Escape in city!
ここはレノ王国。
多種多様な種族が住み、周辺にある国のなかで一番賑やかな国だ。
というより、周りが闘争種の侵略により衰退し、その影響が一番少ないのがここだ。何故影響が少ないか。それは軍事力が優れている訳ではなく、この国の周辺を他の国が囲うようにあるため、闘争種がここに来る前に撃退されるからである。故に一番安全な国もここになり、安全な国は人口も多い。
よって、徐々に他の国と差をつけていき、今に至る。
そんなレノ王国にはイグも住んでいた。
さて、ここで問題。
そんなところに闘争種―それもより強力な人厄種が住むと言い出す。
それをレノ王国の住民達が「ようこそよろしくあはははは」などと言って快く受け入れてくれるだろうか。
否である。
そして中世の建物が並ぶそこには、衛兵達に追われるイグとユゥイの姿があった。
「おい、なんで自分の正体を隠そうとしない!バカか?バカなのか?」
「だって種族聞かれたらそう答えちゃったんだもん。しょうがないじゃない」
「それをバカっていうんだ!多種族国家だぞそのくらい問われるだろ普通」
闘争種を殲滅した二人はレノ王国に帰還し、門で入国審査を受けていた。
多種族国家では盗みを生業とする種族もいるため、それを防ぐため種族も問われる。
口で答えるだけなので別の種族を偽ればどうということはない。
そしてそれについては前から疑問に思っていた。
みんな嘘ついて中に入るだろ、と。
あまりにも警戒体制が薄い。もうちょっと強化してもいいのではないか、と。
例えばその種族ごとの特徴、性質を検査するとか。
目の前で悪精種が身体を緑に塗っただけの人間種と言い門を通過していく。
この国そろそろ終わるんじゃないか。
苦笑気味でそんなことを考えていると、自分達の番がやってきた。
「それでは名前、この国へ入国する目的、種族を言ってください」
「最初から順番にイグ、この国に自分の住居があるからそこへの帰還、人間種だ」
「了解です。ではそちらのお嬢さんも」
「私はユゥイ。目的はイグと同じでー、人厄種よ」
世の中にはこんな風に正直者もいる。
それは利口ではあってもいいヤツとは限らない。こんな風に。
という訳で今に至る。
「はぁぁ…。とりあえずこいつら振りきるぞ。ついてこい」
「あいあいさー!」
なんかコイツ、すごく楽しんでいる。今の状況をわかっていないのだろうか。
いや―と。
そうだな。わかっていないのは俺の方だったな、と。
楽しまないとな!
イグは少し足を速める。少しと言っても家の十軒程を秒未満で駆け抜ける位だが。
そんな速さにユゥイも易々とついてくる。
そして高く跳んで、今度は家の屋根を移動する。
勿論通常の人間種等の種族は速く走る事も高く跳ぶ事もできないので、衛兵達には到底追い付けない。
逃げている二人の顔は笑顔だった。
「ははっ、アイツらほんと遅いな」
「そうね、ちょっと速く走っただけなのにね。あははっ」
「でも、この後どうするの?結構大事になりそうよ?」
確かにそうだった。人厄種が国の中に入るということはそれだけで国の壊滅を意味するに等しい事だった。これでは国が全勢力で動いてもおかしくない。
「大丈夫だ。それについてはいい隠れ場所があるからな」
「かくれんぼでもする気なの?遊びじゃないのよ?」
「お前が言うか」
苦笑。そしてユゥイの言う通り、かくれんぼを始めることにする。
「ほら。こっちだ」
「はーい」
衛兵達がガヤガヤしている裏で、二人は隠れ場所に向かって歩き始めた。