Game for looting!
「チッ、やっぱわかったか」
ザッグの仲間―イグはその問いに答える。
「この扉に触れたら少し体が軽くなった。だから盗られたってわかった。」
「へぇ、頭いいのね」
イグの友達―ユゥイが感心する。
「いや、このくらい誰だってわかるだろ。まぁ、それは」
イグは話を続ける。
「扉に術式が仕掛けられていたということだ。だから、この扉に触れたユゥイも何かを盗られたというわけで」
「何かを盗るのに適している奪取魔法には盗ったものに印が付く」
奪取魔法は、それで手に入れたものを好きなように操れる代わりにそのようなデメリットがついている。「なるほど」とザッグは言う。だが、ユゥイは。
「え、でも私は何も感じなかったよ?」
「ユゥイ、自分自身が盗られても何も感じないのは当然だろ」
イグはユゥイの首筋にある印を見ながらそう言う。
「へ?自分、自身が…盗られた…?」
ユゥイがきょとんとしている。
「ああ。だから早く返せと言ってるんだが…」
「そんな可愛い嬢ちゃん返す訳ねぇだろ」
こうなるとザッグは(二回目)。
「ユゥイが可愛いことに文句を言うつもりはないが、面倒事になるのは嫌いだ…」
「わ、私ってそんなに可愛いの…?///」
ユゥイは頬を赤くして言う。イグは、はぁ、とため息をつく。今までなら好きにしろだの何だの言っていたイグだが、ユゥイと一緒に楽しむと約束をしていた。約束を破るのは性に合わないらしい。
「だが、今回はこっちも退くわけにはいかないからな。返せ」
するとザッグは少し笑ってこう言う。
「そこまで言うんなら勝負で俺に勝ってみな」
イグは少し怠そうにこう言う。
「わかった。じゃあユゥイ、2秒待ってろ、すぐ終わる」
「おいおい、勝負っつっても殴り合いなんかじゃあないぜ?ちょっとしたゲームをするだけだ」
「あ、そう。ま、どっちにしろ勝ってユゥイを返してもらう」
俺とユゥイは何か変な場所に連れて来られた。コイツの家にこんなところがあったとは。
「ルールは簡単だ。この弓でそこに出てくる的を射ぬいて、その数で勝ち負けを決める」
その200メートル四方の謎の空間には、15本の弓と矢、そして奥にはいくつかの的があった。何でこんな部屋を作ったのか謎だが、聞かないことにする。
「あと、今から魔法を使うのは禁止だ。お前が先攻でいい。ま、どちらにしろその嬢ちゃんは俺のm」
「先攻でいい」、という言葉を聞いた瞬間その場にあった弓を引き絞り、的に向かって放つ。およそ150メートル程離れた所にあった的がいとも簡単に砕けた。「おー!」というユゥイの声が聞こえてくる。
「…じゃあ次は俺だな」
自分が喋っていたのを遮られたザッグは少し気分下がり気味で、イグと同じものを構える。そしてイグと同じく、的に矢を命中させる。こちらも射撃は得意なようだ。
その後も俺とそれは一本も外すことなく矢を的に当てていく。そして飽きたのか、いつの間にか床で寝ているユゥイ。この光景が14本目まで続いた。
15本目。
「このままじゃ引き分けだが?」
「いいや?最後までわからないぞ?」
なるほど、何か企んでいるな。そう思いつつ今まで通り15本目も放つ。その矢は真っ直ぐ的まで飛んでいき、そして。
外れた。
「ん…外れたな」
「くはは、引っ掛かりやがったな!」
そう言うとザッグは話を続ける。
「その最後の的には俺の奪取魔法をかけていたんだよ!そして少しずれるように仕組んでいんだぜ!?」
はっはっは、と笑うザッグに俺は問う。
「魔法禁止じゃなかったのか?」
すると笑ったままザッグはそれに答える。
「バーカ!さっき今からって言ったろ!…ん?さっき?今から…さっき?まぁとにかく、今からって言ってただろ!」
なんかさっきと今がこんがらがってわからなくなってるんだが。要するに事前に魔法を使うのはいい、と、そう言う事だろう。そしてザッグは自分の的に矢を当ててこう言う。
「そんじゃこれで俺の勝ちだなー…さて、嬢ちゃんをどうしようかぐへへ」
キモい。
「おいおい、待てよ。まだ終わってないぞ?」
「は?もう矢もないし今は魔法禁止だぜ?」
「いや、お前、この弓で、としか言ってなかったよな?だから矢ならこの俺の元から持っていた矢を使ってもいいってことだ」
そう言うとザッグは―
「な…しまったぁ!クソ、嬢ちゃんが手に入ったらあn(以下略)」
などとほざき始める。それを無視して、俺は矢を放つ。
15対93。この前買いすぎた矢をどこで使おうか迷っていたが、丁度良かった。
「…んぁ…ん?イグ…勝った?」
ユゥイが起きた。結構ぐっすり眠っていた様で、まだ眠そうだ。
「ああ。勝ったぞ、じゃあ待たせてごめんな。かくれんぼの続きだ」
「ん…?隠れなくても…イグが守ってくれるから…いいでしょ」
寝ぼけているのか。全く。
…仕方ない。
「わかった。俺が守ってやるから、今は休んでろ。また明日も楽しもうな」
そうしてユゥイを背中にしょって家を出た。この家の主はまだブツブツ言っていたので、そっとしておいた。というより、近づきたくなかった。
日没後、ザッグの家を出た後、商店街を歩いていると衛兵を見かけた。
それだけでも運が悪いのに背中にはユゥイ、そして人があまりいないので見つかりやすい。このまま気づかれずにやり過ごせるだろうか。いや、恐らく無理だろう。見つかりませんようにと願っていると。
「あの、お困りでしょうか?」
いきなり背後から声がしたので、少しびくんとはなったものの、何とか平然とする。
「いや、別に何でもない」
そう言い振り返ると、そこには背の低い少女…いや、少年と、ユゥイと同じくらいの容姿の女性がいた。
「うーん…本当にですか?なんかおどおどしてましたし、それに背中の女性も…困ったことがあれば手伝いますよ?」
なるほど、ユゥイをしょって衛兵と距離を取ろうとするこの行動は、他から見ると背中に女性を背負って商店街をうろうろしている変な人に見えるらしい。そんなに怪しいのなら衛兵に見つかるのも時間の問題だろう。
「じゃあ…俺たちもアンタと同行させてくれ」
俺はとりあえず衛兵から逃げようとして、とっさにそんなことを頼んでしまった。だが。
「わかりました。では一緒に行きましょう」
と少年達は快く受け入れてくれた。あっさり仲間に入れてくれたことに少し動揺する。すると少年達は。
「僕はノイです」
「私はアノン、よろしくね」
と自己紹介をしてくれたので。
「あぁ、俺はイグでこっちがユゥイだ。よろしくな」
と返した。