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魔界戦記譚-Demi's Saga-  作者: 九傷
第2章 レイフの森 平定編
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第83話 北との戦い② 忍び寄る何か

改稿済みです。



「こんな所か……」



 作戦の概要は粗方決まった。

 後の時間は全て準備に充てることができる。



「では、各自準備を開始してください。特に、情報の少ないハーフエルフへの対策については入念にお願いします」



「「「はっ!」」」



 返事とともに、各自は速やかに準備へと向かう。

 部屋に残ったのは近衛であるライとスイセンだけである。



「トーヤ様、夜襲への対策については……」



「それはゾノとリンカ達に任せてあるよ。……まあ、多分無いとは思うんだけどね」



「……確かに、相手の主力を考えればそうかもね」



 敵の主戦力であるリザードマン達は寒さに弱い。

 今の時期、夜は一段と冷えることから、わざわざ夜襲をしかけてくる可能性は低いと予測している。

 同様に、日中の優位を捨ててまでトロールが出てくることもまず無いだろう。

 ……以前ガウ達は夜襲に参加していたが、あの件は例外なので考慮しないでおく。



「他の種族であれば可能性は無くもないけど、それならリンカ達が十分対処できるだろうし、心配は要らないだろう」



 リンカ達獣人を中心とした隊は、聴覚や嗅覚に優れる者が多くいるため、夜襲などに対してはめっぽう強い。

 その感知網を集団で潜り抜けることは、まず不可能だろう。

 主力の一つだと言われるハイオーク達も、隠密行動には不向きという話だ。


 ちなみに、ハイオークという種族については、オークとは別の種族ということではなく、単に混血などで体格が大きくなった個体をそう呼ぶのだそうだ。サイズ的にはトロールにも匹敵するらしく、戦闘力はかなり高いらしい。

 ただ、それが影響してか食欲や性欲などの欲求が強いらしく、通常のオークからも忌避される存在のようだ。



「じゃあ、夜襲については問題無しと。それで、トーヤはこの後どうするの?」



「俺は子供達の受け入れ準備だ。とりあえず西棟の空き部屋を準備するから、ガラが戻ったら連れてくるように伝えてくれ」



「ん。わかった」



 豪商ドグマに捕まっていた子供達については、一旦元オーク達の集落で保護していた。

 しかし、このままそこにいてもらうのも危険なため、この機にこちらに移住して貰うつもりである。



(ただ、あの奴隷だった子達に関しては少し心配なんだよな……)





 ◇





「連れて来たぞ」



 一通りの整理が終わった辺りで、子供達を引き連れたガラに声をかけられる。



「どうもご苦労様。準備は他の人達に任せてあるから、ガラ達は少し休んでいてくれ」



「いや、それは結構だ。それより、この子供達は……」



「……バラクルの取引先に捕まっていた子達だよ」



 連れてこられた子供達は、一人を除いて皆不安そうな顔をしている。

 大分打ち解けたつもりだが、やはりまだ不安自体は消えないのだろう。



「……仕事と割り切ってはいたが、こうして実際に目の当たりにすると胸糞悪いもんだな」



「そう思えるガラは正常だよ。まあ、気が向いたら今度遊んでやってくれ」



 ガラは一瞬驚いたような顔をするも、すぐに元の仏頂面に戻る。



「……馬鹿なことを言うな。俺のような粗忽者と関わると悪い成長をするぞ? ……じゃあ、俺は行くぜ」



 そう言い残し、ガラは早足でこの場から去って行った。



(粗忽者とか言ってるけど、根は良いヤツなんだよなぁ……)



 ガラは不器用な男だが、根は真面目で純粋な部分がある。

 そしてそれ故に、バラクルに利用されることになったのだろう。



「……さて、君達には今日からこの部屋で生活してもらうことになる。暫くの間は外出は認められないけど、落ち着いたらそれも許可するつもりだ。細かいことについては、後でここの先輩達に説明して貰うつもりだけど、何か聞きたいことはあるかな?」



 俺の言葉が理解できなかったのか、子供達はぽかーんとした顔をしていた。

 しかし、真っ先に立ち直った子が慌てたように質問をしてくる。



「あ、あの! 自由って、本当に良いんですか!?」



「もちろんだよ。この前も言ったろ?」



「は、はい……。でも、今までの大人たちは……」



 大人の言うことが信用できない。

 この子達が捕まった経緯から考えれば、それも無理のない話であった。

 しかも、この子達の中にはコルト達が逃亡する際、逃げられなかった者や、逃げようとしなかった者もいる。


 逃げれなかった者は、恐らく酷い仕打ちを受けたのだろう。

 そして逃げなかった者は、既に逃げることすら諦めるような精神状態だったようだ。

 この子達には、コルト達以上に心のケアが必要になってくる。



「……すぐには信じられないかもしれないが、俺やここの住人は決して君達に危害を加えないよ。その為に、俺は君達を助けてここに連れて来たんだからね。だからせめて、君達が安全だと判断するまででいいから、ここで生活してくれないだろうか」



「「「っ!?」」」



 そう言って頭を下げる俺に、子供達はさらに動揺する。



「あ、頭を上げてください! 私達は、今でもこの状況が信じられていないだけで、トーヤ様には感謝してますから!」



「いや、お願いをする時は頭を下げる。これは当たり前のことだ」



 何かを頼む時や、礼を言う際は頭を下げる。

 これは魔界でもほとんどの種族に通じる常識なのだそうだ。

 地球の国々でも多くの国が頭を下げる習慣があったし、そういう所は本当にそっくりな気がする。



 ……結局、子供達は最後まで戸惑っていたようだが、ひとまずは俺の言うことを信用してくれたようである。

 中には笑顔を見せる子もいたため、少しだけ救われた気分になった。



「あの、トーヤ様……、私達はどうしたら……」



「ああ、そうだったな……」



 ドグマの奴隷だった4人。

 彼女達は本当に専属の奴隷としか扱われていたらしく、他の子供達とは面識が無かった。

 歳も14~16と、魔界においては大人扱いを受ける年齢に達している。

 さすがに同じ部屋に住んでもらうワケにはいかないだろう。



「トーヤ様。私達はトーヤ様の奴隷です。誠心誠意尽くさせて頂きますので、どうかお側に」



「……ヒナゲシ。前にも言ったが、俺は君達の主になるつもりは無いよ」



「ですが契約上、トーヤ様こそが私達の主であることは変えようの無い事実です」



 ……頭が痛い話だが、彼女の言っていることは確かに事実である。

 あの時は意識していなかったが、どうやらソウガはドグマに奴隷権の譲渡をさせたらしい。そしてその譲渡先が俺だと言うのだ。



(ソウガも面倒なことをしてくれたよ……)



 彼女達は、契約に縛られた存在である。

 契約とは、外精法で行う精霊との仮契約と実質は同じものであるらしい。


 本来、意思のある生命に宿る精霊は仮契約を受け付けない。

 しかし、魔獣使いは条件さえ揃えば、強い意思を持つ存在以外とは仮契約が可能となる。

 この意思という部分がかなり不透明なのだが、実は赤子であれば亜人種相手でも契約を結ぶことができるらしいのだ。

 そして、そうして結ばれた契約は絶対の効力は持たないが、逆らうには相当な苦痛が伴うのだという。


 一体何故それを俺に譲渡させたかというと、契約主が失われると問題が発生する可能性があるというのだ。

 なんでも、契約者不在の状態だと、亜人どころか他の動植物すべてを主としてしまうケースや、常に逆らった時と同じ苦痛を味わうといったケースがあるらしい。

 その為、奴隷権は基本的に誰かに譲渡するのが決まりになっているのだそうだ。

 だからと言って俺を主にするのはどうかとも思ったのだが、ドグマの件を依頼しらのは俺だし、責任者という立場であるがゆえに強く断れなかったのである。



「……とりあえず、4人には俺の補佐役をやって貰うことにする。部屋は一応、俺の部屋の隣に用意…………っ!?」



 言いかけた言葉が、不意に襲われた悪寒によりかき消される。



(な、なんだ!? 今の感覚は……!?)



 恐怖、不安、敵意。

 そういった感情が入り混じった負の意識。

 それが『繋がり』を通して俺に伝わってくる。



「すまん! 4人はとりあえずここで待機していてくれ!」



「トーヤ様!?」



 俺は返事を待たずに駆け出す。

 同時に、感覚を研ぎ澄ませ、『繋がり』を強く意識した。



(これは……、アンナか!?)



 一体どうしてアンナからそんな感情が流れ込んできたのかはわからない。

 ただ、確実に何かマズいことが起きているのだけは理解できた。



(クソ……、一体何が起きているんだ……)





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