23話
会話で状況を表現する練習
けたたましい警報に、反射的に跳び退る。光り輝く魔導の咢が、寸前までエージのいた場所をバクリと喰らった。
偶然か、それとも狙ったのか。どちらにしてもイイ腕だ。
『ヤロウ…… 挽肉にしてやる……』
『敵は5機だ! 立て直すぞエージッ!』
着地と同時にライフルを構えて、右膝関節部に感じる違和感に思わず舌打ちした。
甘い。前回の戦闘中に切れた魔導筋肉を交換してくれたはいいが負荷調整が甘く、緩衝制御が固すぎる。オーバーヒートで溶けかかったスラスターもほとんど手がついていない。
だが本格的なドックに入れる暇が無かったのでこれでもマシな方だ。贅沢は言ってられなかった。手持ちの札でやりくりするしかない。
―――タタタタタッ
トリガーは引きっぱなし。どうせ牽制にしかならないのだから空っケツになるまで撃ち尽くす。
視界を全方位認識に切り替えて状況を確認。コンマ何秒かの間に大まかな戦況を把握して叫ぶ。
『どうするスヴェン! 頭数で勝っててもこのままじゃ殺られるぞっ!』
『どうもこうも殺るしかねえだろ!』
ベルトランが魔導収束砲をぶっ放す。波動が空気を揺らし、土ぼこりを巻き上げる。
エージ含めた6機の僚機は既に散開し、それぞれの装備で反撃を開始していが、最初にやられた運搬車両と、それに搭載されていた6台のヴァイヲンは完全に鉄屑だ。
初撃で戦力の半分近くを削られたことになる。敵ながらお見事と言うしかなかった。
少なくない数の敵のライフル弾が、障壁に弾かれ火花を散らす。純粋火器は豆鉄砲のようなものだと頭で理解していても冷や汗が流れた。
ヴァイヲンには豆鉄砲でも、生身で喰らったら人間などザクロのように弾け飛ぶ。
今は8対5という優位を確保していても余裕は無かった。審判の天秤は完全に敵に傾いている。
『ちっ ルールーはなぜ敵の発見が遅れた。居眠りでもしてたのか!?』
吐き捨てるようにそう言って、エージは機体をマニュアル制御に切り替える。
応戦しながらふと違和感を感じた。
敵は圧倒的優位にいるというのに拡散魔導法を撃ってこない。逆の立場だったら容赦なく撃ち込んでいる。生身の部隊はそれだけで皆殺しに出来るからだ。
間を置かずしてスヴェンが怒鳴る。
『索敵に引っかからなかったんですぅ! 感知した時にはもう射程圏内でした!』
『敵は完全に沈黙していた。起動していなかったんだ。奴らはまるで死体のように倒れて待ち伏せてやがった!』
『内通者がいるって事じゃねえかッ』
『知るかッ! 魔女狩りは後にしろ!』
移動中の運搬車両が危険なのは常識なので、隊列もそれを前提として組まれている。最初の一撃での人的被害はほぼ無いに等しい。
その証拠に、ひっくり返った車両のまわり。転がっている死体はほぼ全てが知らない顔だ。
被弾したイングヴェイ機も不幸中の幸いか、右胸から頭部も含めて盛大に吹っ飛んでいるがコクピットは無事だ。放っておいても死にはしない。
と思った瞬間、砲弾で抉り返った山腹が、カッと瞬いた。
―――ズンッ
空気が悲鳴を上げる。
地面が爆発する
『重砲撃ッ!?』
思わず振り返ったその先に、三半規管をやられた団員が倒れるのが見えた。
そして―――
『―――あ』
『ノアッ!!』
脚部を吹き飛ばされたノア機が空中でジャグリングみたいに回っていた。
結界自体が消失している。あのまま地面に叩きつけられたら……
乱暴に頭を振る。全ては終わってからだ。運が良ければ生きているし、悪ければ死ぬ。
山腹に向けライフルで応射。砕け散る木々と頼りない土煙。
手ごたえは―――無い。近接用兵装であることに毒づいた。
『距離後方2000! 補足できませんッ!』
『くそッ 当たらねえッ!!』
『当たんなくてもいい! 撃ちまくれッ!』
放置された荷台に隠れるようにして索敵モードに入っているヴァイヲンが視界を掠めた。トールハンマーだ。彼女を護衛するように飛び回っているのはライラで間違いないだろう。
敵の砲撃が引っ切り無しに降り注ぐ。死が飛び交っていた。形勢をひっくり返すためには圧倒的な火力が必要だ。
『ルールー! エメラダを最優先に管制情報を同期しろ!』
『や、やってますぅッ!』
『エメラダ、いけるかッ!?』
『座標結界はともかく、肝心の火器管制が間に合ってないッ!』
『急げ! 全滅するぞッ!』
『わかってるッ! そう急かすな!』
流れ弾が魔導車の足元に着弾。連結車両を巻き込んで車列が盛大にひっくり返る。
乗っていた捕虜が外に投げ出され、車両に押しつぶされてペラペラになった。
未だ敵の姿は目視出来ず。ほとんど一方的に撃ち込まれている。迎撃するには最悪の地形だ。
戦闘開始から1分? 2分? もしかしたら数十秒かも知れない。
ほとんど遮蔽物が無いので移動し続けなければ2秒で死ねる。被弾が1機だけというのが奇跡に近い。
そうしているうちに、充填中だったベルトラン機の腕部砲塔が被弾。大爆発を起こして地面に機体が叩きつけられた。
6対5。もう数の優勢は無いに等しい。
『手際が良すぎる、相当慣れてやがる! 敵は単なる賊じゃねえ、プロだぞ!』
『今更だろガド! とっとと撃ち返せ! 死んだらボーナス抜きだ!!』
警報がひと際高く鳴った、その次の瞬間には巨大な暴力が機体の脇を掠めている。ずっとこんな調子だ。毛穴という毛穴から汗が噴き出た。
無事に帰ったらシャツを雑巾みたいに絞ってやるとエージは心に決める。
すると突然、回線にルールーの金切り声が割って入った。
『後方より敵機高速接近中! 距離1500……1200…… 目視可能領域に到達しますぅ!』
『うそだろッ!? ちくしょう、何考えてやがる! なんで接近してきた!』
『そんなの知りませんよぅッ!!!』
この状況でわざわざ姿を見せる意味は無かった。やっている事は戦争だ。決闘じゃない。
エージの中で、先ほど感じた違和感が猛烈な勢いで膨らんでいく。
奴らは一体何を狙ってる。姿を現してまで何のつもりだ。
『舐めやがって……ッ』
コクピット内にもかかわらず唾を吐き捨てる。
敵はこのまま姿を見せずに撃ちまくるだけで勝っていた。もし下手打って形勢が悪くなったとしても、口笛吹きながら余裕で撤退できたはずだった。
敵に姿を見せないまま一方的な虐殺。少なくとも戦場ではそれが最も美しい勝ち方なのだ。
なのに、砲撃を加えながら凄まじいスピードで接近してくる敵ヴァイヲンが姿を現す。まるっきりセオリーに反してる。
『距離600! 見えました! 灼眼、双頭蛇のエンブレム……あれは―――っ』
『ガヤ防衛戦でトンズラこいた連中がなんで今ごろッ!』
『1,2、3……4! 迫撃用機体までいやがる!』
『来るぞっ ルールー下がれ! ライラ、は山腹のデカブツを食い止めろ! ガド、ケツの穴を締めやがれ! エージ、見せ場だッ!』
安全な勝利を捨ててまで決戦を挑むメリットは無い。命あっての物種だ。勝利を上回る目的が無い限り、そんな蛮勇に意味は無い。
何かを狙ってる。わざわざ身を危険に晒すだけの理由がある。
背中からズルリと大剣を引き抜きながらエージが呟いた。
『クソ野郎め、何を企んでやがる……ッ』
冗談みたく魔弾が飛び交っている。だが当たる気はしない。ここまできたら向こうも砲撃に期待してないだろう。敵は一直線に突っ込んで来てるし、見方は完全に迎撃態勢だ。
『同期完了! エメラダさんッ いけますぅ!』
『捉えた! 当たってくれ……ッ』
『ブチかませッ!』
重砲撃アーマーが誇る1対4基のミサイルポッドが一斉に火を噴いた。光り輝く8つの魔弾が射出。単独で障壁を食い破る光の蛇が、緩い軌跡を描いて敵機に殺到する。
数瞬の間。距離にして300後方でソレは敵機に襲い掛かった。
轟音。閃光。爆発。
天高く立ち上る土砂の柱。
『やったか……!?』
フラグにしか聞こえないセリフはやはりフラグだったらしい。それ以前に近すぎた。エメラダの兵装が生かされるシチュエーションではないのだ。
立ち込める土煙を突き破って敵機が迫ってくる。その数―――3。
距離にして200を切っている。接敵まで5秒だ。
『撃墜1機! 他1機に命中! スヴェンさん!』
『踏ん張りどころだ野郎共ッ! ガドは手負いをやれ! エージ、お前は迫撃用機体様だ!』
『了解』
『ガバガバにしてやるぜッ!』
視覚デバイスが対象の機体をズームアップする。
ずんぐりとしながらも丸みを帯びた流線形のフォルム。山岳戦を想定した迷彩のペインティング。最大限の推進力を発揮する翼状のスラスター。
そして、両の手にはそれぞれ鉈のような短めのククリ刀。完全迫撃特化のイカれた兵装だ。
エージは大剣を振りかぶって、ペロリと己の唇を舐めた。
親指大だったものが次の瞬間に拳大へ。
そして一呼吸の後には目の前に。
『おおおォォぉ~~ッッ!!』
交差するように突き出されたククリ刀。
エージは右頬を吊り上げながら、大剣を振り下ろした。




