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翌朝


「いただきます!!」


 ゆいの元気な声と共に始まった朝食の時間。

 夜通し幸せ家族計画を遂行していた二人は、少しだけ眠そうな目をして食事を始めた。


「りょーくん」


 食事が始まって直ぐ、みさきが名前を呼んだ。

 そのままじーっと龍誠の顔を見て、


「ねむい?」

「そうだな、ちょっと寝不足だ」


 龍誠は苦笑いと共に答えた。

 じーっと見続けるみさき。


「ふっふっふ」


 突然、ゆいが悪役のように笑い出す。


「すべて、おみとおしです!」


 ビシィっと龍誠に指を突き付けて、


「あたし、見ました」


 ゆいは不敵に笑い続ける。


「ふっふっふ……」


 普通ならば、見られたのかと考えて焦るのが自然だろう。しかし相手はゆいちゃん、龍誠に焦りは無い。


 それは結衣も同じで、彼女は今も残っている余韻に浸りながら、優雅にお茶を飲んでいた。


「せんたくきに、シーツが入ってました!」


 ビシィっと洗濯機を指差すゆい。

 げほげほ咽せる結衣。


「ふっふっふ……」


 ゆいはクルリと指を回して、龍誠に向けた。

 そしてトドメの一言を口にする。


「おねしょしちゃったんでしょ!」


 ゆいはドヤァとした態度で言った。

 その言葉を聞いて龍誠は一気に脱力する。それから結衣とアイコンタクトを取ろうとして、彼女が見るからに動揺していることに気が付いた。


「ああ、大洪水だった」

「……ッ!?」


 必死に笑いを堪えながら、龍誠は続ける。


「まさか、この歳になって、あそこまで……」


 その言葉は全て結衣に向けたものだ。ゆいはもちろん気が付かなくて、ちょっぴり調子に乗って言う。


「あたしでもそつぎょうしてるよ!」

「そうか。ゆいちゃんは、ちゃんと我慢できるんだな」

「あたりまえ! ししゃごにゅうしたら、じゅっさい!」

「偉いなぁ、ゆいちゃんは」


 ゆいちゃん「は」

 その言葉を龍誠は強調する。


「ゆい、今夜はトマトパーティをしましょう」

「わるいのりょーくん! あたしむざい!!」


 ゆいは涙目になって訴えた。

 しかし羞恥心に押しつぶされている結衣には届かない。


「りょーくん」


 くいっと袖を引っ張ったみさき。

 少しだけ頭を差し出しながら、


「みさきも、おねしょ、しない」

「そうかそうか。みさきは偉いな」

「……ひひ」


 彼はみさきの要求に応えて、優しく頭を撫でた。

 みさきは嬉しくて声をもらしながら、なんとなく、いつもより気持ちが良いと思った。

 

「りょーくん」


 みさきも手を伸ばして、うんしょと龍誠に近付ける。

 何をしたいのか察した龍誠は、ほらと頭を差し出した。


「……ん」


 満足そうに鼻を鳴らして、みさきは龍誠の頭をポンと叩いた。


「おねしょ、わるいこ」


 そのまま、ちょっと叱ってみる。

 龍誠はふっと笑って、悪いと一言だけ謝った。


「わるいこ!」


 ゆいも便乗して言った。

 彼女はダメージが全て結衣に行っていて、急激にトマトゲージが上昇していることに気が付けない。


「ところで」


 結衣は引きつった笑みを浮かべながら言う。


「ゆいとみさきは、弟と妹のどちらが欲しいですか?」


 今度は龍誠がゲホゲホした。


「弟がほしい!」


 ゆいは元気に叫ぶ。


「でもトマトやだ!」

「どうしてトマトですか?」

「りょーくんが、あたしがトマトすきにならないと使えないって言ってた!」


 使えない?

 結衣は少し考えて、過去に龍誠が「トマトを好きになったら弟が出来る」という話をしたのかなと思う。


「そうです」


 結衣は便乗することにした。


「みさきはトマトが嫌いですか?」

「すき」


 みさきに好き嫌いは無い。どちらかと問われれば、なんだって好きと答える。


「あとは、ゆいだけですね」

「むむむ……」


 ゆいの中で、未だ見ぬ弟とトマトが天秤に載って揺れる。


「みさきは弟か妹が欲しいですか?」

「んー?」

「ちっちゃいりょーくんは欲しいですか?」

「ほしい」


 みさきは目を輝かせる。


「ゆいちゃん、トマト、すき?」

「むむむ……」


 天秤にみさきが載ったことで大きく揺れる。

 ゆいの心が傾き始めた。


「そうだゆいちゃん。もしもトマトを食べられるようになったら、一緒に遊園地へ行こう」

「む?」

「まずは四人で、そこでゆいちゃんはママと思い切り遊ぶんだ。その次は五人で。お姉ちゃんになったゆいちゃんが、子供と遊んであげるんだ」


 どしーん!

 龍誠の言葉がトマトを天秤から上空へ投げ飛ばした。


「ふっふっふ……」


 ゆいは想像上のトマトをパシッとキャッチする。

 そして勇敢な表情を浮かべると、高らかに宣言した。


「あたし、トマトたべます!」


 

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