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異世界は小悪魔と共に  作者: 特攻君
第十章 新・聖女誕生
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魔人と国王3

 席を立ったフォルトは、エインリッヒ九世との面会を終わらせようとした。庇護ひごの対価として働かされるぐらいなら、王家の世話になる必要は無いからだ。

 やはり、国王と面会したのは間違いだったか。


「待て!」

「まだ何か?」

「話は終わっておらん!」

「もう話すことは無いと思われますが?」

「いいから座れ! 謁見の間であれば大変な事態になっておるぞ!」

「ふぅ」


(少し身勝手だったか? でも、これについては国王が悪い。俺のことはグリムのじいさんから聞いてるはずだ)


 反省はしていないが、フォルトは仕方なく席に戻った。

 護衛の宮廷騎士に目を向けると、エインリッヒ九世を守るように前のめりだ。腰から下がった剣の柄を持ち、命令があれば即座に襲い掛かってくるだろう。

 礼儀は不要と言われたが、少し傍若無人が過ぎたかもしれない。


「爺から聞いていた印象とは違うな」

「そうですか?」

「強く出れば従うと思っておったが……」


(パワハラ上司かよ! でもまぁ王様なんてそんなものか)


 働いていた頃のブラック企業で世話になった上司を思い浮かべて、フォルトはあきれてしまった。「こんな上司だったな」と苦笑いを浮かべる。

 ともあれ……。


「ローゼンクロイツ家を名乗りましたからね」

「魔族の貴族家とはいえ名乗る以上、無礼も過ぎると家名に泥を塗るぞ」

「そ、そうですね。もしかして、俺を斬りますか?」

「話をすると言ったであろう。だが放置できぬのも事実だ」

「………………」

「少し待っておれ」


 声を落としたエインリッヒ九世は、グリムと会話を始めた。

 残念ながら小声なので、内容は聞こえない。ならばとフォルトも、カーミラにヒソヒソと問いかけた。

 今のうちに、彼女の意見も聞いておきたい。


「カーミラはどう思う?」

「気持ちがいいですよぉ」


 このような場所でも、フォルトの悪い手は勝手に動いていた。

 テーブルの下なので、エインリッヒ九世やグリムには見られないか。しかしながらカーミラはほほを赤くして、甘い声を漏らし始める。

 これ以上は危ない。


「いや。そうではなく……」

「なるようになりますよぉ」

「そうか?」

「マリも言っていたじゃないですかぁ」

「あぁ……」


 家名を利用しろとはマリアンデールの言だが、フォルトからするとどう利用して良いのかが分からない。

 家名を出したところで、相手が平伏するとは思えなかった。


「フォルト・ローゼンクロイツよ」

「何でしょう?」


 話がまとまったのか、エインリッヒ九世が声をかけてくる。

 フォルトは何を言われてもいいように、少しだけ身構えた。


「王家に取り込むのが無理なら、爺にくれてやる」

「どういうことですか?」

「ほっほっ。ワシの客将という話じゃ」

「客将?」

「ローゼンクロイツ家当主が、人間の庇護など受けられまい?」

「そうですね」

「身分的に良いじゃろうし、姉妹も納得できるのではないかのう」

「ふーん」


 日本でいう客将とは、主従関係を結ばない客分待遇の武将のことだ。

 こちら世界では武将ではなく、将軍や貴族などが当てはまる。部下となる騎士や兵士とは違って、家主からの命令を受ける必要は無い。

 今後は庇護という名目が失われて、客将として扱われる。今までとあまり変わりないように思えるが、これで貴族たちを煙に巻くのかもしれない。

 グリムがフォルトたちの管理を続けるために、建前が必要だったのだろう。


(客将ねぇ。日本で有名な軍師や中国の豪傑なんかを思い出すな。厨二病ちゅうにびょううずく。確かにこれであれば、マリやルリから怒られないか)


「納得したな?」

「それでいいですよ」

「男として二言は無いな?」

「い、いいですよ」

「ならば良い。今より大変になるが頑張るようにな」

「え?」

「当然であろう? お前に接触してくる者も多かろうな」

「ええっ!」

「爺が守るのにも限界がある。自分で何とかせよ」

「………………」


 グリムの庇護があればこそフォルトに接触できたのは、ローイン公爵やデルヴィ侯爵といった大物だけだ。

 それが失われるということは、すべてを相手にする必要があった。

 一応は客将なので、多少は守ってもらえるだろう。だが、どうしようもないときは素通しにするはずだ。


だまされたのか? いや。これは生活保護を止めて自立しろって話だな。文句は言えないが、まぁ召喚魔法のおかげで自給自足はできているし……)


「ほっほっ。そのまま森を使っても良いが、家賃は頂こうかのう」

「くっ!」

「今はビッグホーンの素材をもらったから請求はせぬ」

「はいはい。まぁやれる範囲でね」


 双竜山の森の入口から屋敷までは、徒歩で一日はかかる。

 田舎の土地とはいえそれほどの広さであれば、かなりの金額になるだろう。完全に敵対して手中に収めても良いが、それだと最初に戻ってしまう。

 人類に喧嘩けんかを売っても、将来的に後悔するはずだ。

 フォルトの人間に対する考えが、延々とループする。と言っても、これで手打ちにしたほうが良さそうだった。

 それに思惑があったにせよ、今までの待遇は破格だった。しかも客将の件は、エインリッヒ九世が譲歩したとも解釈できる。

 これ以上駄々をこねると、グリムからの恩をあだで返すことになるだろう。


「居づらくなった出ていきますからね!」

「ほっほっほっ。客将とはそういうものじゃ」

「爺に迷惑をかけるでないぞ」

「分かりました。分かりましたよ!」

「では、舞踏会を楽しむが良い」

「やはりやるのか」

「馬鹿者。お前たちを招きはしたが主賓ではないぞ」

「はぁ……」


 にも角にも、これでエインリッヒ九世との面会は終わった。

 隣をチラリと見ると、カーミラが笑顔を浮かべている。すべてを任せてくれるのはうれしいが、これで本当に良かったのか。

 そんなことを考えたフォルトは、彼女と貴賓室に戻るのだった。



◇◇◇◇◇



 シュンはカルメリー王国の王城で、王女と思しき女性に近づく。

 まずは、アプローチをしないと始まらない。お約束のホストスマイルを浮かべて、好印象を持たれるように話しかける。

 しかしながら……。


「農具を他の場所に運ぶなら、俺が運んでやるぜ?」

「こ、こら! 無礼だぞ!」

「やっぱり?」

「当たり前だ! それ以上近づいたら、牢屋ろうやにぶちこむぞ!」

「ちっ」


 城内まで案内をしてくれた門衛に止められてしまった。

 腕を引っ張られて、王女との距離が遠くなる。だがそれを良しとしないシュンは、門衛の肩越しに片手を振って気を引こうとした。

 それが功を奏したのか、王女が門衛に告げる。


「あら。構いませんわよ」

「姫様!」

「姫と言ってもねぇ。属国の姫なんて、宗主国の道具に過ぎないわ」

「それは……。我らがふがいないばかりに……」

「いえ。お父様が悪いのです」


 どうやら話しかけても良いようだが、門衛と会話を始めてしまった。とはいえ遠慮を知らないシュンは、二人の間に割って入る。

 折角お近づきになれるチャンスなので、時間を無駄にしたくない。


「いいかな?」

「あ……。構いませんわ」

「農具はどこに運べばいいんだ?」

「男手は助かりますわね。ところで貴方は?」

「俺か? 俺はシュンだ。エウィ王国の勇者候補だぜ!」

「エウィ王国の……。なら、デルヴィ侯爵を知っているかしら?」

「名前だけな。会ったことはねぇ」


 ちなみにシュンは、王侯貴族と面会したことが無い。しかもフォルトのように前置きはせず、素で話しかけてしまった。

 それでも気さくな王女なのか、あまり気にしていないようだ。

 ともあれ王女が言ったデルヴィ侯爵は、エウィ王国の大貴族である。悪いうわさしか聞かないが、それを他国の王女に伝えられない。

 それぐらいの常識は弁えている。


「そう。貴方はデルヴィ侯爵を殺害できますか?」

「はい?」

「勇者候補なのでしょ? 悪の権化たる侯爵を討ってほしいですわ!」

「い、いや。悪の権化って……」

「まさかと思いますが、腰に差してある剣は飾りなのかしら?」

「いきなりそんなことを言われても、な」


 一体どうしたというのか。

 エウィ王国の大貴族を討てるわけもなく、どう答えて良いかも分からない。さすがに斜め上過ぎて、シュンはあたふたしてしまう。


「冗談ですわ。エウィ王国の人間に用はありませんの」

「え?」

「農具は運ばなくて結構。門衛さん。お帰りを願ってくださいね」

「はっ! ほら行くぞ!」

「あぁ……」


 王女はプイッと後ろを向いて、この場から離れていった。

 デルヴィ侯爵を殺すと言えば良かったのか。はたまた、エウィ王国の人間だと知って揶揄からかわれたのか。

 それは不明だが、どうやら嫌われてしまったようだ。


「なぁ。王女様はどうしちまったんだ?」

「ミリエ姫はな。デルヴィ侯爵との婚姻を控えている」

「婚姻だと?」

「病死した姉君のミリア姫に飽き足らず、妹君まで手にかけようと……」

「なるほどな。だが六十歳を越えた爺って聞くぜ?」

「勇者候補なら異世界人だな? 王家の婚姻とはそういうものだ」

「へぇ」


(あの王女はミリエっていうのか。しかも爺が抱くだと? ふざけてやがるな。悪の権化ってのもうなずけるぜ。くそっ! 権力、か……)


 シュンは一人で納得する。

 日本でも歳の差婚はあったが、ミリエ姫はどう見ても十代だ。

 きっと権力にものを言わせて、無理やりに婚姻を決めたのだろう。しかも病死した姉の代わりに妹と交わるなど、はっきり言って羨ましい。

 それに王政国家だと、権力は絶対的な力を持つ。デルヴィ侯爵の殺害などもっての外で、逆にお近づきになりたいところだ。

 そんなことを考えていると、門衛に背中を押される。


「ほら。もう行け!」

「分かったよ。だが農具はどうすんだ?」

「後は我々が運んでおく。そのまま出発してくれ」


 馬車まで戻ったシュンは、門衛と別れて仲間と合流する。

 以降は農具を馬車から降ろして、ミルストーン城を後にした。


「ノックス。報酬の金は?」

「もらったよ。どうかしたの?」

「エウィ王国とカルメリー王国って仲が悪いのか?」

「さすがに知らないよ」

「そっか。そうだよな」


 まだ諦めきれないシュンは、馬車に乗ってからも考え込んでいた。とはいえ、これ以上は無理である。

 ミリエ王女とは、縁がなかったと諦めるしかなかった。


「まぁ気を取り直して帰るか!」

「ねぇねぇシュン。こっちの冒険者ギルドで依頼を受けようよ」

「おっ! アルディスは頭がいいな」

「へへっ! ボクをめないでよね!」

「みんなもそれでいいか?」

「いいぜ。何なら腰を据えてやろうぜ!」

「ギッシュの提案も捨てがたいが、すぐに戻ってこいってさ」

「んだよ! 自由に動けんじゃねえのか!」

「俺に言われてもな……」


(何の用があるのやら……。早馬が来たってことは、緊急の仕事か? だがどう頑張っても、城塞都市ソフィアに帰るのは一週間後だぜ。間に合うのか?)


 ギッシュは文句を言っているが、命令ならば戻らないと拙い。

 それでもアルディスの提案は良く、道中で完了できる依頼があれば助かる。ランクを上げるまでは、馬車の維持費も馬鹿にならないのだ。

 冒険者ギルドのある場所は、通行門から伸びる大通りに面している。立地条件が良すぎるが、ギルドの特性を考えれば妥当だった。

 ともあれ到着した後は、冒険者ギルドに入って依頼を探す。


「いい依頼はあったか?」

「ま、待ってくださいね」


 依頼を探すのは、シュンとエレーヌだ。

 ちなみに馬車を預けることにも、金銭が必要だ。節約をするために、馬車は道の端に寄せて残った仲間に見張らせた。

 そして依頼自体は、冒険者ギルドに設置された掲示板に張り出されている。

 達成できる依頼書を、受付に持っていけば良い。


「こ、これなんてどうですか?」

「見せてくれ」

「きゃ!」


 シュンはさりげなく、エレーヌの腰に手を回した。

 それにビックリした彼女は、小さな悲鳴を上げる。


「あぁ悪いな。押されちまったぜ」

「そ、そうですか。声をあげちゃってごめんなさい」

「別にいいぜ。でもエレーヌは、俺のことを嫌いだったりするのか?」

「嫌いではないですよ。ただちょっと、男性が苦手なんです」

「なるほどねぇ」

「よく痴漢に遭っちゃって……」

「まさか男性恐怖症なのか?」

「ち、違います! そこまでではないですよ」


(そんな旨そうな体をしてればなあ。内気だし触ってくださいと言っているようなもんだ。しかし、男性が苦手ねぇ。やっぱすぐに手を出さなくて正解だぜ)


 ここでもホストスマイルを浮かべたシュンは、エレーヌを視線で舐め回す。

 痴漢の被害に遭うだけあって、とても男受けする体だ。たわわな二つのものは手に収まりきらず、それでいてスタイルは崩れていない。

 悲鳴も小さかったことから、電車内では耐えるしかできない女性だ。


「そっか。まぁ俺で良ければ相談に乗るぜ」

「え?」

「一応リーダーだしな。克服したいなら力を貸すぜ!」

「あの……。いいんですか?」

「もちろんだ! 仲間なんだしよ。気楽にな」

「そ、そうですよね!」


 男性恐怖症まで進んでいないのは幸いだ。

 苦手といってもエレーヌは、ギッシュやノックスとも会話ができている。ならば今まで培ったノウハウで、簡単に手籠めにできるだろう。

 わざわざ口説く必要も無いか。


「話が逸れたな。その依頼を受けようか」

「野菜類の輸送ですね」

「さすがは農業国家。んじゃ受付してくるから、みんなに知らせてくれ」

「はい! では先に戻りますね」


 食べ頃なエレーヌは、冒険者ギルドの出口に向かった。

 そしてシュンは、依頼書を携えて受付に進む。しかしながら途中で立ち止まり、口角を上げて振り返る。

 彼女をモノにする算段は、すでに組み上がっているのだった。

Copyright©2021-特攻君

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