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異世界は小悪魔と共に  作者: 特攻君
第九章 三国会議
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三国会議1

 三国会議最終日。朝から首脳会談が始まっている。

 前日までの個別会議では、各国の思惑が入り乱れて、激戦が繰り広げられていた。また三国とも表向きは友好国なので、基本的には共同歩調を取る。

 だからこそ、どの国が勝者と考えるのは不謹慎だった。


「ぁっ」


 それでもあえて言うならば、エウィ王国が勝者である。

 各分野において、有利に会議を進められた点が大きい。しかしながら、ソル帝国のやる気の無さが気がかりか。

 亜人の国フェリアスは、今回の三国会議に女王が出席していない。他の二国に譲歩する場面が目立った。

 グリムが決めた二国間の人的交流も、そのうちの一つである。


「ちゅ」


 そして首脳会談で、今後の方向性を決めた宣言書が作成される。

 もちろん三国会議に参加していない国々は、それを履行する義務が無い。だが遵守しなければ、三大大国ににらまれるだろう。ゆえに他の国々は、自由都市アルバハードで開かれる国際会議を注視していた。

 エウィ王国の南方や、ソル帝国の西方に存在する小国群だ。

 代表的なのは、エウィ王国の属国であるカルメリー王国。ソル帝国の西に位置する砂漠の国ハンバーなどである。


「あの……。ソフィア、さん?」

「ソフィアと呼んでいただけなければ嫌です」

「ソフィア」

「はい。ちゅ」


 本日のフォルトは、ソフィアの部屋で過ごしていた。今まで手を出せなかった反動で、彼女を率先して求めているのだ。

 それにしても普段とは違って、とても甘えん坊である。


(ここまでとは……。カーミラ以上に離れないな。でも他の人がいるときは真面目だよな。それにソフィアは、いわゆる多数には参加しない)


 フォルトの常識や価値観は、こちらの世界に召喚されてから大きく変化した。一夫多妻や一妻多夫を認めて、自らが実行している。

 もちろん、願望があったからなのは言うまでもない。

 ともあれ多数で行為を楽しむことは、今の常識だった。またどの身内に対しても、愛情の深さは変わらない。

 カーミラだけは特別だが、同時に相手をしても優劣は存在しない。

 それでもソフィアの感情は、そもそも自身が日本人なのでよく分かっている。

 二人で愛を確かめ合うことも重要なのだから……。


「普段のソフィアはどこに……」

「っ!」

「そろそろみんなの所に戻ります」

「嫌」

「え?」

「もう少し。ちゅ」

「あ、はい」


 このソフィアの「もう少し」が、なんと五回目である。と言っても、面倒な女性や重たい女性のような煩わしさは感じない。

 子供っぽいというのが正解か。

 フォルトとしては嫌いでなく、むしろ好ましい反応だった。


「でもそろそろ起きないと、お腹が減りました」

「あ、あら。では皆様の所に行きましょう」

「そうですね」

「でも後五分だけ。ちゅ」

「そうですね」


 そして、きっかりと五分後に起きだした。

 ソフィアは乱れたビキニビスチェを直して、全身を隠すローブを着ている。しかも恥ずかしそうに、ほほを染めているところが初々しい。


「あっ! ソフィアさんに言っておくことがあります」

「………………」

「あの……」

「………………」

「ソフィアに言っておくことがあります」

「はい!」


 ソフィアに対しては、今まで敬語を使っていた。

 とりあえず身内にしたばかりなので、いずれ改めれば良いか。と思いながら、彼女に伝えるべき内容を口にする。


「俺はフォルト・ローゼンクロイツだ!」

「なら私は、ソフィア・ローゼンクロイツですね!」

「………………」

「あ、あら?」

「結婚するわけじゃないですよ」

「そ、そうでしたね。ですが、大丈夫です」

「はい?」

「私にも弟か妹ができます」

「おっ! ソネンさんとフィオレさんに子供が産まれるのか」

「はい。ですので、大丈夫です!」


 何が大丈夫かは分からないが、ソフィアの両親に子供が産まれる。ならば、グリム家の跡取り問題は気にしなくて良いだろう。

 婿養子の件を、簡単に諦めたことも理解できる。


「今更だけど、なぜ俺を選んだのだ?」

「え、えっと」

「俺が魔人だから、かな?」

「うぅ」

「まぁいいけどね」

「体じゅうを触られて、こんな服まで着せられたらお嫁にいけません!」

「あ……。ですよね」


 ソフィアのガードが甘いからと、フォルトは年頃の娘を辱めていたようだ。昭和の時代を長く生きたおっさんにありがちな行動である。

 度を越していたことは否めないが……。

 ともあれ、「お嫁にいけません」の言葉も定番だ。

 この言葉を言われてしまうと、さすがに納得するしかないだろう。


「ところでフォルト様」

「どうした?」

「強くなりたいのですが……」

「え?」

「せめてアーシャさんくらいには、力を付けたいです」

「なぜ?」

「フォルト様と一緒にいるには、その程度は必要と思いました」

「今のレベルはいくつでしたか?」

「十四ですね」


 ソフィアのレベルを聞いて、フォルトは物思いにふける。

 レベル的には、リリエラを除けば身内で最弱だった。非戦闘員のシェラでも魔族なので、それなりに高い。

 確かアーシャと同じレベル二十五だったか、と……。


「ならニャンシーの出番かな」

「お願いできればと思います」

「でも今は、リリエラに付いているな」

「でしたか」

「考えとくよ。ルーチェでも良さそうだしね」

「ありがとうございます。ちゅ」


 笑みを浮かべたソフィアの唇が、フォルトの頬に触れる。

 ベッドでまったりとしているときも、体じゅうにしていた。


「よしソフィア。みんなと食事にしましょう。いや。するぞ!」

「はい!」


 フォルトは敬語を改めながら、ソフィアと一緒に部屋を出ていく。

 廊下に出ると切り替えが早いのか、いつもの彼女に戻っていた。とはいえ腰に手を回すと、その柔らかい体が熱を帯びるのだった。



◇◇◇◇◇



 フォルトは自身の部屋で、テーブル着いて身内との会話を楽しむ。もちろん、その相手はカーミラ・マリアンデール・ルリシオン・ソフィアである。

 ちなみに朝食については最終日なので、すべてを平らげるつもりで注文した。しかしながら数日は残る人間がいるらしく、残念ながら止められてしまう。

 それでもある程度は、腹が膨れたので満足である。


「ふああぁぁぁ。眠い」

「四人も相手にすればねえ」

「でも御主人様は手を抜きませーん!」

「体力が無尽蔵だわ」

「ふふっ。私のためにありがとうございます」

「き、気にするな!」


 ベッドの中なら良いが、それ以外で言われると恥ずかしい。

 それは四人とも分かっているので、ちょっとした意地悪だろう。


「夜まで起きていられるかしら?」

「マリは心配性だな。多分平気だ」

「心配はしていないわ。言ったところで好きなときに寝るのだしね」

「あっはっはっ!」


 フォルトは大口を開けて笑う。

 マリアンデールは良く分かっていた。と言うよりは、全員が理解している。だがこういったものが、自身の精神安定剤になっていた。

 引き籠りのおっさんに必要なのは、まず懐の深い理解者である。


「フォルト様はローゼンクロイツ家を名乗りましたが?」

「そうよお。私たちが先だしねえ。残念だったかしらあ?」

「いいえ。貴族家を名乗るのが想像できませんでした」

「そうね。でも何も考えていないわ」

「御主人様は行き当たりばったりでーす!」

「確かに……」

「みんなは酷いなあ」


 単純な話として、フォルトは愛すべき身内の願いをかなえたかった。と同時に、グリム家に入りたくなかったのだ。

 魔族の貴族であれば国自体が滅亡しているので、しがらみが無さそうだった。しかも自分たちの状況をかんがみると、人間の家は到底受け入れられない。

 秘密が多く人間嫌いなのは当然として、国民になってしまうからだ。

 それと……。


「ローゼンクロイツは名前が格好いい!」

「「………………」」


 あちらの世界だと薔薇ばら十字・薔薇十字軍・薔薇十字騎士団と呼ばれており、フォルトの厨二病ちゅうにびょうを刺激する家名なのだ。

 ソフィアの前で名乗ったときも、ジーンと胸に染み渡っていた。


「名乗ったからには、フォルトは誰にも負けられないわよお」

「分かっているが、それは知略もだったか?」

「そうよ。すべてにおいて勝ちなさい!」

「ふーん」


 最終的には、魔人の力を使って解決するつもりだった。

 オタクが入っているフォルトは歴史やシミュレーションゲームが好きなので、その延長戦上の話だと考えている。

 また知略については無理があり、遊びの部分が大きいか。

 氷河期世代の引き籠りに期待してもらっても困る。


「まぁ相手がいれば、な」

「ふふっ。双竜山の森に引き籠りますからね」

「ソフィアはよく分かっているな」

「はい」

「ぶぅ。御主人様を一番分かってるのはカーミラちゃんでーす!」

「そうですね」


 カーミラは珍しく張り合っているが、ソフィアは一歩引いたようだ。

 二人を交互に見たフォルトは、「仲良きことは美しきかな」と思ってしまう。

 実際は張り合う行為に意味はあるが、それについて今は知る由もない。だがどちらも察しており、善と悪の綱引きは始まっていた。

 ともあれ、三国会議についての話題に移る。


「今は首脳会談中だったか?」

「そうですね。夕方までかかると思います」

「その間は何をしていればいいのだ?」

「私の部屋で……」

「御主人様とゴロゴロしまーす!」

「うん?」

「二人ともがっつくんじゃないわよ!」

「えへへ。マリは寂しがり屋ですねぇ」

「ちょ、ちょっと!」


 カーミラの言葉に、マリアンデールは恥ずかしさを隠すようにつかみかかる。

 それを見たフォルトは苦笑いを浮かべて、ルリシオンに顔を向けた。


「普段ならテラスでくつろぐのだがな」

「そうねえ。なら外に出るかしらあ?」

「嫌だ! この閉ざされた空間からは出たくない!」

「町の外ねえ。中じゃないわよお」

「あぁ……。町の外か」


(祭りの最中だから、町の外に人間はいないのかな? いても少数か。なら気分転換に出てみてもいいかもなあ)


 身内のことを考えると、外に出したほうが良いかもしれない。

 部屋の中に閉じ籠ると、精神的に病んでくるのをフォルトは知っている。経験者は語るではないが、彼女たちが病むのは避けたい。

 今のままでいてもらいたいのだ。


「カーミラ。ちょっと……」

「はあい!」


 マリアンデールとじゃれ合っていたカーミラが、すぐさま隣に飛んでくる。部屋の中では、『隠蔽いんぺい』などしていないのだ。

 そして、彼女の頭をでながら耳打ちする。


「ゴニョゴニョ」

「分かりましたぁ!」


 カーミラは悪戯いたずらをする子供のような笑顔を浮かべて、部屋の窓から出ていった。もちろん誰からも見られないように、『透明化とうめいか』のスキルを使っている。

 後で合流するので、フォルトは窓を閉めて続きを話す。


「よし! ルリが言ったとおり外に行くか」

「何を頼まれたのですか?」

「ははっ。内緒だ」


 ソフィアからの疑問は、後のお楽しみである。

 フォルトは答えをはぐらかして、姉妹を入れた四人で部屋を後にした。以降は屋敷から出たところで、宿舎を守る警備兵に呼び止められる。


「ソフィア様。夕刻からの共同宣言には出席してくださいとのことです」

「まあ! 御爺様おじいさまからですか?」

「はい」

「分かりました。では、それまでには戻ります」

「分かってしまったのか」

「ふふっ。護衛をお願いしますね」


 ソフィアを身内として迎えても、護衛は続ける必要があった。逆にもっとしっかりと守らなければならない。

 自分自身の信念なのだから……。

 それからフォルトたちは、町に出て通行門を目指した。

 バグバットが治めるアルバハードも、他の町と同様に高い壁で囲まれている。また通行門では、ソフィアのカードで問題なく通れた。

 今の時期ならVIPカードと同様で、彼女の責任において他の三人も通れる。


「聖女の称号は剥奪はくだつされましたけどね」

「そうだな。それにしてもマリとルリの仮面が何とも言えないな」

「ちょっと! どういう意味よ!」

「いや。淑女に見える」

「見えるのではなくて淑女ですけどお?」


 姉妹の着用している服は、ゴシック調の可愛い黒服である。

 貴族の舞踏会に参加しても、まるで違和感が無い。もちろんその格好で町中を歩くと目立つが、今は祭りの最中なので平気だった。


「混んでいるな」


 フォルトはそう言うが、実のところ町から出る人間はほぼいない。

 日本であればゴールデンウィークやお盆時期の高速道路のように、町に入る人間だけが多いのだ。

 それもあって、ルリシオンは外に出ようかと提案したのだろう。


「町の外って、ただっ広い平地だったな」

「はい。大抵の町はそうですよ」

「遠くを見渡せるようにか?」

「魔物や敵軍を早期に発見するためですね」

「へぇ。ソフィアは物知りだな」

「まあ!」


 フォルトに褒められてうれしいのか、ソフィアが腕を組んでくる。

 ちなみに、同じような行動をする身内はカーミラ・レイナス・アーシャである。マリアンデール・ルリシオン・シェラはやらない。

 人間と魔族の差というよりは、単純に性格の差だが……。


「御主人様! こっちですよぉ!」


 街道から外れたところには、数本の木々が茂ってる場所が点在する。

 そのうちの一つに到着していたカーミラが、フォルトに向かって手を振っていた。と同時に、お腹の虫を刺激する旨そうな匂いが漂ってくる。

 彼女に近づくと、その匂いの正体が分かった。


「ご苦労さん」

「えへへ。おつまみには最高でーす!」

「フォルト様。カーミラさんが手にしているものは何でしょうか?」

「祭りの露店から奪ってきた串焼きです」

「またそうやって!」

「さぁオヤツを食べながらくつろぐかあ!」


 フォルトは「まぁまぁ」と、頬を膨らませたソフィアをなだめる。

 以降は寄りかかれそうな木の根元に、ゆっくりと腰を下ろした。他の四人も好きな場所に座って、カーミラが強奪してきたオヤツに手を伸ばしている。

 近くには誰もいないので、テラスにいるような気楽さだ。

 もちろん街道に戻れば、多くの人間が歩いている。遠目で見られているような視線を感じるが、今は身内とピクニックを楽しむのだった。

Copyright©2021-特攻君

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