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魔界戦記譚-Demi's Saga-  作者: 九傷
第2章 レイフの森 平定編
91/282

第88話 北との戦い⑦ 仲間たちの力

改稿済みです。



「イオ……」



 受け身も取らず尻から着地したため、臀部がジンジンとしている。



「……全く。一度通じなかったからもう一度だなどと、シシ豚やガウでもあるまいし……。馬鹿になったのですか?」



「……」



 ガウに関しては随分酷い言いようだなと思ったが、内容に関しては何も言い返せない。



「おい、貴様ら、俺を目の前にして何をごちゃごちゃと……」



「少しお待ちなさい。貴方も強者ならばその程度の寛容さを見せて良いのでは?」



「なっ……」



 その堂々とした物言いに、ルーベルトが言葉を詰まらせてしまった。

 敵ですらも巻き込むイオのマイペースぶりには舌を巻く。



「さて、トーヤ。貴方は今、何を目的として戦っているのですか?」



「それは、アンナ達を守るために……」



「その目的は、貴方が死んでも達成できるのですか?」



「……」



「……わかっているじゃないですか。だというのに、全力も出さずに無謀に攻めるなど……、ガウ達のような愚か者のすることですよ?」



 ……言いたいことは理解できるが、それはそれとしてガウ達の評価が酷い気がする。

 確かに猪突猛進なところはあるけど、そこまで馬鹿じゃないと思うんだがな……


 それにしても、イオは俺が全力じゃなかったような口ぶりだが、俺は俺で全力を出していたつもりだ。

 このルーベルトという男は、俺が手を抜いて勝てるような相手ではない。

 それどころか、全力を出しても勝つことが困難な相手と言える。

 だからこそ、俺は全力で戦っていたつもりだったし、切り札の一つである『破震』も惜しまず使用した。

 それでもイオには、俺が全力を出していないように見えたのだろうか?

 だとしたら、俺のことを買いかぶり過ぎである。



「……イオ、お前はそう言うが、俺は全力だったぞ?」



「……トーヤこそ何を言っているのです? あれのどこが全力だというのですか?」



 ……? なんだ? イオが言いたいことがイマイチ理解できない。



「その顔は……、本当にわかっていないようですね……」



 呆れたといった様子で首を振るイオ。

 そんなことを言われても、わからないものはわからない。



「全く……。トーヤ、貴方はこれまで、どのようにしてゴウや魔王、地竜などの強敵を退けたのですか?」



「それは当然、みんなと協力して……、あ……」



「そうです。貴方はこれまで、通常では敵わぬ強敵相手でも、仲間の協力を得ることで勝利を掴んできました。この《繋がり》にしてもそうです。貴方の力とはつまり、仲間の協力も含めた上で成り立っているのですよ。それもせずに全力などと、舐めているとしか言いようがありません」



「し、しかし……」



「しかし、じゃありません。……素直に私や、アンナの力を頼ればよいのです。彼女は立派な戦士でしたよ? 過保護になる気持ちもわかりますが、理解してあげることも大切ではありませんか?」



 ……イオの言っていることはもっともだ。

 しかし、手負いのアンナに魔力切れ寸前のイオ。他のまだまだ未熟な子供達に頼るのはどうしても気が引ける。



「迷っているようですが、もっと単純に考えれば良いのです。今はこの状況を切り抜けることが最優先。目の前のことを処理するのに全力を注ぎなさい。貴方も私も、まだまだ未熟者あることは変わりません。それ以外のことを考えるのは、それができるようになってからでも遅くはないハズです」



 そう言って、再びルーベルトに向き直るイオ。



「どうやら、あの男もしびれを切らした様子です。以外と短気ですね? ……では、暫し私がしのぎます。だから、トーヤはこの状況を切り抜ける準備を」



「……俺を前にして、そこまで堂々とした態度が取れる者も珍しい。短気だと? 1分は待ってやったんだがな」



「ふっ……、それを短気だというのです!」



 背中の傷など、まるで無いかのように凄まじい踏み込みを見せるイオ。

 その背中が、本当に、なんと頼もしいことか。


 未熟……、その通りである。

 子供達のことばかり気にし、俺自身が未熟者だという当たり前のことを勘定に入れていなかった。

 少なからず、どこかで調子に乗っていたのだろう。



(他人に言われてそれに気付く辺り、まさに未熟者だな……)



 情けない。でも、こんな情けない俺でも、有り難いことに仲間には恵まれた。

 仲間がいなくては何もできない俺だが、その信頼には可能な限り応えなくてはと思う。

 なりふりなど、最早構うものか。汚くても情けなくてもいい。これまで通り、泥でもなんでも投げつけて足掻いてやろうじゃあないか。


 俺はアンナに近付き、頭を下げる。



「……すまん、アンナ。悪いが、力を貸してくれ」



 俺の懇願に対し、アンナは満面の笑顔を浮かべた。



「喜んでお貸しします。トーヤ様」



「私も!」



「親父殿、俺達も!」



 アンネ、コルト、ロニーが続いて志願する。



「……ありがとう」



 子供達の頼もしさに、増々気合が入った。



「ロニーとヘンリクは他の子供達をまとめてくれ。タイミングを逃したくない」



「「わ、わかりました!」」



「コルトとアンネは術の準備を。アンナはこの前みたいに俺に掴まってくれ」





 ――さあ、子供の手を借りる情けない保護者だが、全力でこの場を凌ぎきってみせるぞ……!





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