第6話 父親の友達
父さんは毎日欠かさず剣の素振りをしている。
現役の冒険者だった頃からの日課らしく、その動きは素人目に見ても洗練されているように見える。父さんは俺が剣に興味を持っていることが嬉しいようで、いろいろなことを教えてくれる。2歳の俺には流石に剣を持してはくれないが、動きの説明を聞いたり、ただ父さんの素振りを見ているだけでも十分楽しい。
朝食の時に今日は三時ごろから素振りをするから、見にきてもいいぞと言われた。
母さんは俺に見にきて欲しいんだろうと笑っていたが、もともと見に行くつもりだった俺はメイドのチネッテに三時に起こして欲しいと言った。
二歳児の体力ではお昼寝は必須なのだ。
チネッテは三時きっかりに部屋へとやって来て俺のことを起こしてくれた。
俺は眠い目をこすりながら庭へと向かう。
庭へ出ると父さんが知らない人と話し込んでいた。
「父さんきたよ。」
「おうアキレウス来たか。こいつがこの間話したメノイティオスだ。息子のパトロクロスは長旅に疲れて宿で休んでるらしい。明日は会えるだろうから楽しみにしてな。」
「はじめましてメノイティオスさん。アキレウスと言います。父がいつもお世話になっています。」
「よくできたガキじゃねえか。ペーレウスこいつはほんとにお前の子か?ハッハッハ。」
「なんだと?俺によく似て聡明だろうが。」
「アキレウス、そこんとこテティスに似て良かったな。こいつにに似てたらこの先大変だったろうからな。」
「無視してんじゃねえよ。そもそも俺は体を動かす方が得意なんだからな。」
父さんがここまで軽口を叩いているのは見たことがない。
よほどこの人とは仲がいいんだろうな。そのあたりの話も今日の夕食か明日あたりには聞けるだろう。
「ところでメノイティオス。最近剣の方はどうだ?」
「もちろん毎日振ってるよ。こればっかりは体に染み付いちまってやめらんねえな。」
「俺もだよ。せっかくだからこれから模擬試合でもやらないか?」
「いいぜ、いっちょやるか。剣は、木剣にするか刃の潰した鉄剣にするか?」
「実戦に近い鉄剣でやろう。まず軽く打ち合って体を温めようか。アキレウス、よく見ておけ。俺が戦っているところはなかなか見せてやることはできないからな。」
「息子の前でかっこ悪いところは見せらんねえな。まあ手を抜くつもりはないぞ。」
「当たり前だ。よし、やるか。」
二人の撃ち合いはすごかった。はじめは軽く攻守を交代しながら撃ち合っていたが、二人とも次第に体が温まって来たのかその速度はどんどん上がり、ついには目に追えないほどの斬撃が繰り広げられた。それでもなお、決着は付かずどんどん二人はヒートアップしていった。二人の剣のぶつかった衝撃波で庭の木の葉が落ち、ついには父さんが魔法で剣に火を纏わせ、これ以上は二人とも無事では済まないとなったところで勝負は突然終了した。止めたのは母さんだった。母さんは水属性魔法で二人に大量の水を浴びせ、二人の熱を冷ました。そこで我に返ったふたりは黙って母さんの前で正座をしていた。
その後母さんにこってりと怒られた二人は俺にどうだったかと聞いた。
剣技が速すぎて見えなかったことを伝えると、
「そうだろう、凄かったろう。でもこいつはともかく父さんはまだ本気の二割ぐらいしかだしてないからな。」
「いやいや、俺は一割くらいだったかな。」
「なんだと。なら俺は一割も出してないな。」
「さっき二割って言ってたじゃねええか。」
とまあ二人がものすごく子供っぽいのはさておき、あれだけの戦いで実力の一割二割しか出してないってどういうことだよ。Aランクの冒険者や、ドラゴンを倒すにはそれだけ強くないといけないのか。というかそんな父さんと渡り合えるメノイティオスさんって一体何者なんだ。いろいろと聞きたかったけど、今日はもう宿に帰るらしい。しょうがない。明日、二人で改めてやってくるらしい。ますます明日が楽しみだ。