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魔界戦記譚-Demi's Saga-  作者: 九傷
第2章 レイフの森 平定編
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第59話 魔獣使いの本領



「ガウ! ライ!」



 俺の声に合わせ、ガウとライが飛び出す。



「チィッ! ガラ! トロールの方を止めろ!」



 指示に従い、ガラと呼ばれた男がガウの一撃を真っ向から受け止める。

 トロールが最上段から振り下ろした一撃を、あの受け方で止められるはずが……



「ムンッ!」



 しかし、ガラはそれを鉄の大剣で易々と受け止めるてみせた。

 押し出すように岩の大剣を弾かれ、ガウが一瞬驚きの表情を見せるが、それは次の瞬間獰猛な笑みに変わった。



「魔獣ばかりかと思ったが、存外良い手駒を持っているではないか!」



「ほざけ!」



 再度交わる鉄と岩の大剣。

 一方ライは、バラクルに対し目にも止まらぬ連撃を繰り出し、徐々に距離を詰めている。



「クソが! コイツ、本当にゴブリンかよ!?」



 他に手駒がいるにも関わらず、あえて自分で対応したのはバラクルの侮りであり、悪手であった。

 ライの実力は、仲間の中でも五本の指に数えられるだろう。

 夜という条件であれば、恐らくガウをも超える戦闘力を持っている。



「クッ……、オイ! 誰か手を貸せ!」



 ライの攻撃を必死に凌ぎながら叫ぶ。

 しかし、バラクルの手駒達もそれ所ではなかった。

 リンカの近衛兵は精鋭揃いだ。

 一人一人の実力は、恐らくトロールに勝るとも劣らないレベルである。

 その中でも、シュウの戦闘力は特に際立っており、バラクルの部下を次々に仕留めていった。



「クソッ……、援軍はまだか……!?」



「残念だが、それはもう片付けた」



 バラクルの問いに答えたのは、バラクル達の後方から現れたリンカである。



「貴様らのアジトは潰した。魔獣は激しく抵抗されたのでやむなく処分したが、他の奴等は一目散に逃げたぞ? 忠誠心の欠片も無い奴等だったな」



「アジトを潰しただと……? そんなワケが……」



「ほら、証拠だ」



 そう言ってリンカが放り投げた白い何か。

 もう薄暗くてほとんど見えないが、恐らくは牙か何かだ。



「あとでまとめ売りでもする気だったのか? 悪いが、貯め込んでいたシシ豚の牙は全て回収させて貰ったぞ」



 バラクルは、それをチラリと見て驚愕する。

 しかし、現在は戦闘中……、それは大きな隙を作ることとなった。



「ハッ!」



「しまっ……!?」



 ライの棍棒が、バラクルの片手剣を弾き飛ばす。

 弾かれた片手剣は放物線を描いて後方へ突き刺さり、バラクルはその場で尻餅をつく。



「終わりだよ」



 ライが棍棒を、バラクルの喉元に突きつける。

 周囲を見渡すと、ガウの所以外は粗方片付いたらしい。

 リンカに目配りし、逃がさないようにバラクルを取り囲む。



「……なんでアジトの場所が分かった?」



「昨晩調査した。それだけだよ」



 昨晩俺達は、レイフの森北部付近の調査を行っている。

 北部と言われる境界付近には監視が立っていたため、中にまで侵入することはできなかったが、俺達にはそれでも問題無かった。

 アンナと俺の感知網、そしてリンカの優れた聴力により、奴らのアジトは簡単に特定することができたのである。


 幸いなことに、奴のアジトは北部の境界付近に存在していた。

 そのため、俺達は能力を駆使し、構造や人数などの詳細な情報を取得することができた。


 ……ちなみに、集落の周囲に魔物達が配置されているのに気づいたのも、その際だ。

 本当に、アンナの能力は凄まじい……

 ……魔獣達に契約を付加できたのは俺の『繋がり』の力なので、人のことは言えないかもしれないが。



「……嵌められたのは、俺の方ってワケかよ」



「まあ、そういうことだな。……さて、お前には聞きたいことがある」



 聞きたいことは、バラクルの雇い主についてだ。

 それを確認しなければ、いつまで経ってもアンナ達の安全は確保されない。

 ……できれば確実に潰しておきたい。



「……へ、へへ、まさか、もう勝った気か? 俺を相手に? ……俺はそういう態度が一番気に食わねぇ。そんな奴等は、仲間諸共必ず根絶やしにしてきたんだ……。それは、今回も変わらねぇ……」



 ……? なんだ?

 この状況で、何故コイツは不敵に笑える……!?



「トーヤ様!」



「……!?」



(なんだ……、この感覚は……!? 何か、ヤバイ……!?)



「みんな警戒しろ! 何か、来る!」



 俺もアンナも、感知は怠らず、常に警戒していた。

 だというのに、今の今まで気づかなかった。

 ……いや、今だって、感知網には何も引っかかっていない。

 しかし、この悪寒は……



「トーヤ様! 下です!」



「なっ!?」



 言われて初めて意識を地下に向ける。

 不味い! もう、かなり近い!


 俺はアンナ達を抱え、なりふり構わず飛び退く。

 護衛についていたリンカの部下も反応したが……、間に合わない!


 瞬間、地面から飛び出した何かに、護衛が飲み込まれた。



「……砂漠蚯蚓(さばくみみず)か!」



 砂漠蚯蚓とは、その名の如く砂漠に生息する魔獣である。

 俺もライの所有する資料で知っていただけであり、当然レイフの森には存在しない魔獣だ。

 こんなモノまで引き連れていたのか……



「トーヤ!」



「大丈夫だ、ライ。……ただ、サンジさんが……」



「そんな……」



「……いや、飲み込まれはしたが、サンジさんは無事みたいだ。ただ……」



 俺が感じた悪寒は、コイツからじゃない。

 砂漠蚯蚓が空けた大穴から、もう一匹の魔獣が姿を現す。


 俺はこの魔獣の名を知らなかった。

 しかし、それに該当する知識だけはあった。



「T.レックス……」




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