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異世界は小悪魔と共に  作者: 特攻君
第十章 新・聖女誕生
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新・聖女誕生2

 双竜山の森に戻ったフォルトは、いつもの自堕落生活を送っていた。

 ここ最近は引き籠りのおっさんでは経験しないことばかりが続いている。とはいえソフィアの護衛から始まった一連の厄介事は、とりあえずの終わりを迎えた。


「ふぅ。疲れが取れん」

「御主人様は疲れたんですかぁ?」

「頭がな。体は平気だぞ」

「えへへ。じゃあ膝枕ですね!」


 フォルトは屋敷の屋根で寝転がって、カーミラの膝枕を堪能する。

 エインリッヒ九世との非公式の謁見が終わり、城塞都市ソフィアから帰還して数週間が過ぎていた。気疲れが先行しているので、頭の回転が鈍い。

 それでも多少は回復しており、とある人物を思い出す。


「そう言えばリリエラは?」

「戻っていますよぉ」

「あれ?」

「御主人様の思考能力がゼロなので、今は待機していまーす!」


 屋敷に帰ってからのフォルトは、すぐに寝室で寝てしまった。

 もちろん、やることをやってからだが……。

 そして現在まで、普段以上にダラけていた。

 とにかく何も考えたくなくて、寝室の中に引き籠っている。小刻みに惰眠を繰り返していたが、やっと元の状態に戻ってきた。

 やることはやっていたが……。


「クエストの報告を聞かないとな」

「カーミラちゃんが呼んできますねぇ」

「頼む。テラスで聞くとしよう」


 屋根から飛び降りたフォルトは、そのままテラスに向かう。

 今はシェラが寛いでおり、お茶を飲みながら双竜山を眺めている。


「シェラ」

「あら魔人様。体調はいかがですか?」

「そろそろ復活してきた。ところで他のみんなは?」

「レイナスさんとアーシャさんは湖にいますね」

「日課の訓練か」

「えぇ。ソフィアさんは部屋でダウンしています」

「そ、そうか。起こさないでやってくれ」

「はい。マリ様とルリ様は、双竜山に行っていますわ」

「双竜山?」

「ペリュトンを使った料理を作ると言っていましたわね」

「おっ! いいね。久々だ」


 ビッグホーンの肉を入手してからは、ブラッドウルフでの狩りは行っていない。だがシェラから言われてみると、確かに食べたい。

 魔の森ではペリュトンの肉を食していたので、思わず懐かしさが込み上げる。しかも、普通の鳥肉より美味なのだ。


(気が利くなあ。さすがはルリだ。いい奥さんに……。って、やぶ蛇だな。ローゼンクロイツ家を名乗ったが、結婚したわけではないのだ!)


「マスター!」


 シェラと会話をしていると、カーミラがリリエラを連れてきた。

 よく見ると服装は変わっているが、残念ながら趣味ではない。


「済まんな。ほったらかしにした」

「大丈夫っす! マスターは忙しいって聞いたっす!」


 元気なリリエラを前にすると、フォルトには申しわけなさしかない。

 忙しいと言われたが、ただひたすらに惰眠を貪っていただけなのだ。

 他には、寝室とつながっている風呂と食堂に移動したか。だが目は虚ろで、何を食べたかすら覚えていなかった。

 それでも、ソフィアの乱れた姿だけは記憶に残っている。


「んんっ! それでは報告せよ」

「はいっす!」


 隣に座ったカーミラを触りながら、リリエラの報告を聞く。

 それにしても、彼女の表情が暗い。どうしたのかと思ったが、フォルトはその理由に思い当たる。

 彼女は双竜山の森に連れて来られるまでは、デルヴィ侯爵の部下たちに凌辱りょうじょくされていた。だからこそ、このような行為を嫌悪しているのだろう。

 もちろん気持ちは理解できるが、玩具に配慮するつもりはない。


「どうした?」

「い、いえ。それでは報告するっす!」


 1.リトの町に到着後は、教会を宿とした。

 2.女神官に依頼して、新しい服を買う。

 3.着替えた後は、商人ギルドで特産品の一覧をもらう(クエスト達成)。

 4.以降は郵便配達の仕事をする(給金の一割を寄付)。

 5.同時にリトの町で、特産品の値段を調査する(商人ギルドに所属できず、特産品の詳細が有料のため)。

 6・期日内に終わらず、双竜山の森に帰還。


 リリエラはメモを見ながら、簡潔に報告した。

 最初のクエスト報酬だった筆記用具を、きちんと使っているようだ。読み書きができるのは、ミリアだったときの経験だろう。

 ちなみに筆記用具や紙などは、あちらの世界よりも値段が高い。消耗品なので使いどころに迷いそうだが、それらを物惜しみしないところは好感が持てる。

 ともあれ……。


「………………」

「マスター。どうっすか?」

「………………」

「マスター?」

「すばらしい! よくやったリリエラよ!」

「え?」


(特産品とは、すぐに分かるものだったのか。商人ギルドと言っていたし、組合みたいな施設があるようだ。リリエラは値段を調べていたようだけど……)


 はっきり言って、特産品の値段は必要無い。

 欲しいものがあれば、カーミラに任せるからだ。と言ってもエウィ王国だと、グリム家との約束を破ってしまう。

 基本的には、ソル帝国から奪った金で買うつもりだった。

 フォルトからの称賛を受けて、リリエラはキョトンとしている。値段まで調査していたので、クエストは失敗だと思っていたか。


「ふむふむ。なるほど。ほうほう」

「マスター?」

「あぁ報酬だったな。今回はこれをやる」


 リリエラのために用意しておいた報酬は、何とサバイバルキットだ。日本で売られているものよりは劣るが、最低限のことならできるだろう。

 折り畳み式ナイフ・多機能スプーン・薬入れ・サバイバルシート。他にも、松明と火打石などが入った袋がある。

 もちろんカーミラに頼んで、ソル帝国の町から奪っておいた。相変わらずの盗賊団状態だが、悪魔の彼女は喜んでやっている。ならば、それで良いのだ。


「野営を想定した訓練をやっていただろ?」

「マスター」

「次のクエストは、まだ考えていない」

「そうっすか?」

「いつものように過ごしていてくれ」

「分かったっす!」


(次は何をやらせようかな? 某ゲームだと、勲功が貯まればクエストの難易度も上がる。なら、もう少し難しくても良いのか? 現実世界だと……。おや?)


 そんなことを考えていると、上空を白い鳥が旋回しているのに気付く。

 伝書鳩でんしょばとのように使われているハーモニーバードだ。ソフィアがグリム家との連絡に使っており、何かの知らせが届いたか。

 どうやら、彼女の部屋に入りたいようだ。


「シェラ」

「私が行ってきますわ」

「頼む」

「はい。ちゅ」


 フォルトのほほに口付けしたシェラが、ソフィアの部屋に向かった。

 それを眺めていたリリエラの顔は真っ赤である。男女のスキンシップを嫌悪していても、少しぐらいは憧れがあるのかもしれない。

 そして彼女を見送りながら、次のクエストを考えるのだった。



◇◇◇◇◇



 シュン率いる勇者候補チームは、ザインからの呼び出しを受けて、カルメリー王国から城塞都市ソフィアに戻った。

 そしてすぐに、騎士訓練所の一角に集合させられる。


「急な呼び出しって何だよ? こっちは……」

「ははははっ! そう言うな。お前らもご苦労だったな」


 他の仲間にも、ザインから労いの声をかけられた。

 彼らの面倒を見ていた騎士は違うが、この場にいない。代わりと言っては何だが、三人の見慣れない男女がいる。


「まずは、こいつらを紹介しておく」

「紹介? そんなことのために呼び戻したのかよ」

「馬鹿を言うな! 知っておいて損は無いぞ」

「え?」

「とりあえず三人は、自己紹介をしろ」


 ザインは三人のうちの一人に、鋭い視線を飛ばす。

 その瞬間に、シュンは恐ろしいほどの重圧感を感じた。また周囲の温度が、一気に下がったようにも思える。


「プロシネンだ。イギリスから召喚された」


 プロシネンと名乗った男性は、青いよろいを着た戦士である。

 イギリスというように、白い肌と青い目が特徴的だ。鼻梁びりょう頬骨ほおぼねが高くて、茶色寄りの赤毛は短く刈っている。

 体格はシュンと変わらないのだが、なぜか大きく見えた。

 少しだけ、そう少しだけ後ずさりしてしまう。ギッシュやアルディスも同様のようで、いつもの軽口を出せずにいる。


「ちょっとプロシネン。みんな怖がっているわよ?」

「ふん! この程度で恐れるなら、さっさと脱落したほうがいい」

「まったく……。ごめんなさいね。私はシルキーよ。カナダ出身ね」


 シルキーの一言で、プロシネンから受けていた重圧感が和らぐ。

 そして、いかにも魔女といった格好をしているのが彼女だ。とんがり帽子を頭にかぶって、紫色のローブを着ていた。

 欧州系のハーフ顔で、榛色はしばみいろの目が特徴的か。金髪の美人だが、年齢はシュンよりも高そうなので守備範囲外だ。

 とても人の良さそうな女性に見える。


「アイヤー! 俺はギルだ。レンジャーをやってるぜ」

「その言葉は……。まさか中国人か?」

「当たりだ。よろしくな」


 言葉遣いに違和感を覚えたが、やはり中国人だった。

 同じアジア人なので日本人との差はあまり無いが、丸顔の細目だ。黒髪を伸ばしているのか、後ろで束ねている。

 ここでシュンは、日本人以外の異世界人と会ったのは初めてだったと思い出す。思考の遅れはプロシネンのせいだが、それは置いておく。

 どう接すれば良いか迷いどころだ。


「ザインさん。この人たちは?」

「勇者アルフレッドの仲間だった奴らだ」

「「ええっ!」」


 勇者は死亡したと聞いていたので、シュンたちは驚きの声をあげた。

 その仲間も同様と思っていたのだ。しかしながら、勇者の従者だったソフィアは生きている。よく考えれば、彼らが生存していても不思議ではない。

 それに、先ほどの重圧感で理解した。プロシネンはあからさまだったが、他の二人からも威圧されているようだ。

 三人とは、相当なレベル差がある。


「俺らの大先輩かよ」

「ふふっ。大先輩は言い過ぎよ。これでもまだ三十代なんだからね!」

「アイヤー! 後半って言葉が抜けてるぜ?」

「うるさい!」

「ふん! お前らは変わっていないな」


 どうやら元勇者チームの面々は、別々に行動をしていたようだ。エウィ王国に入国したところで呼び戻されたらしい。

 シュンは三人の自己紹介を受けて、最初にザインが口にした言葉を確認する。


「まずは、と言ってたような? 他にも誰かいるのか?」

「そっちが本命だが、次の聖女様が決定した」

「はい?」

「お前たちが知らないのも無理はない」

「聖女はソフィアさんじゃねぇのか?」

「変わるのだ。だから、お前たちを呼び戻した」


(そのあたりの事情は知らねぇけど、ソフィアさんは聖女じゃなくなった? じゃあ俺が会う機会はねぇのかよ! マジか。最悪だぜ)


 聖女は異世界人の面倒を見ているので、いずれ再会できると思っていたのだ。だが聖女が変われば、その役目からは離れてしまう。

 そうなると、シュンと会う機会などほとんど無い。ソフィアは宮廷魔術師グリムの孫娘で名代も務めていたので、身分が違い過ぎるのだ。

 良い雰囲気になるまで口説いていたが、すべてが無駄になる。


「ちっ。んで?」

「シュンたちには、新たな聖女様と面会してもらう」

「なるほどな。シルキーさんたちも、か?」

「三人は役目から外れているが、聖女様と面識を持ちたいようでな」

「役目から外れる?」


 元勇者チームは、魔王を討ち取ったという大功績を挙げている。

 その褒美として、彼らの望みだった自由が許されたのだ。他国に仕官できないという縛りはあるが、エウィ王国からの命令は受けなくても良い。またどの国家であっても、彼らを縛れないという国家間の協定も結ばれている。

 その調停役を、吸血鬼の真祖バグバットが務めていた。もしも協定を破れば、自由都市アルバハードと敵対することになる。

 勇者級の強者とはいえ一個人のために、危険を冒す国家は存在しない。かの吸血鬼はアンデッドの大軍を以って、一国を滅亡させているのだ。


「その聖女様は?」

「二週間後だな。王宮にお出でになるまで、三人にみっちりと鍛えてもらえ」

「「ええっ!」」

「シュンとギッシュは、プロシネンに任せる」

「いいだろう」

「アルディスは無手だから、ギルなら丁度良い」

「へへっ。よろしくな」

「エレーヌとノックスは、魔法使いのシルキーに任せる」

「はいはい」


 新たな聖女との面会まで時間があるとはいえ、勝手に決めないでもらいたい。と言いたいところだが、ザインの決定は断れないだろう。

 魔王を討伐した勇者の仲間は、自分たちの目標にできる者たちだ。


(いいご身分で羨ましいが、褒美の内容はもっと考えるべきだったな)


 そしてシュンは、三人の待遇を聞いて思った。

 魔王討伐の報酬として、彼らはエウィ王国からの自由を選んだ。しかしながら自身であれば、好待遇を選択する。

 こちらの世界での人間社会は、格差の極みなのだ。褒美で貴族になることができれば、将来は薔薇ばら色の人生だろう。

 ついでに、領地も拝領できれば万々歳である。

 もちろん同時に、勇者級の強さも目指していた。

 褒美を得るためには、何かしらの功績を挙げないと無理だ。ならば最上の功績を挙げた彼らとの実力差を、肌で感じる絶好の機会だった。

 今は自らの欲望のために、強くなるのが先決だ。


「用事を済ませてからでいいか?」

「急に呼び戻したからな。休息も必要だし、三日後から始めろ」

「じゃあザイン。ソフィアちゃんの近況を教えてね」

「俺も聞きたいな」

「いいだろう。プロシネンも……。聞きたいようだな」

「あぁ」


 偉そうなプロシネンだが、仲間だったソフィアのことは知りたいらしい。魔王討伐を共にした人物なので、そのきずなは深いのだろう。

 シュンも聞きたいところだが、ここはグッと我慢する。


「さてと。俺らは色々とやることがあるからな」


 シュンは仲間に声を掛けて、この場から離れた。

 まずは、カルメリー王国の冒険者ギルドで受けた依頼の達成報告からだ。他にも旅の間に貯まった洗濯物やら所持品の整理などがある。

 二週間は滞在するので、部屋の準備や荷物の移動もしないといけない。

 そして諸々を終わらせたシュンは、ラキシスと会うため神殿に向かう。しかしながら、とても慌ただしい。

 新たな聖女が決まったことに関係しているだろう。


(ちっ。落ち着けば会えるだろうが、当分は無理か? それに神殿だけじゃねぇな。騎士たちも走り回ってるし……。まぁ仕方ねぇか)


 それでも、シュンは我慢ができる男で、だからこそのアルディスである。スペアを確保するのは、こういうときのためだ。

 ホスト時代は、二股など基本中の基本である。一日一人は相手をしていた。金にならない女性はすぐに捨て、都合の良い女性に乗り換えた。

 そうやって売上を伸ばして、人気ホストまで上り詰めたのだ。


「他にいい女がいねぇかな?」


 シュンは神殿から帰るときも、女性を物色している。

 こちらの世界の女性は、なぜか容姿の良い者が多い。絶世の美女とまでは言わないが、あちらの世界であればナンパの対象だった。

 それに理由はあるのだが、もちろん知る由も無い。

 実のところ容姿が良いのは、こちらの世界で生きるための手段なのだ。特に貴族であれば、昔から容姿の良い者同士で婚姻を結んでいる。

 要は遺伝を使った容姿という武器で、他の者たちよりも優位に立とうとした。しかも実家を継げなかった次男三男が平民に落ちて、それを真似するのだ。

 当然のように他の平民も続き、何百年と交わった結果が今日である。

 ともあれ……。


「その前にエレーヌだったな」


 カルメリー王国から帰るときに、エレーヌから何度か相談を受けていた。

 男性不振の彼女に、その療法を教えている。日本ではノウハウ本も売られているぐらいなので、雑学として頭に入れてあった。

 そういった努力の末に、彼女との仲もだいぶ進展しただろう。ならばとシュンは、都合の良い女性を増やすために動きだすのだった。

Copyright©2021-特攻君

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