プロローグ
「先輩、自由ってなんだと思います?」
唐突な一言に僕は首をかしげる。
「まあ、そうだな。とりあえずお前が何を言っているかさっぱりわからん」
「なんとなく高校に入学して、なんとなく部活に入ってこうして部室で過ごしているのはいいんですけどなんかこれって自由がないのかなと思いまして」
「だったらここで愚痴ってないでスポーツでもしてくればいいじゃないか」
唐突に中二病を発症した後輩を適当にあしらう。
――そう、僕「坂村卓」と彼女「霧ヶ峰有稀」はこのようにごく普通な高校生活を送ってきたのであったが、そのごく普通な生活があの日を境に変わってしまったのであった。
5月1日、世間はGWで賑わっている中、僕は家でネットサーフィンをしていた。外に出る気にはなれない。退屈さに耐えられなくなりふと居眠りしたその時であった。
スマートフォンから着信音がなりだす。
その画面に表示されていた名前は「霧ヶ峰有稀」。
「あ、先輩。午後2時までに駅前に来てください。おねがいします」
行くのはめんどくさそうだが、断ったらもっとめんどくなりそうなので、嫌々ながら駅前に行くことにした。指定の時刻まではあと30分。急いで支度をして自転車で駅へ向かったが5分ほど遅れてしまったようだ。
有稀は不機嫌そうにこちらを睨みつける。
「私は2時と言ったんですよ?先輩のせいで私の自由な時間が10分も削られてしまったじゃないですか」
「いや、でもね、さすがに30分で駅に来いっていうのも無理があると思うよ。で、これから何をするっていうんだい?」
「はあ、まったく先輩は……今日は買い物に付き合ってもらおうと思いまして」
「買い物?なんでまた」
女子と買い物……このような経験は中学の修学旅行以来であった。突然のその申し出に、少しばかり声が上ずってしまっていたような気がする。
「……嫌、でした?」
「いやいや、そんなことはないよ。ただ、なんで僕なのかなって。ほかにだれかもっといい人がいたんじゃないの?友達とかさ」
「……まあ、とにかく行きましょう」
有稀は僕の問いには答えず、ごまかすように歩き始めた。
「神社の前に古ぼけた百貨店があるじゃないですか。その店に地下通路があるという情報をネットで見つけて。先輩何かご存知ですか?」
「んー、聞いたことないな」
たまにその店を利用してはいるものの、そんな話を聞いたことは全くない。
「そうですか……買い物終ったら行ってみません?」
「そうだね、終ったらちょっと寄ってみようか」
なるほど、買い物よりもこちらのほうが目的ということか。
*
1時間程度CDショップと書店をまわったのち、例のデパートの地下へ向かった。
地下までは店員に見つからずすんなりと行けた。
「待ちな」
突然聞こえた声に驚き後ろを見てみると戻る通路は閉ざされていて、一人の見たこともないような服を着た女性が立っていた。目の前の女性が近づいてくる。
「まずは聞いておこうか。ここは立ち入り禁止になっていたはずだが、なぜこんなところにいる?」
有稀は「先輩、私が対応するのは面倒なのでお願いします」といわんばかりの表情を僕に見せてきた。
「すいません、ちょっと迷ってしまって」
とりあえず無難な選択肢を口にする。
「そうか。まあお前たちはもう元の世界に戻ることはできないだろう」
「それって、冗談ですよね」
「そう思うならそう思っておけ。現実は変わらん」
そして、僕たちの異世界生活は始まるのであった。
どうもこんにちは。至らない点が多いかと思いますが、楽しんでいただければ幸いです。