第2話 メイドの視点から
生まれてからもう一年が経った。
異世界は俺を飽きさせることはなかった。
だいぶ言葉もわかるようになったし、話せるようにもなってきた。
この一年間、負んぶに抱っこ、ハイハイを駆使し、子供なりには知識を広げた俺は次なるステップへ進むべく、自らの足でもって歩くことを覚えようとした。
俺はほかの赤子とは違う。前世の記憶がある。つまり歩き方を知っているのだ。
怖いものなどない。
さあ、今こそ偉大なる一歩を踏み出す時だーー
コテっとコケた。
あれ?右足を出して左足出すと歩けるんじゃなかったっけ。
知識として知っていても、できるとは限らないみたいだ。
何も悲観することはない。まずは掴まり立ちからだ。
気持ちを切り替えていこう。
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私の名前はチネッテ。アセンス領主ペーレウス様に仕えさせていただいております。
ちょうど一年前ペーレウス様の長男であるアキレウス様が誕生なさってから、ペーレウス家は一段といい空気になったといいますか、優しいほんわかとした雰囲気になる事が多くなりました。
ペーレウス様は一歳にして子供としての可愛さを理解しているかのような振る舞いをする事があります。
本当に可愛いのです。ペーレウス様のような凛々しさと奥様のテティス様のようなおっとりとした様子を兼ね備えたアキレウス様は最強です。本当に可愛いのです。本当です。
この前だってお部屋を掃除していたところ、少し大きな音を立ててしまいアキレウス様を起こしてしまったのですが、泣くこともなく私に掃除をしてくれてありがとうというかのようにニコッと笑われて、もう本当に食べちゃいたいぐらい可愛かったのです。普通の子なら泣きますよ。それなのに、あの笑顔。
アキレウス様マジ天使。
おっと、私としたことが取り乱してしまいました。私は親バカならぬメイドバカなのでしょうか。
しかし私は見たのです。あの寡黙に淡々と仕事をこなす執事のセバスチャンですらアキレウス様の前では破顔して柔らかい笑顔、もといまったく似合わない表情、に変わってしまうということを。
彼すらも執事バカにしてしまうアキレウス様、なんて末恐ろしい子どもでしょうか。
今から十年二十年後の将来が楽しみです。