悪行の限り
「なぁに簡単なことさぁ。俺をこっから逃すだけでいいんだよ」
「な、そんなことしたら、俺が投獄されてしまう!」
「しらねぇよそんなことはよぉ!でもこのままだとあんたらがウチらの組織に殺されるのは明白だろう!?それなら俺を逃したあとあんたも逃げて、妹さん助けるのは仕切りなおしたほうがマシだとおもわねぇか!?」
「くっ……たしかに」
信じてる信じてる。
もしかしたら半亜人団体なんてのは本当に存在するのかもな。
「わかった……お前をここから逃がそう。ただし条件がある」
◆
その夜、俺は物陰に隠れながら街を移動していた。
あの牢屋番は泣きながら土下座して言った。
「あんたを逃したあと、俺が無事逃げ出せる保証はない。そしたら、例えあんたが組織に妹を殺させないようにしたとしても、あいつは一生奴隷のままだ。だから、妹だけは助けてくれないか。あり得ないお願いだとはわかってる。お前には何の利益もない。だが、あいつは俺の大事な家族なんだ……。頼む……一生のお願いだ」
そう言って妹が奴隷として働いている貴族の屋敷を俺に教えた。安物のポーションもくれた。飲むとあばらの痛みが引いた。
バカだなあいつ。助けるわけねぇだろ。そもそも反亜人団体のことがマジだとしても、俺が本当に組織に兄妹を殺さないよう便宜を図るかもわかんねぇだろうに。その上妹を救い出せ、だぁ?初対面の罪人に何言ってんだか。
よっぽど妹が大事なんだろうな。正常な判断力じゃない。
……いやまてよ?いいこと思いついた―――
◆
牢屋番の妹がいる屋敷に来た。
でかい。
ザ・中世の大邸宅って感じ。
物々しい門に門番が二人。
俺はその様子を向かいの屋台の陰からのぞいている。
もう深夜でどの屋台も店じまいをしている。
人通りもほとんどない。
俺にはある確信があった。
「時間よ止まれぇ!」
―――ピタッ―――
再び世界の時間が止まった。
―――牢屋から逃げた数時間後、俺の体にビクッとした衝撃が走った。感覚でわかった。時間止めが再び使えるようになったのだと。24時間に一回という制限なのだろうか。前回と同じなら10〜15分ほど止められるはず―――
静止している門番が腰に下げている剣を帯ごとかっぱらい腰に巻き、門をよじ登って侵入した。
屋敷に入ると、ずいぶん部屋が多い。
鑑定!
【領主の館】
スンニを治める領主の館。二階が領主の寝室で、一階が下女として働く奴隷たちの部屋。地下が宝物室。
なんと俺を即殺ししかけたふざけた領主の家だった。そうと決まればやることも増える。
まず二階に行き寝室へ。でかいベッドがある。中で肥え太った人の良さそうなジジイが寝てる。
部屋の隅のタンスの引き出しを残らずぶちまけた。
宝石やら鍵やら出てくる。
鑑定!
【領主の中級火魔石】
領主の護身用の強い魔力が込められた魔石。砕くと火魔法が飛び出す。
【領主の魔力増強指輪】
領主が趣味の魔物狩りに出かけるときにはめる指輪。魔力が込められており、はめると魔力が増す。
【領主の腕力増強腕輪】
領主の護身用の腕輪。はめると腕力が増す。
【地下宝物庫の鍵】
領主の館の宝物庫の鍵。
鍵だけを手に入れるつもりだったが、使えそうなものもあったのでありがたく頂戴する。
腕輪と指輪をはめると力が湧いて来た。
魔石はタンスからこぼれ出た小袋に入れ、腰に結びつける。
急いで鍵を持って宝物庫へ。
牢屋のような部屋があり、なかに木箱や袋が積まれている。
鍵を開け中に入る。
すると思っていた通り、袋には金貨や銀貨が山のように入っていた。
木箱の中には液体の入った小瓶がぎっしり。
【魔力ポーション中級】
飲むと魔力が回復する。
【ポーション中級】
飲むと傷が治り体力が回復する。
鑑定で消費したMPと、まだ全快じゃないHPを回復させるためそれぞれ一本ずつ飲んだ。
体に力が戻る。
何本かのポーションと魔力ポーションをひっつかみ、金の入った袋の一つに入れ、紐で肩掛けにした。
罪悪感はまったくない。
むしろRPGで人の家のタンスを勝手に漁りまくってアイテム集めてるかのような気軽さと楽しさで気分が上がる。エクスタシーすら感じる。盗みを働くたびに股間が盛り上がってくのがわかる。気持ちいい。出ちゃいそうだ。
次は奴隷の部屋にいくぞ。
そう思って階段をあがると、
見回りをしてる兵士と鉢合わせになった。
「誰だ!!!!!」
「ちぃ!!」
「待て!!」
走って逃げる俺。
夢中になりすぎた。とっくに時間は動き出していた。
だが舐めるなよ?俺には今この腕輪と剣がある。
不意に振り返り剣を抜く。
くらえ!
兵士に向かって振り抜くと、慣れてないせいか剣の腹で殴ってしまった。
「ぐは!」
「いってぇ!」
変な反動で手首をやってしまった。しかし力任せの攻撃で兵士はなんとか気絶してくれたみたいだ。ぶち殺すつもりだったので少し不服だが。
すごいぞこの腕輪。10歳の腕力で大人を殴り飛ばせるなんて。ふふふ。これでもっと人を傷つけたい。想像するとまた出ちゃいそうになる。喧嘩なんて前世で一回もしなかったからな。
痛んだ手でなんとか剣を鞘にしまい、再び走る。
騒ぎを聞きつけた兵士が集まって来ている声が聞こえる。
急がなければ。
そして屋敷の端の一部屋にたどり着いた。
扉を蹴破ると、粗末なベッドが二つ。
首輪を巻いた女が一人。
「だ、誰!?」
「うるせぇ!こい!」
腹パン一発気絶させてかつぐ。
そして部屋を出ると、
兵士に囲まれていた。
「賊め……観念しろ」
それぞれが剣を構えにじり寄ってくる。
馬鹿め。
俺は袋に手を突っ込み魔石を取り出し、
床に叩きつけた。
すると割れた魔石から火が吹き出し、兵士と、俺に降りかかった。
「ぐぁあ!火魔石だと!?」
「あっちぃ!くそが!うまくいかねぇな!」
結構なやけどを負いながらも兵士の隙間を抜け、部屋を走る。
剣といい魔石といい、現代日本で平和に育ったために戦い慣れていないのがモロにでてしまった。
だが悲鳴をあげる兵士の声を聞くと首筋がゾクゾクする。
青春だ。
俺は青春をやり直しているんだ。
中学生の頃、ヤンキーの悪さ自慢を遠巻きに羨ましく見ていた前世の俺に見せてやりたい。
屋敷を出ると門番が二人こちらに走り寄って来た。俺は二つめの魔石を投げつけた。
火は門番二人と、またもや俺に躍り掛かる。
「ぐぅ!小癪な盗賊め!」
「あっぢぃ!くそが!バーカ!捕まえてみろ!」
なんとか二人も巻き、門の錠を内側から外して開け、走って逃げ出した。
◆
俺は今街の一角の倉庫らしきところに忍び込み、息を潜めている。
ポーションを一つのみ、火傷を治す。
一応火が降りかかっているといけないので、気絶してる奴隷娘の口にも無理やり流し込んだ。
「んんっ……」
奴隷娘が目を覚ましそうだ。
俺はワクワクしてそれを待つ。
目が覚めたら、
「俺は獣人専門の変態だ。獣人のハーフだってバレるとこの国にいられないんだろう?バラされたくなければ股を開け。女の悦びを教えてやる」とかなんとか適当言って陵辱する予定だ。
混乱してるこいつは泣き叫ぶだろう。
最高だ。
股間が激烈に盛り上がる。
俺は時間止める系と陵辱系でしか抜けない変態なんだ。
この悪事を働くときのゾクゾク感。
そして妹を託した心優しい兄を裏切り、その妹を手篭めにするという背徳感。
これだよ。
これなんだよ。
これが俺が求めていたものなんだ。
ビバ陵辱系。
「んっ…あれ?ここは……」
目を開け周りを見回す奴隷娘。綺麗な顔をした黒髪ロン毛褐色肌ロリ女だ。粗末な奴隷用の服に身をつつんでいる。エロい。ロリは趣味じゃないが陵辱となれば話は別だ。
顔がニヤつくのを抑えられない。
さぁ、絶望の顔を見せてくれ。
「え?あなたは……?」
「ああ、獣人専門の」
「私を助けてくれたんですか!?」
俺の言葉を全部聞き終わる前に、そう嬉しそうに叫ぶ奴隷娘。
「あ?いやちがう、獣人専門の」
「私をあの変態領主の家から救い出してくれたんですね!?」
こいつ人の話聞かないな。
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