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異世界は小悪魔と共に  作者: 特攻君
第十一章 それぞれの拠点
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旅立ちの予感1

 双竜山の森に訪れた本日のお客様は、冒険者のシルビアとドボである。

 彼らには、新興の裏組織についての調査依頼を出していた。フォルトはカーミラと一緒に、その報告を聞いているところだ。

 四人はテラスにて、顔を合わせていた。


「何か雰囲気が変わったねぇ」

「そうか?」

「どこがってわけじゃねぇが、堂々としてやがるな」

「ははっ。気のせいだ。気のせい」

「まぁいいけどね」


 魔族の貴族ローゼンクロイツ家の当主を押し付けられてからというもの、フォルトという人物は変わっていた。

 それは、バグバットやエインリッヒ九世のような身の丈に合わない人物を相手にしたことも多分にある。大罪の傲慢を表に出して振る舞わないと、マリアンデールやルリシオンに嫌われそうで気が気でないのだ。

 急激な変化は無理なので、少しずつ頑張っている。


「そんな話よりも、依頼の報告をしてくれ」

「そうだったね。ドボ」

「おう。新興の裏組織の名称は「蟻の巣」。構成員は五百人ぐらいだな」

「五百人というのは多いのか?」

「いや。少ねぇな。元からある裏組織なら万単位だぜ!」

「ふむふむ」

「さすがにボスの名前は分からなかったよ」

「新興といっても裏組織だしな」


(冒険者に名前が知られるようでは、デルヴィ侯爵も付き合わないか。となると、嫌がらせは無理かな?)


 裏組織の首領が分かれば、デルヴィ侯爵への嫌がらせがやれると思っていた。

 とても浅はかではあるが、おっさんの考えなどそんなものだ。しかも「やれたらいいな」程度なので、フォルトは本気で取り組んでいない。

 それでも情報としては面白いので、最後まで聞いておく。


「他には?」

「扱ってるブツがヤバい」

「ほう」

「麻薬だよ。依存性が高くて、体に害が少ないって話だね」

「それはまた……」

「リピーターが付くから収入はデカいよ」

「確かにな」

「さすがに使い続けりゃ死んじまうけどね」

「ふーん」


 こちらの世界でも、麻薬は巨万の富を生む。

 それに泣かされる人間は多いが、裏組織の人間に言っても無駄である。「蜂の巣」が扱う麻薬の特性を考えれば、完全に廃人となるまで依存するだろう。

 その売買利益の一部が、デルヴィ侯爵に流れている可能性は高い。もちろん侯爵に対する人物評からの憶測で、フォルトには何の根拠も無い。


(麻薬ねぇ。生産している拠点でも襲えば、侯爵への嫌がらせになるかな? その程度なら、ニャンシーでもやれそうだ。まぁ暇潰しに色々と考えてみよう)


「以上か?」

「依頼についてはね。それともう一つ、町で流れてるうわさだけどね」

「噂?」

「聖女さ……。んんっ! ソフィアさんが異教徒って噂が流れてるね」

「ほう」


 シルビアは渋い表情をしているが、この情報は予想通りである。

 新しい聖女が選ばれれば、ソフィアを手に入れるために動く思われていた。噂の出所は、これも憶測だがデルヴィ侯爵だろう。


「ソフィアは身内だ。森からは出ない」

「身内? あんたの女にでもしたのかい?」

「そうだ」

「けっ! これだから日本人は……」


 ソフィアを身内にしたことと日本人に関係があるかはさておき。

 双竜山の森の外で、どう騒がれようが気にする必要は無い。もしも異教徒の認定を受けて追われるようなら、フォルトが全力で守るからだ。


「そんなところか?」

「だね。じゃあ依頼は完了でいいかい?」

「うむ。よくやってくれた」

「前回のびもあったからね。しっかりとやらせてもらったよ」

「上出来だ。カーミラ。報酬を渡してやれ」

「はあい!」


 胸の谷間――ほぼ無い――に手を入れたカーミラは、依頼料を取り出した。そもそもフォルトの金ではないので、懐が痛まないとはこの事である。

 奪われても気付かないソル帝国の馬鹿貴族に感謝だ。


「もう依頼は無いのかい?」

「うーん。今は特に無いな」

「オメエは気前がいいからよぉ。上客なんだよ。何かねぇか?」


 二人の冒険者は、目をキラキラさせている。

 シルビアなら良いが、ドボは気持ち悪い。しかしながら、彼らの言っていることは理解できる。指名客として、独占したいのだろう。

 フォルトとしても、ここで関係を終わらせるのは勿体もったい無いと考える。森の外で動ける貴重な人材で、リリエラだと彼らの代わりは無理だ。

 ならば……。


「二人にはどこに行けば会える?」

「あん? 城塞都市ソ、じゃない。城塞都市ミリエが拠点だぜ」

「聖女の名前を使うのだったな」

「そうみたいだね。まぁ私たちには関係無いさ」

「ギルドを通さないでもらえると俺らも助かるぜぇ」

「がめついな。なら、ニャンシー」


 現在はリリエラが森に戻っているので、護衛として付けたニャンシーもいる。

 先ほどまでは屋敷の中で、ソフィアたちに魔法を教えていた。魔界を通るほどの距離でもなく、『影潜行かげせんこう』のスキルを使ったようだ。

 フォルトの影から飛び出して、シルビアとドボはビックリさせた。


「主よ。呼んだかの?」

「うおっ!」

「なっ! こ、この獣人族は誰だい?」

「猫だ」

「猫、言うな!」

「ははっ。そう言えば、二人とは会ったことがなかったな」

「あ、あぁ……」

「次に依頼するときは、ニャンシーを伝令で送る」

「そうか? 依頼が入ってなきゃ冒険者ギルトにいるよ」

「場所を教えてもらえるかの?」

「いいぜ」


 冒険者ギルドの場所を教えてもらったニャンシーは、用事が済んだとばかりに屋敷の中に戻っていった。

 ともあれシルビアたちは、獣人族を見たことがあるようだ。と言っても、彼女の外見は少々違う。だからなのか二人は、怪訝けげんな表情をしているのだった。



◇◇◇◇◇



 依頼の報告を終えたシルビアとドボは、小屋で一泊してから森を出ていった。

 それを見送ったソフィアが戻ってきたので、彼女の噂について伝える。昨日のうちに言えば良かったが、そんなものは後回しだった。

 他にやることが山積しているからだ。

 身内が多いので、それは仕方が無い。


「私が異教徒ですか?」

「噂レベルだけどな」

「デルヴィ侯爵が動きだしたのかしら?」

「どうだろう。そんなにもあからさまな人物なのか?」

「いいえ。老獪ろうかいというか……。計画性が高い人物ですね」

「だよな。会ったときは、俺もそう感じた」

「では、他の者が?」

「さぁ? 別に異教徒でもいいと思う」

「え?」

「ローゼンクロイツ家は魔族の貴族。暗黒神……。暗黒神……」

「暗黒神デュールでーす!」

「さすがはカーミラだ!」

「えへへ」


 天界の神々の名称は、どうも覚えられない。

 聖神イシュリルも、たまに忘れるほどだった。カーミラがメモ帳の代わりになっており、フォルトとしては重宝している。


「魔族は暗黒神デュールを信奉しているのだろ?」

「はい」

「俺がソフィアを迎え入れたなら、異教徒の噂が本当になるって話だ」

「それって……。けけけ、結婚!」

「建前だけどな」

「た、建前ですか?」


 フォルトは結婚をしない。

 身内に上下関係は無く、第一夫人や第二夫人などと順番を付けたくないのだ。という話は全員に伝えてあり、幸いにも理解を得られている。


「俺がローゼンクロイツ家の婿養子になったのと同じだ」

「同じようなものですよね?」

「今の生活を考えると……。そうだな」


 ソフィアに限らず身内とは、同棲どうせいをしているのだ。

 はっきり言うと、婚姻届けの有無だけの気がする。「やることはやっている」と考えると、フォルトのほほがだらしなく緩んだ。


「御主人様がイヤらしい顔をしていまーす!」

「んんっ! つまり、そういうことだ」

「もう! 勝手なんですから……」

「ははっ。気にするな」

「なら堕落の種を食べますかぁ? 神から離れるならいいと思いまーす!」

「堕落の種、ですか」


 カーミラは事もなげに言うが、ソフィアは考え込んでいる。

 それも、当然だろう。レイナスやアーシャは堕落の種を取り込んでいるが、普通の人間は悪魔になるなど嫌に決まっている。しかも聖神イシュリルを信仰している元聖女の彼女が、それを認めるとも思えない。

 もちろんフォルトも理解しており、堕落の種については時期尚早だったかもしれない。しかしながら堕ちた魔人は、彼女の説得に入る。


「悪魔になりたくないのか?」

「そ、そうですね」

「レイナスとアーシャは受け入れてくれた」

「私は聖神イシュリルの信者で……」

「それは続けるのか?」

「え?」

「神らしいことはされていないと思うのだが?」

「いえ。心の拠り所と申しますか……」

「拠り所なら俺がいる!」


 真面目な顔をしたフォルトは、隣に座っているソフィアを抱き寄せる。

 カーミラは背後から、ムニュムニュと後頭部を刺激してくれた。


(決まった。一度は言ってみたかったんだよな。こればかりは、相手がいないと駄目だし、独り言だと自分でも気持ち悪いからな)


「食べます」

「………………」

「カーミラさん。堕落の種をください」

「本当にいいのかなぁ?」

「はい!」

「………………」


 ソフィアの決断が早い。

 早すぎて、フォルトの時間が止まってしまった。最近は彼女のことを良く分かってきたつもりだったが、まだまだ甘かったようだ。

 チョロインとは、まさに彼女のことではないだろうか。


(何でシュンに口説き落とされなかったのだろう。いや本当に……。まぁそんなことはどうでもいいか。ソフィアの老化も止まるし良かった良かった)


「えへへ。じゃあ、はい!」

「これが堕落の種ですか?」


 またもやカーミラが胸の谷間から、ひまわりの種のようなものを取り出す。

 それを受け取ったソフィアは、口の中に放り込んで飲み込んだ。


「完了でーす!」

「ソフィア?」

「これしか道は無いようなので致し方ありませんね」

「はい?」

「いえ。何でもありません」


 先ほどのやり取りが冗談だったように、ソフィアは一瞬だけ真面目な顔をした。だがそれに気が付いたのは、後ろにいるカーミラだけである。

 フォルトは首を傾げながら、堕落の種の性質を思い出していた。


「ソフィアもレベルを上げないとな」

「え?」

「レベル四十以上だったな。まぁ狩り場は無いのだが……」

「ふふっ。そうですね」

「えっと。効果時間は無限じゃないのでぇ。レベルを上げてくださーい!」

「あ……。無限じゃないのか?」

「でもでも。あと数年は平気ですよぉ」


(消費アイテムだし、そんなものだろうな。レイナスはレベル三十、アーシャもレベル二十五を越えた。ソフィアも間に合うだろうが、やはり狩り場が問題か)


 改めて制限時間があると知って、フォルトはある決断に迫られた。

 それは双竜山の森から出て、他の場所で狩り場を探すことだ。とはいえそれは、自分自身のためになる。

 身内たちと一緒に、永遠を生きたいのだから……。


「マリとルリも限界突破がどうとか言っていたな」

「お二人が限界突破ですか?」

「ソフィアには伝えてなかったか。シェラに神託を頼んでいるところだ」

「いつの間に……」

「二人はレベルを教えてくれないのだ」

「魔族は隠しますよ」

「シェラは教えてくれたけどな」

「暗黒神デュールの司祭ですからね」

「暗黒神でも正直に言わないと駄目なのか?」

「はい。暗黒神デュールもまた、天界の神々です」


 天界の神々は、善と悪という概念ではない。

 司るものの違いだけで、同じ天界の住人と認識しないと駄目らしい。善と悪の概念で考えるなら、天界の神々と魔界の神々とで区別するそうだ。

 魔界の神々では、悪魔王が筆頭として挙げられる。

 他にもいるが、それはまた別のお話だった。


「そうなると……。旅?」

「旅ですか?」

「御主人様は森を出るのですかぁ?」

「うーん。レイナスたちのレベルも上げないと駄目だしな」

「近くだと、石化三兄弟だけでーす!」

「討伐するとソル帝国が……。って、もういいような気もするな」

「森と山に入られるのが鬱陶うっとうしいだけですよねぇ?」

「うむ」

「ゴーレムとかを召喚しておけばいいんじゃないですかぁ?」

「うーん。コストがなあ」


 一体や二体を召喚したところで、あまり意味は無い。

 対応する範囲が広すぎるためだ。しかもゴーレムだと鈍重なので、広い場所では不向きだった。また数を召喚すると、コストとして魔力が多大に消費される。

 フォルトの魔力は、魔人らしく膨大である。とはいえ毎日のように減少すると、いずれ空になるだろう。


(一考の余地があるな。それと限界突破の魔物次第ってのもある。そう言えば、もうすでに神託は聞いているだろう。あぁ気が重い)


 姉妹やシェラに尋ねていないのは、結果を知ると動く必要があるからだ。

 どの魔物になるにせよ、森の近くに棲息せいそくする魔物が対象ではないだろう。神託の結果を後回しにすることで、自堕落生活にしがみついている。


「マリとルリは?」

「食堂でーす!」

「なら、飯を食いながら尋ねるとするか」

「「はい!」」


 色々と話し込んだので、夕飯が近いようだ。いつものように、フォルトの暴食を刺激する匂いが漂ってきた。

 そして三人は釣られるように、席を立ちあがるのだった。

Copyright©2021-特攻君

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