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異世界は小悪魔と共に  作者: 特攻君
第十一章 それぞれの拠点
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旅立ちの予感2

 現在は家族会議、もとい身内会議中である。

 畏まった雰囲気ではなく、テーブルを囲んで飯を食べながら始めていた。

 議題としては、今後についてだ。物凄く大雑把だが、このほうが屈託の無い意見が出るだろう。

 とりあえずフォルトは、手に持った箸で当事者を指した。


「シェラ。マリとルリの限界突破はどうだった?」

「まずはミノタウロスの討伐ですわ」


 ミノタウロス。

 身長が二メートルから三メートルはある牛顔の魔物だ。

 姿は二足歩行の人間種と同様で、非常に筋肉質である。オーガに近いが、意思疎通が不可能な魔物として分類されていた。

 また似た種族に、ハイ・ミノタウロスという亜人が存在する。知能が高く言葉も通じるので、友好を結ぶことが可能らしい。

 ともあれ今回は、前者の魔物が対象となる。


「まずは?」

「もう一種類いるのですが、それは後日になるそうです」

「………………。神様も適当だな」


 フォルトはあきれたが、前例はあるそうだ。

 特に姉妹は同時に神託を受けるので、二種類の試練を用意されるらしい。本当のところは分からないが、暗黒神デュールの粋な計らいと認識されている。

 神様がそんなことをするかはさておき、先に進めても良いとの話だった。


「まぁいいか。なら、ミノタウロスの居場所は知っているか?」

「ターラ王国にあるフレネードの洞窟かしら?」

「違うわねえ。フェリアスにあるブロキュスの迷宮だわあ」

「あ、あら。済みません!」

「フェリアス? 確か亜人の国だったな」

「比較的近いわよ。迷宮の近くには、確かドワーフ族の集落があるわ」

「ドワーフ!」


 魔物の棲息せいそく地は、マリアンデールやルリシオンのほうが知っているようだ。

 ドワーフ族自体は、自由都市アルバハードで見た。ミノタウロスと同様にファンタジー界の定番なので、フォルトは興味津々だ。

 そうは言っても、双竜山の森には絶対に連れてこないだろう。


「ミノタウロスは強いのか?」

「強いわねえ。でも、私たちと比べちゃ駄目よお」

「マリとルリよりは弱いと?」

「雑魚ね」

「弱いのに限界突破で選ばれるのか?」

「発見するまでが大変なのよねえ」

「え?」

「洞窟や迷宮の下層に棲息しているのよ」

「なるほど。そういうことか」


(つまり、迷宮の奥深くまで行かなければ戦えないと……。何という面倒臭い魔物を対象にするのだ! まぁでも人間に会わないだけマシ、か?)


 一般的に迷宮と呼ばれるものは、人工的に造った地下迷宮のことだ。洞窟については、自然にできた地下空間が広がった深い穴を指す。

 違いとしては、わなや隠し扉などの有無が挙げられる。棲息する魔物次第だが、それらが設置されていたとしても粗末なものが多い。


「迷宮か。誰が造ったのだ?」

「古代のドワーフ族ね」

「へぇ。そこにミノタウロスが棲みついていると?」

「そうなるわね」

「なぜ居ると知っているのだ?」

「昔だけど、はぐれて外に出た個体がいたのよ」


(隣国のフェリアスか。どう向かえば良いかな? まぁそれは……)


 亜人の国フェリアスは、大陸の北東部にある広大な原生林。

 空からだと木々が邪魔をして、ブロキュスの迷宮を探すのは苦労する。

 交通網というほど立派ではないだろうが、道なりにドワーフの集落を目指したほうが良いかもしれない。

 もちろんフォルトは、ピストン輸送をしたくない。ならばとここで、ミノタウロスの件は置いておく。

 次は、レイナス・アーシャ・ソフィアの狩場について議題に挙げた。


「では、自動狩りのできる場所だな」

「ダマス荒野を狩場にするのかしら?」

「あまり狩ってしまうと帝国兵が来るわよお?」

「その対応ができるなら構わないと思ってな」

「無理っしょ!」

「身も蓋も無いですが、荒野が広すぎますわ」


 アーシャの一言が答えだろうと思われる。

 それにレイナスも追従するが、他の身内も良い案が無いようだ。ソル帝国の人間を殺害するだけなら問題無いが、帝国自体を敵に回すのは勘弁である。

 基本的には追い返したいので、ダマス荒野での狩りは却下か。


「シェラとソフィアはどう思う?」

「今の状態だから、帝国の人間が来ないのですわ」

「そうですね。石化三兄弟……。ぷっ」


(ソフィアは石化三兄弟がツボだな。その吹き出した顔は好きだぞ!)


 ソフィアの顔を見てホッコリしたところで、フォルトは考える。

 二人が言いたいことは理解した。やはりダマス荒野の石化三兄弟が、人間を森に寄せ付けない防波堤になっているのだ。

 代替案が用意できないのならば、討伐を控えたほうが無難だろう。

 そして、もう一つ……。


「フォルト様は御爺様おじいさまの客将です。下手をすると戦争になりかねません」

「何も考えずに帝国の人間を殺害できないと言いたいのだな?」

「はい。戦争に発展すれば、ここが最前線になります」


 身内にしたとはいえソフィアは、宮廷魔術師グリムの孫娘。

 実際にあちらの世界でも、他国民の殺害は戦争に発展する場合があった。またグリム家の客将になった弊害で、フォルトには立場があるようだ。

 彼女を悲しませないことが第一だが、デメリットのほうが多すぎる。


「腰は重いが、結局は旅に出るしかないか」

「貴方が旅に出るとか想像できないのだけど?」

「ははっ。俺もだ、マリ」

「みんながそれぞれで動くのはどうなのかしらあ?」

「それは駄目だ! お前たちには近くにいてもらいたい!」

「「っ!」」


 フォルトに力強く言われたことで、皆の顔が赤くなる。とはいえ残念ながら、その光景は見られなかった。

 飯をガツガツと食べていたからだ。


「もぐもぐ。うん? どうしたルリ?」

「ななな何でもないわあ」

「そうか」

「でもフォルト様は、旅に耐えられるのかしら?」

「うーん」


 引き籠りと旅を天秤てんびんにかけると、フォルトの場合は前者が勝つ。しかしながら身内が絡むとなると、後者に傾く。

 何度も同じことを考えてしまうが、もう諦めるしかないだろう。


「耐えられるかどうかは分からんが、まぁ頑張ってみるとしよう」

「へぇ。辛くなったら言いなさい。ルリちゃんとサポートしてあげるわよ」

「どうせ馬車から出ないっしょ? あたしは従者だから面倒をみてあげるわ!」

「お前たち……」


 フォルトからすると、生活支援センターの世話になっている気分だった。だが、赤の他人から言われるよりは身に染みる。

 ここまで言われてもまだ引き籠っていたら、男が廃るだろう。


「助かる。ではどこに向かうか、だな」

「ミノタウロスの討伐がありますのでぇ。フェリアスは確定でーす!」

「あぁそうだソフィア。俺たちは国境を越えられるのか?」

「どうでしょう。厳しいかもしれません」

「ふーん」


 エウィ王国の国法で、異世界人は国外に出られない。しかも客将とはいえ、魔族が大手を振って国境を越えられるとも思えない。

 それでも本来なら処分対象のフォルトが、何事も無く過ごしているのだ。

 また国境だけを考えれば、自由都市アルバハードに訪れた。ソル帝国領のダマス荒野にも足を踏み入れている。

 例外というものはあるだろう。


「御爺様に聞いてみますか?」

「そうだなソフィア。頼む」

「はい!」


 聞くだけならタダである。

 ソフィアはうれしそうな表情で引き受けてくれた。今まで庇護下ひごかにあったので、フォルトから頼られるのが嬉しいのだろう。

 大した内容でなくても、だ。


「フォルト様。ちょっとよろしいですか?」

「どうしたレイナス?」

「アルバハードの近くに魔物がいると……」

「あっ! 聖剣ロゼか!」

「はい。そこで強くなりなさいと言っていましたわ」

「だったな。そうか。アルバハードか」


 フォルトは考える。

 自由都市アルバハードは、三大大国との国境が重なる場所だ。エウィ王国やソル帝国はもちろんのこと、亜人の国フェリアスとも接している。

 活動拠点を構えるならば、丁度良い場所だった。


「なるほどなるほど。ではバグバットの世話になるか?」

「バグバット様ですか?」

「うむ。俺たちの身元引受人になってもらおう」


 これなら完璧である。

 三国会議も終了して、祭りに訪れていた人間もいなくなっただろう。そもそもの人口は知らないが吸血鬼が治める国なので、人間は多くないはずだ。

 各国が配慮する真祖バグバットに身元引受人となってもらえれば、エウィ王国は強く言えないかもしれない。

 立地条件も良い。

 聖剣ロゼが言っていた沼地も近く、フェリアスの国内にある。問題は面識を持ったばかりのフォルトの頼みを、彼が引き受けるかどうかだった。

 これも、先ほどと同様で聞くのはタダだ。


「ニャンシー」

「何じゃ主?」


 ニャンシーは眷属けんぞくなので、会議には加わっていない。

 それは、ルーチェやクウも同様である。席には着いているが、フォルトの最終的な決定を待っているだけだ。


「バグバットの所に行って、身元引受人になれるかどうかを聞いてこい」

「良いぞ。わらわに任せておくのじゃ!」


 ニャンシーは、バグバットの屋敷も訪れたことがある。魔界を通れば、すぐに辿たどり着けるだろう。

 これで回答待ちになったが、まだまだ議題は多い。


「そうなると、みんなを空輸しないと駄目か?」

「だから、馬車で行けばいいじゃん!」

「アーシャは空が苦手だっけ?」

「に、苦手じゃないわ。カーミラが速く飛びすぎなのよ!」

「えへへ。さっさと御主人様の近くに戻りたかっただけですよぉ」

「それでもよ!」


(あのときのアーシャは息を切らしていたな。馬車でも別にいいか。町にさえ寄らなければ、人間と会うことはないのだし……)


 魔の森から双竜山の森までは、馬車で移動したので経験済みだ。

 ソフィアの膝枕が思い出されるが、あれからセクハラが多くなったか。少し休憩とばかりに、フォルトは妄想にふける。


「御主人様がイヤらしい顔をしていまーす!」

「あ……。んんっ! 馬車はグリムの爺さんから借りられるのか?」

「何台か保有していますので大丈夫だと思います」

「それも聞いておいてくれ」

「はい!」

「次は森の管理か」


 アルバハードに全員で向かうと、双竜山の森には誰も残らない。

 長期に渡って留守にするので、屋敷や畑が荒れ果ててしまう。放棄するつもりは無いので、どうにかしたいところだ。


「カーミラはどう思う?」

「管理はドライアドで問題ありませんよぉ。畑も必要無いと思いまーす!」

「そうか?」

「心配なら眷属を残しておくと安心ですねぇ」

「なるほどな」


 眷属はいつでも呼び出せるので、一緒に連れていく必要は無いか。

 後はブラウニーを一体だけ残して畑を閉鎖すれば、コスト面でも大幅削減だ。倉庫にある食料は、拠点が決まってから運び込めば良いだろう。

 カーミラが……。

 そんなことを決めていると、姉妹に指摘された。


「貴方は戻らないと思うわよ?」

「え?」

「アルバハードに定住しそうよねえ」

「ぐっ!」


 マリアンデールとルリシオンの言葉は、かなり的を射ていた。

 確かに良い場所があれば、そのまま住み着く可能性がある。とはいえ国境越えの条件で、双竜山の森に帰還することが盛り込まれそうだ。

 これについては、グリムの回答待ちとなる。


「まぁ何だ。最後の問題はリリエラだな」

「私っすか?」


 もちろんリリエラも連れていくつもりなので、会議には参加させている。だが扱いがフォルトの玩具だからか、口を挟めるはずもない。

 テーブルの端で、ずっと黙っていた。


「ちょっとバタバタするから、クエストに出せんな」

「そうっすか?」

「アルバハードで拠点を決めてからになる」

「はいっす!」

「それまでは従者でもやってくれ」


 リリエラを使ったゲームの方向性は考えていた。

 クエストに出さないのはそのためで、まだ形になっていなかったのだ。アルバハードに向かうなら、彼女にはやってもらいたいことができた。


「よし! 後はニャンシーが戻ってからだ。残りの飯を食おう!」

「はーい! じゃあ御主人様。あーん」

「あーん」


 さすがに会話しながら食べると、料理の量が減っていない。

 テーブルの上にはまだまだ残ってるので、全員で平らげた。

 以降は食事も終わって風呂場に向かう頃、ニャンシーが戻ってくる。続けて報告を聞いた瞬間に、フォルトは口角を上げるのだった。

Copyright©2021-特攻君

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