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異世界は小悪魔と共に  作者: 特攻君
第八章 晩餐会
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自由都市アルバハード2

 双竜山の森にある湖の周囲では、リリエラが基礎訓練を行っていた。体力を付けるべく、レイナスやアーシャと一緒に汗を流している。

 初回のクエストを終わらせたが、次回まで間が空くからだ。ソフィアの護衛を引き受けたフォルトが、森を離れる。

 留守中は、能力の向上に努めると言っていた。


「さてと! 行くとしますかね」

「えっと……」


 その光景を眺めているフォルトは、隣にいるソフィアに声をかける。彼女はビキニビスチェを装備しているが、現在は全身を隠すローブで隠していた。

 ともあれ三国会議が開催される自由都市アルバハードでは、先に到着しているグリム家の宿舎を使うことになっている。

 開催日まで時間はあるが、水面下では活発に協議が行われているらしい。忙しいようなので、到着しても会えるかは分からない。

 そして、カーミラには指示を出す。


「カーミラはアレをよろしくね」

「はあい!」

「アレとは?」


 ソフィアはモジモジとしながら、上目遣いでフォルトを見てくる。

 徒歩や馬車だと、今から出発しても間に合わないのだ。となると、アルバハードに向かう手段は一つしかない。

 それを行うために、両手を広げて彼女に近づいた。


「内緒です。ではどうぞ」

「本当に平気なのですか?」

「大丈夫ですよ。ほら。俺の首につかまってください」


 うつむいたソフィアは両手を伸ばして、フォルトの首に絡ませてくる。

 それを確認した後は、彼女を抱え上げてお姫様抱っこした。


「きゃ!」

「絶対に手を離さないでくださいね」

「わ、分かりました」

「御主人様! いってらっしゃーい!」


(いい匂いだなあ。それに柔らかい。しかも恥ずかしいのか体が熱い。顔を見てこないようにしているあたり、ほほが真っ赤なのだろう)


 そんなことを考えたフォルトは、スキル『変化へんげ』を使って翼を出す。

 目的地のアルバハードまでは、空を飛んでいくつもりなのだ。とはいえ全力で飛行すると加速が凄く気絶してしまうので、ソフィアを魔力で包んであげる。


「どっこいしょっと!」

「きゃああああっ!」


 フォルトは東に向かって、ぐんぐんと上昇した。

 まるで弾道ミサイルのような速さである。

 それでも魔力の膜で覆われているので、風圧などは感じない。以降は地表から五十キロメートルぐらい上昇したところで止まった。


「ソフィアさん?」

「はっ、はい!」

「下を見るといいですよ」

「え?」

「世界は広いですね」

「きゃああああっ!」


(まぁそうだろうな。地面なんてはるか彼方だ。でも広い大陸だなあ。もっと先に陸がありそうだけど……。よく見えないや)


 こちらの世界が、地球のように丸い惑星なのかどうかは分からない。もっと上昇すれば、宇宙に出られるかもしれない。

 もちろん、フォルトは試そうと思わなかった。

 空から眺めた感じでは、この大陸は広大過ぎる。大陸は海に囲まれており、視線の先には他の大陸らしき影が見えた。

 世界は広かった、ということだ。


「ソフィアさん?」

「はぁはぁ」


 叫び疲れたソフィアは、顔をフォルトに向けてきた。

 この高度から落ちれば確実に死亡するので、彼女はおびえてしまったか。だが手を放さなければ落ちることはなく、仮に落ちても拾い上げられる。

 それを伝えると、彼女は安心して息を整えていた。


「魔力で覆っているので大丈夫ですよ」

「そうですか?」

「これから目的地のアルバハードまで一気に落ちます」

「えぇ……」

「怖いですか?」

「そっ、それはもう!」


 確かに最初の飛行は、フォルトも怖かった。

 あのときはカーミラも一緒にいたので、多少の安心感はあった。ならばとソフィアを落ち着かせるために、とある手段を選択する。


「フォルト様! どこを触って!」

「ははっ。柔らかい胸ですね」

「やっ、やめてください!」

「俺の手に意識を向けていれば気になりませんよ」

「ですが!」

「行きますよ!」

「きゃああああっ!」


 日本であれば、完全にアウトである。

 ソフィアの抗議を最後まで聞かず、フォルトは一気に降下する。アルバハードの位置は聞いているので、角度を付けて落ちるだけだった。

 上昇するよりも下降するほうがスピードは出る。魔力での推進力も加えて、かなりの加速度になっていた。


「どうですか?」

「あ……。大丈夫なようです」

「それは良かった」

「ありがとうございます。では手を……」

「あぁ失礼。平気ならやめときますね」

「あ、いえ。えっと……」


(もっと触っていたかったけどな。落ち着かせるという大義名分が失われたし、もうやめておこう。これ以上触っていると言い訳が……)


 誰が聞いても大義名分ではなく、ただのセクハラ行為だが気にしない。ついでに速度を上げて、ソフィアにも気にさせない。

 そして暫く降下していくと、アルバハードらしき町が見えてきた。

 初めての来訪だが、彼女に聞いたとおりの位置なら場所は合っている。しかしながら、このまま到着すると拙い。

 そこでフォルトは、魔法を使う。



【マス・インジビリティ/集団・透明化】



 集団化した透明化の魔法で、二人を周囲から見えなくした。

 以降は人のいない場所に下りて、宿舎に向かうだけである。だが互いに見えないので、ソフィアはキョロキョロと首を振っていた。

 いや。互いに見えないは間違いだ。

 フォルトは、透明化を見破る目を持っている。

 彼女の奇麗な顔を眺めがら、スキルと魔法を解除した。


「下ろしますね!」

「あ、ありがとうございます」

「立てますか?」

「はい!」

「ここからは案内してくださいね」

「分かりました」


(用意してもらっている宿舎とか場所が分からん。とりあえず、ソフィアさんについて行けばいいだろう。だがしかし!)


 小太りのおっさんに戻ったフォルトは、周囲をキョロキョロと見渡す。続けて真面目な顔になり、ソフィアにあることを頼んだ。

 アルバハードに訪れたのは良いが、ここから先が問題なのだ。


「悪いけど人のいない場所を通ってくださいね」

「え?」

「俺は人混みに酔うと思います」

「そっ、そうでしたね!」


 人間嫌いで引き籠っていたフォルトでも、人とすれ違うぐらいは可能。問題は人混みと無縁の生活が長かったので、目を回してしまいそうなのだ。

 現在は三国会議が開催されるからか、人通りが多い。だからこそ路地裏などを通って、グリムの宿舎まで向かいたい。


「人間が……。多いですね」

「この時期はかなり集まりますよ?」

「手を離さないでくださいね」

「ふふっ。子供みたいですね」

「迷ったら掃除しそうなので!」

「っ!」


(人混みにキレて、周囲を吹き飛ばしてしまいそうだ。やってもいいんだけど、俺は約束を守る男なのだ! それに、ソフィアさんの手が柔らかい)


 女性の手など毎日のように握っているが、フォルトは飽きることがない。

 自身は「女好き」と改めて認識したところで、ソフィアの手を強く握った。


「で、では行きましょう」

「今日は宿舎から出ないですよね?」

御爺様おじいさまがいれば挨拶するぐらいはお願いしますね」

「もちろんです。まぁそれだけなら、部屋でゆっくりとするかな」

「ふふっ。外に出るときは声をかけますね」


 フォルトは数日もしないで、ホームシックになりそうだった。アルバハードに到着したばかりだが、双竜山の森に帰りたくなっている。

 引き籠りのリハビリが必要かもしれない。


「はぁ……。帰りたい」

「まだ来たばかりですよ?」

「そうですけどね。テラスが懐かしい」

「懐かしいって……。まだ何時間も経っていません!」

「ははっ。俺は駄目男なのです」


 フォルトの希望どおりに人通りの少ない道を歩いていくと、二十分ほどでグリムの宿舎に到着した。やはり遠回りになってしまったようだ。

 それにしても、さすがは国王の側近である。特別な屋敷が与えられており、立派な屋敷を宿舎としていた。

 双竜山の森の屋敷とは大違いである。


「グリムの爺さんって、やっぱり偉いのですね」

「普段はそうでもないのですが……」

「分かります。好々爺(こうこうや)ですしね」

「ふふっ。そうですね」


 宿舎の前や周囲にも、多くの警備兵が立っている。

 これだけでも、グリムがエウィ王国の重要人物と分かった。

 そしてソフィアは、元聖女として顔が知られている。彼女を確認した警備兵は頭を下げて、玄関の扉を開けてくれた。

 二人は中に入り、割り当てられた部屋に向かう。


「俺は適当に寛いでいますね」

「はい。暫くはお休みください」


 やっと一息付けると思ったフォルトは、ソフィアと別れて部屋に入る。

 中を見渡すと、大好きなベッドが視界に入った。ならばとそれ以外には目をくれずに、ベッドに向かって飛び込んだ。

 そして仰向けになり、満面の笑みで天井を見上げる。

 場所が変わっても、個室で怠惰に過ごすのは大好きなのだ。


「カーミラがいないけど、とりあえず一寝入り。ふぁぁぁ」


 フォルトは欠伸をしながら、ゆっくりと目を閉じる。

 フカフカのベッドで、とても寝心地が良い。自宅のベッドとは雲泥の差だ。ブラウニーが製作した粗悪品だからか、ギシギシと音を立てて気が散るときがある。

 ともあれソフィアの胸の柔らかさを思い出しながら、寝息を立てるのだった。



◇◇◇◇◇



 フォルトが暫く寝ていると、両腕に違和感を感じた。

 どうやら眠りが浅くなり、目覚める寸前のようだ。しかしながら、まだ目を開けることはない。左右の手を動かして、その違和感の正体を触る。

 そして、目を閉じたままつぶやいた。


「カーミラ、シェラ。おはよう」


 触った感触だけで、フォルトは対象を当てる。

 身内にはそれぞれ特徴があり、目を閉じていても分かるのだ。十分に堪能した後に目を開けると、それは正解だった。


「えへへ。連れてきましたよぉ」

「うん。シェラもお疲れ」

「さすがに空は怖かったですわ」


 カーミラに出した指令は、身内の誰かを連れてくることだった。

 彼女も空を飛べるのだ。フォルトと同様に抱えてくれば、一人を連れてくるなど造作もない。しかもレベル百五十の悪魔なので、飛行速度も速い。


(カーミラには悪いが、毎日森に戻って様子を見てもらう。何かあれば、俺もすぐに戻るからな。まぁそれは建前だけど……)


「今は何時ぐらいだ?」

「そろそろ夜になりますよぉ」

「なら飯の時間かな」

「だと思いますわ」

「では、ソフィアさんから呼び出しがあるまで……」


 当然のようにベッドからは出ず、三人で横になっている。

 スキンシップは大切なのだ。マリアンデール風に言うと、カーミラとシェラ成分の補充である。

 そしてモゾモゾと動きだしたところで、部屋の扉がノックされる。

 仕方なく手を止めて扉を眺めていると、ソフィアが中に入ってきた。


「フォルト様。お食事の用意が……。え?」

「飯かあ。腹が空いたところです」

「シェ、シェラさん? それにカーミラさんも……」

「ソフィアさん。お邪魔しておりますわ」

「やっほ!」

「何でここにいるのですか!」


(ソフィアさんの叫びは分かる。護衛は俺だけの予定だったしな。だがしかし! それは無理というものだ。俺には彼女たちが必要なのだ!)


 身内がいるからこそ、フォルトは精神的な安らぎを得ている。もちろん色欲の大罪を持っているので、肉体的な温もりも必要だ。

 いくら双竜山の森から出ようとも、常に彼女たちを感じたい。


「連れてくるなら先に言ってください!」

「俺だけと聞いたので……」

「そのつもりでしたけど……。もうっ!」

「ははっ。でも人数分の食事は無いですよね?」

「少し時間を頂ければ作ってもらいますよ」

「お願いします。では小一時間後に!」


 ソフィアはブスッと頬を膨らませながら、部屋を出ていった。カーミラやシェラを追い返すわけにもいかないのだろう。

 フォルトは「悪いことをしたな」と思ったが、反省はしていない。


「よし! 飯ができるまで寝るか!」

「はあい!」

「で、では失礼しますわ」


 三人で寝ると言っても、文字通りに寝るわけではない。小一時間も時間があるのだから、肉体的な温もりを求める。

 上体を起こしたフォルトは、二人の身内を抱き締めるのだった。

Copyright©2021-特攻君

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