第95話 北との戦い⑭ 暗躍
改稿済みです。
「よし、グラは抑えた。ガウ、先行しているトロールの方を頼む。ゾノは援護を。トロール同士の戦いじゃ下手すりゃ千日手になるからな」
「「了解した」」
誘導が成功し、アギというトロールを中心とした部隊とグラの部隊を分断した。
あとは個別に撃滅するのみだが、ガウ達たっての願いで敵側のトロール部隊については任せることになっている。
正直、このまま搦め手で終わらせたい所だったが、同じトロールとして思うところがあったのだろうと思う。
分断に成功すれば後続の追撃は心配ない。ガウ達も自信があるようだし、ゾノを援護につけることを条件に許可することにした。
「俺達は分断したグラ達の元へ向かう」
「わかった。でも、西の方は大丈夫なのかな? こっちと違って分断は難しいんじゃ?」
ライは承諾をしつつも疑問をぶつけてくる。
ただ指示にしたがうだけでなく、自分で考えているのは良い傾向だ。
「それについては大丈夫。事前にレイフに頼んで木々は避難させているから、ザルアさんの独壇場だよ」
「ああ、それなら平気か」
「じゃあ、行こうか。沼にハマらないよう、しっかり俺に付いてきてくれ」
◇臥毘
(何故だ!? 何故ドーラ達に追い付かない!?)
俺達はドーラ達を追って西へと向かった。
そこまでは良かったのだが、結構なペースの行軍だったにも関わらず、未だにドーラ達ハイオークが率いるオーク部隊に追い付けずにいた。
「おい! 本当にドーラ達はここを通ったのか!?」
「ま、間違いありません。痕跡もありますし……。ただ……」
「ただ、なんだ? 言ってみろ」
「いえ、この辺りは昔、狩場にしていたことがあって、結構足を運んていたんですが……。どうも記憶と違いが……」
記憶違いだと? コイツはいつの記憶と比べているんだ?
こいつらが北に加わったのは1年以上前のことだ。1年もすれば森の様相などいくらでも変わるだろうに……
「お前の記憶など知ったことか! 痕跡があるなら何故それを追わない!」
「お、追っていますとも! ただ、それもつい先ほど途絶えました! オーク達の痕跡はこの丘の手前でばったり消えています!」
痕跡が消えている!?
途絶えている、ということは行軍を止めたということか? いや、だとすればここにドーラ達がいないことの説明がつかない。
仮に襲撃を受け、全滅していたとしても、痕跡が全くないなんてことはありえないはず。
「……やはり、おかしいですよ。こんな丘、前は無かったはず。それに、木も少な過ぎる。……できれば迂回した方が良いかと」
「馬鹿を抜かせ! それでは追い付けるものも追いつけなくなる! このまま行軍だ!」
俺の指示に従い、兵士達は丘を越え再び森の中へと進む。
その背後に薄っすらと霧が迫っていたことを、俺はまだ気づいていなかった。
◇ボタン
「ザルア様。 こちらも予定通りリザードマン達を霧に捕えました」
「……ありがとうございます、ボタン殿。では、こちらも仕上げと行きましょう」
そう言ってザルアが手を振り上げると、再び地面が蠢き始める。
こうして目の前の地形が変わっていくのを目の当たりにすると、このザルアという者の凄まじさがはっきりと解る。
荒神の上位術士3人がかりでも、ここまでの土の操作は難しいだろう。筆頭魔術士に任命されたのも頷けるというものだ。
「……これで良し。ハイオーク達を隘路に誘い込みました。あとは手筈通りお願いします」
「了解しました。あとはリンカ隊にお任せください」
ザルアは深く頷くと、再び集中状態に入る。
恐らく、リザードマン達の方を仕上げるつもりなのだろう。
……私たちも負けてはいられない。
◇リンカ
「術士隊! 放て!」
隘路でひしめき合うオーク達目がけて、術士部隊が次々に術を見舞う。
前後左右、動く隙間も無い程の狭さに加え、上からの砲撃。オーク達は一溜りもないだろう。
術以外に、ソク達による投石で間断ない攻撃も加えることで、反撃の隙を与えない。
もっともこの攻撃は、これは殺すことを目的としていない為、術の威力などは弱めに調整している。
あくまで削りが目的であり、その効果は徐々に表れ始めていた。
盾を構えていた者たちが、一人また一人と力尽きて膝をつく。そろそろ仕上げだ。
「撃ち方やめ!」
こちらの砲撃にへばっているオーク達から這い出すように、図体の大きいオークが姿を現す。
そして、仲間たちを踏み抜くようにして隘路から飛び出す。
「でめぇ……、よぐもやってぐれだな!」
「……デカい図体の割に意外と身軽だな? お前がこの部隊の隊長か?」
「ぞうだ! おでの名はドーラ!」
「そうか。しかし残ったのは貴様だけか? だとしたらハイオークというのも大したことはないな」
「甘ぐみるんじゃねぇ!」
そう叫ぶと、他にも数体、同レベルの体格のオークが飛び出してくる。
「がぐごしろよぉ……。おでだぢのごが生まれるまで、まいにぢおがじづづげでやるぅ……」
「……下品な豚だ。各位! 他のハイオークは任せる! 私はこの豚を八つ裂きにする! 構わないな? ソク殿」
「ええ、一応同族になるのかもしれませんが、ここまで醜悪だと見るに堪えません。根から腐った者は、文字通り根絶やしにしてしまいましょう」
「がっがっが! お前ら、おでにがでるぎが!?」
「当然だ。汚豚。名乗るのも汚らわしいが、せめて自分を殺す者の名を刻んであの世に行くがいい。我が名はリンカ! 低能そうな貴様でも三文字程度なら覚えられるだろう?」
「……おでをばがにするんじゃねぇ!!!!」
叫びと共に振り下ろされる一撃。
それを前にして私は笑う。
久しぶりに、迷いなく打ちのめせる相手だからだ。
「行くぞ!」