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僕とぐうたらなお師匠様  作者: 高城拓
3/4

16歳(1)

 10歳の例の事件のあと、ぼくらの家に週に1度か2度、家庭教師がくるようになった。

 エルフで魔法騎士上がりの錬金術師というへんてこな人。名前はヘレナさん。もちろん黒竜王陛下の差し金だ。金髪のスラリとした大変な美人さんだったが、初めて会ったその日には朝から晩まであれこれと彼女の興味の赴くままに、とんでもない勢いで話を聞かれ、何とも大変な人が来たものだと正直辟易した。

 お師匠様はヘレナさんが来るたびに少し機嫌が悪くなったけど、ぼくは錬金術や武術や兵法も学べるようになって楽しかった。


 そのすぐ後に魔女協会に呼び出され、お師匠様ともどもあれこれとしゃべらされたのち、夜明け前になって解放された。ひとまず魔法と薬学の勉強をもっとするように、とのことだった。その時にお師匠様のお母上とも会っている。優しくも厳しくもなりそうな印象の人だった。お師匠様は物理的にも精神的にもずいぶん柔らかいから大きな違いといえた。


 メルダ様からは水神の加護をいただいた。これでずいぶん溺れにくくなるらしく、素直に感謝の意を伝えるとメルダ様は何やらしおらしい態度で、カールとルーミアの形見を拾ってくれた礼じゃしおぬしに溺れられるとシレーヌがギャンギャン騒いで困るだけじゃし、とかなんとかごにょごにょ言っていた。


 その年の冬、11歳になるころにひどい風邪をひいた。お師匠様とヘレナさんはどちらが僕の世話をするかでずいぶん揉めたようだが、結局はお師匠様が全ての面倒を見てくれたようだ。朦朧としながら寒さを訴えるぼくをだいて一緒に寝てくれていたのを覚えている。

 熱が冷めると、メルダ様の一件以来少し過保護気味過ぎたお師匠様の態度が少しまともになっていた。

 子供扱いされることが少なくなったし、むやみに抱きつかれることもなくなった。どうしてそうなったのかはよくわからない。ただ、ぼくもお師匠様を見つめると急にどきどきしたりするようになってしまって、おかげでなんだか家の中がぎくしゃくするようになってしまった。

 あと、声が低くなって、急に身長が伸び始めた。


 11歳の春に、食べ残しのパンに青カビが生えているのをみて、ふと青カビにはほかの菌の繁殖を阻害する作用があることを思いだした。お師匠様の次の論文のテーマにどうですかと伝えると、お師匠様は喜び勇んであれこれと実験を始めた。あとで蔵書を調べると、そんなことを書いている本は一つも見つからなかった。


 その夏の魔女集会のとき、お師匠様と幼馴染のメリッサ様が喧嘩、というか言い争いになった。お師匠様の書いた青カビの殺菌作用の論文が、ぼくの一言がきっかけで書かれ始めたことが気にくわなかったらしい。

 そのまま魔女集会所の前庭で一大魔法バトルが始まりかけた。勢いでメリッサ様の使い魔でアンディという名のライカンに襲われたけれど、ぼくらがうろちょろしてたらお師匠様がたの勝負の邪魔になるとかなんとかごまかして難を逃れた。

 お師匠様は水と雷、メリッサ様は火と風の魔法が得意で、二人が呪文とともに雷球と火球を掲げ上げたところで、ぼくはあることが猛烈に気になってつい口をはさんだ。

 そういえばみなさん魔法で火を出したりしますけど、それは何を燃やしているんですか? と。

 メリッサ様は火の精霊を呼んでその力を借りてるのよ、そんなことも知らないのこの唐変木、とおっしゃったけど、ならば火の精霊は何を燃やしているのですか、とぼくはなおも質問を重ねた。

 メリッサ様は火の精霊は熱いから燃えるのよと言ったが、ぼくはそうではないことを思いだしていた。確かに火の精霊は熱くていらっしゃるが熱だけでは物は燃えない、熱が燃えるものと燃やすものの化合を促進させそれで初めて燃えるのだ、なにもなくても火球が生まれるのは精霊の力で信じられないほど熱くなった空気を閉じ込め逃がさないようにしているから、燃えているように見えるのだと主張した。

 誰もが、はぁ? という顔をしたが、錬金術もやっている魔女の人たちがあっと思いいたったような顔をした。ちなみに一番最初に表情を変えたのはメリッサ様だった。

 そのあとぼくは魔女様たちにもみくちゃにされながら朝まで質問攻めにされた。メリッサ様はお師匠様に僕を譲るよう迫ったが、それは断固拒否された。

 あとでまたお家の蔵書を調べたけれど、ぼくが言ったようなことを書いてある本は一冊もなかった。


 12歳になる前にはメリッサ様が時々ぼくらの家に勉強しに来るようになって、その流れでメリッサ様の使い魔のアンディにも体術の稽古を付けてもらうことになった。

 メリッサ様は口調はきついけれど面倒見が良くて、根はいい人だった。ほっそりしていて、燃えるような赤い髪を頭の左右から馬の尻尾のようにまとめておろしていた。メリッサ様にはときどき数学を教えてもらうことになった。

 アンディは狼のライカンで、立派にも程がある体格と、青みがかったつややかな体毛を持っていた。見た目は恐ろしいけれどご主人に似て優しい人で、よく遊んでくれもした。

 ぼくは兄と姉ができたみたいでうれしくなった。


 その春、ミスリル銀が実は銀ではないのではないかとふと気になり、製鉄ギルドの人たちにいろいろ調べてもらった。正解だった。ミスリル銀は、銀にしては異様に軽いし妙に柔らかい。精霊処理されたミスリル銀は恐ろしく粘く硬くなるが、何かの鉱石のように7色にきらきら光る。それは本当はチタンという素材なのだとぼくの頭の中で誰かがささやいたけれど、ぼくはそれを誰にも言わなかった。


 初夏には刃物鋼の熱処理と浸炭処理についてドミニクさんと世間話をした。

 次の週には恐ろしく切れ味鋭い包丁を貰った。

 ぼくは全部鋼で作ると研ぐのが大変だから、軟鉄に鋼を割り入れるとか、積層して薄く鍛えるとかしたらどうなんですかね、などと適当なこと言った。

 ひと月後には恐ろしく頑丈で切れ味鋭く、研ぎ性もよい曲刀をプレゼントされた。ヘレナさんが一振り二ふりして、これはとんでもない代物だと感嘆していた。


 12歳の夏にアンディとぼくとでメルダ河のほとりで水泳の練習をしていると、お師匠様とメルダ様とヘレナさんとメリッサ様とが水着姿で喧嘩しはじめた。アンディはぼくに、モテる男はつらいな、と言ったけど、ぼくはその意味を理解するより前にみんなの喧嘩を止めなくてはいけなかった。


 その頃にはお師匠様がまとめた青カビの殺菌作用についての工業化研究が始まっていて、お師匠様の名前は一躍有名になっていた。他にもいろいろな薬学や魔法の研究に引っ張りだこで本当に忙しそうだったので、家事は全部僕が引き受けることにした。お師匠様はもともとぐうたらな人だし、なんといっても命の恩人だ。それぐらいしても罰は当たるまい。


 と思っていたら罰は当たった。

 お師匠様のぐうたら度は一気に加速し、命の恩人で家主でなければ蹴り出してやろうかと思うほどだった。

 寝間着も着けずに昼前に寝て、夕方起きる頃にはリネンをぶっ飛ばしてお腹全開。洗い物は溜め込む、風呂には入らない、化粧もしないわ散らかし放題だわ下着も着けずにうろつくわ、しまいには部屋から出ずに実験と論文に明け暮れるのもしばしばだった。

 最初の頃こそどきどきしながらリネンを掛けなおしてあげたり下着を洗っていたりもしたけど、そのうちにすっかり慣れてしまってそれぐらいなら平気になった。化粧や髪の手入れはヘレナさんとメリッサ様に教えてもらった。ときどき失敗もしたけれど、ちょっとばかりいい気味だった。

 とはいえ全裸でうろつかれると目のやりどころに困るどころではないので、なんとかして起き抜けにはリネンを頭から被る癖はつけさせた。

 もう少し男の子と一緒に生活していることを自覚してほしい。


 13歳になる前に、鋼鉄は浸炭処理して刃物鋼として強度を上げることができますけどミスリルはどうなんですかね、とヨアヒムさんにそれとなく言ってみた。

 ミスリル銀は浸炭しないよ、だからこそミスリルなんだとヨアヒムさんは言った。

 ぼくは、でも本当に塵になるまですり潰して、超高温で熱しながら炭を焼いたガスを吹きこんだら何とかなりそうじゃないですか、後はそれをミスリルに高温高圧化で融着させれば、とかなんとか適当なことを言ってみた。

 雪が解けるころ、国家機密素材として黒ミスリルというものが製造されるようになった、とヨアヒムさんからひっそりと耳打ちされた。

 それが炭化チタン合金であることを僕は知っている。


 春にお師匠様とメリッサ様は共同で一本の論文を発表し、黒龍王陛下から報奨金をいただいた。

 ”ミスリル銀および純銀の腐敗抑制機能、その作用機序について”、というのがその論文の題名だった。

 ミスリル銀と純銀には腐敗をある程度抑制する機能があることが知られていて、それは銀が聖なる物質だからと信じられていたけれど、実はそうではないということを世界で一番最初に指摘した論文になる。


 ミスリル銀、すなわちチタン合金の表面酸化被膜に光を当てると自由電子が励起状態になる。それが水の分解を連鎖的に促進し、酸素イオンと水素イオンを発生させる。この水素イオンや酸素イオンや励起状態の自由電子が水滴とともに付着している雑菌の細胞膜を破砕したり酵素の活動を阻害するのが、ミスリル銀の腐敗抑制メカニズムの正体だ。精霊処理や聖別はその酸化被膜を生成するとともに、精霊や神の加護によってその機能を物理限界を超えて機能させる”呪い”に他ならない。

 銀にいたってはもっとえげつない。塩酸処理などで遊離した銀イオンが生物の体細胞に侵入すると酵素の働きをいちいち阻害する。細胞内の酵素、つまりたんぱく質の働きは細胞の生命活動の根幹の一つだ。それを邪魔するということは、銀は毒に他ならない。装飾品として使用して普段問題にならないのは、銀がちょっとやそっとでは溶けたりしないことが原因だ。銀の聖別処理とは、神や精霊の加護により銀製品の表面をイオン化傾向とさせ、容易に銀イオンを放出するように”呪い”を掛けることなのだ。


 もちろんお師匠様がたの論文ではそこまで細かいことは論述していない。

 ミスリル銀や純銀には元から抗菌作用が有ります。作用機序はこうではないかと推論しますが、もっと科学が発展しないと証明できません、ということをいかめしい学術用語で論述してあるだけだ。顕微鏡もなければイオン化するという概念も存在しないのだから仕方ない。

 しかし、ミスリル銀や銀がそもそも備えている機能に、聖邪も神の加護も関係がないというこの論文は、国内を超え諸国で大変な反響をもたらした。ポルトラントの南東の宗教国家から暗殺者が出向いてくるほどだった。

 神の神秘を解き明かすのは神への冒涜であるということでお師匠様がたの命を狙った彼らはしかし、ぼくとアンディとヘレナさんの手でとらえられた。辺境伯家の親衛隊に引き渡された彼らがどうなったかは知らないし、知りたくもなかった。

 おそらく最先端の錬金術や冶金工学、魔法工学や薬学の実験台になったに違いない。

 チタンの酸化被膜や銀イオンの抗菌機能についての僕の知識がどこから来たのかは、相変わらず謎のままだった。


 14歳になる冬、お師匠様とメリッサ様はさらに2本の論文を共同で上梓し、またもや莫大な報奨金をいただいた。

 ”空気の液化について”と”酸化という現象”だ。

 この二本の論文は”空気”なるものが酸素とそれ以外からなり、酸素が燃焼という物理現象や生命の活動に深くかかわっていることを説明するものだった。当然のことながら、動物の出す酸や各種鉱工業における酸と酸素の利用についても触れられている。ミスリル銀の製造過程の推論や製鉄の化学的理論についてもだ。

 これによって”神秘の技”がただ神秘によってなされるものではなく、単なる化学的・物理的現象である層とまさに神秘なる現象の2重、あるいはそれ以上に複雑な工程の積み重ねによってなされることだということがすっかり世の中に明かされてしまったことになる。

 おかげであちこちから独占雇用契約の相談や詐欺師による融資話、貴族や魔女やエルフその他の嫌がらせ、すっかりおなじみになった暗殺者などが訪れるようになり、ぼくとアンディとヘレナさんは寝る間もないくらい忙しくなってしまった。そう、この頃はヘレナさんもメリッサ様も、ほとんどうちの居候も同然になっていたのだ。

 楽になったのは、黒龍王陛下が憲兵の屯所を僕らの森の北東に置いて、魔女協会から強力な侵入者除けの魔法陣をプレゼントされ、西の森からやってきたハイイロオオカミの群と仲良くなってからだった。これで怪しげな連中の来訪はかなり減ったのだが、その代り黒龍王陛下からは王都にて近く仕えよとの要請があった。それもいいかとみんなは一瞬考えたが、今の環境だからこそ自由に実験したり考えたりできるのであって、下手に王都に上れば貴族やら商人やらの争いに巻き込まれて研究どころではなくなる事に気がつくまで、そう時間はかからなかった。

 そこで、ぼくらは山出しの子ザルにすぎず陛下の御尊顔に泥を塗ることになりかねないので勘弁してください、と辞去する手紙を送った。これにはメルダ様の加護をつけた葦の葉を添えておいた。

 そうするとじきに陛下から直筆のお返事を頂戴した。手紙には、自在にせよ、とだけ書いてあり、怪しげな貴族や他の国の使い、いやがらせの連中はぴたりと来なくなった。


 それから15歳の春まで、ぼくたちは同じようにして過ごした。

 昼間はぼくが家事と店を取り仕切り、夜はお師匠様たちに調剤してもらったり実験と研究と論文執筆に集中してもらったり。

 メリッサ様とアンディ、それにヘレナさんは少しずつうちに泊まる回数が減っていった。

 魔法や武術、体術、兵法の修業は怠りなくやった。ぼく一人でもオオクマやオオイノシシぐらいは狩れるようになった。魔法は一度に使える魔法の規模は大きくないものの、水、火、雷は初歩的なものならかなり精密に扱えるようになった。

 練習試合でもアンディからは5本に2本、ヘレナさんからでも5本に1本はとれるようになった。


 そんなある日の朝。ぼくはいつもの刻限にお師匠様を迎えに出て、しばし立ち尽くしてしまった。

 朝焼けを背に飛ぶお師匠様の、柔らかな曲線を描く肢体や、朝露に濡れて黄金色に輝く長く黒い髪、メガネの向こうの優しい目。

 そういったものに見とれて、ぼくはずっと恋に落ちていることを知った。


 問題があるとするなら、ぼくとメリッサ様が同じ相手に恋をしていると、当のメリッサ様に指摘されたことだった。魔女は雌雄同体で、つがいの相手は魔女であることが多い。



 タケトは15歳になった。あたしが拾ってから10年経つ。

 彼はたくましく成長している最中だ。背丈はもうとっくに超えられている。

 魔法や錬金術や薬学も立派に勉強しているし、そろそろちゃんと論文の一本でも書いたらどうなの、って思う。

 それを本人に言ったら、長いこと机に座っていられないんで、って笑いながらごまかされた。

 その屈託のない笑みは小さいころと変わっていなくて、それを見るたびあたしはすごく安心する。

 最初はあたしが守ってあげなきゃと思っていたし、実際まだまだ彼は子供だ。

 でも時々、彼は私を守ってくれるようになるのだろうかと期待してしまう。彼に視線で追いかけられるたび、彼に見つめられているとわかったとき、体の奥底が熱くなってしまう。

 彼はただの弟子なのに。

 自分の気持ちに気がついたときから、彼があたしをただのぐうたらな師匠と思ってくれるように、色々と仕向けてきた。実際何度も叱られてた。でも彼はあたしを慕うのをやめてくれない。あたしは彼に相応しくないのに。熱を出してうめいている腕の中の小さな子に情欲を抱くような浅ましい女なのに。


 どうしていいのかよくわからない気持ちから逃れるために、あたしは仕事に励むしかなかった。



 1年が過ぎ、ぼくは16歳の春を迎えた。

 ぼくとメリッサ様はどちらもお師匠様に気持ちを伝えることができないままだった。

 なんということはない、二人して牽制し合ったり仕事が忙しかったりで良いタイミングがなかったのだ。

 ぐうたら度と色んな所のお肉が増しているお師匠様だが、あれで案外スキがない。

 いたたまれない気持ちのままどうしたものかと二人でお茶を飲んでいると、アンディには当たって砕けるしかない、と言われた。

 それができれば世話はない。ぼく達の関係が壊れてしまう。

 ぼくとメリッサ様は今の皆のゆるい関係が好きだった。


 しかしそれを横で聞いていたヘレナさんは、おかしなことを言いますね、と笑った。曰く、ぼく達はみな寿命が違う、種族が違う、仕事も違う。今のこの日々は、いずれは崩れるバランスの上に成り立った一瞬の奇跡でしかない。だったらせめて悔いのないように行動すべきではないのかと。

 おっしゃることは分かるんですが、とぼくがうつむくと、ヘレナさんは仕方が無い、とため息をつき、自身の秘密を明かした。彼女は黒竜王陛下直々にぼくの家庭教師と護衛を命じられ、ぼくがいい年になったら籠絡するように命じられていたのだそうだ。

 ところがぼくは彼女をそういう目で見たことが一度もない。ただ、綺麗でかっこよくて強くて変な人だとしか思わなかった。200歳を軽く超えている彼女にとっては、そんなことは言われずともわかることだ。ぼくが風邪でひどい熱を出したときこそがぼくを籠絡する最初のチャンスだと思ったそうだが、ぼくはあえなくお師匠さまの腕の中で精通を迎えてしまっていた。

 その時のお師匠さまの表情を見て、ぼくを籠絡するのは無理だと思ったそうだ。なぜって、お師匠様は気づいていなかったけれど、そのときお師匠様も母親ではなく女の顔になっていたから。


 メリッサ様はハァなるほどね、という顔をしていたが、ぼくは恥ずかしくて死にそうだった。

 悔しいのでアンディにメリッサ様をどう思っているのか聞いたら、龍騎士が主君に邪な気持ちを持つなどと聞いたことがあるか、と質問で返された。アンディたち狼のライカンは龍騎士とならび誇り高い人たちだ。彼らは誇りで持って主君に仕えるのであって、二心はもたない。なんとも爽やかで男らしい答えに感動した。

 けれど、それはそれでおいといて実際女の子としてはどうなんだとさらに聞いたら、可愛いマジ無理最高アンド最高アンド最高オブザ最高、尊みが過ぎるし愛しみが深い、適当な相手には嫁がせられんよ、との返事。お父さんかな? と思っているとメリッサ様は真っ赤になってアンディをぽこすか叩いた。


 で、ぼくとメリッサ様がどうしてお師匠様を好きになったのかは実に何でもない理由だ。

 ぼくは拾われて10年一緒に過ごしているし、メリッサ様は幼馴染だ。これだけ長く一緒に生活したり仕事していれば、相手を好きになるか一切の感情をなくすしかない。嫌いと認識してしまう相手とは一緒にいられないのが人の心理というものだ。

 で、ぼく達はお師匠様を好きになることを選んだ、ただそれだけだ。


 とゆー理屈付けは簡単にできるのになんでこんなに悶々としなければいけないんだぁああああぁああああああんあんあんあん、とメリッサ様と頭抱えてゴロゴロしていると、というのは比喩表現だが、ともかくまた別のある日、黒竜王陛下から密書が届いた。


 それにはただ一言、皆来い、とだけ記されていた。まごうことなき召喚命令だ。

 密書には鉛の礫と、黒くて硫黄の臭いがする粉が同封されていた。

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