襲撃
俺たちは焦っていた。
まさかの訪問者の登場に。
「どうすんだよそのガキ…つか何で患者服なんて着てるんだ?」
「何処かの病院から抜けてきたんじゃないか? にしては服も身体もすごいボロボロだが…」
俺と葉隠が倒れたガキ、女の子を解放しようと持ち上げながらその容姿について疑問を言ってみた。
ある意味現実逃避。
「と、とりあえず!どうしようか…」
こーいうアドリブに弱い男である黒田は、マジでどうしようかオロオロし始める。
もちろん、愛刀でもある血塗られたメスを持って。
「っだよなー、この場所見られちまったし…つか死体も見られたろ?」
「…生首は死体とは言わん」
「お前の頭の中の生首って生きてるの?気持ち悪いわ〜」
「人肉食べてる基地外が言うセリフじゃないな」
「…オメェの体喰いちぎってやろうか?」
「喧嘩がしたいのなら買うが、容赦しないぞ?」
俺と葉隠が互いに覆面を被った顔を近づけて罵り合う。
「ちょっと2人とも! そんなことしてる場合じゃないでしょ!?」
黒田が俺たちの仲を諌めようとするので、俺は話がわかるやつとして取り敢えず葉隠から離れる。
もちろん、殺し合いをしたら俺が勝つのだが、今日のところは許してやる。
さて問題はこのガキだ。
こいつは俺たちの容姿とこの馬鹿な女どもの死体を見てしまったわけだ。
当然タダでは帰らせるわけにはいかない。
「とにかく騒がれる前に殺さねぇと…」
「俺も同じく」
「殺すのなら君らのどちらかでやって、僕はこの子の体を解剖するだけだから」
他の二人も同意した。
こういった判断の時はとにかく早いんだよなこいつら。
それはそうと、俺が持ち前の肉切り包丁を持つ。
他の二人も同じような刃物を持ち出してあのガキに近づこうとして、動きを止めた。
微かに建物の外から響く雑木林のざわめき。
風にしてはやけに音が立つ。
「……このガキの保護者かなんかか?」
「音からして数は六人くらいか?」
「おーおー、祖父祖母も一緒になって動いてるってか。どんな家族だか…」
「ど、どうするの?」
俺たちはその場で止まったまま次のアクションを待つ……こともなく動き出す。
俺はいつもの勝負服をトランクに入れて片付け。
葉隠はさっき切った生首を麻袋に入れてからそれをスポーツバッグに入れる。
黒田に至っては血まみれの医療器具をガチャガチャと音を立てながらもすぐに女性ものの肩掛けバックに入れてそれを掛ける。
わずか40秒ほどでそれを終えてから、俺たちは一斉に走り出す。
部屋の窓に。
葉隠が窓ガラスを割ってからそれに続くように黒田が出て行く。
俺が最後に外に出る。
と、その前にあのガキが気になってしまった。
今この建物の周りにいるのがこいつの知り合いなら置いていったほうがいいが、何故か気になってしまう。
焦る俺の耳に外からこの国ではあり得ない音が響く。
銃撃音。
それも拳銃なんてもんじゃない、連続して弾が出る映画とかドラマとかで見かける……えーと……なんかすごい銃だ!
外からあの二人の悲鳴が聞こえるが、命に別状はないだろう。
早く逃げなければいけない。
「……ックソ!」
俺はあのガキの元に行ってから抱え、窓に向かって走り出す。
助走をつけてそのまま飛ぶ。
綺麗に窓枠を出ると、ちょうどその横に黒ずくめで武装した二人組の兵士がいた。
俺はその二人の前に見事着地してしまう。
彼らは俺に気付くととっさに銃口を向けて引き金を引く。
数発もの弾丸が俺の背中や頭にあたり鮮血が飛ぶが、俺にはそんなもの効かない。
「っちょーイッテェ!!」
ガキに当たらないように俺は身を盾にしながらそのまま走る。
後ろの方から悲鳴が聞こえたが、そんなものは無視だ。
今は逃げることに専念する。