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SS:ゆいの特訓、そのに!

 

 龍誠は静かな朝を満喫していた。

 結衣と家族になってから一年、四人で暮らす日々は、もう少しで終わる。


 名前は何にしようか。

 何度も話し合って、九割ほど確定しているけれど、やはりギリギリまで考えてしまうのが親の性というものだろう。


 男の子らしい。

 みさきのように大人しい子になるだろうか。それともゆいのように活発な子になるだろうか。もしくは、定めた名前によって決まるのだろうか。いやいや、流石にそれは無いだろ。


「おはようございます!」


 午前八時。土曜日。

 平日よりも一時間ほど遅く部屋を出たゆいは、龍誠を見つけると元気よく挨拶をした。


「おう、今日も元気だな」

「気分良好。ママとみさきはお出かけ。絶好の特訓日和です!」


 特訓。その言葉だけで龍誠はピンと来る。

 新学期が始まる度に行われる恒例行事。


 ゆいと龍誠による特訓。

 かっこよく言えば体育の実技演習である。


「りょーくん! 後転倒立の指南をお願いします!」

「……そうか」


 難易度高くね……? 龍誠はかつての練習を思い出して武者震いする。


 土下座(前転)

 不貞寝(側転)

 けんすい(逆上がり)

 やーらーれーたー(後転)

 ぴょんぴょん(逆立ち)


 などなど。

 匠も驚くビフォーアフターを実現してきた龍誠だが、今度ばかりは無理なんじゃないかと思う。


 だって後転倒立だ。

 後ろ回りの途中でグッと腕を伸ばして倒立する高度な技、ゆいに出来るとは思えない。


「これがっ!」


 龍誠は身構える。


「あたしの実力です!」


 ゆいは龍誠に背を向けて、途中でちょっぴり跳ねる後転を披露した。


「如何でしょうか!?」


 それを見て龍誠の心が軽くなる。

 いけるっ、これならいける!


「今迄で一番だ」

「ふふふ、あたしは日々成長しているのです」


 不敵に笑うゆい。


「それじゃ、マット用意するから待っててくれ」

「はい! マットの用意をマットります!」


 ちら。


「マットの用意をマットります!」

「……その心は?」

「反応が鈍くて不愉快です」


 結衣の影響を強く受けているゆい。

 まだまだ子供だけれど、龍誠には時々ゆいが小さな結衣に見える。もちろん血の繋がりが無いから外見的に似ている部分は髪型くらいしか無いけれど、他の所はそっくりだ。


 ともあれ、マットを用意した龍誠。


「よし、俺に向かって転がってこい」

「かしこまっ」


 理由も聞かずゆいは後転する。

 そこには、りょーくんならどうにかしてくれるという絶対的な信頼があった。


 だが――


「にゃぎゃぁあああッッ!!?!!?」


 唐突な悲鳴。


「どうした!? どっか痛めたか!?」


 慌てる龍誠。

 ゆいは蹲って、胸の辺りを抑えている。


 そこは龍誠が身体を持ち上げる為に触れた部分だ。まさか勢い余って鳩尾に入ったか? 様々な可能性によって龍誠は青ざめる。


「りょーくんのえっち!」


 龍誠の思考は完全に停止した。


「変態! 不潔!」


 つまり、ゆいが悲鳴をあげた理由は、


「急に女性の胸を触るなんてサイテー!!」


 龍誠は平らな感覚を思い出しながら、前回までの特訓を思い出す。


 そうか、ゆいちゃんも、そういう年になったのか。


 娘の成長を喜びつつ、なんだか納得がいかない。


「ママに密告します!!」


 そして始まる家族会議。

 龍誠が弁明の為に三時間も拘束されたのは、また別の話。

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