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魔界戦記譚-Demi's Saga-  作者: 九傷
第2章 レイフの森 平定編
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第60話 地竜討伐①

改稿済みです。



 俺達を見下ろすように、醜悪な口を広げる砂漠蚯蚓。

 その高さは3メートル程もあり、かつてガウの兄、ゴウと戦った時のことを彷彿とさせる。

 本来であれば、すぐにでも距離を離すべき状況なのだが、俺達はそこから動けないでいた。


 砂漠蚯蚓の空けた大穴から、無理やり這い出てくるもう一つの影……

 松明の火に照らされて映し出されたのは、艶やかな光沢を放つ鱗である。



「T.レックス……」



 実際の恐竜など見たことがあるワケないが、俺の知識に存在するソレと、目の前の魔獣の姿は酷く酷似していた。

 10メートルを超す巨体に、特徴的な大きな頭、鋭く生え揃った牙に、小さな前肢……

 それはまさにT.レックス……、ティラノサウルスの特徴であった。


 その強烈な存在感に敵も味方も目を離せないでいたが、唯一その状況を利用して離脱を図った者がいた。



「ハッ! そいつは火山地帯に生息する地竜だ! 手前ぇらじゃ絶対にどうにもならねぇ! 俺と敵対したことを後悔しやがれ!」



 俺達が目の前の化け物に気を取られている間に、バラクルは上空へと逃れていた。

 どうやら、目として使っていた飛行型の魔獣を利用したらしい。

 本来あれば、すぐにでも矢や術で撃ち落とすべきなのだが、誰一人として反応できずにいた。

 無論、目の前の地竜から目を離せないからである。



「バラクル! 手前ぇ、仲間を見捨てるつもりか!?」



「あ? 当然だろ、ガラ。お前達とはそれなりに長い付き合いだが、それでも所詮はただの駒に過ぎねぇ。……切り捨て時ってヤツだよ」



「……クソが!」



「ハッハッハ! お前は知ってるもんなぁ? そいつがまともに制御できないってことをよ! 残念だが、こうなっちまった以上、コイツの標的はここにいる全ての生物だ。ま、大人しく栄養にでもなってくれや! じゃあな!」



 そう言い残し、バルクルの気配が遠退いていく。

 ここで逃がすのは得策では無いが、今はそれどころではない……



(どう見ても恐竜だが、これが竜種というやつか……)



 バラクルが言うように、これが本当に地竜なのであれば、相当に厄介な相手である。

 竜種については、以前ライの所有する魔獣百科で解説を読んだことがあるが、その通りであれば紛れもない化け物だ。


 竜種は……、魔界の中でも最大級の生物である。

 個体差はあれど、ほぼ全てが肉食であり、基本的に全ての生物が捕食対象となっている。

 一応魔獣では無いのだが、その危険性から魔獣百科でも別項でわざわざ補足されていた。


 竜種は大きく分けて二種類が存在する。

 有翼種と無翼種である。

 中でもより危険とされるのは有翼種の方だが、それは当然と言えるだろう。

 彼らは突如上空から現れて人を襲うため、ほとんど天災に近いのだから。

 

 では、無翼種が危険で無いかというと、そんなことは全くない。

 彼らは空を飛ぶことができない分、その体格には似合わぬ速度で走ることができる。

 その為、一度狙われたら逃げることは困難とされていた。


 ただ、その大きな体格が幸いし、発見自体は容易いため、事前に察知することはできる。

 ゆえに、有翼種よりもやや危険は少ないとされているのだが……



(こんな風に地下から現れられたら、有翼種と大差無いじゃないか……)



 地竜はずっと地下にいたせいか、やや動きが鈍いように見える。

 しかし、それでも俺達は未だに動けずにいた。

 あまり物怖じしなさそうなリンカでさえ、構えすら取らずに茫然としている。



「クソ! おい、トロール! このままじゃ全滅だ! 力を貸せ!」



「……う、む」



 そんな中いち早く動き出したのは、ガウと剣を交えていたガラである。

 彼は即座にガウとの戦闘を放棄し、地竜に対して構えを取る。

 共闘の提案にガウはなんとか返事を返すも、目の前の状況に頭が追い付いていないようであった。



「チィッ! 呆けてんじゃねぇ! あの化け者は、今の所本来の力を発揮できねぇ! だから、ここにいる全員でかかれば、何とかなるかもしれねぇんだよ!」



「っ!? それは本当か!」



 ガラの言葉に、止まっていた思考が動き出す。



「ああ……、バラクルがアレと契約出来たのには理由がある。それはアレが寒さに弱いからだ。じゃなきゃ普通は近付くことすら厳しいからな……」



 そういうことか!

 見た目通りであれば、竜種は爬虫類に分類されるだろう。

 そして爬虫類なのであれば、変温生物である可能性が高いのだ。

 であれば、寒さに弱いというのも頷ける話である。


 現在、季節は下季……

 四季で言う所の、冬に差し掛かる時期である。

 気温は低くなっており、陽が暮れれば息が白くなるくらいには寒い。

 普通の変温動物であれば、熱量が足りず動きが鈍るのは必然だ。


 ……ただ、恐らくそこまで楽観視できる状況でも無いだろう。

 あれだけの体格をした生物である以上、何らかの熱量保存能力を持っている可能性が高いからだ。


 ……とはいえ、可能性は見いだせた。



「ガウ! それからリンカ達も! なるべく地竜を引き付けてくれ! 策を考える! それからガラとやら! 有識者であるアンタが暫く指揮を取ってくれ! 皆もそれに従うように!」



「お、俺がか!?」



「いいから! もう動き出すぞ!」



「ぐ……、わかった! 全員! 地竜を囲むように散れ!」



 少し動きは鈍いが、一応全員が指示通りに動き出す。

 俺もそれと同時に、アンナ達を連れて距離を離した。



「トーヤ様……、今現れたのは……」



「……どうやら、竜種らしい。少しばかり苦戦しそうだ。二人とも怖いだろうが、生きる残るために協力してくれ」



「……もちろんです。トーヤ様」



「わ、私もがんばります」



 正直子供に頼ることに気負いがあるが、今は最善を尽くすしかない。



「ゾノ!」



「ト、トーヤ……、俺はどうすれば……」



「アンネちゃんの護衛を頼む。それから、二人はなるべく土術と風術で地竜の足元を攻撃してくれ。くれぐれも、安全第一で」



 ゾノは少し狼狽気味だが、与えられた役割はしっかりこなす男である。

 彼ならば、安心してアンネを託すことができる。



「わ、わかった。トーヤ殿はどうするつもりだ?」



「俺はアンナと砂漠蚯蚓をやる。俺達であれば奇襲は通用しないし、すぐ片付けるからな」



 そう言うと同時に、アンナを抱えて俺は再び駆け出す。

 砂漠蚯蚓が地面に引っ込むのを確認したからだ。



「スイセンさん! 下だ! 二匹いるから気を付けて!」



「はい!」



 同時に、砂漠蚯蚓が地面から飛び出す。

 それをスイセンは受け流すように躱し、側面に掌底を叩き込む。

 その一撃だけで、砂漠蚯蚓は苦悶の悲鳴を上げて地面に倒れ込んだ。


 やはり、砂漠蚯蚓の耐久力はあまり高くない。

 その奇襲性からそれなりの危険度に設定されている魔獣だが、見た目通り体は脆いらしい。


 恐らく、この魔獣は地竜を運搬するために使役されていたのだろう。

 地竜のような巨大な魔獣を使役していれば、当然だが目立つ。

 しかしバラクルは、それを目撃もされずあちこちに移動させていた。

 その方法が、この砂漠蚯蚓を使った地下の移動なのだ。

 地下であれば低温も保ちやすいため、管理も楽だったのだろう。

 あまり褒めたくは無いが、理にかなった運用方法と言える。



「次!」



 俺は地面にレンリを突き立てる。

 同時に、知覚を地中に浸透させていく。


 砂漠蚯蚓が飛び出してくるまで待つつもりは無い。

 俺は砂漠蚯蚓の動きを捉え、その進行方向の土に意思を送り込む。



「トーヤ様!」



「ああ! 捻じれろ!」



 砂漠蚯蚓の突き進む土層が、急激に捻じれる。

 それにより、地中を進んでいた砂漠蚯蚓の体が、くの字に折れ曲がった。

 地中でもがくこともできず、苦悶の叫びをあげる砂漠蚯蚓。

 その状況に耐えきれなかったのか、捻じれに状態のまま必死に地上に上がろうと進む。



「ライ!」



 俺はレンリを引き抜き、砂漠蚯蚓の飛び出す位置を指し示す。



「任せて!」



 飛び出した瞬間、砂漠蚯蚓の頭部にライの突きが刺さる。

 棍棒とはいえ、回転を加えた渾身の一撃。

 柔らかい頭部がそれに耐えきれるわけも無く、棍棒は見事に砂漠蚯蚓を貫通した。



「よし、後は地竜……」



 ブオン! と、

 振り返った俺の顔の横を、スイセンが凄まじい勢いで吹き飛んで行く。

 その勢いで細い木々がへし折れていくが、そのお陰で勢いが殺され、途中で落下したようだ。



「スイセンさん!?」



「……だ、大丈夫です。勢いのせいで少し眩暈がしますが、外傷はありません……」



「そ、そうか、良かった」



「ええ、それよりもアレをなんとかしないと……」



 視線を地竜に戻す。

 そこには、凄まじい光景が繰り広げられていた。



「ハァッ!」



 ガウが岩の大剣を背に叩きつける。

 しかし、地竜は何事も無かったかのように尻尾を振り回し、周囲に群がる獣人達を吹き飛ばす。

 ガウの一撃は、限られた魔力を剛体に回しているせいか、普段より威力が落ちているように見えた。

 しかし、それでも数十キロ近い重量の岩の大剣の一撃である

 それを受けて、平然としている地竜の耐久力は間違いなく異常と言えるだろう。



「ガラ! 状況は!」



「……見ての通りだ。まるで歯が立たん。運動量は減っているようだが、竜鱗の硬さは相変わらずだ」



「竜鱗?」



「竜鱗はその名の如く、竜種のまとう鱗のことだ。見ての通り、トロールの馬鹿力ですら傷一つ付きやがらねぇ頑丈さだ」



 ガウの一撃で傷すら付かないのは、それが原因か……

 剛体を違って弾かれるわけでは無さそうだが、純粋に硬いのであればカラクリのある剛体よりも余程厄介に思える。



「それに、竜種の爪や牙は魔力を裂く……、つまり、剛体が機能しねぇってことだ。だからあんたも、回避に自信が無いなら奴の正面には立たないことだな」



 剛体が通用しない!? それはヤバイな……

 なにしろ俺の身体能力は、魔力の補助が無ければ全種族の中でもダントツに低いのである。

 もし俺が爪での攻撃を受けてしまえば、細切れになってもおかしくはない。


 リンカ達獣人は、防御不能の爪や牙を上手く避けているが、尻尾などの攻撃までは捌けずに次々に吹き飛んでいる。

 しっかりと剛体で防いではいるようだが、このまま続ければいずれ魔力も尽きてしまうだろう。



(一旦退くか……?)



 一瞬そんな考えが過るが、すぐに(かぶり)を振る。

 そんなことをすれば、地竜はこの辺り一帯を蹂躙し尽くすだろう。

 そして食事で熱量が補充されれば、さらに厄介になる可能性もある。

 そうなってしまえば、本当に手の打ちようがなくなる……

 一体、どうすれば……



「……トーヤ様、よく視て下さい。あの地竜の体、魔力にムラが有ります」



 首にぶら下がるように掴まったアンナが耳元で囁く。



「……ムラ?」



 アンナに言われた通り、感知を駆使して地竜全体を視る。



(……確かに、魔力の通い方が一定では無いな)



 明らかに頭部、額周辺の魔力が薄くなっているようだ。



「もしかして、頭部が弱点ってことか?」



 いやしかし、だとしてもあの位置に攻撃を当てるのは至難の業だ……

 決死の覚悟であれば可能かもしれないが、本当に効くかもわからない以上リスクが高過ぎる……



「……トーヤ様、頭部であれば、攻撃が通るかもしれないのですね?」



「スイセンさん?」



 いつの間にか隣に立っていたスイセンが、俺の言葉を拾って尋ねてくる。



「あくまで、かもしれないってだけですが……」



「……手があります。隙を作って頂ければ、私が奴を……」



 彼女は後半を濁したが、その目からは強い意志を感じさせる。

 しかし……



「……何を仕掛けるつもりかはわからないですけど、至近距離まで迫らないと駄目なんですよね?」



 スイセンは武器を持たず、無手による攻撃を得意とする。

 それはつまり、本当に至近距離でなければ攻撃が成立しないことを意味する。

 しかし、地竜相手にそれは、かなりのリスクを伴う行為だ。



「……隙を作って頂ければ、恐らく……、いえ、確実に仕留めてみせます」



 俺は暗に厳しいのでは、と言ったつもりだが、彼女の意志は揺らぐ気配が無い。



(……少し見誤っていたな)



 普段優しく温和な雰囲気あるのスイセンは、戦闘向きでは無いと思っていた。

 しかし今の彼女は、紛れもなく戦士の顔をしていた。



「……わかりました。なら、俺達が全力で隙を作りましょう」



 俺はそう言って、一歩前に出る。

 それに反応するように、地竜がこちらを見た気がした。

 正直恐怖でチビリそうだったが、歯を食いしばって我慢する。



「皆! 今から俺が仕掛ける! 支援を頼むぞ!」



 自らに喝を入れるように声を張り上げる。

 その声に応えるように、周囲からも雄叫ぶように声があがった。





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