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異世界は小悪魔と共に  作者: 特攻君
第十一章 それぞれの拠点
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旅立ちの予感3

 アルバハード領主バグバットのところからニャンシーが戻ってきたので、フォルトは湖に浮かぶ小島で報告を受けようとしていた。

 その彼女は現在、カーミラの膝上でゴロゴロと鳴いている。


「にゃ。そこにゃ」

「ニャンシーちゃん! もふもふ!」

「うむ。苦しゅうない」

「ニャンシー」

「何じゃ主?」


 報告を受けようとしていたが、二人の様子を見てマッタリしてしまった。

 双竜山の森にいる間は、常にお気楽極楽状態である。とはいえ身内会議での話は、ニャンシーからの報告を受けないと先に進まない。


「バグバットは何と言っていた?」

「構わないである、と言っておったのう」

「ず、随分とあっさりだな」

「しかも住みやすそうな土地を提供してくれるそうじゃ」

「土地?」

「森じゃ」

「おお!」


 アルバハードを拠点としても、どこに住居を構えるかは決めていなかった。だからこそバグバットからの返答に、フォルトは大いに喜んだ。

 森であれば、今の生活を変えなくても良いだろう。


「アルバハードが近く、主の希望に沿えるそうじゃ」

「ほう。どのような森なのだ?」

「幽鬼の森と言っておったのう」

「幽鬼の森? 何だか嫌な予感がするな」

「アンデッドの住処じゃな。ゾンビやらグールが徘徊はいかいしておったのう」

「うげっ!」


 幽鬼の森とはアルバハードの北側にあり、アンデッドの巣になっている。

 立ち入る人間など皆無なので、フォルトの希望通りではあった。しかしながらアンデッドは、生者の敵なのだ。同じアンデッドの吸血鬼ならともかく、自分たちが住居を構えるなど思いもよらない。

 そうは言っても捨てがたい話だ。


「そのアンデッドは……」

「どこぞの国を滅ぼしたときの余りだそうじゃぞ」

「………………」

「襲わないようにできるので消滅させないでほしいそうじゃ」

「ふむふむ。まぁ借りる土地だしな。善処しよう」


 ほぼ希望に沿っている場所なので、フォルトは高望みをしない。

 何でもそうだが、上を見るとキリが無いからだ。きっと、ちょっとだけ景観が気持ち悪いだけだろう。襲われないのなら、気にしなければ良いのだ。

 そう思っていると、カーミラが口を開いた。


「御主人様は、幽鬼の森に行くのですかぁ?」

「だな。人間が皆無なのがいい。町が近いとくれば文句無しだ!」

「アーシャは大丈夫ですかねぇ?」

「あ……。幽霊が苦手だったか」

「そうでーす!」

「なら分かっていると思うが……」

「えへへ。さすがは御主人様です!」


 バグバットのおかげで、フォルトたちの拠点については目途が立った。

 また到着してしまえば、暫くは双竜山の森に戻らない。ならばとアンデッドが徘徊する森ということを、アーシャには黙っておく。

 肝試しのノリで、アンデッドにビックリした彼女から抱き着かれたい。


(よしよし。後はソフィアからの報告か。客将になってすぐに出ていくのは信義にもとるか? まぁ聞いてから考えるとするか)


「よし! テラスに戻るぞ」

「はあい!」


 ニャンシーからの報告を受けたフォルトは、スキル『変化へんげ』で翼を生やす。続けてカーミラと一緒に、空へと飛び立った。

 腰が軽いうちに進めないと、テンションが下がった時点で重くなってしまう。となると、計画が水泡に帰すのだ。

 昔からそうだった。

 本当に何かをやりたいときは、すばやく動いたものだ。先延ばしするほど腰が重くなり、最後には計画を破棄していた。


「オヤツはあるかな?」


 テラスに到着したフォルトは、いつもの専用椅子に腰かける。

 そして、カーミラを隣に座らせた。すると屋敷から出てきたレイナスが、キュウリスティックを持ってくる。

 至れり尽くせり状態で、思わず笑みを浮かべた。


「はいフォルト様。あーん!」

「あーん。ポリポリ」

「ふふっ。ピタ……」


 フォルトにキュウリスティックを食べさせたレイナスは、後ろに回り込んで後頭部を刺激してくれる。

 その心地良い感触を受けて、彼女のレベルを早く上げさせたいと思う。

 闘技場の完成も見えてきたので、今回の件を有意義に使いたい。

 ともあれそれは、まだ先の話だ。


「そう言えば最近、レイバン男爵に動きが無いな」

「ソフィアさんからは、グリム様に面会を申し込んだと伺いましたわ」

「へぇ。なら今後は、どういう動きをすると思う?」


 フォルトと会いたいらしいレイバン男爵は、冒険者のシルビアとドボを送り込んでからの動きが見られない。

 この件に関しては、デルヴィ侯爵が裏にいたと推測していたが……。


「フォルト様は、デルヴィ侯爵と面識ができましたわ」

「ちょっとだけな」

「そうなると、レイバン男爵を使う必要は無いですわね」

「首ってことか?」

「無能の烙印らくいんは押されたでしょう。ですが使い道はあるものですわ」


 レイナスが考えるレイバン男爵の使い道は、きっと良いことでは無いだろう。デルヴィ侯爵なら、ブラック企業以上の仕事を押し付けるか。

 その点だけは、フォルトも同情してしまう。


(俺もブラック企業に勤めたからなあ。知ったことではないが、可哀想だとは思う。とにかく精神と体がボロボロにされるのだ。経験者が語ってあげるよ)


 フォルトは誰に語るでもないが、デルヴィ侯爵を不快に思う。だがブラック企業体質は、何も侯爵だけではない。

 貴族全般に言える話だった。


「俺は恨まれそうだな」

「かもしれませんわね。おそらくレイバン男爵は、完全に使い潰されますわ」

「ははっ。確定だな」

「フォルト様が気になさる話ではありませんわよ?」

「気にしていないさ。俺が気にするのは身内だけだ」

「ふふっ。ちゅ」


 日本にいた頃なら気にしただろう。

 祖父母からは、「他人には優しくしなさい」と言われて育てられたからだ。

 今はその優しさが、身内だけに向いている。他には話している間に、フォルトが気になった者たちか。

 前者は優しさのすべて。後者は一部だけだが……。


「御主人様。食料はどうしますかぁ?」

「あぁ持って行けないな。魔界から運べないのか?」

「大丈夫ですよぉ。でも量が多いでーす!」

「さすがに何往復もさせると悪いな」

「えへへ。肉だけならいいですよぉ」

「なら身内会議で話したとおりに、畑とかは閉鎖しよう」

「幽鬼の森でも畑を作りますよねぇ?」

「もちろんだ。どういった土地か分からないが……」


 一応は、双竜山の森に戻るつもりだった。

 本当に戻るかは謎だが、そうなっても良い状態にしておかないと駄目だ。

 このようにフォルトは旅立ちの前に、身内会議で出た案件を精査していた。面倒でもやっておかないと、後々後悔すると知っている。

 そして、グリムからの回答を待つのだった。



◇◇◇◇◇



 身内会議から暫く経った頃、フォルトはソフィアの部屋に訪れていた。情事をするためだったが、今は賢者モードでベッドに寝転がっている。

 部屋の窓は開いており、外から流れてくる風が体の火照りを冷ます。といった感じで二人が過ごしていると、連絡用のハーモニーバードが窓べりに留まった。

 それに気付いた彼女は移動して、足に付けられた手紙を外してから目を通す。


「どうだった?」

「やはり御爺様おじいさまは渋っていますね。近くにいてもらいたいようです」

「そうか」

「アルバハードに向かうとなると、エウィ王国から出国することです」

「俺は国民ではないけどな」

「フォルト様は異世界人と見られていますからね」

「そうだった。まったく……」


(無視することはできるが、グリム家を困らせるのは本意じゃない。日本の総理がグリムの爺さんなら、良い国になりそうだけどなあ)


 グリム家は国民目線の領主である。

 貴族のことを見聞きしているので、フォルトからすると余計に好感が持てた。しかも、身内となったソフィアの家族でもある。

 無下にすると、彼女が悲しむだろう。


「グリム家に迷惑が掛からない方法は無いか?」

「バグバット様が仲介してくれるなら、あるいは……」

「仲介?」

「勇者には仲間がいたのですが……」

「ソフィアの仲間ってことだな」

「はい。嫉妬ですか?」

「うむ」


 もちろん言われるまでもなく、フォルトは分かっている。だがソフィアとちょっとでも関係性があると、何となくモヤモヤしてしまう。

 重い男と思われそうで嫌だが、大罪で持っているので仕方無い。


「ふふっ。大丈夫ですよ。十歳のときでしたからね」

「だったな。それで?」

「彼らはバグバット様が後見人になることで、自由に行動していますよ」

「ほう!」

「きゃ!」


 ソフィアが隣に腰かけたので、フォルトは悪い手を回して太ももを触った。

 いつものセクハラだが、彼女は体を預けてくる。

 そして女性の柔らかさに撃沈しながらも、「バグバットが後見人」という提案は有りだと思った。ならばと忘れないうちに、ここでもニャンシーを呼ぶ。


「何じゃ主?」


 後見人が必要なら、早速お願いすれば良い。

 ニャンシーには改めて、バグバットの所に向かってもらう。


「といったわけで、バグバットに後見人を頼んでこい」

「うむ。任せておくのじゃ!」


(これで問題が無くなるな。そうだ! 双竜山の森には戻る予定だが、立つ鳥跡を濁さずと言うしな。何かやってから向かうのが礼儀というものだ)


 ニャンシーを送り出した後は、グリム家に対しての置き土産を考える。

 客将は続けることになるが、今までは色々と動いてもらった。フォルトから返礼をしないと、日本男児が泣くというものだ。


「グリムの爺さんに土産を置いていきたいんだが?」

「土産、ですか?」

「今までの礼を込めてな。何をやれば喜ぶ?」

「え?」


 ソフィアに目を向けると、何か不思議なものをみたような表情だった。

 フォルトは人間を見限っているので、その反応は当然か。少しばかり心外だが、今までの自分を鑑みると、苦笑いでしか返せない。


「聞くのが一番早いかと思います」

「ははっ。そうだな。では聞いてくれるか?」

「はい」


 再びベッドから離れたソフィアは、椅子に座って手紙を書き始める。

 次にハーモニーバードを使って、グリムのいる場所に向かわせた。


「これでいいですか?」

「うむ。お手柔らかに頼みたいけどな」

「ふふっ。書いておきましたよ」

「さすがだな。ならまた、ニャンシーとグリムの爺さん次第か」

「はい」


 ソフィアが戻ってきので、先ほどと同じ姿勢になる。

 それに合わせて、フォルトの悪い手も動きだした。彼女は慣れたもので、完全に受け入れている。


「ぁっ。と、ところでフォルト様。馬車は大型が三台ほどで?」

「だな。俺は密着できてうれしいが、さすがに全員が入ると狭いだろう」

「はい。長旅ですからね」

「旅か。ヤバいな。腰が重くなってきた」

「ですが行かれるのでしょう?」

「まあな。転移魔法でもあればいいのだが……」

「転移魔法、ですか?」

「あるのか?」

「他の異世界人の方々も言っていましたが、残念ながら聞いたことはないです」


 転移魔法が存在すれば、空を飛ぶよりも早く到着するが……。

 それにしても時空系魔法が存在するのに、転移魔法は無いらしい。フォルトとしては、こちらの世界を創造した神様に文句を言いたいところだ。


(カーミラやニャンシーは魔界に行けるが、それとは仕組みが違うのか? 時空系魔法はあるのになあ。アカシックレコードにも情報は無いし……)


「アイテムバッグも?」

「それも伺いましたが、同じく聞いたことがありません」

「ですよね」


 これらは、魔法に詳しいニャンシーやルーチェにも尋ねている。ソフィアの知識からも存在しないようで、フォルトは頭を抱えてしまう。

 一応は眷属けんぞくたちに作製を頼んだが、進展はまったくない。


「そう言えば……」

「どうしたソフィア?」

「馬車でアルバハードに向かうと、デルヴィ侯爵領を通りますよ?」

「え?」


 デルヴィ侯爵領が国境なのだ。

 初めてアルバハードを訪れたときは空を飛んだので、侯爵領を通過していない。だが、馬車で向かう場合は経由することになる。

 ソフィアはもちろんのこと、フォルトも侯爵に狙われているだろう。

 もしも移動中に見つかれば、面倒事になりそうだ。


「三国会議のときは、本気で狙っていそうだったが……」

「本気で、と問われると自信はありません」

「あからさまだしな」

「はい。ですが、それも計画の内とも考えられます」

「まったく……。面倒な大貴族だな」

「ふふっ。フォルト様が私を守ってくださるのでしょう?」

「もちろんだ!」

「きゃ!」


 フォルトは悪い手を使って、ソフィアを抱き寄せる。と同時にデルヴィ侯爵のことを忘れ、本能が赴くままに彼女を抱いた。

 それから数日後、ニャンシーの報告とグリムからの手紙がそろう。ならばとそれを踏まえて、最終的な決定を下すのだった。

Copyright©2021-特攻君

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