Morning Glory
Morning Glory
アサガオ
夏の朝に咲く
幼いときからいつもその姿を見てきた
ツルは強く花を支える
それは誰のことだろうか。
風間京香の一日が始まる。心地よい朝日が窓から入ってくる。梅雨が終わり夏がやってきた。早朝のまだ涼しさが残る風が心地よい。「おはよう」自分で自分に挨拶をする。会社モードに切り替えるためテレビを着けて、コーヒーを入れる。ドリップコーヒーの香りが鼻をくすぐる。コーヒーの苦味を味わうためブラックで飲み干す。身だしなみを整え会社に向かう。まだ時間が早いため最寄り駅までの道のりにはランナーやペットの散歩の人達が多い。お互い顔見知りになっている。軽く挨拶を交わす。通勤ラッシュにはまだ早い電車に揺られ会社の最寄りの喫茶店のオープン時間と共に入店して、窓際の視界がひらけた席に座り読書を楽しむ。喫茶店には新聞を読む人、読書をする人、勉強をする人と様々だ。お互いパーソナルスペースを保ちながら一日の始めの時を思い思いに過ごしていく。
喫茶店で1時間ほど過ごして会社に向かう。まだ人がまばらで挨拶とキーボードの音しかしない静かなオフィスで自席に着き、PCを立ち上げる。メールチェックとスケジュール確認を機械的に行う。隣の席の同じ読書の趣味を持つ同僚の柳隆介と本の交換を行う予定を思い出した。本を鞄から取り出し、いつもの交換袋に入れる。本を交換する度に新しい世界が開ける。自分以外の人がチョイスする本は刺激的だ。柳の情報網は私の想像では思いつかないところまで広がっている。同じ会社の人なら彼を知らない人はいないほど彼は社交的な人物だ。
ランチは私はお弁当派なので外食派の柳とは別に摂る。休憩スペースで同期に柳との関係を聞かれる。「友達?」「友達ではない」「恋人?」「恋人じゃないよ」「仕事仲間?」「それともちょっと違う」「だったら何なのよ?」同期がしびれを切らす。私のお弁当箱包みが朝顔の柄だった。「アサガオのような人かな」
-固い絆-
うまい形容詞が思い浮かばない柳との関係を表していた。支柱にしっかりツルを絡ませ朝に咲く花。会社の外での柳の姿を知らない。興味がない。絆が壊れるぐらいなら知らない方がいい。お互い今の関係で満足をしている。誰かの瞳に恋人として映る事が怖い。売れ残りのクリスマスケーキになってから人間関係が壊れることに恐怖を抱くようになった。壊れるぐらいなら今の心地よい関係でいたい。平和な日常を変えたくない。永遠はないことを知っていても永遠を焦がれる。悲しみには耐えられない。地を這うような恋はもうできない。打算的にもなれない。救いのない魂の置き場を忘れてしまった。
アサガオの花言葉を同期がインターネットで調べて、メモ書きを私に渡す。
-はかない恋-
その答えは知りたくなかった。錠が開かれるのを必死に抑える。自覚をしたら止まらなくなる。会社からの帰り道でしぼんだアサガオを見た。まるで今の私のようだ。ただアサガオのツルはしっかりと花を支えていた。恋の芽は小さいうちに摘むいでしまおう。痛飲した次の朝にもアサガオは咲き続けていた。私も生きていこう。固い絆で。FIN.
週末の3連休と有休を使って一週間ほど同じ県内の実家に帰省します。
帰省中はおそらく執筆はできないので乗りに乗っているうちに書き上げてしまいました。
ユリの次はアサガオです。駅までの道のりに咲いているアサガオに見とれて思いついた作品です。
年を重ねるにつれ夏が好きになりました。暑くて過ごしにくいですが生命力にあふれているのが好きです。
夏の始まりの気怠い水曜日の夜
BGM:TRIGGER ポルノグラフィティ
2017年7月12日
長谷川真美