかと言うと、魔物の領域になるからだ。

 平野部に棲息せいそくするのは、巨大昆虫のような魔物や狼などの魔獣。草木が多い場所なら、植物系の魔物も脅威だった。

 見晴らしも良いので、空からも襲われる。

 グリフォンが代表的だろう。

 わしの上半身と獅子ししの下半身を持ち、翼が生えている魔獣だ。飼い慣らすことは可能だが、野生のそれは危険である。旅をする者なら、馬車を引く馬が狙われやすい。

 このように、街道を外れるのは避けるべきだ。


「ふう。一段落だな」


 レイバン男爵を捕縛したフォルトは、ソネンの私兵に引き渡した。

 これが、グリムに提示された土産の内容だ。男爵が栽培していた麻薬畑を潰して、同時に犯罪人として拘束した。

 ついでに、新興の裏組織「蜂の巣」の力を削いだ。

 ボスのガマスを殺害したので壊滅に近い。しかしながら、裏組織などは完全に壊滅しないものだ。

 あちらの世界と同様に次のボスが現れて、すぐに活動を再開するだろう。


「さてと。肉は焼けたかな?」

「いい具合に焼けたわあ。でも魔物が寄ってこないわねえ」

「サタンがいるからな。立っているだけでいいらしい」

「ふん!」


 大罪の悪魔サタンの威圧が、魔物や魔獣の生存本能を刺激する。

 これならば昆虫だろうが魔獣でも、フォルトたちに近寄ってこない。害虫であっても潰そうとすれば、一目散に逃げるのだ。

 つまり、そういうことである。


「それよりも貴方。今更だけどいいかしら?」

「何だマリ?」

「国境をどう越えるつもり?」

「え?」

「国境よ国境。私たちがエウィ王国に入るときは山越えをしたけどね」

「なら、山越えにしようか」

「馬車があるでしょ? 無理よ」

「あ……」


 アルバハードに向かうには、国境を越える必要があった。

 すっかり忘れていたが、フォルトたちは検問を受けるのだ。とはいえ残念ながら、自身やカーミラのカードは見せられない。

 それに、魔族を連れているのも拙い。

 上級貴族がローゼンクロイツ家の存在を知っていても、警備兵や衛兵などに伝わっているとは思えない。


(そうだった。日本にいたときも海外には行かなかったから、国境を越えるとか想像もしていなかったな。最初は空から行ったし……)


「あっ! 三国会議のときは、ソフィアのカードで町の外に出たよな?」

「あのときは特別です。しかもアルバハードで有効だったのです」

「くぅ!」


 ソフィアは聖女として参加したので、三国会議のときは通用した。当時は剥奪はくだつされていたが、内外に向けて発表していなかったからだ。

 もちろん、今は違う。新たな聖女も決定して、ソフィアは無役と言って良い。グリムの孫娘という肩書しか使えない。

 国境の通行審査では、まったく通用しないのだ。


「グリムのじいさんの客将というのも駄目なのか?」

「駄目ですね。その話も下には伝わっていないでしょう」

「うーん。参った」

「フォルトさん! どうすんの?」

「そうだなあ。アーシャが何とかしてくれ」

「無理よ!」

「ならレイナス」

「方法ならありますわね」


 アーシャに頼むのは間違っているが、さすがはレイナスだ。

 それに安心感を覚えたフォルトは、話の続きを促した。


「詳しく!」

「ふふっ。フォルト様次第ですわ」

「俺か?」

「はい。デルヴィ侯爵と面会すればよろしいかと……」

「は?」

「ここは侯爵領。国境の管理も同様ですわ」

「そうだが……」

晩餐会ばんさんかいの時点では、フォルト様に会いたがっていましたわね」


 三国会議で催された晩餐会では、デルヴィ侯爵が面会を求めてきた。

 もちろんフォルトにそのつもりは無く、「考えておく」と断っている。ならば面会してやることで、国境の通行を許可してもらえるか。

 ただし今回は、全員で移動中だ。


「だが、ソフィアは狙われているかもしれない」

「フォルト様と一緒なら平気だと思われますわよ?」

「リリエラも問題ではないか?」

「馬車から出なければ平気ですわ。どこかで待機ですわね」

「ふーん」


 貴族を熟知しているレイナスが言うならば、それが正解だろう。

 侯爵に面会を求めたとしても、あちらはフォルトの同行者を知らない。全員で移動中だが、全員で面会する必要は無いのだ。

 当然のように自分一人では無理なので、一緒に行く者を決める。


「であれば、俺とソフィア。レイナスも一緒に来てくれ」

「御主人様。カーミラちゃんはどうしますかぁ?」

「サタンが消えるから、他のみんなを守ってくれ」

「はあい!」

「ふん!」


 二手に分かれるなら、フォルトが頼れるのはカーミラだけだ。

 マリアンデールとルリシオンがいるので、心配自体はしていない。しかしながらより安全を重視するなら、彼女を付けたほうが良い。

 レベル百五十の悪魔なので、何が起きても平気だろう。


「ソフィアは俺が守るから安心してくれ」

「はいっ!」

「だがアポイントも無くて、すぐに面会ができるものなのか?」

「本来なら無理ですが、フォルト様に会いたいのは侯爵ですわね」

「なるほどな。さて、何を言われることやら……」


 渋い表情を浮かべたフォルトは、スープを飲んでいるリリエラに視線を向けた。彼女は死亡したことになっているので、完全に隠さないと駄目だろう。

 詐欺メイクをしていても、彼女を知る者が見れば露見する可能性はあった。

 そして杞憂きゆうと思いながらも、カーミラを連れて馬車の中に戻るのだった。



◇◇◇◇◇



 デルヴィ侯爵は自身の屋敷に、五十歳に近い壮年男性を呼び出していた。

 応接室に通した後は、対面形式でソファーに座る。

 この人物は、聖神イシュリル神殿枢機卿(すうききょう)のシュナイデンだ。

 次期教皇とも目されている男で、侯爵は懇意にしていた。現教皇とは折り合いが悪いとはいえ、実質的にナンバーツーの椅子に座っている。

 ともあれ新たな聖女が決定したので、今後の方策を考える必要があった。


「シュナイデン枢機卿殿」

「残念でございました。間に合いませんでしたな」

「あれだけ時間を引き延ばされれば仕方があるまい」

「嫌われておいでですね」

「それでいいのだ」


 デルヴィ侯爵自身、他人から嫌われることを何とも思っていない。

 敵が多ければ多いほど、権力が増すというものだ。「嫌われてナンボ」という言葉が異世界にあるそうだが、それを地で行っている。


「聖女に選ばれなかった女は?」

「勇者候補のシュンでしたか。我らの邪魔をしまして……」

「異世界人か。使えると思うか?」

「使える、とは?」

「ワシの手駒にな。使い道は色々とあろう?」

「ですが、限界突破を終わらせた逸材ですぞ? 潰すわけには……」

「ふむ。殺すとデメリットが大きいか」

「そうですな。対魔物のための異世界人ですぞ」

「しかし……」


 勇者候補について聞いたデルヴィ侯爵は、別の人物を思い浮かべた。

 三国会議の晩餐会で出会った異世界人で、単純に考えれば金の成る木だ。ビッグホーンを容易に討伐できるなら、魔物の素材だけでも一財産を築けるだろう。だからこそグリム家から引き離して、こちら側に引き入れたい。

 侯爵の中ではシュンよりも、フォルトのほうがはるかに価値は高かった。


「ローゼンクロイツ家、か」

「何か?」

「その勇者候補と一緒に召喚された異世界人を知っておるか?」

「聞き及んでおりますが、まさか引き入れたいと?」

「当然だ。金は幾らあっても足りないからな」

「ですが、魔族の貴族家を名乗った異世界人。神殿勢力は認めておりません」

ちまたでは、元聖女ソフィアが異教徒とうわさされておる」

「そもそも魔族は異教徒。現状を考えれば致し方ないですな」

「抱きたいという者が多くてな」

「………………」


 ソフィアは、存在自体に価値がある。

 宮廷魔術師グリムの孫娘、元聖女という肩書、見た目も若く美しい。他にも、魔王を討伐した勇者の従者などもある。

 それらはすべて、彼女にぶつけられる欲望の大きさに比例する。名声や肩書が大きければ大きいほど、彼女に群がる者どもが増える。


「ソフィア嬢の異教徒認定。取り下げることは可能か?」

「は? 何と仰いました?」

「取り下げてもらいたい」

「そ、それは……」

「ワシから言い出したことだがな。考えが変わったのだ」

「理由をお聞きしても?」

「まだ言えぬ。可能かどうかを尋ねておる」

「まだ認定されていません。もちろん可能ですが……」


 ソフィアが異教徒との噂は、デルヴィ侯爵が流している。

 シュナイデン枢機卿との密談で決定したことでも、今は状況が変わっていた。彼女がグリム領に引き籠ったまでは良いが、双竜山の森に移されたようだ。

 つまり、フォルトと暮らしている。

 そうなると、異教徒の認定は時期尚早だ。


「今は計画を止める。代わりに寄付する女は増やす」

「どちらにも転べるようにですか?」

「そうだ。手札は多いほど良い」


 デルヴィ侯爵には、齢六十を越えるまで培った人生経験がある。また貴族の闇を知り尽くしているからこそ、他人が思いもよらない計画を立てる。

 まさに、老獪ろうかいという言葉が似合う人物だ。

 侯爵の行動は、すべてが計算されている。時にあからさまな行動をとるのも、すべては計算の内なのだ。


「分かりました」

「では、よろしく頼む。話を戻すが、聖女になれなかった女神官は?」

「今は神殿で仕事をしています。聖女候補だったことすら知りません」

「なぜ聖女になれなかったか、枢機卿殿には分かるか?」

「純潔を散らしたかと思われます」

「ふんっ! 勇者候補と寝たか」

「おそらくは……」

「その女神官は、いつでも使えるようにして……。うん?」


 ここまで会話したところで、応接室の扉がたたかれた。

 デルヴィ侯爵は片手を上げて、シュナイデン枢機卿との会話を止める。続けて立ち上がり、扉に向かって入室の許可を出した。


「入れ」


 許可が出たことで、応接室の扉が開いた。

 そして「失礼します」との言葉と共に、執事が入室してくる。長年デルヴィ家に仕えている人物で、歳はそう変わらない。


「侯爵様。お客様がお見えになっております」

「客だと? 其方そのほうが来たのなら重要人物ということか?」

「………………。はい」

「誰だ? 今日の予定には無いはずだが……」


 アポイントの無い客なら、執事がお引き取りを願う。

 侯爵ほどの者なら、予定など分刻みである。予定されていない人物と面会する余裕は無いのだ。となると、その来客は重要人物に他ならない。

 そして、来客の名前を聞いてうなる。


「フォルト・ローゼンクロイツと名乗っておりました」

「むぅ」

「また元聖女のソフィア様とレイナス様が同行しております」

「レイナス……。ふむ。ローイン公爵が廃嫡した娘か」

「いかがいたしましょうか?」


 デルヴィ侯爵は迷う。

 フォルトと面会するには、まだ時間がかかると思っていた。しかしながら、向こうから訪ねてきたようだ。

 もちろん面会したほうが、今後の利益につながるだろう。しかも、先ほどの話題に上がった元聖女のソフィアも一緒だ。

 そこまでは良い。

 問題は、シュナイデン枢機卿と会わせるかどうか。侯爵と枢機卿の関係は知られたくないが、今のうちに会わせておくべきとも思う。

 それが、迷いの原因だった。


「枢機卿殿は……」

「私は会わないでおきましょう。教皇派の目がありますからな」

「そうか。もうそういう時期か」

「はい。私が教皇になるには……」

「皆まで言わなくてもよい。今回は見送るか」

「お心遣いありがたく……」

「では、隠し部屋に移動してもらおう」


 この応接室には、隠し部屋に移動できる仕かけがある。応接室を観察できて、屋敷の外に逃走も可能だった。

 用心深いデルヴィ侯爵らしい部屋だ。


「執事よ。其の者たちを通せ」

「はい」

「分かっておると思うが、例の者たちも……」

「畏まりました」


 執事との会話中に、シュナイデン枢機卿は隠し部屋に消えた。

 フォルトに会わないまでも、顔ぐらいは知っておいたほうが良い。また枢機卿も多忙な人物なので、時間が押すようなら帰るだろう。

 侯爵はソファーに腰を下ろして、彼らへの対応を考えるのだった。

Copyright©2021-特攻君

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