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異世界は小悪魔と共に  作者: 特攻君
第八章 晩餐会
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自由都市アルバハード1

 リリエラを送り出して七日目。

 フォルトの屋敷では三国会議に向けて、三人の男女が談話室に集まっていた。

 一人はもちろん、この屋敷の主人である。もう一人の参加者カーミラを隣に置き、いつものように悪い手を動かしていた。

 そして対面には、元聖女ソフィアがほほを赤らめながら立っていた。


「いいね。いいよ」


 フォルトの目前には、ソフィアのアバターが展開していた。

 まず首から流れるベルトで、胸を隠す布を固定している。また腰から流れる布も、股間を隠す。腕には籠手を装備して、足はロングブーツを履いている。

 全体的に青でまとめている衣装だが、それ以外の肌はすべて露出していた。背中は丸見えで、股間を隠す布は垂れ下がってるだけだ。

 これでは、簡単にめくれてしまうだろう。完全にビキニアーマーである。


「フォ、フォルト様……」

「うーん」

「はっ、恥ずかしいです!」

「知っています」


(恥ずかしいと言っても着てしまうあたり、実は好きなんじゃないのか? と思ってしまうな。このデザインを選んだのはソフィアさんだしなあ)


 ビキニアーマーと言っても、素材が布なのでビスチェに近い。

 ビキニビスチェと呼称すれば良いだろうか。いや、良しとしよう。実に危ない系である。とはいえこのままでは、双竜山の森から外に出せない。

 下手をするとソフィアが、痴女と間違われてしまうだろう。

 そこで、マントと腰巻のようなスカートを渡す。


「これを着てください」

「はい?」


 ソフィアに渡したマントは、首から通すと肩口から背中が隠せる。またパレオ型の腰巻は、可愛らしい二つの桃を隠した。

 それでも、お尻と太ももの裏だけだ。表は変わらず露出が凄い。


「完璧ですね」

「え?」

「いえ。よく似合いますよ」

「あ、ありがとうございます」


(ソフィアさんの顔が真っ赤だなあ。これで護衛の件の仕返しができた。でも、森を出て護衛かぁ。憂鬱だが、そう言えば……)


 エルフ族が見られるということで、フォルトは嫌々ながらも、三国会議での護衛をやることに決めた。

 腰は重いが、こればかりはいつもどおりである。

 そして泊りがけになるので、今のうちに日程を聞いておく。


「三国会議はどんな感じですかね?」

「日程ですか?」

「うん」

「初日に晩餐会ばんさんかいが開かれます」

「へぇ」

「翌日からは分野別の会議が行われて、最終日に首脳会談ですね」

「なるほど」


 三国会議とは、大陸の三大大国が開催する国際会議なのだ。

 まずは貿易・農業・地域情勢・経済・軍事・人的交流など重要課題を話し合う。最終日には三国の首脳から、大陸中に向けて共同宣言が発表される。

 ソフィア自身が参加するものは、初日と最終日の晩餐会だ。またそれとは別に、個別の面会が予定されている。


「色々と大変ですね」

「ですが、時間は余ると思います」

「俺はソフィアさんと一緒にいるだけでいいと?」

「はい。面倒でしょうけどお願いしますね」

「本当に面倒……」

「ふふっ。三国会議の間はお祭りが行われていますよ」

「へぇ。祭りは別にいいや」


(人間嫌いな俺に、人間だらけの祭りなど拷問に近い。人間に酔ってしまうよ。意地でも行かん。あっちの宿舎に引き籠るのだ!)


 祭りなど人があふれる場所には、自宅に引き籠る前ですら行かなかった。

 せいぜい学生時代に、当時の友達と出店を回ったぐらいか。そもそもフォルトはインドア派なので、恋人がいたときですら建物の中だ。


「そうそう。護衛は何人まで連れていけますか?」

「私は要人ではありませんので、フォルト様だけで良いですよ?」


 ソフィアの役割は、聖女という飾りである。

 現在は剥奪はくだつされており、三国会議では肩書だけの存在だ。人と会うことも少ないので、重々しく護衛を付ける必要が無い。

 従者らしき護衛が、一人いれば十分との話だった。


「その従者らしき護衛が俺ってことですね?」

「はい」

「ふーん」


(カーミラは『透明化とうめいか』のスキルがあるから連れていくとして……。俺は魔人の力で空を飛べば、すぐ会場に到着できる。なら……)


 フォルトはひらめいたかのように、目を細めてニヤリと笑う。

 いま考えている内容は、カーミラがいれば可能である。ならば、彼女には頑張ってもらうつもりだった。


「カーミラには、俺が何をしてほしいか分かる?」

「大丈夫ですよぉ」

「さすがはカーミラだ!」


 ツーと言えばカーの間柄なので、カーミラも察したようだ。

 三国会議は、数日後に開催される。すでに各国の要人や官僚たちは、続々と現地入りを始めていた。

 そろそろフォルトたちも、出発の準備を始めないと拙い。


「何か持っていくものはありますか?」

「フォルト様なら……。枕とか?」

「ソフィアさんの膝枕でいいです」

「っ!」

「冗談ですよ。それに……」


 フォルトは考える。

 何かが必要なら奪えば良いのだ、と。今でもやっていることなので、現地調達で十分だろう。もちろん奪うのは、カーミラの仕事だ。

 またソフィアは、宮廷魔術師グリムの孫娘である。宿舎は同じ場所を使うので、最低限の必需品はそろっているはずだ。


「フォルトさん!」


 ソフィアと最後の詰めをしていると、アーシャが談話室に入ってきた。

 いつものように腕に抱き着いて、二つの柔らかいものを押し付けてくる。


「でへ。どうした?」

「リリエラちゃんが帰ってきたよ」

「そうか」


 本日はリリエラに出したクエストの期限日である。彼女が自由に使える時間は三日だが、フルに活用してきたようだ。

 なかなか見所がある。

 そしてフォルトは結果を聞くために、テラスに向かうのだった。



◇◇◇◇◇



 フォルトがテラスに出ると、リトの町から戻ったリリエラが待っていた。やつれてもいないし、怪我をしてるようにも見えない。

 どうやら、ニャンシーの出番は無かったようだ。

 いつもの席に着いた後は、隣に座らせたカーミラを触る。後ろからはアーシャが首に巻き付いて、ソフィアは同じテーブルの席に座った。


「マスター、いま帰ったっす!」

「おかえり」

「カードを作ってきたっす」

「見せてみろ」

「はいっす!」


(ミリアじゃなかったか。まぁ神殿や教会が作るものだから、神様が関係しているのだろうな。スキルは……。『俊足しゅんそく』だけか。変わっていないな)


 受け取ったカードを見ると、名前の欄にリリエラと書かれていた。

 このカードもよく分からないが、深く考えても意味が無いだろう。魔法と同様に、そういったものだと割り切っておけば良いのだ。

 実在する神の思考や能力などは、おっさんに理解できないのだから……。


「称号は……。うん?」

「御主人様。どうかしましたかぁ?」

「いや。「チェイサー」って何だ?」

「そのまま読むと追跡者ですねぇ」

「リリエラは何かを追いかけたのか?」

「何も追いかけてないっす」


 カードの称号欄には、「チェイサー」と表示されていた。

 言語系は省くが、スキル欄には『俊足しゅんそく』だけである。レベルは七で、レイナスの見立てに間違いは無かった。

 この内容なら、今後は足を活かしたクエストが最適だろう。


「ではリリエラ。お楽しみの報告だ」

「はいっす!」


 リリエラの報告は長々と話さず要点を抑えていて、とても分かりやすい。

 腕を組んだフォルトは、ウンウンとうなずきながら聞いた。



 一.リトの町までは、予定通り二日で向かう。エンカウントは無し。

 二.おじさんに教会の場所を聞くが、身の危険を感じて逃げ出す。

 三.おばさんに教会の場所を聞く。

 四.教会で目的のカードを作成し、炊き出しを食べて一泊する。



「無難に終わらせたようだな」

「はいっす!」

「それからはどうした?」



 五.教会を拠点に、郵便配達の仕事を三日間続ける。(給金の一割寄付)。

 六.五日目の夕方に、食料と水を用意する。

 七.六日目の朝にリトの町を出発して帰還する。クエスト達成。



 リリエラは余った時間を活用して、手持ちの金銭を増やしていた。郵便配達では大した給金にならないが、カード代以上は稼いでいる。

 チュートリアルの延長で考えたクエストなので、そんなものだろう。

 今後に期待、だ。


(ほほう。郵便配達なら、リリエラの『俊足しゅんそく』を活かせるな。ついでに街並みを把握できて一石二鳥か。まぁ身の上を考えると、よくクリアできたなと……)


 リリエラは、元カルメリー王国の王女でデルヴィ伯爵夫人だった女性。

 このようなお使いクエストなど、今までの生活で考えたことも無いはずだ。フォルトからすると、今回は失敗すると思っていた。

 それが蓋を開けてみれば、無難に切り抜けている。


「リリエラよ。合格だ!」

「やったっす!」

「これでチュートリアルは終わりだ。ニャンシー!」

「にゃ」


 リリエラの影から、すまし顔のニャンシーが現れる。

 今回の報告では、二番で選択を間違えたらゲームオーバーか。

 おじさんについて行けば、どこかに監禁されて犯されただろう。以降は飽きたところで捨てられるか、下手をすると殺害まで視野に入った。

 もちろん最悪の場合であって、フォルトの考えすぎかもしれない。とはいえ人間を見限っているので、人の好意には裏があると思っていた。

 選択を間違っていれば、眷属けんぞくの出番があったかもしれない。


「ご苦労だったな」

「何もしておらぬがのう」

「最初からニャンシーの世話になるようじゃ、今後が大変だしな」

「次からはついて行かなくても良いかの?」

「うーん。もう暫く頼む」

「分かったのじゃ!」


 とりあえず今回は、リリエラの優秀な部分が見られた。

 そこでフォルトは、ニャンシーの手助けを続ける。つまらない選択ミスで、彼女を失うのが勿体もったい無くなったのだ。

 こういった思考は、レイナスを手に入れたときも同様だった。自分の所有物は、なかなか捨てられないものだ。

 七つの大罪の一つ、強欲が顔を出している。


「それとリリエラ」

「はいっす!」

「クエストが無いときは、森で自由にしていいぞ」

「それって……」

「分かるか?」

「皆様に師事して、色々と教わるっす!」

「ははっ。ただし、森の外には出るなよ?」

「わ、分かったっす!」


(これから難しいクエストもあるだろう。それに耐えられるよう、空いた時間は能力の向上に努めてもらう。某ゲームでも同じだったしな)


 フォルトは懐に手を入れて、ご褒美をリリエラに渡した。ゲームではクエストを達成したら、アイテムか金銭が報酬として入手できる。

 そこで彼女のために、筆記用具と数枚の羊皮紙を用意しておいた。


「助かるっす!」

「うむ。まぁメモ帳代わりに使え。報告をしやすいようにな」

「大切に使うっす!」


 最初から価値のあるものは渡せない。

 また今回は簡潔にまとめていたが、次回以降は複雑なクエストも考えられる。リリエラにはゲームは続けてもらうので、上手に活用してもらいたい。

 ちなみにこちらの世界の筆記用具は、羽ペンとインクである。


「では休んでいいぞ」

「はいっす!」


 筆記用具を袋に入れたリリエラは、最初に飲料水を用意した川に向かった。

 おそらくは、洗濯でもするのだろう。彼女の服は身内と違って、魔法付与をしていない。だからこそ洗わないと、清潔感を保てないのだ。

 彼女だけ生活感が満載でも、ゲームを進めるまでは我慢してもらうしかない。

 ともあれ、今まで黙っていたソフィアが口を開く。


「ミリ……。いえ。リリエラさんは頑張っていますね」

「そうですね。俺とは雲泥の差です」

「あ……。すみません」

「俺は苦労せず魔人になっちゃいましたけどね!」


 自虐に入ったフォルトは、リリエラと自分を重ねてしまった。

 彼女のほうがどん底なので、それを考えると恥ずかしくなる。しかもゲームと称して遊ぶために、現在の状況を待ち望んでいた。

 それが無ければ、今頃は死んでいただろうが……。


(運が良いのか悪いのか。死んだほうが楽だったかもしれないな。まぁ俺は死ねずに魔人になった。リリエラは死ねずに何になることやら……)


「ちょっとフォルトさん!」

「何だアーシャ?」

「リリエラちゃんにも服を作るの?」

「いや。まだいいかな」

「へぇ。珍しいね!」

「クエストの達成報酬として、いずれは用意するか」

「あはっ! どんなのがいいか教えてね?」


 双竜山の森の中だけなら、魔法付与した服を支給しても良いかもしれない。

 たとえ玩具でも、周囲を汚らしい格好でうろつかれたくはない。となると、まずはボロい服を大量に用意するのが先だろうか。

 そう考えたフォルトは、リリエラのアバターについて悩み始めるのだった。

Copyright©2021-特攻君

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