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異世界は小悪魔と共に  作者: 特攻君
第九章 三国会議
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三国会議2

 ピクニックを満喫したフォルトは、ソフィアの護衛を開始している。

 夕刻前には、会場となっている自由都市アルバハードの大庭園に訪れていた。数千人の人々を収容できる広さで、一般の人間も入場している。

 その中には、各国の国王・皇帝を見物するためという人も少なくない。

 もちろん、警備は万全である。衛兵がそこかしこに配置されて、不審者の取り締まりを強化していた。


「世界経済の課題には、すべての国が団結して取る組む必要がある!」

「「おおっ!」」


 フォルトとソフィアがいる場所は、会場のVIP席にあたる。

 三大大国の貴族や大商人などの名士が招かれていた。

 そして彼女は聖女ではなく、祖父グリムの名代として参加している。他の身内は宿舎で待機しており、本日の晩餐会ばんさんかいで合流する予定だ。


「格差や差別の無い社会の実現を努力することで一致した!」

「「おおっ!」」

「軍事的緊張を排除し、平和な未来のために三国は協力を惜しまない!」

「「おおっ!」」


 多くの民衆が注目する中、共同宣言の内容が発表されている。

 エウィ王国第九代国王エインリッヒ九世・ソル帝国皇帝ソル・亜人の国フェリアス女王名代クローディアが、建物のベランダで交互に読み上げていた。

 光景だけであれば、日本の皇居で行われる一般参賀が思い出される。皇室行事の一つで、一般人が皇室に向けて祝賀の意を表すために集まっていた。

 こちらの世界ではテレビが存在せず、各国の首脳は滅多に見られない。


「そ、そこ……」

「でへ」


 フォルトは共同宣言など興味が無いので、欠伸をしながら聞いていた。

 ただしVIP席でも、共同宣言の発表を座って聞くと失礼にあたる。だからこそ仕方なく、ソフィアと一緒に立ち見をしていた。

 もちろん身分は一番低いので、一番後ろの席である。

 はっきり言うと、誰一人として二人を見てない。


「フォ、フォルト、さま。ここで、は……」

「でへでへ」


 フォルトの悪い手が動いていた。

 ソフィアの着用しているローブの隙間に入れて、その若く柔らかい肉体を堪能している。もう身内なのだから、誰に気兼ねせずとも良いのだ。

 先日初めてを知った彼女は、その破廉恥な行動を受け入れていた。


「っぁ! あ、あの……。そろそろ……」

「あ……。悪い悪い」

「フォルト様は……。もうっ!」

「ははっ」


 フォルトが弱点ばかり触るので、ソフィアの力が抜けてしまったようだ。腕にしがみ付いて、体を高揚させながら息を切らしていた。

 このあたりで良いだろう。

 ともあれ……。


「しかし、あいつらは何を言っているのか分からないな」

「え?」


 共同宣言についての感想である。

 三国の首脳は、最初から言い訳をしているようだった。「必要がある」だの「努力する」という言葉に、何の意味があるのかと……。

 国民に対して、目に見える効果があるとは思えない。


「あれはパフォーマンスだよな?」

「そうですね。重要なのは……」


 三大大国で合意した共同宣言は、各国の国民に向けてのメッセージである。「自国だけではなく世界のために働いていますよ」というアピールだ。

 その内容は、三国とも不利にならない調整が入っている。平和や平等といった耳触りの良い言葉で、民衆に不満を持たせないようにしていた。

 重要なのは、三国会議中に決定した様々な事柄である。

 各国が履行することで意味を持ち、利益につながっていく。また決定事項については非公開であり、民衆が知るところに無い。

 そして……。


「あんなのが守られるわけがない」

「………………」

「ははっ。やれません、とハッキリ言えばいいのにな」


 共同宣言の内容など実現するわけがない。

 実現できないからこそ、民衆には耳触り良く聞こえるのだ。王政・帝政国家で格差是正をうたうなど、何の笑い話かと思う。

 多少は期待できるかもしれないが、本質的に格差社会の象徴だ。「やれません」どころか「やりません」のほうが本音だろう。

 平和を語り合ったところで、戦争が起こる現実はあるのだ。

 フォルトからすると、大言壮語の大嘘おおうそで民衆を欺いていると映る。


「醜いな。本当に醜い」

「フォルト様……」

「グリム家以外で守っている奴らはいるのか?」

「え?」

「グリム家は実践してると思うけど?」

「………………」


 ソフィアの実家であるグリム家は、領民に寄り添う政策を執っている。

 そして昔からフォルトは、「良いものは良い」「悪いものは悪い」との見識を持っているつもりだった。

 良いものでも悪いと批判するようでは、ただの意固地か馬鹿である。

 あちらの世界では、そういった人間を何人も見てきた。しかもこれらの性根は、傍から眺めても気持ちが悪かったものだ。

 ネット社会に移り変わり、人間の醜さとして露見されるようになった。


「でも信じてしまう人たちが多いですよね」

「はい」

「俺としては、そういう人たちに誠実であれと言いたい」

「私もそう思います」

「まぁ人間では無理ですね!」

「っ!」


(俺にも無理だけどな! もう魔人だからどうでも良いのだ。でも身近な人たちぐらいには誠実でありたい。元人間で良かったところはそれだけだ)


 このような場だからこそ、改めて思うこともある。

 フォルトの言葉を聞いて、ソフィアは寂しそうな表情に変わった。

 もちろん彼女の気持ちは、痛いほどよく分かってる。人間を見限っておらず、その善性を説きたいのだろう。

 そして共同宣言の発表も終わったようで、各国首脳が姿を消していた。


「あまり聞いていなかったけど、三国会議は成功で終わったのかな?」

「そうですね」

「もう帰ってもいいのかな?」

「平気だと思います。皆様も晩餐会の会場に向かわれるかと……」


 共同宣言が発表された後は、三国会議の初日と同様に晩餐会が開かれる。とはいえまだ時間があるので、椅子に座っている人たちも多いようだ。

 フォルトとしては、さっさと会場を移動して身内と合流したい。と思った矢先に、大きな爆発音が聞こえた。

 会場の近くのようだが、VIP席に被害は無いか。

 これにはソフィアもびっくりして、正面から抱き着いてきた。


「きゃ!」

「な、何だ?」

「まさかルリさん?」

「この爆発音は魔法と違うな。まぁやりかねないが……」


 爆発ということで、ソフィアは〈爆炎の薔薇ばら姫〉を想像したようだ。

 魔の森での戦闘が印象深かったのだろう。しかも過去には、ソル帝国軍を蹂躙じゅうりんしたルリシオンである。人間ばかりの会場を襲っても不思議ではない。

 実際に、魔の森の手前にある兵士の駐屯地を襲撃していた。


「もちろん冗談ですよ? 本気にしないでくださいね」

「ははっ。まぁそこまで見境が無いとは思わない」

「では?」

「ソフィアは俺から離れずに、な」

「はい!」


 この爆発で、周囲の人たちも騒ぎ出した。しかしながらソフィアに抱き着かれているので、どうでも良い人間は目に映らない。

 そうは言っても、彼女を護衛しなければならない。

 周囲を見渡したフォルトは、会場の入口近くから上っている煙を発見する。また招かれた人々を守ろうと、警備兵が配置を変えていた。

 パニックまでは発展していないので、自分たちの身は平気そうだ。


「ぁっ!」

「いい匂いだ」

「フォ、フォルト様!」


(ふふん! みんなは大慌てだろうが、俺の知ったことではない。今のうちにソフィア成分を補充して、高みの見物といこう)


 周囲はざわついているが、またもやソフィアの敏感な部分を触った。

 もちろん、それに気付いている人間は誰もいない。身の危険を感じて自分たちが連れてきた護衛を呼ぶ者が多く、会場から避難しようとしている。

 それも束の間、彼女はある人物を発見した。


「あれは……。御爺様おじいさま?」

「おっ! グリムの爺さんが空を飛んでいる!」


 快感で顔を上げたソフィアが、上空にグリムを発見したのだ。

 どうやら、爆発の起きた場所に向かっている。しかも後続として、数名の魔法使いが追いかけていた。

 飛行の魔法だろうが、人混みに入るよりは余程良い。


「私たちも行きましょう!」

「行く必要は無い」

「ですが!」

「危険な場所に行っても、な。ソフィアを守るのが俺の役目だ」

「そう、ですね」

「まぁソフィアだと足手まといだろう」

「っ!」


 爆発を起こした犯人がソフィアを狙うなら、そのときに動いて殺せば良い。と考えているフォルトは、「後は勝手にやってくれ」と口にする。

 それに、彼女のレベルは十四である。

 一般兵の平均レベルに近いが、本人も弱いと理解しているから「強くなりたい」と言った。となると、爆発の現場に連れていくことはできない。

 このように考えていると……。


「御主人様! 何か面白いことになっていますねぇ」

「まあな。それよりも……」


 爆発音を聞いたから、会場に駆けつけたのだろう。

 カーミラに声を掛けると、スキル『透明化とうめいか』を解除した。と同時に、フォルトの腕に手を回して体をすり寄せられた。

 普段の露出を隠すためか、ローブを着用しているのが残念だ。


「こっちの世界でも爆発物はあるのか?」

「色々と混ぜるみたいですが、カーミラちゃんは知りませーん!」

「だろうな。マリとルリは?」

「面白そうに窓から外を眺めていましたぁ」

「動いていない?」


(面白がって勝手に動くかと思ったけど……。しかし何だろうな? 面倒事に巻き込まれなければいいけど……。三国を狙ったテロってところか?)


 テロについては、警備が万全でも防げないものだ。

 こちらの世界は、様々な技術が遅れている。あちらの世界でさえ未然に防ぐことはほぼ不可能なので、いくら魔法が存在していても後手に回るしかない。

 目的についても、テロリストから声明が出されないと分からない。


「まぁ一般人まで守れるものではないな」

「現場では人間がグチャグチャになっていますよぉ」

「カーミラさん!」

「えへへ。事実でーす!」

「ですが!」

「ソフィアの言いたいことは分かるが……」


 カーミラの発言は場に不謹慎だと、ソフィアは言いたいのだろう。だが人間を見限り嫌っているフォルトは、身内以外は心底どうでも良い。

 VIP席で爆発しなかっただけマシである。


「そう言えばカーミラは、何しに来たのだ?」

「予定が変わるかどうかを確認にきましたぁ」

「なるほど。予定は……」


 今回の爆発騒ぎで、晩餐会が中止になる可能性は高い。

 それでもすぐには分からないので、カーミラに「予定は変わらず」と伝える。もしも中止なら、晩餐会の会場で合流してから戻れば良い。

 逆の場合だと護衛としてソフィアから離れられないので、彼女たちを迎えに行くと晩餐会に遅刻することになる。


「分かりましたぁ!」


 納得したカーミラは、フォルトの腕を離して消えた。スキル『透明化とうめいか』から、空を飛んで宿舎に戻るのだろう。

 とりあえず今は、事態の成り行きを見守っておく。

 晩餐会の中止も含めて、この場でアナウンスがあるか。と思っていると、VIP席にバグバットが姿を現した。


「落ち着くである!」


 バグバットの声は、混乱していた者たちの動きを止めた。

 また身振り手振りを加えて、その存在感を際立たせている。


「これより吾輩わがはいの兵が、皆様方の警護をするである!」

「「おおっ!」」

「安心するのである。安全な場所までご案内するである!」


 アルバハードの兵士は、全員が吸血鬼である。

 各国が用意した警備と比べるとはるかに強いので、テロリスト如きでは倒せない。と知っている者たちからは、安堵あんどの声が漏れていた。

 すぐに混乱は収まって、兵士の後を続々と追いかけている。

 もちろんフォルトはこの場に留まって、彼が近づいてくるのを待つ。


「おぉ……。ソフィア殿もご無事であるな」

「はい。ありがとうございます」

「フォルト殿も……」


 吸血鬼の真祖バグバットには、フォルトが魔人だと知られていた。と言っても以降は初日の晩餐会で助けられたり、楽団を貸してもらうなどしている。

 まだ信用できない人物だが、何となく変な関係に変わりつつあった。


「俺たちは平気だ。結局はテロなのか?」

「で、あるな。これから詳細を調査するのである」

「バグバットも大変だなあ」

「お気遣い痛み入るのである」

「テロなど防ぎようがないからな」

「吾輩も関知はしないのである」

「アルバハードを攻撃されたってことでは?」

「この会場は領事館と同じである。三国に貸し出した場所であるな」

「テロも三国の責任って話かあ」

「三国にもテロリストにも加担することは無いである」


 自由都市アルバハードに「手を出したら」とは、バグバットや領地に対して、明確な敵意を持って攻撃された場合に限るらしい。

 それには領民が含まれないので、人間がいくら死のうとも関係が無い。一族の吸血鬼が滅びたならば、徹底的に調査をして報復するかどうかを決定する。


「へぇ」

「例の件を理由に、フォルト殿を拘束することは無いのである」

「俺たちと人間の問題だと?」

「で、あるな。しかしながら、面倒事は御免である」

「その気持ちはよく分かる。気を付けよう」


 これで、バグバットのスタンスを理解した。

 フォルトと同様に人外の者なので、人間や亜人を何とも思っていないのだ。

 それが分かると、少しずつだが彼を気に入りだした。共感する事柄が多く、不老長寿の大先輩でもある。人間ではないので、あまり醜さも感じられないのだ。

 それが理由だからなのか、続けて話し込んでしまう。


「楽団を貸してもらった礼は受け取ってくれたかな?」

「音響の腕輪は有難く頂戴したのである」

「それは良かった」


 音響の腕輪については、眷属けんぞくのニャンシーに届けさせた。

 双竜山の森にアーシャを戻したとき、カーミラが伝えている。ルーチェが何個か作っていたので、日を開けずにバグバットに渡せた。


「吾輩もフォルト殿を見習って、楽団の曲を入れるのである」

「バグバットなら優雅な音楽になりそうだな」

「機会があれば楽しんでいただくのである」

「ははっ。期待しよう」

「では、吾輩はこれにて……。晩餐会は予定通りである!」

「分かった」


 きびすを返したバグバットが、フォルトから離れていく。

 それにしても、本当に憧れるほどの紳士である。


「俺たちも戻ろうか」

「はい。ですが御爺様は……」


 蚊帳の外だったソフィアが、一つの気がかりを口にした。

 フォルトは視線を移すと、煙が細くなっており、空から消火活動をしているグリムの姿が目に映った。

 バグバットが三国の責任と言っていたので、それらの国の者が作業をしているだろう。当然のように、怪我人の救助もやっているはずだ。

 まだ現場から離れるわけにはいかないと思われる。


「手伝う必要はないな」

「もう危険は無いと思われますが?」

「いや。俺が面倒臭い」

「………………」

「ま、まぁグリムの爺さんに任せておけばいいと思う」

「分かりました。では晩餐会の会場に移動しましょう。ちゅ」

「でへ」


 ソフィアに嫌われたかと思ったが、唇を奪われたので平気か。

 ともあれ、これで残すは最後の晩餐会だけだ。

 場の雰囲気は苦手だが、料理については旨かったことを思い出す。と同時に暴食が悲鳴を上げたので、フォルトは自然と早足になるのだった。

Copyright©2021-特攻君

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