Thinking is important!
「ねぇねぇ、そこのお嬢ちゃん」
異世界に来てから数日が経っていた。
「はい、何でしょうか?」
大分この世界にも慣れてきて、自分の能力や魔法を操るのも少しずつコツを掴んでいた。
「この飴ちゃんあげるからさ、おじさんと一緒に来ない?」
あと、冒険者ギルドに関しては、もう少し後にしようという結論に至った。
「あ、すみません。お誘いはありがたいのですが、ちょっと急いでまして…」
そして今何をしているかというと。
「えー、いいでしょー?ほら、おじさんと向こうにオモチャ買いにいこ?」
見ての通り、不審者に丁重な言葉遣いで対処している。
「いえ、大丈夫です。では、失礼しますね」
こんな典型的な不審者が異世界にいるとは。全く。
「ほら、行くよ!」
ガシッ。
腕を捕まれる。別に捕まれたところで身体能力はこちらが遥かに上なので、いつでも逃げられる。なので全く動じることはない。まぁ、暇だったので不審者で遊んでいると言ったところだろうか。
「ふわぁっ!助けてー!」
大声をあげる。とりあえず周りの人を試してみる。
「おい、そこで何をしてるんだ!」
おお、やはり異世界の人は優しい。というよりこれが普通か。とにかく異世界の人は知らん顔して人を見捨てないということがわかった。
「げ、やべぇ、にげろっ!」
と、このように、この数日は異世界人の生態やこの世界の仕組みについて情報を集めている。俺ったら、天才かよっ!ちなみに人と話すとき以外は元の口調や一人称に戻す。じゃないとやっぱ違和感あるし。
あ、不審者転けた。ああ、慌ててる。あああ、捕まった。ああああ、めっちゃ叩かれてる。やば、かわいそ(笑)。
「大丈夫だったかい?」
RPGのTHE農家みたいな男の人が話かけてくる。
「はい、おかげで助かりました。ありがとうございます♪」
「い、いやぁ、いいんだよ」
にっこりと笑ってそう言う。うわ、顔赤くしてにやけてるし。ちょっといじってみるか。
「本当に感謝します♪」
むぎゅー。
THE農家に抱きついてみる。更に上目遣い。
「お…おう」
案の定、THE農家は鼻の下を伸ばして赤面している。うっわー。
「それでは♪」
そうして俺は駆けて去っていく。あの人もこの美少女ルックスには敵わなかったようだ。いい夢でも見たかのような顔をしている。騙してしまって申し訳ない。俺女じゃないんだわ(多分)。
さーて、次は何しよ…ん?
「ほーらカワイコちゃん、捕まえたー」
「や、やめて!」
俺と同じことをするヤツもいるのか…あ、これマジのやつか。
ちょっと助けてあげることにする。
「あの、すみません」
「あぁ?おぉ、こっちにもカワイコちゃん!」
やっぱそんな反応するんだ。
「そちらの方が嫌がってますけど…」
「いや、そんなことないぜ?ただ抵抗してるだけだ」
それを嫌がってるっていうんですが。
「その人を離さないんですか?」
「当たり前だろ。ま、どうしてもってんなら俺と勝負だ。俺は女でも容赦しねぇぜ?」
女どころか子供なんですけど。てか女でもnまぁいいか、とりあえず片付けよう。
「えっと、わかりました。ではこのナイフをあなたに当たる直前で寸止めしたらボクの勝ち、それ以外はあなたの勝ち、というルールでいいでしょうか?」
なんかくだものナイフ持ってたからそういうことにする。
「へっ、それじゃあ俺を傷つけても負けだからな?まぁ俺に近づいたところでどうすることもできないがな!」
距離は5メートル程。一気に詰めよう。
「では行きますよ!」
相手を傷つけても負け、もちろんそれも承知の上だ。
そして俺が一歩踏み込むと同時。
ガシャンッ!
「ッッ!?」
なんかトラバサミ的なものが出てくる。あっぶねー、罠の魔法か。間一髪回避する。そして着地する。と、再び。
ボウッ!
「わっ!?」
今度は地面から炎が吹き出る。
「はっはー!見たか!俺とこのカワイコちゃんの周り半径10メートル以内はお前が踏むとトラップが発動する仕組みになっている!」
なにそれセコいんですけど。そう思いながらも俺は徐々に近づく。後2メートル!
ジャリン!
「なっ!?」
おい、鎖で拘束されたんですけど。
「油断したな!そこら辺には少し攻撃範囲の大きいトラップを仕掛けてある!そしてそれにかかった今、お前はどうすることもできないんだよ!」
ガシャン、ドゴン、バチン、ジャリン。
うーん、拘束されている間にもどんどん罠が発動している。だが自分自体にほとんどダメージはない。
ないんだけどさ。
服の方が破れてくるんですけど。
ガシャン、ドゴン、バチン、ジャリン。
「はっはっは!いい眺めだな!」
鎖に拘束されている少女がほとんど服が破れた状態で攻撃を受けている。
ヤバい…!これ以上攻撃を受け続けると画的にヤバい!こうなったら…
『ソート』ッッ!
瞬間、周りの時間が止まる。
いや、正確には止まった様に見える。
この数日、魔法や能力について調べていた甲斐があったな。
『ソート』。
身体変化能力でシナプスの量を大幅に増幅させ、思考力を強化させたりする、俺が作った技だ。ちょっと負担がかかるので、魔力で軽減して完成。今は思考力を100億倍に加速させている。つまり、自分の思考が超早くなって周りがゆっくりに見えるということ。
俺ったら、てんs
さて、危ないところだった。今も十分危ないか。
それでは、この状況をどうやって打開するかだが。
まず、このトラップ、規則性がある。
トラバサミ的なので挟んで、太くて大きな棒でお腹を突き、鞭で叩き、鎖で拘束。この繰り返しだ。念のために言っておこう。これは言葉に表すとこうなってしまうだけで、特に深い意味はない。
そしてなぜ必ず最後に鎖で拘束するのか。それは恐らく、鎖の効果が切れてしまうからだろう。
つまり鞭が発動した後、一瞬だけ鎖の効果が無くなる。そこを狙って回避しよう。そこから一気に決着をつける。
『ソート』を解除する。
「ガシャン!」
一回。ヤバい服が。
「ドゴン!」
二回。ちょ、服!早くしt
「バチン!」
今だぁぁぁぁぁぁぁっ!
俺は咄嗟に転がって回避。そして男に向かってナイフを投げた。
「何っ!?」
そして投げたナイフは男に当たる―
直前で鎖によって拘束された。
「寸止めです。ボクの勝ちですね♪」
「ひっ…お、覚えてろよ!」
そう言って男は走り去って行った。
「た、助けてくれてありがとう。私はアノンよ」
いつの間にか周りの人も集まっていた。俺に注目しているみたいだ。
「いえいえ、いいんですよ」
ただね?
「ねぇ、お礼に…新しいの…買ってあげるわ」
「すみませんありがとうございますほんと」
服、ほとんど着てないんだわ、俺。