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異世界は小悪魔と共に  作者: 特攻君
第九章 三国会議
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三国会議・祭り2

 三国会議が始まっている。

 エウィ王国・ソル帝国・亜人の国フェリアスの三大大国が、一堂に会して執り行われるサミットだ。

 もちろん開始以前から、活発な外交折衝は行われている。

 ただし現段階では、エウィ王国が劣勢だった。

 それを危惧したエインリッヒ九世は緊急の招集をして、劣勢についての報告を受けているところだった。


「農業分野ですが、ソル帝国から関税の引き上げを求められております」

「二年前に上げたばかりだぞ! 突っぱねろ!」


 報告会とも言える会議は、エインリッヒ九世の宿舎で行われている。

 仮の玉座の前に机が並び、左右に多くの貴族が座っている。また全員が座れるわけでもないので、身分の低い者は立っていた。

 そして現在は、農業担当の子爵から報告を受けている。だが、それに反発しているのがブレーダ伯爵である。

 魔の森を預かり、開拓の指揮を担当している人物だ。

 なよっとした体格の中年で、つり目が特徴的である。


「し、しかし! 帝国は食料の大量流入に懸念を表明しており……」

「それがどうした? エウィ王国の損にはなるまい!」

「帝国の農業界から反発の声が上がっているとの由」

「知ったことではないわ!」


 森にはまだ魔物や魔獣が存在するが、ある程度は奥地に侵攻できていた。

 現在は、切り開いた森の開拓作業を行っている最中なのだ。

 この開拓が予定通りに進めば、資源の入手と食料の大量生産が可能になる。だからこそ他国に輸出して、利益を得る算段をしていたのだ。

 ゆえに関税の交渉には、神経をとがらせている。


「ブレーダ伯爵殿。王国の利益ばかりですと、輸入自体を止められますぞ」

「グリム様」

「ですが帝国には、魔の森の件が伝わっておりまするな」

「規制は敷いているはずですが?」

伝手つてが多ければ、それだけ伝わるという話じゃな」

「密偵か?」

「そのとおりです陛下」


 仮の玉座に座っているエインリッヒ九世が、渋い表情に変わった。

 人流があるので完全に塞ぐことは無理でも、王国の諜報ちょうほう機関も馬鹿ではない。密偵の捕縛・追跡、誤情報を与えるなどは日常茶飯事で行われている。

 そうなると……。


「こちらの失点だな。責任者は処分するとして……」

「お待ちください陛下」

「デルヴィ侯爵、か」

「諜報機関ばかりが失点ではありますまい」

「何だと?」

「国内の警備に不備があるのでは?」


 昇爵したばかりのデルヴィ侯爵が、対面に座るローイン公爵に顔を向ける。

 レイナスの父親で、エウィ王国軍を統括する人物だ。国内の警備も担当しており、密偵が活発に動けている責任を問うたのだろう。


「それを言うなら、国境の警備に不備があるのでは?」


 デルヴィ侯爵は、三国と国境を接する重要な領地の領主である。

 国境の警備は領主が担当するので、逆に責任を問い質した。


「国境警備は万全ですぞ。それに公爵殿のことを言ったわけでは……」

「ええい止めよ!」

「「ははっ!」」


 ローイン公爵とデルヴィ侯爵は、互いに反目し合っていた。

 王国内での実力も拮抗きっこうしており、それぞれで派閥をまとめている。しかしながら頼もしいことも事実で、エインリッヒ九世の悩みの種だった。

 その苦悩を知っているグリムが、二人の間に割って入る。


「ワシの落ち度ですな」

じいが、か?」

「おそらくは、双竜山を越えた者たちが諜報員だと思われますな」

「ふむ……。ならばよい。その報告は受けている」

「よいのですか!」

「仕方あるまい。報告を受けて備えなかったのだからな」

「「おおっ!」」


 この発言は、国王自らが非を認めたということだ。

 グリムを除く全員が驚愕きょうがくする。

 それに対してローイン公爵は、苦々しい顔に変わった。反対にデルヴィ侯爵は、ニヤリと笑みを浮かべる。


「代わりと言っては何ですが……」

「どうした爺?」

「フェリアスとの人的交流の緩和。これを内々に取り付けております」

「ほう! さすがは爺だな」

「恐れ入りまする」


 亜人の国フェリアスとは互いに種族が違うので、活発な交流は行われていない。まるで無いわけではないが、相互の往来には厳しい規制が敷かれているのだ。

 これについては、ソル帝国とフェリアスでも同様だった。

 それを、帝国に先んじて緩和させる手腕は大したものだ。まだ正式発表までは詰める話も多いが、グリムなら完璧にまとめるだろう。


「しかし食料については、今後の課題になるな」

「はい。国民に安く提供するのも一つの手かと……」

「現状では飢えておらぬ!」

「そこに回すなどもっての外ですぞ!」

「「然り然り!」」


 グリムの提案に対して、すべての貴族が反対する。

 自らの領地では国民に寄り添う政策を執っているが、貴族は正反対である。彼らは支配階級として、国民から搾取するのが当然と考えていた。


「開拓は始まったばかりだ。農地にせずともよい」

「そうですな。農地ではなく、酪農用の放牧地でもいいですな」

「旨い肉が食べられるというものだ」

「食料不足になれば、農地に変えやすかろう」

「「然り然り!」」


 貴族は自分が優先だった。

 平民の食料事情など知ったことではないのだ。酪農から得られるものすべてを、貴族が接収するだろう。

 ともあれ、三国会議は始まったばかりである。

 今後も、各国との折衝が続くのだ。すべてを得ることはできなくても、より有利な条件を引き出せるように知恵を出し合うのだった。



◇◇◇◇◇



 三国会議が行われている自由都市アルバハードでは、それを祝う祭りが開催されている。多くの人が集まって、それはもう大盛況だった。

 そしてフォルトは、大通りに出たところで座り込んでしまう。

 俗にいう人間酔いである。


「フォルトさん。どうしたの?」

「酔った」

「はぁ……。じゃあ戻る?」

「いや。元気が出てきた」


 アーシャが溜息ためいきを吐きながら、一緒に座り込んで気遣ってくれた。召喚された当時は思いもよらなかったが、なかなかに優しいギャルである。

 それとは別にミニスカートなので、エッグいパンツが丸見えだった。


(うーん。視線が外せない。これはおっさんなので仕方がない。そりゃあ、こんなにも短いスカートで座ればなあ。でもおかげで復活できそうだ)


 ギャルにありがちな無防備状態である。

 心配そうな顔で気遣っているアーシャは、フォルトに下着を見られていることに気付いていない。


「フォルト様?」


 ソフィアも気遣ってくれるが、魔人の弱点が人混みとは情けない。

 引き籠りを脱するには、まだまだ時間が必要なようだ。と言っても、晩餐会ばんさんかいでは座り込むほどでもなかった。

 気を取り直したフォルトは、デートの続きを楽しむことにする。


「あぁもう平気だ。しかし祭りとは……」

「祭りと言っても露天が多く出ているぐらいですね」

「へぇ」


 ソフィアの言ったとおり大通りには、露天が数多く建ち並んでいる。

 料理はもちろん装飾品などの販売され、そこかしこでにぎわっていた。


「じゃあ行こ行こ!」

「うむ」


 アーシャに促されて、大通りを歩く。

 人混みだけで言えば、日本の若者が集まるような場所を思い出す。フォルトからすると、渋谷のセンター街や原宿の竹下通りが近いか。

 それでも露店の品(ぞろ)えは、全年齢が対象のようだった。


「どうアーシャ?」

「駄目ね」

「店に入らなくても分かるのか?」

「歩いてる人を見れば分かるよ。ファッションのファの字もないわ」

「そ、そうか」


 確かに、大通りで一番目立つのはアーシャだ。

 その証拠にすれ違う人々は、露出の激しい彼女を見ている。中にはほほを赤く染めながら、顔を背ける人もいた。

 それは、フォルトの隣を歩くソフィアも同様だ。


「さすがにアーシャさんの格好は……」

「そう? これが普通なんだけどなあ」


 ミニスカートの時点でアウトな世界である。

 宗教的なものではないが、女性は肌を露出していない。

 それは服に金を費やさないことで、生活を切り詰めているからだ。たまにある祭りのときに、安く買うのが一般的だった。

 そのために、見た目よりは丈夫さを選ぶ。


「でも金があれば、こっちの世界の女性も着飾りたいのでは?」

「それはもう」

「ですよね。俺がプレゼントした服を着ていますし……」

「っ!」


(ソフィアさんがエロ装備を着てくれたのは、そういうことかもしれないなあ。着衣派の俺としては、女性のファッションは重要だ。俺自身は何でもいいが……)


 ソフィアについては、今もローブを着用して肌を隠している。

 ともあれフォルトたちが大通りを進んでいると、露天の一つから空腹を刺激する匂いが流れてきた。と同時に足を止めて、その発生源を探す。


「きゃ!」

「どうしたアーシャ?」

「ちょっと! 痴漢に触られたんですけどぉ!」

「ええっ! どいつ?」

「んー。どいつだろ? あいつかなあ?」


 アーシャが視線を向けた場所に、こちらを見てニヤニヤしている人間がいる。

 三十代前半ぐらいの男性で、手を開いたり握ったりしていた。どう考えても、彼女を触った余韻に浸っている。

 これに対してフォルトは、額に青筋を浮かべた。


「ちっ。インプロ……」


 アーシャは身内であり、フォルトの大切な女性になったのだ。

 それならばと自身の信念を貫くため、男性に対して右手を突き出した。しかしながら行動を見たソフィアが、腕にしがみついてくる。

 絶対に手を離さないといった力強さがあった。


「フォ、フォルト様!」

「おっと……。ソフィアさん?」

「フォルト様! いま何をしようとしましたか?」

「え? 痴漢をした男を殺そうと……」


 身内に手を出したら殺す。

 それがフォルトの信念なので、アーシャに手を出した男性を殺害しようとしただけだった。簡単な話だが、ソフィアにいさめられる。


「駄目です!」

「え?」

「いいですか? むやみやたらに人を殺しては駄目です!」

「でも俺のアーシャが……」

「でも、じゃありません!」


 ソフィアからの諫言は、そもそも人間だったフォルトにはよく分かるし十分に理解している。だが魔人に変わっている今、そのような倫理観はどうでも良いのだ。

 自分の大切な身内に手を出した報いを与えたかった。と思っていると一連のやり取りを見ていたアーシャが、ニヤニヤとしながら顔を近づけてくる。

 実にうれしそうな表情だ。


「今さ。俺のって言った?」

「言ってない」

「言ったよね?」

「言ってない」

「ふーん。言ったっしょ?」

「言ってない」


(しまったな。アーシャをいい気にさせてしまった。それに何だ? このリア充状態は……。俺が爆発してしまいそうだ!)


 世界が違えば、かくも違うものなのか。

 いい年をしたおっさんが、ギャルから惚気のろけられているのだ。

 いつかこの反動がきそうで、フォルトは怖くなった。とはいえそれまでは、現状の幸せを謳歌おうかするつもりだ。

 そうでなければ、絶対に後悔するだろう。


「仕方ないですね。ソフィアさんに免じて忘れましょう」

「もぅ……。駄目ですよ?」

「御主人様! 戻りましたぁ!」


 ソフィアの説教が終わった頃。

 バグバットのところに使いに行っていたカーミラが合流した。

 フォルトの居場所を特定するとは、さすがはシモベである。彼女もローブを着用しているので、肌は露出していない。


「戻ったか」

「はい! 何かあったのですかぁ?」

「いや。何でもない」

「えへへ。アーシャのお尻を触った男なら殺しておきましたよぉ」

「カ、カーミラさん!」


 カーミラは一部始終を見ていたようだ。

 フォルトが仕留め損なった痴漢を、さっさと始末していた。


「どうやったのだ?」

「『人形マリオネット』で操って、路地裏で自殺させましたぁ!」

「なるほど」

「何てことを……」

「貴女は御主人様を勘違いしていますねぇ」

「え?」

「ゴニョゴニョ」

「っ!」


 カーミラは無表情になって、ソフィアの耳元でささやいた。また何かを告げられた彼女は、様々な感情が入り混じったような表情に変わる。

 内容がまったく聞き取れなかったので、フォルトは首を傾げた。


「カーミラ?」

「何でもないですよぉ」

「そうか。でも死んでしまったのなら、もう諦めるしかないな」

「ちぇ。あたしがりたかったなあ」

「ごめんねぇ」


 フォルトが堕ちているように、アーシャも堕ちていた。見捨てられたくないという思いが、彼女の倫理観を壊している。

 他にも、堕落の種が関係していた。レベルを上げて成長すると悪魔に変わるが、同時に精神も染まっていく。

 そして彼女の言葉を聞いたソフィアは、いぶかし気な表情を浮かべる。


「これは……」

「ソフィアさん?」

「いっ、いえ! では宿舎に戻りましょうか?」

「ちょっと待ってね」

「え?」

「ほら見えるでしょ? 大食いで無料らしい」


 すでにアーシャを痴漢した男性などは、フォルトの頭の中から消えている。

 そのような小物よりは、大食いの看板を掲げている露天に意識が移っていた。すでに暴食が限界だったので、宿舎に戻る前に腹を満たしたいところだ。

 早速三人を連れて、店主に参加の旨を伝える。

 そして屋台の店主が驚愕するのは、数十分後の出来事だった。

Copyright©2021-特攻君

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