表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
60/100

SS:スピードしょうぶ!


 結衣は耳を疑った。


「ゆい、もう一度だけ言っていただけますか?」

「りょーくんといっしょにくらしましょう!」


 いつものように帰宅。

 いつものように手伝ってくれるゆいと料理。


 いつものように「いただきます」をして……

 その直後、ゆいは先の言葉を口にした。


「ゆい、突然どうしたのですか?」


 そうしましょう!

 即答しかけた自分を戒めながら、結衣は親としての建前を口にする。


「ママ、りょーくんといっしょは、いやなの?」


 ゆいは攻める。


「こいびとなのに? どうして?」


 ぐいぐい攻める。

 トマト嫌だ、もう嫌だ、その一心で攻める。


 そして結衣には、ゆいがトマトを嫌がる時の色をしているのが分かる。なぜ同棲を勧めながらトマトを嫌がるのか、結衣にはさっぱり理解できない。だけど、ひとまず忘れて返事をすることにした。


「……その、まだ少し早いかなと」

「あまい!」


 ビシィっと言葉を突き付けるゆい。


「スピードしょうぶ!」


 見たことのない迫力に結衣は気圧される。

 

 ……同棲、してみたい!


 という思いが高まっていく。

 それを表情の変化から察したゆいは、瑠海から指導された必殺技を発動した!


「あたし、みさきともっと遊びたい」


 子供の為に、という大義名分を与えることで背中を押す。これこそ瑠海がゆいに託した必殺技である。


「……龍誠くんと、少し話をしてみますね」


 効果は抜群だ!

 ゆいは机の下でグッと手を握り締めた。



 *



 翌朝、結衣は龍誠に電話した。

 時刻は早朝、六時頃。日によっては龍誠がまだ寝ている時間。


 もしも電話に出たら、勇気を持って誘う。

 電話に出なかったら……朝食にトマトを出す!


「えいっ!」


 声を出しながらボタンを押した。

 直ぐに呼び出し音が鳴って……


 一回目、出ない。

 二回目、












 三回目……












 四回目……














『どうした?』

「一緒に住みませんか!?」


 龍誠が電話に出ると、結衣の口から反射的に声が出た。


『なんだって?』


 当然の反応を受けて、結衣は急激に顔が熱くなる。


 ……愚か者! 唐突過ぎるでしょう!


 しかし、言ってしまった以上は後戻り出来ない。


「もう一度言います。私と一緒に住みましょう」

『……突然だな』

「なんですか、嫌なんですか?」

『そうは言ってない』


 嫌ではない! やった!


「では、何も問題ありませんね」

『……そう、だな。とりあえず、どっちに住む予定なんだ?』


 どっち……ああ、私と龍誠くんの、どちらの部屋で同棲するのかという意味ですね。


「龍誠くんの部屋は、家賃が十万円程度の賃貸でしたか?」

『そうだな』

「なるほど。因みに私の部屋は賃貸ではありません。お値段は八桁、もちろん支払い済みです。どちらに住みますか?」


『結衣の部屋にしようか』

「バカ! ここは黙って俺のところに来いと言う場面でしょう!」

『…………』


「あ、今のは分かりますよ。ちょっとめんどくさいって思いましたね」


 すぅぅっと、息を吸う音が聞こえて。


『黙って俺のところに来い』

「嫌です」


 ふっ、私の勝ちですね。


『分かるぞ。私の勝ちとか思ってんだろ』

「…………」


 うふふ、心を読まれてしまいました。


『今度はどうして照れた?』

「なっ!? て、照れてません!!」


 嬉しい、私のことを分かってきています!


『で、結局どうするんだ?』

「今から会いましょう!」

『落ち着け、平日だぞ』

「まだ時間はあります」


『電話にしよう。流石にきつい』

「やだ、会いたくなりましたもん」

『……子供かっ、もう切るぞ』

「せめて後五分、いえ三十分ほど電話しましょう!」




 こうして、二人の同棲が決まった。

 ところで結衣は自室で電話をしていて、ドアには小さな小さな耳が付いていた。


「ふっふっふ、さよならトマトさん」


 ゆいと結衣の起床時間は、ほぼ一致している。

 たまたま目が覚めてトイレへ向かう途中だったゆいは、部屋から漏れ聞こえた声に勝利を確信した。


 そして一時間後……


 ゆいは、再び赤い悪魔と対面することになるのだった。


赤い悪魔からは逃れられない

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

▼この作者の別作品▼

新着更新順

 人気順 



▼代表作▼

42fae60ej8kg3k8odcs87egd32wd_7r8_m6_xc_4mlt.jpg.580.jpg c5kgxawi1tl3ry8lv4va0vs4c8b_2n4_v9_1ae_1lsfl.png.580.jpg
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ