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異世界は小悪魔と共に  作者: 特攻君
第十章 新・聖女誕生
136/192

魔人と国王1

 フォルトは日本から召喚されて以降、城塞都市ソフィアには一度だけ訪れた。

 それは、レイナスを拉致するときだ。

 もちろん空を飛んできたので、町並みなどは分からない。カーミラが操った適当な貴族の屋敷を占拠して、すぐに引き籠っている。

 ともあれ都市の先には、王族が暮らす王城と王宮がある。

 一般的に知られている王城とは違って、相当に広い敷地面積があった。召喚されたばかりの異世界人が使うロッジや騎士訓練所・教会なども建てられている。

 ただしそれは、ほんの一部だ。

 まるで、もう一つの町と言えるほどだった。


(懐かしくはないが、この城を見ると最初の頃を思い出すな。召喚されてからは理不尽な話ばかりだった。嫌な思い出しかない)


「カーミラ」

「何ですかぁ?」

「いや。何でもない」

「はあい!」


 今が幸せなフォルトは、最初の頃の嫌な記憶は薄れている。

 それよりは、カーミラと初めて出会ったときを思い出していた。


(あの頃と変わらず、とても密着度が高い。実にすばらしい! 最初はあたふたしてしまったが……。最高に気持ち良かった)


 カーミラは魅力的な体を密着させ、気絶していたフォルトを起こした。

 以降は促されるがまま、至福の情事に及んでいる。だからこそあの感触と温もり忘れないように、隣に座る彼女の体を引き寄せた。


「王宮の前に到着致しました!」


 御者をしていた騎士が、前方の小窓を開けて到着を知らせる。

 そして、馬車が停車した。

 フォルトより先に出るのは、護衛として創造しておいた大罪の悪魔サタンだ。禍々しいやりを片手に周囲を警戒しながら、ゆっくりと地面に足をつける。


「ふん!」

「ば、化け物!」

「ふん! 邪魔だ。道を空けよ!」

「魔物! い、いや。悪魔が城内に侵入したぞ!」


 馬車の扉を開けた騎士が、数歩ほど後ろに退いて剣を抜く。

 角だけであれば、ルリシオンのような魔族で通るかもしれない。しかしながら、大きな翼に尻尾まで生えている。

 絶世の魔王系美少女なのだが、人間から見れば魔物の類だったか。

 それが馬車から登場すれば、誰だって驚くだろう。フォルトたちを送り届けた騎士たちも合流して、一斉に武器を構えた。


「あぁ済まん。俺の護衛だ」

「え?」

「途中で合流してな」

「知らんぞ! 我々は確認していない!」

「ふん! 貴様らが間抜けなだけだ。それでも騎士か!」

「ひぃ!」


 サタンの威圧感が物凄く、あの皇帝ソルにも劣らないだろう。

 ともあれサタンは馬車の中で創造しており、騎士たちが知る由も無い。苦笑いを浮かべたフォルトは「失敗したかな?」と思ったが、手遅れなので後の祭りだ。

 今後は慎重に扱うべきか。

 そう考えたところで、一緒に馬車を降りたカーミラの腰に手を回す。


「とにかく、武器を収めてくれないか?」

「貴様らを王宮に入れられん!」

「あらあ。せっかく招かれたけど帰っちゃうわよお」

「ムカつくわね。都市で暴れようかしら?」


 最後は騎士たちを嘲笑うかのごとく、マリアンデールとルリシオンも優雅に馬車を降りてくる。彼女たちもまた、見目麗しい女性である。

 それが余計に、騎士たちをおびえさせた。

 勝ち目が無いことは理解しているのか、一斉に包囲の輪を広げる。

 ただし、増援が来れば分からない。


「うぅ。我らでは判断できん!」

「なら判断できる奴に尋ねてきなさあい」

「あまり待たせるんじゃないわよ!」

「お、おい!」

「はっ!」


 慌てた騎士の一人が、王宮内に向かった。

 他の騎士たちは、馬車を取り囲んだままである。であればこれ以上の問答は無用だとして、フォルトは事の成り行きを見守る。

 そして暫く待つと、王宮からグリムが姿を現した。「やれやれ」といった表情が分かるだけに、ほほをポリポリとかく。


「よい。武器を収めるのじゃ」

「しかし!」

「エインリッヒ陛下が招待したローゼンクロイツ家の者ぞ!」

「「はっ!」」


 騎士たちをにらんだグリムが、語気を強くして命令する。さすがに国王の名前が出たので、彼らは命令に従うしかないだろう。

 次にフォルトの前まで進むと、サタンを前に口を開く。


「初めて見る顔じゃな」

「ふん! 余も初めて会ったからな」

「魔族ではないのう。何者じゃ?」

「ふん! 主の護衛だ!」

「主のう」


 危険が無いと判断したグリムは、フォルトに向き直った。

 気まずいと言えば気まずいので、疑問を問われる前に答えてしまう。


「護衛だよ」

「なるほどのう。とりあえず武器を下ろしてもらえるかの?」

「サタン!」

「ふん!」


 サタンの持っていた槍が、一瞬で消える。

 彼女が装備している武器や服は、本来の姿の皮膚が変化したもの。

 これはニャンシーも同様で、科学を無視した魔力的な能力らしい。魔力的とあやふやなのは、当の本人たちにも分からないからだ。

 召喚魔法と同様に、「そういうもの」と割り切るしかない。


「済まなかったの。では、ワシが案内をしよう」

「グリムのじいさんなら安心だ」

「ほっほっほっ。お主たちは馬車を移動しておくのじゃ」

「「はっ!」」


 舞踏会が終われば、馬車を回してくれるそうだ。ならばと騎士たちに背を向け、身内たちを伴ってグリムの後をついていく。

 田舎者丸出しのフォルトは、王宮内をキョロキョロと眺めながら進んだ。

 旅行などしたことが無く、とても物珍しかったのだ。


「さすがに立派だなあ」

「えへへ。うちとは大違いですね!」


 王宮とフォルトの屋敷を比べては駄目である。

 切り出した丸木を、あまり加工もせずに建てたのだ。建築技術の粋を集めたような王宮とは、天と地の差があった。


「アレでも住めば都だ。アレ、でもな」

「ほっほっ。ワシはお主の屋敷のほうが好きじゃぞ」

「そうですか?」

「うむ。静かで落ち着くからのう」


 グリムぐらいの年齢になると、旧校舎のような屋敷でも風情を感じるのだろう。と言ってもフォルトの屋敷は、総価値なら相当なものだった。

 なぜかと言うと、魔道具の数が違う。

 水が湧きだす蛇口から、光を発する照明などだ。

 眷属けんぞくのルーチェが作成した魔道具は、人間社会だと高価な代物である。


「この貴賓室で待機じゃ」

「貴賓室?」

「他国の王や上級貴族を招いたときに使う部屋じゃな」

「ほうほう」


 王宮にある貴賓室は最上級の部屋であり、下級貴族が使える場所ではない。

 そこに案内されたことで、マリアンデールとルリシオンは感心した。


「へぇ。手紙の内容といい。礼儀を弁えたようね」

「当然よお。でも、さっきのはいただけないわあ」

「それは勘弁してもらいたいのう」

「あはっ! 冗談よお」


 ルリシオンの言葉に対して、グリムが苦笑いを浮かべる。

 勇魔戦争が終結して十年以上も経過しているので、騎士たちの中には魔族の怖さを知らない者も混じり始めていた。

 戦争経験者は身分が上がっていたり、年齢とともに引退している。

 戦争以降に行われている魔族狩りでも、そう簡単に魔族を発見できない。対魔族戦闘の経験者も、現役だと減ってきていた。


「このソファーはいいな」

「御主人様に膝枕ができますねぇ」

「よし! 頼む」


 貴賓室の中には、寝心地の良さそうなソファーがあった。横になっても余裕があるので、カーミラの膝枕を堪能する。

 そして部屋を見渡すと、絵画や調度品が視界に入った。

 もちろんフォルトには、美術品の価値など分からない。理解できるのは、「高級そう」ということだけだ。


「寛いでおるのう。一応は王宮なのじゃがな」

「ははっ。気疲れして……」

「まぁよい。暫くしたら陛下と謁見じゃ」

「え?」

「何を驚いておるのじゃ? そのために呼んだのじゃぞ」

「そ、そうだが……。もう会うのか?」


 今回の国王との謁見は非公式である。

 フォルトとしてはアルバハードで催された晩餐会ばんさんかいのように、舞踏会で面会するのかと思っていた。

 それが舞踏会の前に、会議室で謁見をするらしい。


「先に言っておくが、貴族の礼儀なんて知らないぞ?」

「ほっほっ。それは陛下も理解しておる。気楽に会えば良いのじゃ」

「そうなのか?」

「公私は分けるものじゃ。時間もそれほどかからぬ」

「へぇ。助かる」

「陛下もお忙しい御方じゃからのう」


 何を話すのかは分からないが、数分から数十分で終わるなら我慢できる。しかしながら、このような対面は緊張してしまう。

 もしも大企業であれば、アルバイトが会長に面会するようなものだ。

 魔人の力など、精神的なものには意味を成さなかった。


「あぁ緊張してきた」

「御主人様。大丈夫ですかぁ?」

「貴方は……。ローゼンクロイツ家当主としての自覚を持ちなさい!」

「まったくねえ。シャキッとしなさあい」

「無理。やはりサタンが会ってきてくれ」

「ふん! 構わぬが、それに意味はあるのか?」

「お主は……。駄目に決まっとるじゃろう」

「ですよね」

「「はぁ……」」


 フォルトの馬鹿馬鹿しい言葉には、全員があきれている。

 ともあれティーセットを用意したメイドが、貴賓室に入ってくる。高級そうな食器に菓子も添えられており、オヤツの時間の開始だった。

 それにしても気が重いと思ったフォルトは、頭を抱えたくなる。だが抱える代わりにカーミラの太ももを堪能しながら、茶菓子に手を伸ばすのだった。



◇◇◇◇◇



 フォルトたちとは別に、同じく馬車に乗っていた一行がいる。

 それは、シュン率いる勇者候補チームだ。大型の馬車に乗り、城塞都市ソフィアからカルメリー王国に向けて旅立っていた。


「まさかエレーヌが、馬車の御者をできるとはな」

「こ、こっち世界に来てからやらされたんです!」

「へぇ。馬には乗れるようになったけどな」

「シュンは「聖なる騎士」ですもんね」

「最初は大変だったぜ!」


 ホストスマイルを浮かべたシュンは、馬車を御しているエレーヌの隣にいた。長距離の移動に際しては、交代して向かう必要があるからだ。

 そのために、馬車の操作方法を教えてもらっている。


「か、軽く手綱を打ち付けると歩きだしますよ」

「こうか?」

「はい!」


 エレーヌから言われたとおり、シュンは手綱を馬に打ち付ける。

 二頭の馬はゆっくりではあったが、馬車を引いて前進を始めた。舗装されていない道なので、それなりに揺れが激しい。

 ちなみに強く打ち付けると、もっとスピードが出る。


「なるほどなるほど。で、止まるときは?」

「え、えっと。手綱を引っ張ればいいです。強くやっては駄目ですよ?」

「力加減を教えてくれ」

「え? きゃ!」


 シュンはエレーヌの腕をつかんで、手綱を持つ手の甲を握らせる。

 スキンシップの一環だが、この程度ではたかぶるほど子供ではない。


(へぇ。冷たい手だな。アルディスやラキシスとは違う。そのアルディスは……。寝てるな。今がチャンスだぜ!)


 ただっ広い平原にできた道を走っているので、余所見をしても問題は無い。

 後ろをチラリと見たシュンは、エレーヌに体を寄せる。続けて促すと、彼女は恥ずかしがりながらも手綱を引っ張った。


「ありがとう。これぐらいでいいんだな」

「緊急時は思いっきり引っ張りますけど、基本的には馬が嫌がります」

「だいたい分かった」

「さすがですね」

「ところでさ。エレーヌって冷え性なのか?」

「え? あ……。冷たかったですか?」

「いや。大丈夫だ」


 シュンは二人の女性と関係を持ったので、それぞれの違いを考える。

 アルディスは手は普通で、ラキシスは温かい。後はエレーヌを口説き落とせば、三種類の温もりを楽しめるなどと思い描く。

 そして暫く御者の練習をしていると、荷台からギッシュが身を乗り出した。


「おぅホスト。俺と代われや!」

「い、いや。ギッシュがやると暴走するだろ!」

「チンタラと走ってんじゃねえ!」

「バイクじゃねぇんだぞ!」

「そうだけどよ。乗り物に乗ると熱くなってくんだろ?」

「こねえよ! 馬車に名前まで付けやがって……」


 ギッシュはスピードを出したくて、体がウズウズしているようだ。とはいえ彼が望むような無茶をすれば、馬車が壊れてしまう。

 乗馬の練習では馬の尻をたたきながら、まるで競走馬のように走らせていた。また蛇行もさせていて、馬が悲鳴をあげていたものだ。


「俺はゼッツーに乗ってたからな」

「馬車にゼッツーって……」

「いいじゃねぇか。塗装は勘弁してやったろ?」

「そうだけどよ」


 馬車を族車にされては堪らない。

 ギッシュにすべてを任せていたら、大変な事態を招くだろう。下品な仕様にされ、衆目を一身に集めることとなる。

 うわさが噂を呼んで、勇者候補チームは変人の集まりだと思われてしまう。


「カルメリー王国までは一週間ぐらいだろ? やっぱスピードを上げようぜ」

「壊れるって言ってんだよ! ゆっくりと行こうぜ。なぁエレーヌ?」

「そ、そうですよ。安全が第一です!」

「けっ! 道交法なんてねぇだろ?」

「それでも、です」

「ちっ。分かったよ。じゃあ俺も寝るぜ」


 ギッシュは荷台に戻って、すぐに寝息を立てていた。

 唯我独尊過ぎて困ってしまうが、戦闘のときは頼りになる男なのだ。


「続きをしようか」

「えぇ」


 シュンが収集してきた情報を総合すると、エレーヌは押しに弱そうだ。と言っても口説く場合は、注意が必要だった。

 アルディスに知られると、たちどころにチームが崩壊する。

 そのスリルも、また楽しいのだが……。


「もう一回だけ、力加減を頼むよ」

「いいですよ。で、でも……。近すぎ……」

「手長猿じゃねぇからな。頼むよ」

「わ、分かりました」


 シュンはちょっとしたセクハラをしながら、御者の指導を受ける。

 それを暫く続けながら、最後の詰めをどうするか考えた。エレーヌについては、もう手のひらの上も同然である。

 後は時と場所を選ぶだけだった。

Copyright©2021-特攻君

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