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異世界は小悪魔と共に  作者: 特攻君
第十章 新・聖女誕生
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大罪の悪魔3

 エウィ王国の国王エインリッヒ九世からの出頭命令は、ローゼンクロイツ家を舞踏会に招待するという形で決着したようだ。

 それならば良いと、マリアンデールとルリシオンは納得した。

 フォルトとしては、国王などと顔を合わせたくもない。しかしながら、身内になったソフィアを悲しませたくなかった。

 また話を持ってきたグリムには世話になっており、無下に断れない。


「舞踏会ねぇ」


 フォルトは国王との謁見を前に、湖に浮かぶ小島に来ている。

 現在はドライアドを宿した大木の根元で寝転がっていた。連れてきたのは、ギャルのアーシャである。

 彼女と初めて交わった場所だが、今回の目的とは関係が無い。少しばかり尋ねておきたいことがあったのだ。

 その彼女は、目の前で踊っている。


「どう? この華麗なステップ!」

「いいね。だが、音と合っていないような気が……」

「調整中よ! クラシックで踊るのよ?」

「ははっ」


 アーシャの腕からは、フォルトも聞いたことのある音楽が流れてきた。

 吸血鬼の真祖バグバットが所有する楽団が、彼女の「音響の腕輪」に曲を録音したのだ。完成した頃を見計らって、眷属けんぞくのルーチェに回収させている。

 これで少しは、無音で踊るシュールさが失われるだろう。


「この音楽は……」

「へへ。フォルトさんの若い時代なら知ってるんじゃない?」

「あぁ。キャバクラでよく流れていたな」

「エロオヤジ」


 音響の腕輪から流れている曲は、クラブではなくディスコで流れていた。

 ボディコンの女性が、羽根扇子を振り回していた昭和の時代だ。とはいえ、音響の腕輪に録音されている曲はオーケストラ仕様である。

 違和感があり過ぎた。


「狩り中に流すのは問題か?」

「当たり前よ! 曲を流した瞬間に魔物の大群は、さすがに笑えないわ」

「ははっ。俺やカーミラが近くにいるときなら平気だぞ」

「そう? 確かにテンションは上がるのよねぇ」


 音楽を止めたアーシャが、フォルトの隣に座った。

 立て続けに踊っていたので、彼女の体は上気しているようだ。首から下げた布を手に取って、額から流れる汗を拭いている。

 こうして見ると、ムラムラしてしまいそうだ。


「しかし、それを俺が踊るのか?」

「え?」

「ほら。舞踏会に呼ばれたからさ」

「社交ダンスっしょ!」

「あ……」

「さすがにクラブで踊るダンスとは違うよ」

「そ、そうだな!」


 ダンスと聞いてすぐにアーシャを連想したが、よく考えれば違う。

 フォルトは恥ずかしさを隠すように、彼女の肩を抱き寄せた。


「ちょっ!」

「社交ダンスならレイナスだったか」

「だね! レイナス先輩なら教えられると思うわよ?」

「だがしかし! 俺は踊らない」

「でも舞踏会なんだからさ。誘われるんじゃないの?」

「俺の踊りなんて誰も見たがらないだろ」


 おっさんの姿に戻って参加するのだ。

 仮に誰かから誘われても、絵面が悪すぎて不快な思いをさせるだけだろう。三国会議で催された晩餐会ばんさんかいのように、隅っこで大人しくしておきたい。

 そもそも、フォルトに近づく女性などいないのだ。


「ならさ。踊れませんって言っとけば?」

「さすがはアーシャ。グリムのじいさんに言っておこう」

「貴族の礼儀なんて知らないからね。ちょっと、どこを触って……」

「うん? 足だ」

「いいけどね。あたしのダンスを見て欲情した?」

「した」

「素直ね」


 アーシャは音楽に合わせて踊ったからか、とてもご機嫌である。

 彼女風に言うと、「テンション・アゲアゲ状態」といったところだ。日本にいた頃は、毎晩のように踊っていたらしい。


「ら~ら~ら~」

「おっ!」


 今度は曲を変えて、テンポを合わせながら歌いだした。

 これも、フォルトが知っている歌だ。アーシャの歌声に耳を傾けながら、思わず目を閉じて聞き入ってしまう。


「上手だな」

「カラオケも得意だったしね!」

「そういった娯楽が無いからなあ」

「あっても行かないっしょ?」

「御名答」


 フォルトの分かりきった答えに、アーシャは苦笑いを浮かべた。

 カラオケで歌ったことはあるが、はっきり言って音痴である。人に聞かせるなど以ての外なので、若い頃から敬遠していた。


「楽しいなあ」

「どうした?」

「日本じゃ当たり前だったからね!」

「歌やダンスか?」

「うん! こうやって、たまに日本を感じるぐらいが丁度いいかなってね!」

「そうかもなあ」


 日本では当たり前の遊びが、こちら世界では享受できない。しかしながら、毎日のように遊べば飽きるという気持ちはよく分かった。

 ともあれ、彼女の選曲は……。


「俺に合わせなくてもいいのにな」

「へへ。分かっちゃった?」

「よく知っていたな、と思った」

「レパートリーは多くないとね!」

「なるほど」


 アーシャを身近に置いて分かったことだが、とても多彩な女性だ。

 彼女の良いところであり、最近ではムードメーカーにもなっていた。一家に一台あると、毎日が楽しいだろう。

 もちろん手放すつもりは無い。


「舞踏会には誰を連れていくの?」

「カーミラは当然として、マリとルリだな」

「ソフィアさんはいいの?」

「ローゼンクロイツ家を招待って話だからな」

「なるほどねぇ。アーシャ・ローゼンクロイツは?」

「その名前をルリの前で言えるか?」

「無理よ! 殺されるわ!」

「ははっ」


 招待されたからといって、魔族を連れていくのは不安があった。

 三国会議の晩餐会では、マリアンデールが貴族に暴力を振るった。目の前に玩具があると、自然と遊びたくなるのだろう。

 今回もそうなりそうで、フォルトは気が気でない。


(マリとルリが暴れたいのなら、それでもいいけどな。まぁ対処だけは考えておくとするか。森に立て籠るだけだが……)


 フォルトは、双竜山の森に立て籠った場合のシミュレートをしてみる。

 上級の火属性魔法あたりを使って、森に入る前に焼き払っても良いか。だが折角の状況なので、身内と一緒に遊ばない手は無かった。

 立て籠るわけなので、誰かを配置して迎え撃つ必要がある。と考えると、思わず楽しくなってきた。

 タワーディフェンスの攻略を考えているようだ。


「レイナスとアーシャはセットだから……」

「何それ?」

「エウィ王国が攻めてきたときの配置をどうしようか、とな」

「攻めてくんの?」

「国王主催の舞踏会で暴れたら、さすがにタダでは済まないだろう」

喧嘩けんかでも売りに行くつもりなん?」

「まさか。でもマリとルリだしな」

「ちょーあり得るわね。マジやりそう!」


 フォルトとアーシャの目には、魔族の姉妹がどう映っているか。

 これが答えだろう。

 基本的には静かに暮らしたいので、もしも暴れたら止めるつもりだった。と言っても行動に移された後では、手遅れというものだ。

 あらかじめくぎを刺しておけば良い話だが……。


「そのときは、あたしを守ってね!」

「もちろんだ! 従者だからな」

「まだ従者なん?」

「生涯従者。永遠に俺のもの」

「っ!」


 これでも頑張ったほうだ。

 おっさんなので、口に出すのは恥ずかしい。と言っても彼女は、フォルトの思いを察してくれたようだ。

 以降の二人は、当然のように交わる。

 「テンション・アゲアゲ状態」だった彼女は、激しく乱れるのだった。



◇◇◇◇◇



 エインリッヒ九世の招きに応じて、舞踏会に出発する日。

 連れていくのは、ローゼンクロイツ家の令嬢姉妹マリアンデールとルリシオン。他には、フォルトの半身とも言えるカーミラだ。

 ともあれ、そろそろリリエラが帰ってきそうだった。

 そこでテラスに出て、眷属のニャンシーを呼び出す。


「ニャンシー」


 ニャンシーはリリエラの護衛として、影に潜ませてある。

 現れたのが早かったので、彼女も双竜山の近くに来ているのだろう。


「何じゃ主?」

「今はどの辺にいるのだ?」

「もう半日で森に到着じゃな」

「問題は無かったか?」

「主と言えども内緒じゃな。後で聞いたほうがよかろう?」

「だったな。よく分かっている」

「ふふん! わらわは一の眷属じゃからな」


(一の眷属……。 まさかルーチェやクウと張り合っているのか? だが、そんなところも可愛いな。ナデナデっと……)


 フォルトが一番最初に眷属にしたのが、ケットシーのニャンシーだ。

 今までは頼りにしていたし、これからも同様だ。にもかかわらず口に出してまで伝えておらず、他の眷属より上に立とうと必死なのかもしれない。

 猫が擬人化した幼女なので、その思考にホッコリしてしまう。


「ゴロゴロ」

「俺たちは留守にするから、屋敷に帰ってきたらいつものようにな」

「うむ。そこじゃ。優しく擦るように……」

「いつものようにな」

「わ、分かっておるのじゃ!」


 そしてニャンシーは、リリエラの所に戻っていった。

 この短時間で、彼女が襲われることはないだろう。舞踏会から帰還したら、そのストレスをクエストの報告で発散できそうだ。

 ちょっとした確認だけのために呼び出すなど、フォルトは眷属使いが荒い。

 そう思ったのも束の間、屋敷からは愛しの身内たちが姿を現した。


「御主人様! 準備ができましたよぉ」

「人間如きに、ローゼンクロイツ家をもてなせるかしらね」

「あはっ! 満足できなければ殺すわあ」

「おいおい。勘弁してくれ」


 マリアンデールとルリシオンが物騒なことを口走った。

 そこでフォルトは、姉妹に釘を刺す。

 手を出されないかぎりは大人しくしてもらいたい。だが魔族狩りと称して襲われた場合は、徹底的に蹂躙じゅうりんしても構わない。

 その旨を姉妹に伝えると、渋々ながらも了解した。


「それでは行くとするか」



【サモン・アラクネ/召喚・蜘蛛くも女】



 森の中を歩きたくないフォルトは、さっさとアラクネを召喚する。

 この魔物は、上半身が女性の蜘蛛だ。初めて双竜山の森に入ったとき、移動手段として召喚したことを思い出した。

 そのときに悲鳴を上げて気絶した女性が口を開く。


「それに乗っていくんだ」

「またアーシャも乗りたい?」

「結構よ! しかも乗ってないわ! 抱えられていたのよ!」

「マリとルリは?」

「嫌よ。ルリちゃんと走っていくからいいわ」

「カーミラは?」

「もちろん一緒に乗りまーす!」

「ははっ。じゃあ糸で固定してくれ」

「ハイ」


 ちなみにこのアラクネは、最初に召喚した魔物とは別の個体である。眷属にしないと、ランダムで選ばれるのだ。

 そして糸で巻かれてるフォルトの姿に、マリアンデールがあきれている。


「私とルリちゃんを、貴方とカーミラで運べばよいのではなくて?」

「面倒。よって出発! ぐぅぐぅ」

「寝るな!」

「さすがは御主人様です!」


 アラクネの移動方法は、とてもアクロバティックだ。

 起きていると絶対に酔うので、フォルトはすぐさま寝息を立てる。森から出たときに目覚めれば良いだろう。

 そして屋敷に残る者たちに見送られ、森の中を颯爽さっそうと進む。

 器用に糸を使って、樹木の間を飛び移っている。マリアンデールとルリシオンは身体能力が高いので、簡単についてきていた。

 自身は当然のように寝ているので、後から聞いた話だ。


「御主人様。到着でーす! ちゅ」

「んんっ! ここは?」

「森の出口ですけど、外には人間たちがいるのでぇ」

「だったな。じゃあ、アラクネは消えていいぞ」


 召喚した魔物を見られるわけにもいかず、フォルトはすぐさま送還した。

 ローゼンクロイツ家は招待される側として、森の外では馬車が用意されている。遠目で見ると、なかなかに豪勢な馬車だった。

 これには、姉妹も納得している。


「当然ね」

「私たちが会いにいってあげるのだからねえ」

「本当にそれでいいのか?」

「文句があるなら、私たちを屈服させることね」

「手段は問わないわあ。全軍で襲ってきてもいいのよお」


(魔族の貴族のことは聞いているが、まだ慣れないな。そこまで偉そうにしたことがないし……。俺の傲慢は刺激されているが、な)


 何となくフォルトは、体がウズウズする。

 これが刺激されているという感覚だろう。大罪の傲慢に身を任せてしまえば、姉妹の希望通りになるはずだ。


「まぁ適当にな」


 あまり偉そうにして、魔王プレイになっても困る。

 これから面会するのはエウィ王国の国王であり、舞踏会の参加者は貴族である。あまりペコペコとしないが、とりあえずは様子をうかがいながらだ。

 馬車の周囲には複数の人間が立っており、どう見ても騎士のようだった。

 きっと、フォルトたちの護衛をする者たちだろう。ならばと森から出て、その内の一人を目標に近づく。

 騎士たちも気付いたようで、馬車の前に整列して出迎えてくれた。


「フォルト・ローゼンクロイツ様でいらっしゃいますか?」

「あ、はい。いたっ!」

「どうかされましたか?」

「いや。何でもないぞ!」

「こちらの馬車でご案内致するよう、命令を受けております」

「う、うむ」


 マリアンデールに足を踏まれたフォルトは、上位者のようにうなずいた。

 女性のヒールで踏まれると、とても痛い。もちろん魔人なので、戦闘状態に入れば痛みなど無い。

 普段の状態だと、「頑丈な人間程度」といったところだ。


「ふむ。大きな馬車だな」

「八人乗りですので、余裕があるかと存じます」

「うむ。大義である! いたっ!」

「大丈夫ですか?」


 フォルトの演技が大袈裟おおげさすぎたのか、今度はルリシオンに足を踏まれた。

 自然な感じにやれということだろう。


「い、いや。どれぐらいで到着するのだ?」

「三日ほどになります。道中では町に立ち寄って、宿屋に宿泊します」

「あ……。馬車で寝るから宿屋は要らん!」

「え? ですが……」

「我らは魔族の貴族なのだ。理解したか?」

「さ、左様ですか?」

「左様ですとも」


 フォルトは自然に演技してみたが、とりあえずは合格か。

 姉妹から踏まれなかったとはいえ、微妙なさじ加減が難しい。徐々に慣れていくしかないだろうが、演技も一苦労である。

 とりあえずはカーミラを加えた三人の身内と共に、馬車に乗り込んだ。


「まぁまぁね」

「まぁまぁなのか?」

「一応は王族が使う馬車みたいだわあ」

「なら、最上級のもてなしってことか?」

「そうだけど卑屈過ぎるわね」


 王族の馬車を出すということは、国賓の中でも上位者と見なしている。

 いくらローゼンクロイツ家でも、そこまですることはないはずだ。しかしながら、これには秘密があった。

 フォルトたちには知りようもないが、馬車の件はエウィ王国第一王女リゼットの提案だ。国王のエインリッヒ九世が渋っても、無理やり押しきっている。

 そして馬のいななきが聞こえたところで、城塞都市ソフィアに向けて出発した。


「到着するまでゆっくりとするかあ」


 以降は何カ所かの町を経由して、城塞都市ソフィアに近づいてきた。

 騎士に伝えたように、フォルトとカーミラは馬車の中から一歩も出ていない。姉妹にはトイレ事情などがあるので、たまに下車している。

 そして都市の中に入ると共に口角を上げ、とある行動に移った。


「さてと……。『大罪顕現たいざいけんげん憤怒ふんぬ』!」


 フォルトのスキルによって、大罪の悪魔サタンが現れた。

 一度は顕現させてあるので、今回からは魔王系美少女の姿で登場している。妄想の捗る格好をしているが、ローゼンクロイツ家の護衛という立ち位置だ。

 敵地となるかもしれない場所に、護衛も連れず訪れる貴族はいない。


「ふん! 余に何用だ?」

「俺たちの護衛」

「ふん! お安い御用だ」

「力は抑えておけよ? ただし弱すぎず、だ」

「ふん! 余に任せておけ!」


 サタンはふんふん言いながらも、フォルトの隣に座った。

 憤怒の悪魔であれば、王城で出迎える人間にはめられないはずだ。力を抑えたとしても、妙に威圧感だけはある。

 本来なら知られたくない存在だが、今回だけであれば良いだろう。他に適当な護衛がおらず、魔族の貴族として体裁を整える意味では仕方がない。

 成るように成れ、だ。


「そろそろ到着だが……」

「えへへ。カーミラちゃんの肌はご主人様のものでーす!」

「ちょっと貴方。暇ならリボンの位置を直して!」

「フォルトぉ。スカートのシワを伸ばしてくれるかしらあ?」

「う、うむ」


 三人の身内は、それぞれで身だしなみを整えていた。

 カーミラはボロいローブで、肌の露出を隠している。マリアンデールとルリシオンはくしを取り出して、お互いの髪をとかしていた。

 フォルトは「女性は大変だな」と思いながら、その手伝いをするのだった。

Copyright©2021-特攻君

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