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お願いだから、脱いでくれッ!!  作者: 澄海恋人
第1章 お願いだから、脱いでくれッ!!
3/4

世良彩人と幼馴染


受験勉強の息抜き。

クソみたいな文章だし、ストーリーも全く進む気配ないですが…まあ、最後まで読んでやってくださいm(_ _)m

 

  世良彩人の朝は早い。

  5時には起床、その後朝食作りや洗濯物干しなど諸々の作業を済ませ、6時までには『カスミ荘』を出る。

  始業までの時間を使って、学校で保管している絵の制作を進めるためだ。

  高校に入ってからすっかり習慣になったそれは、美麗衣と暮らすようになった今も変わらず続いており、こんなに早い登校時間でも美麗衣は嫌な顔一つせず付いてきてくれる。


  故に、彩人はこの時間が何よりも好きだ。


  ちょっぴり眠そうな美麗衣の顔も、住宅街の静かな雰囲気も、いつだって彩人の心を穏やかにしてくれる。


  …そう、たとえ"10年来の幼馴染"がいきなり背中に飛び乗ってきて、

 

「くんくん…はぁ♡ 3日ぶりのあっくんだぁ〜♡ …グヘ、グヘへ」


  などと、不気味な笑い声を上げながら首元をクンカクンカしてこようとも、彩人の心の平穏が失われることなんて――


「気色悪いわァァァァッ!!!!!」


  …ありまくりだった。


「乗るな! 嗅ぐな! さり気なくボタン手を掛けるな!」

「もぉ〜、照れなくていいのに〜♪」

「照れてねえ! …つーかマジで降りてくれ! お前とこうやって話してるといつも…」


「――彩人兄さん」


「は、はいィッ!?!?!?」


  自身の名を呼ぶその冷淡な声に、彩人は思わず素っ頓狂な声を上げる。

  瞬間、一筋の――嫌な予感が、彩人の胸中を駆け巡った。

  恐る恐る正面を窺ってみると、


「…朝から、随分と楽しそうですね?」


  見事に予感は的中。

  ニ◯ニ◯で有名、某ヤンデレの女の子が如き雰囲気を漂わせた美麗衣の笑顔と、本日実に三度目の対面を果たすこととなった。


「べ、べべべ別に楽しくなんかねえよ…だ、だよな、彩界?」

「えー? 彩界は楽しいよ? あっくんと一緒にいられるからっ!」

「バッ、おま…」

「んー?」

「くっ……」


  ほんのり頬を染め、悔しげに口を噤む彩人。

  綾界と話しているといつもこうだ。

  こちらがどんなに怒っているつもりでも、ひと度その無邪気な瞳に見つめられてしまえば、結局何も言えなくなってしまう。

  それは彩人に限った話ではなくて、彼女を前にした時、きっと誰もがそうなってしまうのだろう。


  それほどまでに、彩人の幼馴染――椿咲綾界は魅力的な少女なのだ。


  その容貌は美麗衣に勝るとも劣らずと言え、斜め分けの前髪をピンで留めたショートヘアーからは、彼女の持つ朗らかな性格がそのまま表れている。

  何より、


「……綾界、胸」


  今なお彩人の背に重くのしかかる、華奢な体躯からは想像もつかぬほど巨大な双丘は、いつだって男の視線を釘付けにする。


  彩人とて例外ではない。

  全裸をこよなく愛する彼だ。 これまで幾度となくそれを見たいと思ってきたし、チャンスも数多くあった。

  しかし、それでも彩人は実際に――幼少期は別として――それを目にしたことはない。

  理由は至って単純。

  そうしようとすれば、間違いなく"面倒なこと"になるから。


  そうでなくとも、綾界を相手取るのにはいくらか苦労が掛かるのだ。

  いくら見たくとも、行動に移してなどいられまい。


  事実、綾界は先程彩人が注意を促すつもりで放った言葉にも、


「…分かった。 頑張る」


  なんて、あまりにこの状況に見合わぬ返答を――え? 頑張る?


「ちょっぴり恥ずかしいけど…うん、あっくんのためなら!」

「…ッ!? ま、待て綾界! お前何を言って――」


  寸刻の思考停止(フリーズ)状態から帰した彩人が、焦燥混じりの声を上げたその刹那、


  はらり


  と、"何か"が彼の眼前を縦断し、小さく音を立てて足元に着した。


「……あの…綾界さん、何すかこれ」


  視線を足元に、彩人は背の上で何やらモゾモゾしている彼女へと問う。


「何って…セーラー服だよ?」


  事も無げにそう答え、なおも不審な動きを続ける綾界。

  彼女の言う通り、彩人の視線の先には一着セーラー服があった。

  しかも非常に見慣れた、彼の通う高校の制服(モノ)だ。

  そんなものが何の前触れもなく、いきなり空から降ってくるはずもない。

  だらり、と嫌な汗が頬を伝った。

  するとそのタイミングで、


  はらり


  オマケとばかりにもう一枚、白のキャミソールが降ってきた。


「待て、待て待て待て待て待て!」

「どうしたの?」

「『どうしたの?』っじゃねーよ! 何やってんだお前は!」

「脱いでる!」


  やたら元気な返事が返ってきた。


「…オーケー。 とりあえず、どうして脱いでるのか訊いていいか?」

「…? あっくん言ったよね?」

「な、何を?」

「ほら、『綾界…胸』って」

「あ、あぁ…」


  確かに言った。それは間違いない。

  …けれど、それがどうして、彼女が脱ぐことに繋がっているのだろう?


「あれって、生で当ててってことでしょ?」

「違ぇよッ!?」


  必死な声で否定する彩人。


「え、違うの?」

「当たり前だ! どういう思考回路してんだよ!」

「むぅ……せっかく覚悟決めて脱いだのに…」

「頑張るってそういう意味かよ……。 てか、ちょっと考えれば分かるだろ。 朝っぱらから、しかもこんな路上で女の子に脱げなんて…」

「あっくんなら言いかねないもん」

「ホントすみませんでした。 全部俺が悪かったです、はい」


  先程までの態度を一変させ、彩人はあっさりと謝る。

  どうやらこの幼馴染は、彩人が思っている以上に彩人の性分を心得ているらしい。

  思えば、今朝美麗衣にも同じようなことを……ん? 美麗衣?


「……はっ!!」


  と、彩人は慌てて正面を見る。


「………(ニコッ)」


  そこには、相も変わらず"素敵な"微笑みが浮かべられた美麗衣の面があった。


「あ、あの……美麗衣さん…?」

「どうかしましたか? 路上で幼馴染の女子高生を下着姿にすることが趣味の彩人兄さん」

「いや、そんな趣味ねえよ!! てか、辛辣すぎるんだが!?」

「じゃあ、嫌いなんですね? 女子高生の下着姿」

「はぁ!? んなもん、大好きに決まってんだろ!!」

「……もしもし警察ですか? 今目の前に女子高生の下着姿が好きだと宣いながら実際に幼馴染の女の子を脱がせている男が…」

「――うぉぉぉい、何やってんだッ!?!?!?」


  血反吐を吐くような大絶叫と共に、彩人はすぐさま美麗衣からスマホを奪い取る。

  画面を見てみれば、本当に通報しているではないか。


「お、おま……何も通報することないだろ!!」

「でも、好きなんでしょう?」

「――うん! ……じゃなくて! そもそもあれは…」


「――なーんだ、やっぱり嬉しかったんだ♪ あっくんの照れ屋さん♪」


「……"この痴女"が、頭のおかしな勘違いで勝手にやったことであって、俺の意思なんかじゃ……」

「ほら、あっくんの好きなおっぱいだよ〜♪ うりうりー♪」

「なんかじゃ……」

「うりうりー♪」

「………ぐふ♡」


  バチンッ


「痛ぇッ!?」


  快音と共に、凄まじい痛みが頬に響く。

  彩人は頬に手を触れ、涙目になって美麗衣に顔を向けると、


「なんでぶったの!?」

「え? あ、いや、気持ち悪かったのでつい」

「そんな軽いノリ!? 親父にもぶたれたことないのに!!」

「良かったですね、初めての相手が私で」

「あ、今のなんかちょっとエロかっ…タイムタイムタイム!!」

「…? どうかしましたか?」


  キョトン、と可愛く首を傾げる美麗衣。

  しかし、そんな可愛さに絆され、"今の状況"を簡単に受け入れるほど、彩人は腑抜けてはいない(全裸なら話は別だが)。


「あ、あの……どうして鞄を高く掲げていらっしゃるんですか?」

「え? 言わなきゃ分かりませんか?」

「…っ……で、でも、お前は本当にそれでいいのか?」

「……どういう意味です?」

「よく考えろ。 俺は今、綾界を背中に抱えている状態だ。 もしお前がそいつを投げれば、綾界もろとも倒れて、こいつまで怪我を負ってしまうかもしれない。 それでもお前はやるってのか?」

「…………」


  彩人の言葉を受けた美麗衣は、彼の背に乗る綾界にへと視線をした。

  鞄云々の話はまるで聞いていなかったのか、彼女はいつも通り、「えへへ、あっくん〜♡ 好き〜♡」と、とても幸せそうな表情を浮かべ、その巨大な胸を彩人の首元に押し当てている。


  プツン


  と、それを見た瞬間に、美麗衣の中の"何か"が切れた。


「――本望です」

「うん、だよな。 心優しいお前がそんなこと――え、本望?」

「じゃあ、しっかり歯を食いしばっててくださいね?」

「わぁー!! 待って、お願い!! お願いします!! なんでもしますから!!(なんでもするとは言ってない)」

「……もう、今度はなんですか?」

「いや、なんで俺が聞き分け悪いみたいになってんの!? ……と、とにかく! お前は一つ誤解をしている」

「誤解?」

「ああ。確かに俺は、女子高生の下着姿が好きだ。 でもな……たとえ一万人の女子高生に下着姿で迫られたとしても、俺はお前の全裸が一番好きd…」


「――死んじゃえ!! このヘンタイッ!!」


「あべしっ!?」

 

  見事なまでの顔面直撃(クリティカルヒット)

  重い鞄での一撃は、かつてないほどの衝撃と恐怖を彩人に与え、彼は世紀末が如き断末魔を上げながら、一瞬にして気を失うのだった。


  ちなみにこの時、衝撃の余波で彩人の頭は綾界の顎を撃ち抜いており、彼女もまた気を失った。

  二人が路上に転がり、ぐるぐると目を回す様子は、後にそれを見ていた誰かの手によってTwitterにアップロードされ、しばらく話題になるのだが……それはまた別の話。


  *****************



「――ははっ、お前、それでそんな酷い顔になってたのかよ」


  朝の騒動から数時間が経ち――日もすっかり頂点に達した昼日中。

  顔面の所々を赤く腫らした彩人から、その所以を聞いた"彼"は、端整な面をくしゃりとほころばせ、その亜麻色の髪を揺らした。


「笑い事じゃねえよ、響介(きょうすけ)


  彩人はきまりの悪そうに答え、響介――そう呼んだ少年を疎ましげに睨みつける。

 

「…いや、実妹に自分の性癖をぶちまけた挙句、鞄投げつけられて気絶とか、もう笑うしかないだろ」


  少年――もとい響介は、目元に溜まった涙を指で拭いながら、なおも笑い続ける。

  それと同時に、後ろで束ねられた髪が、愉快そうにぴょこぴょこと動いているように見え、より一層不快感が増した。

  響介の言い分が尤もだとはいえ、このまま笑われたままでいるのは、彩人としても流石に気分が悪い。

  仕方がないので、納得してもらうことにした。


「…お前、可愛い可愛い"妹"に拒絶された挙句、顔面に鞄を投げつけられる自分の姿を想像してみろよ」

「………!」


  彩人がいかにも辛そうな表情で告げてやると、響介はドキリとした様子を見せ、そのまま思案顔になる。

  するとどうだろう。

  1秒、2秒…と、時が刻まれるにつれて、彼の顔面は、みるみるうちに青くなっていった。


「……死ねるな、それ」


  計10秒の沈黙の末に、響介は疲弊したように肩を落とし、げんなりと呟いた。


「お前……そんなの食らってよく平気でいられるな…」

「別に平気ってわけじゃないが……いつか必ずアイツの裸を描くって決めてるから、そんなことでへこたれてる場合じゃねえんだよ、俺は」

「……美麗衣ちゃん…か」


  つい最近知り合ったばかりの、彩人(しんゆう)の妹の名を唱え、響介はどこか遠い目をする。

  どこか寂しげで……そして、哀しげな瞳。

  その瞳が映し出しているものが一体何なのか、彩人には分かる。

  否。 否が応にも、"分かってしまう"。


  …次に彼が告げるであろう、言葉さえも。


「…ほんっと、よく似てるよな」

「……そうか? 自分で言うのもなんだけど、あんまりそんな気は…」

「バーカ、お前じゃねえよ。 …本当は分かってるくせに」

「…っ………」

 

  "分かっていた"――それ故に予め用意していた誤魔化しの台詞もあっさりと制され、彩人は息を詰まらせる。

  逡巡の最中、ふいに響介の瞳を見やると、そこからは一筋の真剣さと、彩人に対する憂慮の念が感じられた。

 

  そんな瞳を――響介(しんゆう)の想いを目の当たりにして、それに応えないなんてこと、彩人にはできなかった。


「…確かに、似てる…かもしれない……」


  嘘だ。かも…なんてものじゃない。

  いつでも、どこにいても、彩人は自分の隣を歩く美麗衣に対して、"アイツ"の影を重ねてしまう。


  …しかし、それでも――


「…それでも、美麗衣は美麗衣だよ」


  響介の瞳を真っ直ぐに見据え、彩人は朗々と言い放った。

  零れ出たその言葉が、ただ強がりなのだと、彩人にはその自覚がある。


  けれど、"それ"を認めてしまえば、"あの時"のまま変われない気がしたから―――。


「…そっか……なら、いいんだ」


  僅かな沈黙の後、響介は安堵したような息をこぼし、フッと優しく笑みを浮かべる。

  その表情を見てしまえば分かった。

  響介は、彩人の強がりを見抜いている。

  …しかし、それにもかかわらず、彼がそれ以上の追求をしないのは、響介もまた、彩人と"同じ"だからなのだろう。


「それで、アイツは?」

 

  そんな彩人の思惟を悟ってか、響介は気を取り直すように問うてきた。

  一先ずこの話はここで終わり、ということらしい。

  彩人はそれに安堵を覚えながら、すぐに響介のように笑ってみせ、


「さっき確認したら、まだ学食にいた。 どうせまた、大食いチャレンジでもしてんだろ」

「ははっ、相変わらず大食いだなぁ」

「あぁ、相変わらずだ。 アイツは――"俺たち"の幼馴染は、ずっと昔のまま、何も変わらねえ。 …だから、これからもしっかり見守ってやろうぜ」

「…おう」


  そんな言葉の応酬の末に、響介は短く返事をして、徐に体を反転させる。

  そして、


「じゃあここで一つ、そんな幼馴染たちに捧げる新曲を」


  「へへっ…」と、悪戯っぽい笑みを浮かべると共に、背後に立て掛けていたケースから取り出した『純白のギター』――ホワイトファルコンを構えてみせた。


「いくぜ……相棒」


  そっと瞳を閉じると、響介はホワイトファルコンのヘッドをギュッと握りしめ、囁く。

  そして、1、2…というカウントの後に、『天才』ギタリスト・榎本響介は、颯爽と奏で始めた。

  幼馴染(しんゆう)たちへの思いを書き綴った、新たな曲を。


「――――」


  それを聴きながら、彩人はゆっくりと瞳を閉じる。


  辺りに響き渡るのは、暖かく、弾むような音。

  心地の良くて――そして、どこか懐かしさを感じさせる音。


  ――やっぱ『天才』だよ、響介(おまえ)は。

 

 

  『私立・杯仙水(ハイセンス)学園』高等部の屋上には、彼の紡いだ生命の音色たちが、どこまでも響き渡った―――。


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