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異世界は小悪魔と共に  作者: 特攻君
第八章 晩餐会
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生まれ変わった先3

 フォルトはカーミラと一緒に、テラスの専用椅子で寛いでいる。

 対面ではアーシャが、テーブルに肘をついて寝ている。ニャンシーは足をぶらぶらさせながら椅子に座っていた。

 そして少し離れた場所では、二人の女性が木の棒を武器に模擬戦を行っている。一人はレイナスで、対戦相手はリリエラだ。

 その光景を、オヤツのポテトチップスを食べながら眺める。


「チュートリアルは面白かったな」

「えへへ。手に入れて正解でしたねぇ」

「うむ。飽きるまでは楽しませてもらおう」


 チュートリアルとしてフォルトが出したクエストは、色々とあったがリリエラは達成した。結果として、レイナスと一緒に死体を運んで捨てている。

 ちなみに彼女からは、ニャンシーを呼びにいくサブクエストが発生した。

 その際、釣りクエストが発生している。後は戻るように達成報告して、メインのクエストを完了させていた。


(サブクエストの連続で笑ってしまったな。おかげで魚を釣る練習ができたというわけだ。まぁ王女が釣りなんて想像もしていなかっただろ)


 フォルトは報告を聞いただけで笑ってしまった。ならば、このゲームは面白く自身にとっての娯楽となり得る。

 レイナスのような戦闘キャラクターの育成とは、また違った楽しみが増えた。

 そんなことを考えていると、彼女から声がかかる。


「フォルト様。お話になりませんわ」


 レイナスの眼下では、リリエラがうつぶせで倒れている。とはいえ死んでいるわけではなく、目を回しているだけだった。

 見れば分かるのだが、フォルトは頭をかいた。


「きゅぅっす」

「レベルは六、もしくは七くらいだと思いますわ」


 エウィ王国民の平均レベルは七だ。

 つまり、リリエラは平均である。戦闘能力は皆無に等しいが、こちらの世界に召喚されたときのフォルトと比べれば強い。

 これには思わず、うな垂れてしまう。


(そっか。俺はリリエラより弱かったのか。十年以上も引き籠ると、足腰とかおじいちゃん並みになるからなあ。はぁ……)


 フォルトは六畳一間の部屋を思い出して、気分がどんよりしてしまう。

 引き籠りの行動範囲は広くないので、とにかく運動不足だった。起き上がるにも腰が痛く、部屋から出て歩きだすと足首が痛い。

 つえが欲しいなと考えた時期もあった。


「戦闘能力は無し、と。ニャンシー?」

「何じゃ?」

「頭は?」

「悪くはないのう。魔法は使えぬが、読み書き計算はできるのじゃ」

「なるほど」


 現在のフォルトは、リリエラの能力を確認していた。

 彼女は荷物を持っておらず、必然的に身分証となるカードも無い。レベルもそうだが、称号やスキルを確認できないのだ。

 大雑把でも、彼女の能力を知っておくのは必須だった。さすがに達成が不可能なクエストを出すつもりはない。


(大陸共通の『エウィ語』は使えるようだが……)


 こちらの世界の言語は、エウィ語が共通言語である。エウィ王国が三百年前から存在し、人間の国と呼べる国では最古だからだ。

 それ以前の国は滅びており、言語としては古代語になる。

 人間以外の国も同様で、言語体系の祖が同じという説があった。または天界の神々が、共通言語として与えたとも言われている。

 そういった話であれば、いくら考えても意味が無いだろう。フォルトとしては言葉の壁が無いことを、有難がるぐらいで済ませていた。


「リリエラ」

「きゅぅっす」

「起きろ」

「はっ、はいっす!」


 軽く打ち合った程度なので、リリエラは怪我を負っていない。

 呪術系魔法で傷を移したとしても、体力が戻ったわけでもない。慣れない武器を振り回して疲れきったのだろう。

 彼女が立ち上がったところで、フォルトは疑問を口にした。


「リリエラはスキルを持っているのか?」

「『俊足しゅんそく』があるっす!」

「読んで字のごとく、足が速いってことか?」

「そうっす!」

「フォルト様。今のリリエラだと大した速さではないですわ」


 レイナスが補足する。

 リリエラのスキルについては、彼女が確認していた。現在の身体能力に依存するスキルなので、一般人に毛が生えた程度の速さらしい。

 過度な期待はしないほうが良いとの話だ。


(まぁ何となく把握した。力は弱い。頭は普通。すばやさも普通って感じかな? 双竜山の森から出したら、すぐにゲームオーバーになりそうだなあ)


 リリエラを身内と同様に考えると、すぐに死んでしまうだろう。

 マリアンデールやルリシオンのように強者ではなく、レイナスやアーシャのように鍛えているわけでもない。

 いわゆる普通の人間だった。


「リリエラに確認だ」

「何すか?」

「なりたい職業とかあるか?」

「特に無いっすね」

「そっ、そうか」

「でも貴族とかは嫌っす!」


 リリエラは王女を捨てたので、それに近いものは嫌らしい。

 気持ちは分かる。しかしながら、今回の遊びに決まった道は存在しない。日本で遊んだゲームでは剣豪を目指しながらも、最後で商人になってしまった。

 そんなことを思い出したフォルトは、対面で寝ているアーシャの頭をでる。


「アーシャ」

「すぅすぅ」

「起きないと悪戯いたずらしちゃうぞ」

「いい、よ」


 お言葉に甘えたいフォルトだが、今は控えておく。

 頼みたいことがあるので、アーシャの肩をユサユサと揺さぶる。


「アーシャ、起きてくれ」

「んっ。なにぃ?」

「リリエラに化粧してやってくれ」

「えっと……。ギャルにするつもりなん?」

「いや。ミリアと分からない程度で!」

「じゃあ詐欺メイクでいっか」


 詐欺メイクとは、コンプレックスを隠すメイク方法である。ビフォーアフターは相当変わるが、さりげなく変化させることも可能だ。

 リリエラは素材が良いので、コンプレックスは持っていないだろう。目的はそれではなく、化粧で素顔を隠すことだった。

 彼女と面識のあるソフィアが、ミリアだと気付いたのだ。ならば同様の人物を考慮するのは、危機管理の上で当然だった。


「マスター。もうミリアはいないっす!」

「そうだな。でも覚えておけ」

「え?」

「歩んだ人生は失われないのだ。今後はリリエラとして生きるがな」

「………………」

「ミリアはリリエラの中にいるが、この世にはいない。理解したか?」

「はいっす!」

「御主人様! ポテトチップスですよぉ」


 フォルトは良いことを言ったつもりだった。

 それに水を差したのは、隣に座るカーミラだ。オヤツのポテトチップスを手に取って、口の中に入れようとする。

 もちろん拒むつもりはないので、甘んじて受け入れた。


「あーん。もぐもぐ」

「マスター?」

「あ……。まぁ何だ。適当に、な」

「………………」


(少し説教臭かったか。おっさんだし仕方ないが……)


 赤面したフォルトは、自分で自分を納得させた。

 ついでに話が逸れてしまったので、再びアーシャに化粧の件を伝える。


「と言ったわけでアーシャ。リリエラにメイクをよろしく!」

「カーミラも手伝ってよ」

「いいですよぉ」

「マスター。行ってくるっす!」


 カーミラとアーシャに連れられて、リリエラは屋敷の談話室に向かった。同時に三人と入れ違いで、ソフィアが屋敷から出てくる。

 タイミングとしては良く、フォルトは彼女に質問があった。


「ソフィアさん。こっちにきてくれ」

「はい?」


 フォルトは手招きして、ソフィアを呼び寄せる。

 そして、先ほどまでアーシャが座っていた席を勧めた。


「カードを作りたいです」

「ミ……。リリエラさんのですか?」

「そうですね」

「神殿か教会で入手できますよ」

「一番近いのは?」

「リトの町にある教会です」

「へぇ。歩いてどれぐらいかかります?」

「一日は必要ですね。馬車ならすぐですが……」

「ふむふむ」


 魔の森から引っ越すときに通過したが、フォルトは街並みを覚えていない。

 リトの町までは、距離にすると約四十キロメートルぐらいである。丸一日歩くわけではないので、八時間から十時間で到着だ。

 朝方に出発すれば、夕方頃に辿たどり着く距離だった。


「それでフォルト様。どなたが一緒に行かれるのでしょう?」

「え?」

「え?」


 ソフィアの質問で、フォルトの頭上にクエスチョンマークが浮かぶ。

 彼女の頭上にも浮かんだようだ。


「一人で行ってもらいますけど?」

「一人ですか!」

「なっ、何か拙いですか?」

「危険ですよ!」

「そうかもですね」

「若い女性が町の外を一人で出歩くなんて……」

「そういうゲームですよ?」


(やはり良い人ゲームと勘違いされているなあ。ここを拠点にしてもらうが、自力でクエストを達成させるゲームなのだが……)


 森の外での行動は、リリエラの自由である。

 フォルトの出したクエストを達成させるために、何をしても良いのだ。禁止事項として、売春などはやれないが……。

 改めて内容を伝えると、ソフィアは顔をしかめる。

 実際のところ、森の外は危険だった。魔物が出没するし、野盗までいる。庇護ひごする前の彼女やグリムでさえ、護衛の騎士たちを伴っていた。


「フォルト様のなさることに口を挟まないと言いましたが……」

「わ、分かりましたよ! ジト目で見ないでください! ならニャンシー!」

「どうしたのじゃ?」

「最初のクエストは、リリエラの影に入って守ってやれ」

「それは構わぬがのう」

「ただし、リリエラを手伝うな。護衛以外はしなくていい」

「了解したのじゃ!」


(確かに、最初の町に行く途中でゲームオーバーはクソゲーだな。お助けキャラをつけてやれば、ソフィアさんも納得するか)


 ソフィアに視線を送ると、安堵あんどの表情を浮かべていた。

 彼女の性格なら言わずもがな。だがそれも偽善と考えているフォルトの心には、残念ながら響かなかった。

 ここまで会話したところで、オヤツを持ったマリアンデールが近寄ってくる。調理場にいるルリシオンから、追加を持っていくようにと頼まれたのだろう。


「レイナスといい。いつも面白そうな遊びを考えるわね」

「マリもやってみる?」


 ニヤニヤと笑みを浮かべたマリアンデールが、フォルトの隣に座ってきた。彼女には一度文句を言われているので、体が密着するほど引き寄せる。

 そしてレイナスは、自身の背後に移動した。続けて前屈みになり、後頭部に柔らかい二つの感触を与えてくれる。


「やってみたいけどね。様子を見てからにするわ」

「まぁキャラもいないしな」

「それで貴方は、三国会議とやらに行くのかしら?」

「まだ迷っている」

「相変わらず優柔不断ね」

「ふふっ。フォルト様なら絶対に来てくださいますよ」

「そっ、それはどうかな!」

「私がデルヴィ伯爵にさらわれてもいいのですか?」


 ソフィアを庇護すると約束したので、三国会議についていくと決めていた。

 フォルトが渋っているのは、引き籠りの体質が原因だ。長年にわたる精神状態なので、そう簡単には改善しない。


(遊びなら外に出られるが……。護衛とか仕事のようで嫌なんだよな。俺は働きたくない。いや。もう働かないと決めた。無職こそ我が人生!)


 魔人という力を手に入れて、わざわざ働きたい者がいるのだろうか。

 フォルトは自身を正当化するために、そんなことすら思ってしまう。まさに駄目男だが、これについては意見が分かれるか。

 ともあれ、後ろのレイナスから耳打ちされる。


「ヒソヒソ」

「ふんふん」

「ヒソヒソヒソ」

「ふんふんふん」

「ちゅ」


 背後から口付けされるのも乙なものだ。フォルトはほほの筋肉が緩んで、デレっとイヤらしい表情に変わる。

 そしてレイナスの耳打ちによって、三国会議の件について渋るのを止めた。


「私はルリちゃんとシェラの手伝いに戻るわ」

「つまみ食いはするなよ?」

「味見よ味見。もうすぐ夕飯だからね!」

「あと少しダラけたら食堂に向かう」


 フォルトの隣から、マリアンデールの温もりが消える。少し寂しいが、彼女と入れ替わるように歩いてきた三人の女性が目に映った。

 どうやら、メイク作業が終わったようだ。


「フォルトさん! できたわよ」

「御主人様。出来栄えはどうですかぁ?」

「マ、マスター」


 カーミラとアーシャの後ろには、化粧をしたリリエラがいる。

 それにしても、詐欺メイクとはよく言ったものだ。一見しただけでは、ミリアと分からない。しかも長く伸ばした青髪を、シニヨンで決めていた。

 別人とまではいかないが、これなら知り合いがいても平気だろう。


「大したもんだなあ」

「あはっ! 女のメイクをめないでよね!」

「髪型はカーミラちゃんが担当しましたぁ」

「二人とも凄いっす!」


 最近はソル帝国から、化粧品を奪うようになっていた。身内は華やかさが増しており、薄化粧でも魅力を引き出している。

 リリエラは玩具だが、その中に入っても十分に可愛いと思う。女性のアバターが好きなフォルトとしては、かなり満足した。

 これで準備が整ったとばかりに、ゲームを再開する。


「リリエラよ。チュートリアルの最終段階だ!」

「はいっす!」

「ではクエストを与える。この森から出てカードを作れ」

「カードっすか?」

「身分証になるものだしな」

「確か銀貨一枚が必要っす!」

「支度金は渡す。今回は一週間以内に戻れ」

「はいっす!」

「出発は明日の朝だ!」

「分かったっす!」


 明日にしたのは、もう日が暮れそうだからだ。暴食が悲鳴を上げているので、今はゲームよりは身内との団らんだった。

 リリエラも連れてこられた当日で、状況の整理をしたいだろう。


「本日は屋敷での食事を許可しよう」

「ありがとうっす!」


 リリエラの住まいは、屋敷の隣にあるボロ小屋を与える。と言っても、いつもブラウニーが掃除してるので奇麗だった。

 屋敷での生活は、今後の成果次第である。某成り上がりのゲームでも、最初はボロ小屋からスタートだった。

 そして任務達成の成績により、暮らしが良くなっていく。


「あ、ソフィアさん」

「はい?」

「グリム家の手助けは無しですよ?」

「え?」

「しようとしましたね?」

「うぅ」


 一度伝えた記憶はあったが、再びソフィアに念を押した。

 案の定彼女は、リリエラの手助けをするつもりだったようだ。ズルをされると楽しめないので、これについては譲れない。


「じゃあみんな、食堂に行こうか」


 明日からは、本格的にゲームを始められる。

 それに気を良くしたフォルトは立ち上がり、リリエラに背を向けた。以降はテラスにいる全員を引き連れて、食堂に向かうのだった。

Copyright©2021-特攻君

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