Hide us there!
「ここが隠れ場所だ。」
住宅街の隅っこ、細くて長い路地にぽつんと木製の扉があった。
ここに来る頃には幸いにも衛兵達の姿は無く、人気も元に戻りつつあった。
「いかにも隠れ場所って感じね」
その扉には所々ヒビが入っており、その周り―壁を構成する石が少し風化ている。
「ここがイグの家なの?」
「いや、違うな。正確には仲間の家だ」
「へー。ぼっちじゃなかったのね」
「ぼっちだなんて一言も言ってないだr」
「まぁいいからさっさと入るよー」
ユゥイが扉を開ける。ぎぃという音と共に扉が開き、二人は中へ入る。
扉や壁から想像されるぼろぼろな家屋のイメージは欠片もなく。
そこは家というよりバーのような所だった。
その数本の蝋燭が無いと昼間なのに真っ暗になりそうな空間。カウンターの前には椅子がいくつか並び、後ろにはワインらしい瓶がたくさん並んでいる。
「おぅ、イグか。外が随分騒がしかったが、やったのお前だろ」
そう言ってカウンターの奥から出てきたイグの仲間は緑色をしていた。
悪精種。
緑色の体色で他の種族より比較的小柄、頭には小さな角が二つ生えている。素早く動けるので隠密行動には長けていて、頭が良く悪巧みが得意なため、悪い種族と言うと殆どは悪精種の事を指す。
イグはその悪い種族に応じる。
「いや、ザッグ。コイツがやった」
ザッグと呼ばれたその悪精種は呆れたように答える。
「へっ、その嬢ちゃんがか?もう少しマシな言い訳位あるだろ。どっか行きな」
「言い訳も何も…はぁ」
衛兵さん達にもこのくらいは疑う頭があって欲しかった。そう思いながらイグは話を続ける。
「ユゥイ、ここはやっぱり使えない。次を探すぞ」
「え?う、うん…なんで?」
ユゥイが戸惑い気味に答える。今の会話がいまいち理解できなかったようだ。
「お前を人厄種だって信じてないから自業自得だろどっかいけって言ってるんだアイツは」
「人厄種がそんなに穏和ならこんなに怯えて暮らす事もないだろ」
こうなるとザッグは少なくとも今日中は匿ってくれない。だからここに隠れるのを諦めたのはちょっとめんどくさいという理由もあった。
「うーん、でも仲間なんでしょ?なら別にそこまで断らなくてもいいのに」
「あー、確かに仲間は頼りになるしいいヤツもいる。だけど友達と違って仲良しとは限らない」
「まぁそう言うこった。わかったらさっさと行きな」
ユゥイが納得いかなそうな顔をしているが構わずどっかに行くことにする。
「じゃあな」
「ああ」
「おじゃましましたー」
三人共軽く挨拶をしてイグは扉を開ける。
「おっと」
「なんだ、まだ何か用か?」
そしてイグはいつものやり取りといった顔で言う。
「お前が盗んだモノ全部返せ」
「ちょ、ちょっと?ザッグさんそんな怪しい行動してなかっ―」
「へいへいわかりましたよー」
「へ?」
ザッグも今日もバレたかという顔で応じる。ユゥイはついていけていない。
「ほらよ」
そう言うとザッグは片手程の大きさの袋をイグに投げる。
「おい100ゴールド…この前の五倍じゃねーか」
「いいだろ別に。返したんだからよ」
「気付かなかったら返すつもりなかったろ」
「さぁ?…ま、じゃあな」
「…終わったー?」
空気だったユゥイが問いかける。そういえばいたんだっけ。そしてこう答える。
「いや、まだだ」
「おい何だ?もう盗んだものは返した―」
「全部返せと言った筈だが?」