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Enjoy the world!(旧)  作者: まこ?
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Start the story!

彼の戦士は斬り行く。

目の前を。暗闇を。恐怖を。敵を。

斬って、斬って。

そして前へ進んで行く。

たった独りで。惑うことなく。

彼の行く後に残るのは。

亡骸。希望。勝利。独りだけの勝利。

そしてその後、ほんの少しの平和と。

再び始まる戦い。

何度も繰り返すそれで。

彼の戦士は友達と会った。



闘争種(ミリタント)討伐計10522体。

内その希少個体、人厄種(カタストロフ)8体。

彼の戦士の記録だ。


ひとつ国の精鋭部隊が全勢力を投じても届かない記録。

それをたった1人で超え、尚も戦う彼は今。

乱戦の中、1体の人厄種を目の前にしていた。


闘争種。それは大昔から人類を脅かす存在で、獣型、植物型、虫型など、様々な個体が存在する。


中でも極めて特殊で稀な個体、それが人厄種だ。基本単独で行動し、他の闘争種とは桁違いの力を持ち、人型である。そして他の闘争種と最も異なるのは、知性があるということだ。故に人などと同様に会話も可能で、頭もいい。だから人厄種を討伐することはほとんど不可能とされている。


これまで8体の人厄種を討伐した彼は、これまで通り、これまで彼以外討伐できていない(・・・・・・・・)それと交戦を始めた。


今相手にしているのは少女ーー否、少女の形をした化け物(カタストロフ)。ならば話は簡単、素早く近づいて狩る、それだけだ。


そして一歩踏み込む。十数メートルの間合いを刹那の間に詰めて背後に回り、蹴りを入れる。


「はあああああっ!!」


手応え有りだ。そのまま二段目の蹴りも喰らわせて、そしたら一旦退いて相手の様子をうかが――


ドサッ。


…ん?

え?え、ちょ…あれ?


自分の記憶を疑う。確かつい三ヶ月前に討伐した人厄種はもっとこう…強かったはず。最初の蹴りだって対処できていたはずだ。そして倒れた少女(?)の方を見る。

それは一見ごく普通の女の子がただ倒れているだけだ。


自分がこんな戦場にまさか普通の女の子がいるとは思わず人厄種と決めつけていただけ?


だとすると今の俺はか弱い1人の少女を傷つけただけ?


…立派な罪ではないか。ああ。なんてことを。罪悪感に襲われる。ま、まあ斬りかからなかっただけ良かった…のか?いや、そんな問題ではない。

安否を確認すべく少女に近づく。


「っいたた…もう、痛いよお!」


少女はむくりと起き上がる。俺はとっさに距離をとる。やっぱり化け物だったわ。


いたたもう痛いよお。


普通の人間なら最善でも大怪我の攻撃を受けてそれだけ。

謎の安心感と、それよりも遥かに大きい警戒心を持ってもう一度敵と対峙すべく構える。だが。


「ま、待って!私はキミと戦うつもりはないよ!」


そんなことを言い出す。今まで散々人類を殺しといて、今更戦うつもりはないって?


まともな人間がそんなことを信じられる訳がないだろう。

だが俺は信じてみることにする。


「ほう?戦うつもりはないってか。じゃあ何が目的だ。」


正確には"半分信じる"だが。

戦うつもりはない、なら別の何か、国の情報や勢力などの開示が目的だろうと推測する。


「目的?うーん…目的っていうか、キミにお願いがあるんだけど…」


なんだ?これ以上仲間を傷つけないでとか?私と一緒に世界を支配しようとか?その装備100プラチナで売ってくれとか?全て答えはNOだ。


ちなみに真ん中のお願いは実際にされた。そいつはもう生きていない。無論、俺がやった。


そして今回のお願いの内容はこうだ。


「私と…ともだちになって!」


なるほど全く予想しなかった。俺とおともだちになりたいと。


―――は?


「おいおい、今友達がなんとか聞こえたが?」

「そうよ。ともだちになって欲しいの…あ、もちろんキミの味方になるよ!」


呆れた。


国の派遣した何千何万の精鋭兵士をいとも簡単に蹴散らす人厄種さんが?

今更ぼっちでさみしい発言?


「…それはまたなんでだ?」


すると少女は少し切なそうに言う。


「この世界を楽しみたいから。こんな争いだらけの世界でも、笑っていたいから。でも、ひとりじゃ寂しくて楽しむなんてできなかった。だから誰かと一緒ならって…」

「それじゃあ同じ人厄種と友達になればよかったんじゃないのか?」


少女は首を振る。


「うぅん、あの人たちは争うことしか考えてなかったから」

「それで人間に目をつけたと?」

「そうよ。だけど人間はすぐ逃げちゃうから…」

「だから逃げなかった俺なら、ということか」

「うん」


なるほど。今ので俺はこう推測した。

人厄種は通常、楽しむという考えはなく、人類を滅するためだけに行動する。

そしてこの少女は、楽しむ、笑うことができる。


「あと、今キミの周り人いないし?」


そして皮肉を吐くこともできる。


余計なお世話だ。そんな言葉の代わりに口からは別の言葉が出た。


「味方になってくれるんだな?なら…楽しめるだけ楽しんでみるか?」

「うん…!」


ユゥイは笑顔でそう答えると左手を前に差し出してきた。そこからは、嘘をついている様子は微塵も感じられない。それとよく見るとこいつ案外可愛いかもしれない。


「ユゥイ。私の名前」

「そうか。よろしくなユゥイ」


俺も手を差し出して握手を交わす。


「それで…キミの名前は?」

「やっぱり言わなきゃダメか?」

「当たり前でしょ!友達が名前知らなくてどうするのよ!」

「あー怖い怖い」

「…!むぅ…」


頬を膨らませるユゥイ。やっぱり可愛いなこいつ。


「どうだ、少しは楽しめたか?」

「な…楽しむって、私は今怒って…」

「…まぁ、少しは…」


何度でも言おう。可愛い。


「イグだ。よろしくな」


そして二人は友達になった。

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